第ニ章7 『解放訓練』
「――そんじゃ坊主、始めるぞ」
「ウッス!お願いします!!」
屋敷から少し離れた平地で、ニックの霊器解放訓練が始まろうとしていた。ジークから奪った霊器はエメラルド色の水晶の形をしている。ニックは、ジーク同様霊器をネックレスの様に首にかけていた。
必殺技会得とのことで、ニックは相当に気合いが入ってる。
「まず霊器は、悪魔や魔獣や精霊と違って契約の必要はない。使い手によって姿形が変わり、能力のあり用も変わる。使ってるうちに変化したりもする。そしてここからが大事だ、霊器の発動には魔力をほとんど必要としない変わりに生命エネルギーを必要とする」
「生命エネルギー?」
聞き馴染みのない単語にニックは頭を傾げる。レオルはタバコを吸いながら続ける。
「そうだ!簡単に言うと体力とか精神力みたいなもんだ!ここで重要なのは、"発動"には魔力を使わないってとこだな」
「霊器を持続させるには魔力が必要ってことすか?」
「ご明察だ。霊器はその莫大な力故にとんでもなく燃費が悪い。生命エネルギーだけで維持し続けたら最悪自分が霊になっちまう。変わりに魔力を食わせる」
「それじゃ、やっぱり俺には使いこなせないんじゃ」
「そう結論を早まっちゃいけねぇぞ坊主。坊主は、吸血鬼の血が多少入ってるから他の一般人に比べりゃ生命エネルギーや体力も多い、はずだ!!だから、マスターは坊主に霊器を扱える様にしろって言ったんだろうな。霊器は一瞬でも使えりゃ必殺技になり得る。ちゃんと鍛練すりゃ魔力を食わせなくても短い間なら使用可能だ。それに霊器と自分の精神性、言っちまえば魂との相性が良けりゃ、加護も授かることがある」
「加護?」
「例えば、雷の魔法を使うのに魔力は必要だろ?霊器から加護を貰えれば、魔力なしで雷が使える。ゴホードの王様みてえにな。王様が遠くに逃げて行った空賊を雷で焼いたろ?あんなの普通の魔法でやろうとしたら詠唱をしても、一発で脳が焼き切れてヘロヘロになるレベルだぜ。恐らくリーナちゃんも霊器の加護を授かってるな」
魔法を使えないニックには、全ての魔法が凄いと感じるが、ゴホード王国で見たカームとリーナの魔法は他とは桁違いだと分かる程に強烈に印象に残っている。
「坊主が霊器を十分に扱える様になったら、自前の身体能力もあって、そこら辺の魔法使いじゃ比にならねぇ程強くなると思うぜ。空賊のジークやゴホードの王様やリーナちゃんみてぇにな。ただ注意点がある」
「注意点?」
「霊器の暴走だ」
「どおいうことですが!暴走するんですか!!!」
「あー、霊器開放中に死んだり気絶したりして、コントロールできなくなったときに起きることがある。あとは感情の高ぶりで制御できなかったり様々だ。悪魔や魔獣・精霊と契約してるやつも似た様な現象で契約が切れることがある。とんでもなく強ぇドラゴンや魔獣に霊器が宿るのはコントロールが切れて開放された場合が多い。しかもたちが悪い事に暴走中のが本来の力を発揮できててめちゃくちゃヤベェってことだ。霊器本来の力を完全に引き出せる使用者なんてごく僅かだからな」
「俺、大丈夫ですかね」
「基本的に霊器は、使い手に従うもんだ。心配すんな!暴走なんか滅多に起きねえし、暴走後も使用者のところに戻る物好きもいるって聞くしな。俺はてめぇで霊器を使ったことねぇから、聞いた話しか話せねぇけどな」
レオルは、サムズアップでニックを宥めるが全く不安が拭いきれないニックがそこにはいた。
「んじゃ、発動させてみるか!霊器を発動させるのはめちゃくちゃ単純だ。霊器を使うぞ!っていう気持ちに霊器が反応して発動する。大体の奴は気合い込めて霊器解放って唱えたり、詠唱込みで発動したりするな。注意点だが絶対に気を抜くなよ」
「はっはい!!ちなみに詠唱って良く分からないんですけど何て言えばいいんですか?」
「そこからか!詠唱は魔法の威力を上げるのは勿論、使い方によっちゃ魔力の節約にもなる便利な代物だ。魔導書に書いてあったり、学校で習ったり、精霊・魔獣・悪魔の声を聞いたり、自分で編み出したり多岐に渡る。魔法は一般的には自然の精霊から力を借りることを前提としている。詠唱は脳の魔力回路を整える事と精霊との共鳴と一時的な契約に一役買ってるって訳だ。そのうち霊器から教えてくれるかもな。今は霊器開放でいいんじゃねぇか」
「な、なるほど、やってみます!!」
一度に大量の情報が頭に入ってきたニックは、それを捌けずに困惑していた。だが今は必殺技会得の時、ニックは気持ちを切り替えて集中する。
「霊器解放っ!!!」
ニックの雄叫びの後に静寂が続く。ニックは身に余る力を手にしようとしているこの瞬間に、興奮と緊張で脈拍が速くなっているのを感じていた。
レオルはニックを見つめた後に周りを見渡す。ニックも周りを見渡す。やけに長い静寂だった。
「レ、レオルさん。何も起きないんですけど」
「ん、あぁ、そうだな。何でだ?普段魔力を練らないせいで上手く魂とリンクできないのか。いや、関係ねぇか。それか敵とかいなくて上手く気持ちがこもってないとかか。そもそもの生命エネルギーが少ないせいか」
レオルは顎に手をやり思案する。そして、結論に辿り着く。
「坊主!もっとこう、心を込める感じだ!体の内側からもっと気持ちを乗せて!好きな女の子に告白する感じだ!!さっきも言ったが絶対気ぃ抜くなよ」
「言ってる意味が良く分からないんですけど」
魔力をほとんど持たないニックのためにレオルがレクチャーしてくれているが、ニックはイマイチ理解できていない。
「だから、気合いだよ!気合い!ガッツだ!」
「れっ!霊器開放っっ!!!」
ニックは先程よりも、気持ちを込めて雄叫びを上げた。少しの静寂の後、平地で風が吹き始める。そよ風程度の風は次第に強くなっていった。ジークの時ほどではないが、突風が巻き起こり小さな竜巻がいくつか発現した。そして、その中の一際大きな竜巻から影が正体を表す。
「やったか!!」
レオルとニックが影に視線を向ける。
「チッ、こんな姿にされちまうなんて」
そう悪態をつきながら竜巻の中から現れたのは、ニックと背丈があまり変わらない薄緑色の髪を靡かせ、霊器と同じエメラルド色の瞳を宿した少年だった。龍の鱗のような服を纏っており、山賊の様な風貌をしていた。
「おめぇか俺を呼んだのは」
緑髪の少年はニックに目を向ける。
「そ、そうだ!!よろしくな!」
ニックは、ジークの時に現れた龍をイメージしていたためかなり困惑していた。だが、そのエメラルド色の瞳に只者ではない何かを感じ取ることができた。
「なんだまだ小便臭せぇガキじゃねぇか。俺の名前はティフォンだ」
「なんだとてめぇ!!俺は、ニック・レガードナーだ!!」
ニックは怒りを抑えながら自己紹介する。
「ニック!さすがに、もうちっと力つけてくんねぇと困るぜ」
「んなこと分かってるよっ!!!力貸してくれよっ!」
ティフォンは片方の口角を少しあげて、竜巻を巻き起こし姿を消した。
「やったじゃねぇか!!相性も良さそうだな!!」
竜巻が止みレオルが満足気味にニックに声をかける。
「どこがすかっ!!だいぶ生簀かない感じでしたけど、、」
「とりあえず良かったぜ!って、お、おい坊主!!」
僅か数秒の霊器使用で気を失ったニックだが霊器解放訓練は、無事成功した。




