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第23話 「見て貰いたかったの・・・私達の国を」


学生寮から街までは徒歩だとそれなりに掛かる。

運動神経があまりよろしくない私の足で・・・30分くらい。


しかしそこはローゼリア様。

寮の前・・・学園の門の方に続く道には馬車が用意されていた。

さすがにかぼちゃじゃないけど、クラシックなデザイン・・・こんなの漫画でしか見た事ないよ。


「おはようございます、ローゼリア様」


馬車の前には、ぴんと背筋の伸びたお爺さんが一人・・・こちらに向かって恭しく礼をしてきた。

この仕草と振る舞いは・・・まさか・・・

確かめるように私がローゼリア様の方に視線を向けると、ローゼリア様は穏やかな表情で答えた。


「彼はラインゴード、王宮の管理を任されている執事よ」


執事!やっぱり!・・・うわぁ、本物だ。

やっぱり執事と言えば王道は老紳士・・・イケメン執事も流行っているけど私は断然こっち派だ。

東京にはこういう老紳士タイプがいる執事喫茶もあるって聞くけど・・・まさか先に本物を見られるなんて。

わぁ・・・うわぁ・・・


「ナデシコ?」

「あ・・・ごめ・・・」


私が執事さんに気を取られてる間に、皆は馬車に乗り込んでいた。

慌てて馬車に駆けこむと・・・執事さんが音もなく馬車のドアを閉めてくれた。

初めて座る馬車の座席はふかふかで、なかなかの座り心地だ。


「・・・ちょっと落ち着かないわね」


私の隣に座るのはアクアちゃん・・・座席がふかふか過ぎて少し戸惑ってる様子。

向かって正面にローゼリア様、斜め向かいにフィーラという配置だ。

自動車と違ってシートベルトみたいな物はない・・・結構揺れそうな気がするけど、大丈夫かな。


「ラインゴード、馬車を出して」


御者台には執事さんが乗っているらしい。

ローゼリア様の合図を受けて、馬車はゆっくりと動き出し・・・お・・・おお!

なんと言えば良いのか・・・一瞬エレベーターに乗った時のような感覚がしたと思えば、馬車がスッと加速したのだ。


「揺れ・・・て、ない?」


覚悟していたような振動や揺れは全くなく・・・流れていく窓の景色には疾走感を覚える。

実際結構な速度が出てるんじゃないかな? 色んな意味で自動車顔負けだ。

馬車って、こんな快適な乗り物だっけ・・・もちろんそれには秘密があった。


「ああ、ナデシコは馬車に乗るのは初めてなのね」

「う、うん・・・もっと、揺れるのかと、ばかり・・・」


不思議がる私とは違って3人はごく平然とした様子。

ローゼリア様はともかく、アクアちゃんやフィーラまで・・・


「『風圧』の魔法の応用で馬車を少し、浮かせてるの・・・ええと」


魔法・・・そうか、ここは魔法がある世界だった。

馬車を浮かせてるって事は、重さがなくなってるのかな。

それでこんなに速く・・・けれどその後に続くローゼリア様の言葉は、私の想像を軽く超えてきた。


「ニホン国のタイヤという物を参考にした魔法だって聞いたのだけど、ナデシコは聞いた事ない?」

「えっ・・・たい・・・や?」


タイヤってタイヤだよね?・・・車についてるゴム製かなんかの。

中に空気が入ってる・・・あ、空気か。

じゃあ魔法で空気のタイヤを作り出してるって事? 魔法でそんな事出来るの?


「タイヤ・・・たしかに・・・タイヤなんだ・・・へ、へぇ~」

「それだけじゃないわ、この馬車にはニホン国から頂いた部品が使われているの・・・ヒタチ鉄鋼という所から」


ヒタチ鉄鋼?! ヒタチ?!

それは普通に聞いた事あるよ、世界の不思議を発見したりするクイズ番組でも有名な大企業グループだ。

まさか多くの日本人の知らない所で、世界の不思議を作る側になっていたなんて。


「ふふっ・・・ニホン国から来たナデシコから見たら、そんなに珍しくもない物かも知れないわね」


いいえ、ローゼリア様・・・超絶珍しいですよ。

異世界の魔法と日本の技術で走る馬車は、坂道もものもせず、ぐんぐん上っていく。

あれ・・・坂道? 街に向かう道には、そんな上り坂はなかったような・・・


私が違和感を覚えている間にも、馬車は坂道を上り終えて・・・小高い山の上に停車した。


「お気をつけてお降りください」


執事さんが扉を開けてくれて・・・馬車から降りると。

・・・そこは、街を一望出来る展望スポットだった。

山の斜面に沿って100m程の長さで、石で組まれた無骨な足場はそれなりの年月を感じさせてくる。


「ここは王国でも人気の場所で、早い時間でないと混んでしまうの・・・まだ人はいないわね」

「それで、一番最初に・・・」


見た感じまだ私達以外の人の姿は見えなかった。

さすがに人で混んでしまうと、この見晴らしもゆっくり見ていられないんだろうな。

それに、お忍びの王女様的には色々と不都合な状況にもなってしまうだろうし。


「それもあるけれど、ここで最初に見て貰いたかったの・・・私達の国を」


少し誇らしげにはにかみながら、ローゼリア様は眼下の街並みを指し示した。


山の稜線が左右に広がる大きな盆地・・・その真ん中に、フレスルージュ王国の王都ミストルティアはあった。

なんだかマチュピチュだっけ? 空中庭園を見下ろしているかのような気分だ。

石造りの建物が整然と並ぶ街並みの中には、特徴的な形の建物がいくつかあって・・・


「あれ・・・王立学園じゃない?」

「えっ、どこ?」

「ほら、あっち・・・あの辺に湖があって・・・」


アクアちゃんの声につられて探して見ると、私達の通う学園らしき建物も見つけることが出来た。

・・・うん、やっぱりお城に見える。

という事は・・・本当のお城、王宮も近くに・・・あった、上から見ると結構違って見えるね。


街の方に目を戻すと、まず目につくのは円形の大きな建物・・・コロッセオっぽい。

やっぱり異世界だから、ああいう場所で人が戦ったりするんだろうか・・・


「ローゼリア様・・・あれは・・・何ですか?」

「ああ・・・あれはレース場ね」

「レース場?」


そう言われてみると、たしかにちょっと横に長い楕円形だ・・・さっきの馬車みたいなのでレースをするのかな。

私はそういう、モータースポーツ?に興味はないけど・・・好きな人も多いんだろうね。


「・・・ああ、私あれ嫌い」


レース場と聞いた途端に嫌そうな顔をしたのはアクアちゃんだった。

好きな人もいれば、嫌いな人もいるよね・・・私も別に見に行く事もないと思うから良いけど。


他の場所も見てみると、何かがキラキラと光っている場所が・・・


「あれは?」

「あれは入浴施設ね・・・フレスルージュはお風呂が好きな国民が多いの」

「お風呂・・・」


お風呂好きとは・・・日本人と気が合うかも知れないね。

じゃあ、あの光ってるのは水面かな・・・結構な大きさに見える、さっきのレース場と変わらないくらい。

スーパー銭湯みたいな感じなのかな、うちの地元にも大きいのがあって、よく連れて行って貰ったっけ。


「ふぅ・・・良い風だわ」


ここでフィーラの方を見てみると、気持ちよさそうに風に身をゆだねていた。

彼女は風景よりも、ここの場所の空気が気に入ったみたいだ。

たしかに風が涼しくて気持ちいい・・・いつまででも居れそうだ。


けど・・・時間が経つにつれて、チラホラと人の姿が増えてきた。

さすがにすぐ王女様に気付くような人はいないけど・・・あんまり長居するのもよろしくなさそうだ。


「そろそろ、街の方に降りてみない?」

「あ、はい・・・」


なので、特に何の疑問もなく、私達はローゼリア様について行った。

なぜか馬車を停めてある方と違うな・・・って思わなくもなかったんだけど・・・

ついでに言うと、私達以外のここに来た人達が、馬車も使わずにどこから現れたのか。


もしそれらを気にしておけば・・・この後の悲劇を、私は回避出来たんじゃないかと思う。


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