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第102話 「ぜんぜん驚かないのね」


世界の中心で・・・あれは何を叫んだんだっけ。

そんな映画があった気がするけど、それがトイレでないのだけは間違いないだろう。


「・・・」

「・・・」


気まずい沈黙。

私はそっと窓を閉めて、見なかった事に・・・


「待って撫子ちゃん!今のはアレだから、噓だから、作戦だから!」


窓の向こう、下方から聞こえてくる良平くんの悲痛な叫び。

外からは肩車で届く高さの窓だけど、部屋の中からだとだいぶ高い所にあるみたい。

私達が塔から降りるのに使ったロープがここでも役に立ちそうだ。

窓の向こうに投げ込むようにしてロープを放りこむと、半分くらいの長さで良平くんの手元に届いた。


「捕まってるから、そっちで引っ張ってくれ」

「いいけど・・・漏らさないでよ」


すごく嫌そうな顔をしながらもマーヤさんはしっかりとロープを引っ張る。

2人がかりでも男子1人を引き上げるのは大変で・・・良平くんの手が窓枠まで届いた頃にはすっかり汗だくになっていた。


「た、助かった・・・うぐっ!」


狭い窓から引き摺るように出てきた良平くんだったけど、こっち側もそこそこの高さがあるのを失念していて。

窓から落ちてしまった・・・痛そう。


「大丈夫?!」

「な、なんとか・・・いって」


痛い言いながらも良平くんは手を借りずに自力で立ち上がった。

さすが男の子、身体が丈夫に出来てるのかな。

1人だけ別の所に連れて行かれて、酷い目に遭ってないかと思ったんだけど・・・


「むしろ扱いは良かったぜ、丁重って言うの? 最初は応接室みたいな部屋に連れてかれて、お茶とかお菓子とか出てきてさ・・・」

「・・・え」


お茶にお菓子?! 無理矢理拉致されてきたのにどういう事?

それに、何もない部屋に閉じ込められた私達とえらい違いだ。


「しばらくしたらなんか偉そうなのが出てきて、人違いだって怒鳴って・・・そしたらあそこに放り込まれて、それっきり・・・トイレにも行かせてくれないしで・・・あ、ちょっとしてきていい?」

「もう・・・見つからないようにね」


マーヤさんの許可を得ると、良平くんは小走りで植え込みの方に・・・さっきのは本当だったみたいだ。

それにしても・・・人違い?・・・良平くんと誰かを間違えたって事だよね?

それって、やっぱりあの王子様?・・・王族だから狙われたりはありそうだけど・・・


「・・・」

「さすがに撫子ちゃんには、もう話した方が良いかな・・・」

「?」


まるで意を決したように、マーヤさんは真剣な表情を浮かべると・・・


「驚かないで聞いてね・・・実は八王子くんはね、この異世界の王子様なの」

「・・・あ、はい」


うん、知ってた。

もっと違う反応を期待していたのか、マーヤさんは呆れたような顔で呟いた。


「ぜんぜん驚かないのね・・・驚かないで、とは言ったけど」

「あ・・・ごめんなさい」


そっか、気付かれてないと思ってたのか。

でもアレは・・・どう見てもバレバレと言うか・・・むしろ隠す気あったの?

あんな変装で、どうして『門』を通る時に気付かれなかったんだろう・・・今考えても謎だ。


「私達の通ってる学校に留学してきてね・・・みんな『異世界の王子様にどう接すれば良いのか』って思ってた時に、あのバカが・・・」


良平くんは空気を読まずに絡んでいったらしい・・・さすが陽キャだ。

けど、逆にそれが王子に好印象を与えて、2人は仲良くなったのだとか。


「・・・夏休みに何しよう?って話になった時にね、『国に帰って王宮の仕事』って聞いたらアイツ怒っちゃって・・・

「学生なのにせっかくの夏休みに遊ばないで仕事とか、ブラック過ぎるだろ!」・・・って。

運が良いのか悪いのか、ちょうど異世界旅行の抽選に当たっちゃったもんだから・・・」


それで王子に変装をさせて、旅行客として入国してきたらしい。

でもあの変装で?・・・事情を察して見逃してくれたのかな・・・融通の利く人がいたのかも。


「きっと、あいつらテロリストよ・・・はやくここから抜け出して彼に伝えないと・・・それにしても良平のやつ、遅いわね」

「あ・・・すごく、我慢してたみたいだし・・・」


部屋の中心でトイレを叫んでいた良平くんの姿が思い出される。

やっぱり大きい方なのかな・・・あっ、紙がなくて困ってるとか?

その可能性に至って、良平くんを探そうと周囲を見回した・・・その時だった。


「・・・?!」


ガサゴソと・・・生え放題の敷地の雑草をかき分けてくる3人の男達・・・脱走に気付かれてた?!

そしてその中には、拘束された良平くんの姿があった。


「・・・悪い、見つかっちまった・・・2人とも、俺に構わず逃げ・・・ごふっ」

「良平!!」


マーヤさんの悲痛な叫び・・・無防備な腹に強烈なパンチを受けて、良平くんがその場に崩れ落ちる。


「こう、なりたくなきゃ・・・逃げよう、なんて思うなよ?」

「・・・!」

「そうそう、余計な事は考えるなよ?」

「おとなしーくしてな」


その大きな拳を見せつけるようにしながら、男が笑う。

せーので2人で別々の方向に逃げれば、マーヤさんだけは逃げ切れる?・・・でも良平くんが・・・

私達が迷っている間にも、男達は近付いて来て・・・つ、捕まる・・・


「・・・あれ?」

「どうした?」

「いや、足元が妙にぬかるんで・・・??」


不意に、私達に向かってきていた男達の足が止まった。

なんかその場で足踏みをしてるように見えるけど・・・いったい何が起きて・・・


「な、なんだこりゃ・・・」


その男はそれ以上の言葉を続ける事はなかった。

なぜなら、その後方から・・・颯爽と現れた人影が、素早い動きで彼らを叩き伏せていったから・・・


まるでアクション映画を見ているような、軽快な身のこなし。

この距離でもわかるキラキラした気配。


「2人とも、大丈夫か?」


比喩でも何でもなく、それは『王子様』だった。


目にもとまらぬ速さ、とはこの事か。

まるで特撮ヒーローのような動きで、あっという間に王子が悪漢3人をやっつけてしまった。


「良かった、無事みたいだな」

「あ、ありが・・・アクアちゃん!」


助けてくれた王子にお礼を言おうとして・・・その背後に隠れるようにして立つアクアちゃんの姿に気付いた。

さっき男達の動きがおかしかったのは、彼女の魔法に違いない。

よく見ると、さらに奥の方で他にも男達が倒れて・・・そうか、2人でここまで助けに来てくれたんだ。


「バカ・・・なんで気付くのよ」


なぜか不満気な表情を浮かべてるけど・・・

私はそんなアクアちゃんに駆け寄って、お礼を言った。


「アクアちゃん・・・助けに来てくれたんだ、ありがとう」

「そういうのは、ハチオウジくんに言いなさいよ」

「??」


その発言の意図が分からず、私が首を傾げている間に、王子とマーヤさんは良平くんの方に集まっていた。


「良平・・・しっかりして・・・」

「へへっ・・・俺、かっこ悪いなぁ・・・」

「そんな事はない、お前のおかげで2人は無傷だ」


良平くんに肩を貸しながら、王子が微笑む。

後から来た王子には、良平くんが身体を張って私達を守ったみたいに見えてるみたいだ。

・・・本人の名誉の為にトイレの事は黙っててあげよう。


良平くんの介抱もそこそこに、今度こそ私達はここから脱出を・・・


「・・・外が騒がしいと思えば、ずいぶんと派手なご来訪ですなぁ」


・・・そうは都合よくいかないようで。


おそらくは私達を攫った黒幕なんだろう。

大勢のいかつい男達を連れた貴族風の中年男性・・・ギャンカース子爵が、目の前に立ち塞がったのだった。


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