第34話 聖騎士小隊
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聖騎士の敗走は瞬く間に話題となった。民衆の関心はアウゲンストの死を悼むより、聖騎士を追い詰めた修羅に集まる。
なにしろ奴は殺人鬼だ。
聖騎士を追って、自分達の村や町にも来るかもしれない。
いや、一度襲われた地区もあるのだ。ロトチャフ連邦の惨状が国民に公表されたこともあり、どの町村も守りを固めていた。
そしてそれはユリウスが帰った帝都がもっと顕著であった。
宿舎でカード遊びをする兵士は一人もおらず、正々堂々を重んずる騎士の訓練は、いままでの一対一を想定した訓練ではなく、連携を重要視し、多数で一人と戦うことを想定したものに変更されていた。
ユーグリットの死体が見つかったとの報告から三日後、帝都に衝撃が走る。修羅ムサシと刺青のキャサリンを拘束したとの知らせが舞い込んで来たからだ。
「本当か? 本当に奴がつかまったのか? 誰だ! あいつを倒したのは?」
「落ち着いてください聖騎士様、自首です。修羅は自ら出頭しました。現在は刺青と一緒に捕らえてあります。尋問にも不可解な発言はありますが、協力的です」
「何かの罠だ! 場所は何処だ? 町の人間は避難させたのか? あれがその気になったら町の一つや二つ、一日で滅ぶぞ」
「はっ! そのことも踏まえまして相談に参りました……」
……緊急の会議が始まった。私や大臣、代表貴族達との意見は割れた。
その町で処罰するか、帝都で処罰するか。住民は避難はどうするのか、刑はどうるのか、入れておける檻はあるのか、多くの意見が出た。
「ユリウス、身体はもう大丈夫か?」
皆の意見をじっと聞いていた王が手をかざし、会話を止めたかと思うと、そう口にされた。
「はっ、十全です」
「勝てるか?」
飾りのない質問に議会が凍りつく。されど答えは、――決まっている!
「勝てます。私の命はアウゲンストとユーグリットに救われました。彼らに報いるためにも、もう後れはとりませぬ」
そうだ、王と王女様によって送り出された、二人の尊い命の上に私は立っているのだ。修羅が帝国に害をなすならば、私が斬る。必ずだ。
王が椅子から立ち上がり命を下す。威厳に満ちた声に誰もが従う。
「ならば話は決まりだ。完全武装した騎士一個小隊で、修羅を連行、地下牢にて尋問せよ、罪を全て詳らかにした後に、刑罰を下す。以上、解散」
会議室から皆が出て行くなか、王が私に向き直る。
「ユリウス、すまぬが直ちに騎士をまとめて出立してくれ、くれぐれも修羅から目を離さないようにな」
「はっ、ご期待に応えて見せます」
聖剣は不思議なことに自動的に修復されていた。盾はユーグリットの報告と一緒に兵士が渡してくれた。身体に痛みも疲れもない。気力は満ちている。
不意打ちは食らわない、戦いになれば必ず勝つ。
召集から集合までの僅かな時間、ユリウスは自分の人生を振り返っていた。
――騎士は叙任されるもので、生まれついての身分・階級ではなかった。その点において単純に騎士を貴族とみなすことはできない。貧しい兵士が騎士身分に取り立てられることもあり、いったん騎士身分を得るとその長子も騎士となることが多かった。
ユリウスの父は漁師であり、比較的裕福ではあったが平凡な平民であることに代わりはなかった。
父は強制するつもりはなかったが、自分の愛する海と漁師という仕事に誇りをもっており、ユリウスになりたいものがなければ跡をついでほしいと思っていた。ユリウスも父の希望はうすうす感じており、自身も将来は跡を継ぐのだろうとぼんやりと考えていた。
転機が訪れたのは10歳、帝都で騎士と兵士達による武芸試合を見たときだ。
ある一人の騎士に目が離せなくなった。
人々の熱気。父親の解説。母親の作ってくれたお弁当の味。暖かい日差し。心地よい風。全てがかすんで不明瞭な記憶。
その中にあって騎士の美しい剣技と静かな佇まい。内に秘める闘志と、兜の下からはみ出る白髪だけが鮮明に脳裏に焼きついている。
相談は同日の夜。「騎士になりたい」そう言ったユリウスに少しだけ悲しそうな、でも嬉しそうな顔をした父はこう告げる。「難しいが、頑張れるか?」と。
平民のユリウスが騎士になる為には、まず兵士にならなければならない。
枠こそ少ないが、帝国では毎年兵士を募集している。町の警護や揉め事の仲裁。土木工事の手伝いや城での雑用。貴族に奉公に出される兵士もいる。
戦争は無くても、帝国にはまだまだ無くてはならない仕事なのだ。
兵士の試験は、30歳以下で犯罪歴の無い者なら誰でも受けることが出来る。内容は50キロの重りをつけての水泳。歴史のテスト。そして実技となっている。
実技では自分の納めた武芸を披露するのだが、規定では剣でなくとも良い。大抵の受験者はなんの武芸もなく、兵士になってからの訓練で伸ばしていくことになる。
ユリウスは試験に落ちた。鍛えなおし、勉強した翌年も、その次も。身体が出来上がっていない者が、この試験に合格する為には魔法が欠かせない。
当時はまだ、魔法を使えなかったのである。――
――――「聖騎士様、騎士各位集合致しました」
若い騎士がキラキラした目で報告に来てくれた。
「君はたしか……カレンだったか?」
「覚えていて下さったんですね。ありがとう御座います。感激です。聖騎士様と一緒に任務に就くのが夢だったんです。頑張ります」
この任務には私を含め、騎士十二名が選抜されているが、彼等はいざとなったら私の盾になるように訓練されている。城に残る騎士達もそうだ。彼等を死なせる訳にはいかない。
気を引き締めて号令をかける。
「小隊、騎乗! これよりスタンレーに向かう!」




