11話 ラティナの真実
アリエッタたちとルチアは闘技場の近くにあった酒場に入り、一休みしていた。
まだ日も高く、一杯やるには早すぎる時間だが、そういった時間帯でも喫茶店のような役割を果たしており、夜とは違って落ち着いた雰囲気に包まれていた。酔った勢いで大声でしゃべる者たちがいない分、ゆっくりと会話しながらお茶するにはなかなかいい場所だった。
「それじゃ、ルチアさんも闘技会目的でオーヴィレンに?」
「ああ、そうだね。キミたちと会ったその日のうちにフィルブト出たんだ」
通りでモンスター襲撃の時にいないわけだ。既にフィルブトにいなかったのだから。
「あの日ですか…。モンスターの群れに遭遇したりしませんでした?」
「珍しくモンスターには多く遭遇したけど群れはいなかったかな。何かあったのかい?」
「実は…」
アリエッタは、ルチアに出会った翌日にフィルブトがモンスターの大群に襲撃された事、そしてその撃退に協力した事などを簡潔に説明していった。
「そんなことが…。私がもう少しゆっくり出ていれば…!」
ルチアの表情は悔いに満ちていて、自分がフィルブトの街を守れなかった事に対しての悔しさでいっぱい、そんな風にアリエッタには見えた。
「まぁ、街自体はなんとか守れましたし、北門のは不幸が続いたというか、多分ルチアさんいても同じだった気がしますし…」
「そう言ってもらえると少し気が楽になるよ。それにしてもキミたちがそのタイミングでフィルブトにいてくれてよかった。危うく長年慣れ親しんだ街を失うところだったからね」
ルチアはそう言うと、今度は一転して少し安心したような穏やかな顔つきになった。
実際にあの時東門では被害は出ていないし、無名のルチアが北門に回された可能性は低い。そうなれば、その北門も不幸が重なって崩壊したと言うが、それはどうあっても回避できなかっただろう。
「ところでルチアさんは闘技会観戦にしてはフィルブト出るの早くないですか?」
アリエッタの疑問は尤もだ。アリエッタたちがフィルブトを出たのはルチアのそれより一ヶ月も遅いにもかかわらずギリギリだったとはいえ間に合っているのだ。オオトカゲの移動で馬より速いことを考慮しても出発が早すぎるのだ。しかし、その疑問はあっさりと、そして驚愕の事実が告げられると同時に氷解した。
「実は私は前回優勝者として出場しなければならなくてね。そうなると打合せや段取りがあって早めに入らなければならなかったんだ」
「え!?」
「は!?でも前回優勝者ってラティナって人じゃ…」
「あぁ、それは私の偽名だよ。君は本名で出てるみたいだけどね」
アリエッタもエメラもすぐには理解が追い付かない。しかし、よくよく考えてみれば女性のシルエットに顔を隠す仮面、髪の色は幻術で誤魔化せるとなれば、ラティナとルチアが同一人物でもなんらおかしいことはない。
そしてそれが事実であれば、既にアリエッタが闘技会に出場し続ける意味すら失っている事を意味する。
「なんてこと…。アリィ、次の試合は棄権しよ?」
「うん、そうだね。これ以上出続ける意味無くなっちゃったもんね…」
「ちょっと待ちなさい」
そんなアリエッタとエメラの会話にルチアが待ったをかけた。
闘技会のルール上、事前の棄権は認められていなかった。仮に棄権を申し出ればルール違反として処刑される事になっている。試合開始直後に降参を申し出た者はいたそうだが、それも事前棄権と見なされて処刑されたそうだ。年に一度の祭で民衆の楽しみを奪った罪は重いという判断なのだろうか。
もし出続けるのは嫌なのであれば、ある程度戦ったふりをして最後に降参を申し出ればいいのではないかという話だ。しかし、意図的に手を抜いたことが見透かされてしまえば処刑される可能性も否定しきれない。
「そういう事だから、最後まで付き合った方が無難じゃないかな」
それなりに悩んでの出場ではあったが、この結末を誰が予想できただろう。結局アリエッタには試合に全力で臨む以外道はないのだ。
「さすがにそれじゃモチベーションも上がらないだろうから、決勝までこれたらキミたちに有用かもしれない情報を提供しよう」
「それってここで教えてくれもいいんじゃ…」
「最初はそのつもりだったんだけどね、私もキミとは手合わせしてみたいからお預けだ」
ルチアはそう言うと悪戯っぽく笑った。




