10話 意外な再会
「まったくもってノーマークだったぜえ…」
アリエッタの一回戦が終わった翌日の朝、朝食を取りながらガリオルは盛大に愚痴っていた。
珍しく朝ガリオルが起きているのは、この日にガリオルの一回戦が組まれているからだ。そんな状況でも自分の事ではなく違ったことを話題にしているのは理由がある。
順当にいけばアリエッタの準決勝の相手は前回準優勝の騎士団長だったのだが、前評判を引っくり返して無名の剣士が騎士団長に勝ってしまったのだ。しかも辛うじてというレベルではなく、完膚なきまでに叩きのめして相手に降参させたという所にその剣士の強さが表れている。
「ねぇガリオル。その剣士ってかなり強かった?」
「魔力量は計れねーけど、剣の技量だけで見たらアリエッタは適わねーな」
ガリオルは「戦いはそれだけじゃ決まらねーけどな」と付け足すが、それまでガリオルはすべての相手に対して「相手にならん」という評価をしてきただけに、そのガリオルが技量だけと前置きをしていたものの一目置いたのだ。それだけでも非常事態と言ってよかった。
「それから動きは早くねーが、攻撃があたらねーんだよ。ありゃぁ、気配読んでやがるな」
それに加えてその剣士の得物も特殊だと言う。相手の騎士団長は魔法がかかった金属鎧を纏っていたにもかかわらず、その剣の前では野菜でも切るかのように簡単に切られていたという。
そして最後はいつの間にか死角に回ると、首に自身の得物を突きつけて降参させたようだ。
アリエッタはガリオルのその話を聞いたとき、どこかで似たような事で驚いたような記憶がおぼろげながらもあった。しかし、いつどういったときにそうだったかまでは明確に思い出せなかった。
「魔力に抵抗できる素材なんてありえないし、その剣も特殊な魔法がかかっていたと見るべきね」
アリエッタの魔力量であれば、自然に存在するもので切れないものはないだろう。それはどんな強固な鉱物であっても変わらない。しかし、そこに魔力が篭っていれば話は変わってくる。特に高密度に圧縮された魔力を纏わせた物質は非常に強固になる。それでも、それは術者がその場限りとしての使い方に限定される事がほとんどだ。
そんな中、例外もある。一般にはほぼ流通していないが、特別な付与魔法を施され誰でも魔力を流し込めばその魔力に応じた効果を発揮できるという特殊な武具や道具が存在する。便利道具として加熱、冷却といった機能のものがほとんどではあるが、中には硬度を高めるものや殺傷力を高めるよう武具に効果が付与されているものもある。エメラが言ってるのはそれにあたる。
「だな。動きが早くねーって事は魔力量は大した事ねーだろーしなぁ」
結論としては、高い剣技と殺傷能力が抜群の武器を持った相手で、場合によってはアリエッタの障壁すら抜いてくる可能性も考慮しておく必要があるという事だ。
「さて、今日こそがメインなんだから遅れないようにね」
エメラはその場を収めるように他の面々にも声をかける。
この日は一回戦二日目でガリオルの試合と、それから前回王者"蒼焔のラティナ"の試合が組まれている。ガリオルの応援といった側面もないことはないが、やはり一番の目的はラティナと言う魔族ではないかと疑っている相手を確認する事だ。
ガリオルの一回戦はアリエッタと同様に一瞬だった。特にガリオルの相手はラッキーな予選突破者で実力的にはアリエッタの相手と比べてもさらに数段下の相手だったのだ。ガリオルとしては消化不良もいいところなのだろうが、真の目的はさらにその先にある。彼の場合、あくまで強い相手とやり合うのが目的であり、彼がその相手として相応しいと思っているのはラティナとアリエッタだけだ。それまでの試合など彼にとっては煩雑で面倒な出場手続きとなんら変わらない。
その後の二試合は前日のアリエッタの相手を決める試合同様、アリエッタたちにとって程度が低く退屈な試合だった。どちらの勝者も少なくともガリオルの相手にはならないレベルだ。しかし、通常それが普通の闘技会のレベルであり、アリエッタやガリオルがこの界隈だと異常なだけなのだ。
「ついに次だね…」
少し緊張した面持ちでエメラが短い言葉で声をかけるが、アリエッタは軽くうなづくだけで声には出さない。
やがて観客を煽るような場内アナウンスで出場者二人が入場すると、歓声が一際大きくなりその姿があらわになる。
挑戦者であるラティナの相手は身の丈ほどではないが、両手で取り回す事を想定しているような大きなバスタードソードを携えていた。そしてそのバスタードソードを扱うには少し細身な体格は魔力量が多い証拠かもしれなかった。その整った顔立ちは女性的で爽やか系のイケメンではあるが、どちらかというとかわいい部類で弟キャラというのがぴったりとはまりそうな外見だ。
対して、ラティナの出で立ちは少し異様だった。地味なグレーのローブを着込んで手には一振りの簡素な杖を握っている。地毛なのか偽装なのか判断つかないが、漆黒の長い髪を後ろに流している。そして顔には仮面を付けており、それが地味な服装と相まって少しばかり不気味な存在感を放っていた。僅かながら隆起した胸元に、同じく控えめな腰のくびれ具合は女性のものであったが、それ以上の情報が引き出せない容姿だ。
観客の興奮が最高潮になると共に試合が開始されるが、その勝負が付くのはアリエッタの予想通り一瞬だった。
超高速で背後に回りこんだラティナは手にした杖から電撃を放つと、その電撃を浴びた対戦相手は簡単に崩れ落ちた。自慢の大剣を一度も振るわせてもらう事もなく撃沈させらるところはアリエッタやガリオルの相手とまったく同じだ。
「エメラ、どう思う?」
「そうねぇ…。人間族じゃないのはほぼ間違いないかな」
アリエッタの大雑把な聞き方にエメラは意図を敏感に察して、アリエッタの欲しい答えを導き出す。さすがに会話の内容が内容であるため、お互いが聞き取れる程度の声で会話するのを忘れない。
人間族ではラティナの動きを目で追えなかった者がほとんどであろうが、魔族であるアリエッタとエメラはその動きが魔力で強化されての高速移動だと理解している。そして、それだけの魔力を有する者が人間族である可能性が低いことも、実際に目にしてわかった事だ。
『あの人多分魔族だよー』
「エレアわかるの?」
『うん!なんとなくだけど、魔力の質がそれっぽいから』
元々妖精は魔力の残滓から生まれる。そのため自分以外の持つ魔力に対しては敏感で、エレアのように小さな違いを見分ける事によりある程度種族を判別する事も可能なようだった。
「そっか、なるほどね。それじゃなんとしてもあの人に接触しないとね」
気持ちを新たに気合を入れ直すアリエッタだったが、その気持ちは思わぬところで空回りさせられる事となる。
この日の目的も果たして満足げに帰路についたアリエッタたちに声をかける者がいた。
「もしかしてアリエッタとエメラディナじゃないか?」
その声にアリエッタとエメラが振り返ると一人の女性が笑顔で立っていた。その人物は髪色こそ黄色が強い赤黄色のような金髪だったが、紛れもなくフィルブトのギルドで会ったルチアだった。




