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僕と彼女と英雄の裏物語  作者: ヴィンディア
第3章 サバンナの中のサーフィト帝国
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11話 赤い髪の魔族

 真夜中の騒ぎがあった翌日の朝、エメラは盛大に愚痴を漏らしていた。


「アリィを襲おうとするなんて、殺しちゃえばよかったのに」


「なんで起こしてくれないかな。あたしが八つ裂きにしたのに」


「それにしても役に立たない用心棒ね」


 いつもは礼儀正しく、大人しいくらいのエメラだが、アリエッタの事になると途端に人が変わる。今回は無言で行動しようとしなかっただけ幾分マシな方ではあるが、豪快に毒を吐いていた。


「まぁまぁ、そいつらの粗末なモノは使い物にならなくしておいたから。僕としてはエメラを襲ってた事の方が許せないけど?」


 今回の行動からエメラほど敏感ではないものの、アリエッタも十分にエメラの事になると見境がなくなるという事が周囲に知れた。特に抑える役回りが多いガリオルには頭の痛い事実だった。


「それは置いといて、今日はどうすんだぁ?」


「あぁ、うん。とりあえずモンスター討伐の依頼がないか確認して、なければ情報収集かな」


 新しい街に入ったときには必ずモンスター討伐の有無を確認して、平行して情報収集にあたるというのがここ最近のパターンだ。フィルブトにおいてもそこは変わらない。これだけの大都市だけにモンスターの討伐も肥大化した治安維持軍が済ませてしまっている可能性もあるが、その点だけでいつもと動き方を変えるのは、アリエッタには少し違うように思えたのだ。



 街のギルドに着いたエメラとアリエッタはその大きさに驚いた。今までの街にあったギルドは大抵が個人商店の域を出ない程度の大きさであったが、フィルブトのギルドは三階建ての立派な建物で、公的な施設としても十分に使用可能そうな広さを持っていた。アリエッタの感覚で日本での建物で例えると市民ホールとして数百人の収納が可能なレベルの広さだった。それだけ依頼を出す人も、依頼を受けたい人も多い事の裏返しだった。

 中に入ると、広大なスペースに所狭しと掲示板が立てられている。そこにびっしりと依頼書らしき紙が貼り付けられていて、それまでの受付で紹介してもらうスタイルとは一線を画していた。よくよく見ると掲示板の上にも「モンスター討伐」「護衛」「探偵系」等とカテゴリー分けがされており、探しやすいように区分けがされているようだった。

 人の流れを見てみると、掲示板から依頼書を外して受付のような場所に持っていっており、好きな依頼を選んで受付で本受付をしてもらう流れのようだ。

 アリエッタたち一行はモンスター討伐の掲示板の前まで行くが、どういったわけかモンスター討伐の依頼だけが一枚も貼り出されていなかった。


「君たちはモンスター討伐探してるのか?物好きな奴らだな。ここ最近はモンスター出てないらしいぞ」


 近くの護衛の依頼を眺めていた一人の女性が声をかけてくる。

 その女性は燃えるような赤い髪を背中の半ばまで伸ばし、顔立ちは整い過ぎるほど整っていた。目がパッチリと大きく可愛い感じのアリエッタよりも、切れ長の目がクールな印象を与えるエメラの方が系統は近いだろう。しかし、与える印象は真逆だ。清楚で女性らしさ全開のエメラに対して、赤髪の女性も女性らしさを感じさせつつもクールで紳士的な男性っぽい雰囲気をいい意味で持ち合わせていた。


「ぜんぜん出てないんですか?」


「ああ。治安維持軍が討伐してるわけでもなく、本当に出てないみたいだな」


 アリエッタは思わず聞いてしまった後にとある事に気が付いた。その紅蓮のような赤髪から、細長く尖った耳が飛び出ていた。


「あ…魔族の方、ですか?」


 少し動転してしまったアリエッタは、見てすぐに分かるような事を質問してしまった。


「ああ。私はここ三十年ほどフィルブトに住んでるから同族に会うのは随分と久しぶりだよ」


 しかし、そんなアリエッタの奇妙な質問にも柔軟な対応を見せるあたり、この女性のコミュニケーション力は中々のものだった。


「あ!不躾な質問なんですけど、フィルブトでは魔族に会った事ないって事ですか?」


「そうだね。まぁ、遠出した街で見かけた事はあるにはあるけど、ここでは会った事ないな」


 赤髪の女性の言葉を聞いて、半ばフィルブトまで来た意義を失ったアリエッタはがっくりと肩を落とす。そんなアリエッタの様子を見た赤髪の女性が続けて声をかけた。


「なにやら、私の言葉に落胆してしまったようだが、何か失言があったかな?」


「あ、いえ、違うんです。実は…」


 アリエッタは落胆した原因について赤髪の女性に話し始めた。性別を変える方法を知っているであろうルビアスを追ってネマイラを出てきた事、大森林から山脈を経由して帝国を横断してきたが有力な情報が出てきていない事等を順を追って説明した。


「ふむ、なるほどね。だが、残念ながら私も彼の足取りはわからないな」


「そうですか…」


 フィルブトまで来たのは、単純にルビアスへの手掛かりという意味では無駄足になってしまった事実に、アリエッタは再び肩を落とす。


「役に立てなくて申し訳ない。もし困った事があったら頼ってくれ。私はルチアというものだ」


「あ、僕はアリエッタっていいます」


「あたしはエメラディナです。あっちの大きいのがガリオルでこの子がリフィミィ、この妖精はエレアです」


 凸凹なメンバー構成にルチアは若干驚きの表情を浮かべるが、すぐに笑顔で「ああ、よろしく」と返答した。


 この日は結局何も依頼を受けられることなく、ギルドを後にした。次の街までの護衛依頼があれば一番いいのだが、護衛の仕事自体は競争率が高い上に、場合によっては往復セットの依頼だったりするので、一定の街を拠点にしていないアリエッタたちにとっては受けづらい依頼なのだ。さらには、モンスター討伐と比べてしまえば明らかに危険度が低く、それだけ報酬も少ない。

 収穫といえば、フィルブトでは今以上の情報は恐らく望めないという事だけ。北のエルガラン王国にむけて早々に出発することも含めて、今後の予定を練り直す必要があるなと考えながらアリエッタたちは宿に引き返していった。

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