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僕と彼女と英雄の裏物語  作者: ヴィンディア
第3章 サバンナの中のサーフィト帝国
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7話 奇妙な噂

改めて今日から更新再開します!

 アリエッタとエメラ二人に釘を刺され、ガリオルは少し腐り気味になりながらも食事そっちのけで酒をあおる。食事の時は殊更幸せそうな表情を見せるリフィミィとエレアは、やはりいつも通り幸せそうな顔をして食事を取っている。

 そんな純粋に食事を楽しんでいる三人とは別に、アリエッタとエメラは食事は取りつつも耳を澄ましていた。

 ルビアスの情報を得るために、某人気RPGのように街の中の人々に片っ端から声を掛けるわけにはいかない。そうなれば、情報が集まりそうな場所で聞き耳を立てるか、ギルドを使って有料で情報収集をするかになる。やはり、先立つものに不安がある以上、できる限りお金はかけたくなかったのだ。

 大衆食堂ともなると色々なタイプの人間が集まるが、アリエッタ達五人はその中でもかなり浮く存在だった。なんせ、人間族が大部分のコミュニティの中にあって、魔族、竜人族、妖精が入り混じった集団だ。否応なく目立つ。それに加えて、アリエッタとエメラの美貌は必要以上に人目を引いていた。本人達に気付かれないよう、そっと横目で見る者から無遠慮に視線を投げかけてくる者まで様々ではあるが、そのどれもが好奇や好色の色を多分に含んでいた。


「なぁ、あれ魔族だよな?」


「耳長、銀髪とくれば間違いないわな。それと一緒にいるのは竜人族か?」


「あぁ、多分そうだろ。見たことないけどな」


「それにしても魔族の女二人はとんでもなくいい女だな」


「お持ち帰りしてぇ」


 アリエッタ達がヘタに目立ってしまっているため、話題もアリエッタ達の事でもちきりで、本来の目的が果たせそうな状況にはなかった。そんな状況にアリエッタの口から溜息が漏れる。

 綺麗な女性は得する事も多いが、その分苦労もある。持たざる者からするとただの嫌味にしか聞こえないが、実際にそういったものがあるというのも事実だし、今回の件は正にデメリットが表に出てきた典型的な例だ。

 それなりに広い店内だけに、普通であれば周辺の話し声しか拾う事はできないだろう。特に夕方以降、酒の入った客が増えれば、喧騒は大きくなりさらに加速する。それでもアリエッタとエメラは身体強化で聴力を強化する事で遠く離れた席の客達の話し声も拾っていた。本人達に聞こえていないと判断して、アリエッタとエメラをネタにした猥談等もしているが、そんなアリエッタからしたら聞きたくもない話まで聞こえてきてしまう。精神的にはまだまだ男の部分が大部分であるアリエッタからすると、不快な事この上なく、殴り倒したい衝動に駆られるが問題を起こすわけにはいかない。そこはじっと我慢するしかなかった。


「エメラ…ストレスが半端ないんだけど…」


「大丈夫、あたしもだから…」


 まったく大丈夫ではなさそうな様子のエメラの「大丈夫」という物言いに、アリエッタは少し気が紛れる。

 そんな苦痛とも取れる時間は、とあるグループの会話が聞こえてくると同時に終わりを迎える。


「魔族っていうとさ、数週間前にも街の外れでそれっぽいやつ見たよ」


「魔族なんて滅多に来ないし、見間違えじゃねえの?」


「いやいや、夕暮れ時で薄暗くて髪の色はわからんかったけど、あの耳の尖り具合は多分魔族だって。そこの魔族見て思ったよ」


 その会話は席が四つ、五つ離れた先にいた二人組がしていたものだ。アリエッタとエメラは顔を見合わせると、二人して頷き合い席を立った。

 離れた席で自分たちの話を本人に聞かれているとは微塵も考えていない男性二人組は、陽気に同じ話を続けていた。話題は魔族を見たという所から、見た魔族は男だったの女だったのといった話題に移ろっていたが、片方の男性が口をパクパクさせ驚きの表情を見せる。もう片方の男性も相手の異変に気付て振り返ると、同じように驚愕の色を浮かべる。その彼らの目が捕らえていたのは、それまで話題のネタにしていたアリエッタとエメラだった。


「あの、突然すみません。今魔族を見たって話が聞こえたので…」


 アリエッタが少し申し訳なさそうに男性達に声をかけるが、驚く男性二人を気遣う素振りを見せつつも引く様子は見せない。男性二人は突然の出来事に状況が理解できていないのか、アリエッタの問いに答えそうな雰囲気すらない。


「急にビックリしてしまいましたよね。実は僕たち、あなた方の『魔族を見た』って話、聞こえてたんです。なので詳細を教えてもらえないかと思いまして…」


「えぇ!?俺らの話聞こえてたの!?」


 男性の片割れのその言葉に、周囲の噂話の声がピタッと止まる。周囲もその男性の言葉の意味するところを理解したからであろう。


「あ!別にどんな話をしてても僕たちは咎める権利はありませんから、その辺は気にしないで大丈夫ですよ」


 アリエッタのその言葉に、安堵のため息が周囲から漏れる。それでも、近くでアリエッタ達をネタに猥談を繰り広げていた四人組は罰の悪い表情を浮かべていた。やはり話のネタにされてた方は気分の良いものではない。そんな事が理解できてしまうからこそ、いくら咎められないと言われても気まずさは残る。


「あ、あぁ。魔族を見た話だったか」


 気まずさを残しながらも、魔族を見たという男性は淡々とその時の様子を話し始めた。

 魔族らしき者を見かけたのは今から二週間ほど前だと言う。たまたま、その日街の外に用のあったその男性は夕暮れ時に南東の方向から歩いて街に近づいてくる人影を見たという。遠目であったためハッキリとその姿を確認したわけではなかったが、長く尖った耳は女性であっても髪の毛で隠れる事はなく、その魔族らしき人影にもその特徴は現れていたようだ。華奢なシルエットと長い髪から女性のように見えたが、そこもはっきりせず、男性であってもおかしくはないというのが目撃した男性の見解だった。


「その人、どっちに行ったかわかりますか?」


「ん~。街の方に向かってたけど、ソイツを見たって情報が全然無いから街には入ってないんじゃないかなぁ。それ以上はわかんないな」


「そうですか、お話ありがとうございます。あ、これ、よかったらどうぞ」


 アリエッタは丁寧にお礼を言うと、少しばかりの心づけに酒瓶を一つ置き、男性二人組の席から離れて自分たちの席に戻る。

 その後、店全体の雰囲気はそれまでとガラッと変わり、シンと静まり返る事は無いものの、それまでの喧騒を取り戻すことはなかった。それも当然と言えば当然だ。それまでの話のネタであるアリエッタとエメラの話はいつ本人達に聞かれるとも知れず、最も新鮮な話題を封じられてしまったようなものだからだ。


「ちょっと場所変えようか」


 エメラのそんな言葉が出てくるのも必然だった。周囲だけでなくアリエッタ達も居心地が悪くなってしまい、そのまま居座る事はお互い望まない事でもあったからだ。


「まだごはん」


 まだまだ食べる気満々のリフィミィは不満そうにしつつ拗ねてみせるが、「次のお店行くからね」と諭すとすぐに機嫌を直した。

 一行は、その場の清算を済ませると逃げるように大衆食堂を後にした。



 結局、他の食堂や酒場には入れず、仕方なしに屋台でめぼしいものを買い込んで宿の部屋で話の続きをする事になった。

 リフィミィは勿論の事、エレアとガリオルまで真剣な話をするつもりは無い様子で、それぞれが食事と酒に夢中だった。予想通りではあるものの、アリエッタとエメラは溜息を一つついて今日の収穫について改めて話を始める。

 ハッキリと有力な情報ではないものの、本来人間族の生活圏ではほとんどいない筈の魔族の情報ともなれば、ルビアスである可能性も決して低くはない。しかし、断定するには情報が少なすぎ、動く指標にするには心もとない。


「ちょっと気になったんだけど、魔族の目撃情報があった所ってモンスターも出てるよね」


「確かにそうだけど、結論付けるにはサンプルが少なすぎるわ」


 巨人鬼の時と先のレオートの時と二回しかなく、偶然の可能性の方がむしろ高いくらいだ。それでも怪しい魔族の噂と突然のモンスターの出現がまったくの別物だとはアリエッタはどうしても思えなかった。


「うん。でもギルドの依頼でモンスター退治を続けてれば、僕の思ってた事が実際どうなのかも判別できるかもしれない」


「どっちにしても、まだまだ自分たちで動いて情報を集めるしかなさそうね」


 なんとなく想像する事はできても、その裏付けとなる情報もない。やはり、現状の断片的な情報だけでは具体的に動くための材料にはなり得なかった。


「そうだね…。こないだ話した通りフィルブト方面に向かうって事でいい?」


「うん、そうしよ」


 当面の行動予定が決まったところで、アリエッタとエメラも食事を再開する。

 次の日は旅の準備をして、フレブルを出発するのはさらにその次の日という事にした。

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