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僕と彼女と英雄の裏物語  作者: ヴィンディア
第3章 サバンナの中のサーフィト帝国

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8話 社会の輪から逸脱したもの

 見晴らしの良い街道を、フードを目深に被った一行が西に向けて歩いていた。先頭を体の大きな男性らしき人が歩き、それに続くように女性っぽいシルエットが二つにひときわ小さな、まだ幼児らしき人影が追随する。そして、その誰もが外見上は武器を携行していない。旅慣れた様子ではあるが、幼児を連れつつ、屈強な男性一人で護衛している様子はいかにも襲撃し易そうな集団であった。

 当然の事ながら、その一行であるアリエッタたちは羊の皮を被った狼のようなものだ。その中の誰もが一人で人間族であれば数人を相手にできるほどの猛者であり、集団としての戦闘力は人間族の一軍にも匹敵する。さらには、移動手段であるオオトカゲも人間族にとっては脅威になりうる存在だ。

 そろそろ日も高く昇り、リフィミィの腹時計がお昼を告げた事により、一行は歩を止めて昼食の準備に取り掛かる。準備に取り掛かると言っても実際に動くのはエメラだけであり、その他はやる事がほとんどない。アリエッタは何回も手伝いを申し出ていたが、エメラは頑として自分の仕事と主張して他の者に手を出させることはなかった。

 やがて食事の準備が整うと全員揃って座って食事を始める。相変わらず食に関して貪欲なリフィミィは、どんなものであっても本当に美味しそうに食べる。アリエッタと出会う前の食糧事情が最悪だった事もあり、食べられる事そのものが幸せだった。そこに加えて、味にも拘った人の食事はリフィミィにとって、どれも美味だと感じられるのだ。

 さすがに食事の時だけはフードを外し、素顔を見せる。そんな様子を遠くから眺める一団がいた。身なりが悪く、町の浮浪者と間違えてしまってもおかしくないような格好の彼らは所謂"盗賊"だった。国の軍や腕利きの傭兵が付いているような集団を避けて、防衛手段をあまり持っていなさそうな集団を狙うのだ。

 その点、盗賊にはアリエッタたちは狙いやすそうに見えた。それなりに知識のある者であれば竜人族が混じっている時点で絶対に狙うことはなかっただろうが、残念ながら彼らにはそんな知識もなかった。


「おい、あれ、いいカモじゃねぇか。男一人に女二人、ガキ一人なんて襲ってくれって言ってるようなもんだぜ」


「ああ!身なりも良いし、いい金になるな。よし、野郎とガキは殺して女は生け捕りにしろ!」


 盗賊のリーダーらしき男はその部下達に細かく指示を出すと、少しづつ気付かれないようにアリエッタたち一行に近付いていった。

 普通の相手であれば、それまでの方法でうまくいっただろう。しかし、今回標的にした相手が悪すぎた。


「薄汚ねぇドブネズミがウロチョロしてやがるな」


 ガリオルはそう言うと、魔法武器の斧を作り出すと岩場の陰になった場所に投げ込んだ。すると、小さな叫び声の後に何かが崩れ落ちるような音がした。その様子を見た盗賊たちは一斉に物陰から姿を現す。その数約四十。数を頼りに自分たちの優位を信じて疑わない盗賊たちだが、彼らからすると獲物であるアリエッタたちの様子がおかしい事に気付く。いつもであれば慌てふためき、即座に逃げ出そうとする者、諦めて命乞いをする者、やぶれかぶれで襲い掛かってくる者と様々だが、落ち着いて行動する者などほんの一握りしかいない。にもかかわらず、今目の前にしている集団は慌てる事もなく様子を伺うような素振りを見せる。

 そんなアリエッタたちの様子に盗賊たちが先に焦れた。盗賊たちは真っ先に最大戦力と盗賊が目するガリオルに襲い掛かるが、ガリオルとリフィミィによって数人が殴り飛ばされた所で動きが止まる。殴り飛ばされた盗賊たちは死んではいないようだが、血反吐を吐いて気絶している。盗賊たちはこの段階になってようやく、自分たちは絶対に手を出してはいけない相手に喧嘩を売ってしまった事を悟る。

 一方でアリエッタは盗賊の襲来をどこか他人事のように見ていた。人間族であれば自分を害することなどできないと高をくくっている部分も多分にあったが、それ以上に何か忘れていた事を思い出しそうな不思議な感覚に襲われていたという事もあった。

 盗賊の数人がガリオルに襲い掛かろうかという瞬間、突然アリエッタの脳裏に見た事のない光景が浮かび上がった。


 動けない自分を尻目に、黒装束の男たちが次々に魔族の人々を拘束していく。


「娘は…娘だけは!」


 縋る様に声を絞り出す男性の声とその姿に、親愛と郷愁の念を抱くと同時に締め付けられるような切なさも感じる。


 アリエッタがその光景を見たのはほんの一瞬だった。しかし、その光景は鮮烈で強烈にアリエッタの頭の中に残った。

 改めてアリエッタが周囲を見渡すと、ガリオルとリフィミィの圧倒的な力の前に硬直する盗賊たちが映るが、どういうわけか頭に走った光景の中の黒装束と盗賊がダブる。その結果、アリエッタの心の中がどす黒い感情で満たされていく。


(ユルセナイ、ゼンインコロス)


 アリエッタ自身、それが自分の感情なのか理解できないまま感情が弾けた。

 気付けばアリエッタは、逃げ出そうとした盗賊に対して、いつかのように氷の刃を飛び道具として使う。次の瞬間にはその盗賊たちは首から血を流して物言わぬ躯と化していた。その様子を見ていた盗賊の一人が「ひぃ」と短く悲鳴を上げると、さらに何割かが逃亡を図ろうとする。しかし、すかさずアリエッタは同じように氷の刃を飛ばして物理的に逃亡を許さない。


「距離を取るな!近付け!魔術師なんて近づきゃなんとでもなる!」


 盗賊のリーダーらしき男がそう言って、自らアリエッタの懐に飛び込んでいく。しかし、その考え自体が間違っていたことを自身の体で思い知る事になる。接近されたアリエッタは即座に氷刀を精製すると左下から右上にかけて氷刀を斬り上げる。刃が煌く速度のあまりの速さに、男は自分が斬られた事すら気付かずに絶命したであろう。

 当然ながら、組織が頭を失えば崩壊する。残された盗賊たちはほうほうの体で四方八方に逃げ出していった。さすがにバラバラに逃げられればすべてを追う事は難しく、運悪くアリエッタの視界の中に納まっていた数人だけが氷の刃に命を刈り取られるに止まった。

 場が静寂を取り戻した時、アリエッタは肩で息をしていた。彼女にとって見れば、あの程度の先頭であれば息の一つも切れない筈であるにもかかわらず、だ。普段の温厚で誰に対しても気を使う性格のアリエッタのまさかの行動に動けないメンバーの中にあって、エメラだけがゆっくりとアリエッタに近づいていき、優しく抱きしめる。


「もう終わったよ」


 エメラがアリエッタのこういった行動を見るのは二回目だ。だからこそ落ち着いて対応ができたのだろう。あの時(・・・)はエメラも他のメンバーと同じような反応しかできなかったのだから。

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