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僕と彼女と英雄の裏物語  作者: ヴィンディア
第2章 亜人種の住処
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14話 竜人族のガリオル

「オレと本気で闘ってくれ」


 アリエッタもエメラも言っている意味がわからなかった。もちろん言っている事はわかるが、その真意がまったく計れない。そんな事をして誰が得のするのか。


「あー…隊長の悪い癖が出ちゃったよ」


「強そうなやつ見るとすぐこうだもんなぁ」


 ガリオルの部下達は驚きもなく、ただただ呆れていた。

 ガリオルは所謂"バトルジャンキー"だった。強そうな相手がいれば闘わずにはいられない、麻薬に犯されたかのように、一対一特有の雰囲気や強い相手とやり合う高揚感と緊張感を追い求める者。それはもう既に病気といっても強ち間違いではない。

 アリエッタとエメラはどうしたものかと顔を見合わせる。お互いがどうしたらいいかわからず、お互いに助けを求めるような顔になってしまっている。

 二人とも基本的には相手を傷付けるのは本意ではない。モンスター相手にしても人間族相手にしてもできる限り戦いたくないというのが二人の偽らざる本音だ。

 二人がいつまでもまごまごしているのに焦れたのはガリオルだ。


「無理にとは言わん。…だが、そっちの青髪のねーちゃんが相手してくれると嬉しいんだが」


 エメラは杖を主武装としており、明らかに術師タイプだが、アリエッタは何も持っていない。アリスフィアではこのような場合、ほとんどが魔術剣士か、己の肉体のみで勝負する格闘系統かどちらかで、アリエッタは前者だ。ガリオルとしては術師と闘うより近接戦闘タイプの相手と闘いたかっただろう事はアリエッタの出で立ちを見ればある程度周囲も理解できた。


「あんまり気は進みませんけど、お互い大怪我する前に止めるって事ならいいですよ」


 アリエッタは溜息をつきつつも、仕方なく了承の返事をするも反論の声を上げる者が二人いた。


「アリィ、ダメよ!万が一何かあったら誰も治療できないんだよ!」


「あう!」


 エメラも言っている事は尤もであり、聖魔術の使い手であるアリエッタが深手を負って昏睡してしまえば誰もアリエッタを治療してくれる人がいなくなると考えるのはなにも不自然な事ではない。

 リフィミィの声は言葉にすらなっていないが、エメラと同じように少し泣きそうになりながらも怒りの色を出している事から、エメラの言葉に賛同しているという事だけは辛うじてアリエッタモ理解できた。


「その心配はないぞ。この里にも優秀な聖魔術師がいるからな。蘇生はムリだが、死んでさえいなけりゃすぐにピンピンに回復させてくれるさ」


「って事みたいだけど?」


 ガリオルの言葉にエメラは言葉を詰まらせた。ガリオルもアリエッタモ最終的に無事であれば本人達が了承している以上、何も問題はない。しかし、エメラもリフィミィもアリエッタが傷付くかもしれない場面など見たくないだけに反対はしたい。しかし、怪我に対する治療ができると外堀を埋められてしまえば強く反対するのも難しい。


「勝手にすれば!」


「あう…」


 最終的にはエメラもリフィミィも匙を投げた。悲しそうな顔のリフィミィと、拗ねた様子のエメラを見るとアリエッタも心が痛むし、正直なところやりたくはないが、安全に山を抜けるのであれば最善と判断しての事だ。




 少しの時間の後、アリエッタとガリオルが開けた場所で向かい合っていた。

 里から野次馬が集まってきて、周囲はわりと賑やかだ。そんな中に心配そうな顔をしたエメラと、既に泣きそうなリフィミィ、二人とは正反対に応援に精を出すエレアも混じっていた。


「基本何でも有りだが、急所狙いはNG。それから手足が一本づつ飛ぶか相手が降参した時点で終了。これでいいか?」


「ホントは手足が飛ぶ前にやめて欲しいんですけど、まぁ、それでいいです」


「おし!始めるか!」


 ガリオルはそう言うと諸刃の大斧を取り出して両手で持って構える。その大きさはジムが使っていた大剣に匹敵する大きさだ。その大きさと、それを軽々と構えるガリオルに驚きながらもアリエッタは意識を集中させ氷霧が立つ氷の刀を精製する。


「おぉ!面白い武器使ってんなァ!ワクワクするぜぇ!」


 ガリオルはそう言うと、口元を歪める。その凶悪なガリオルの表情を見たアリエッタは軽く寒気を覚えた。


(この人狂ってる!)


 アリエッタはそんな今更な事を思いながらも、攻撃するタイミングを見計らっていた。そんなアリエッタの様子などお構いなしにガリオルは一直線に突撃を仕掛けてきた。愚直なまでに一直線に、だがその速度は並ではない。まっすぐこちらに向かってくるだけだと言うのに、アリエッタはその姿を捉えるので精一杯だった。ガリオルは接近して、大振りな上段からの一撃を振り下ろす。その時のガリオルの動きは隙だらけに見えて一つ一つの動作が高速であった事もあり、アリエッタにとっては隙らしい隙になっていなかった。ガリオルのその大振りな一撃をアリエッタは寸でのところでかわした。氷刀で受けてもよかったが、純粋な体格差とあれだけ大きな鉄の塊を軽々と振り回す膂力を考えれば、受ける気になどならなかった。

 結果的にアリエッタのその判断は正しかった。空振りしたにもかかわらず振り下ろされた斧の風圧だけで硬い地面に一メートルほどの深さの亀裂が残った。


(ムリムリムリ!!!あんなの受けたら手足もげるどころか死ぬ!!!)


 ガリオルの一撃を見てしまった事で、アリエッタは攻撃そのものに当たってはいけないと思い込んでしまった。しかし、その事は良い方に転がった。

 アリスフィアにおいては元の身体能力が高いに越したことはないが、ほぼ魔法で強化するため、魔力量の絶対値が強さの基準になる。そういった意味では動体視力も強化されてはいるが、目が慣れるまではその本領を発揮することはない。

 アリエッタは回避に専念せざるを得なかった事で徐々に目が慣れてガリオルの動きを追うのが容易になっていった。最初の頃こそ必死で逃げ回っていたが、今でも余裕を持ってガリオルの攻撃をかわす事ができていた。そうなってくれば、大振りなガリオルの攻撃は隙だらけで反撃を加えようと思えば簡単な事だ。アリエッタは大斧を横薙ぎした後の隙を狙って素早くガリオルの左斜め前に移動すると、さらに右腕に向かって氷刀を一閃させる。ガリオルは避ける余裕もなく、アリエッタは腕の一本取れたと確信をしたが、帰ってきた手応えはあまりにも硬質なものだった。

 アリエッタの氷刀はガリオルの障壁こそ一部破ってはいたものの、刃が腕を切断するほど破る事はできず、その上を撫でるように刃が滑るだけに留まった。鱗が切れて腕の表面には数センチに渡って切り傷が残り、ぱっくりと切れたその傷からは少なくない量の血が流れ出している。しかし、それだけだ。

 腕が落とされていないからなのか、そもそも痛みに強いからなのかは定かではないが、その程度で手を止めるガリオルではなかった。そんな傷など大したダメージではないとばかりに、それまでと同じように次々と大斧による斬撃を繰り出し続ける。そしてその度に、ガリオルの隙を突いたアリエッタの鋭い氷刀による反撃を受け、大小の傷が増えていく。しかし、アリエッタの攻撃はガリオルの硬い障壁を抜ききれず、腕を切り落とすまでは至らない。それでも戦況は俄然アリエッタ有利であり、時間が経てば経つほど聖魔術で回復手段のあるアリエッタが有利になり、その分ガリオルは追い詰められる事になる。

 実は魔力量の差だけで判断するのであれば、アリエッタがガリオルを圧倒していて然るべきだ。それほどまでにアリエッタの魔力はずば抜けていて、ガリオルを大きく引き離しているのだ。それだけ魔力量に差があってここまで拮抗した勝負を続けていられるのはガリオルの技量によるところが大きい。彼は限られた魔力を局地的に厚く展開する事によって、本来の魔力量以上の火力と守りを実現していた。それは簡単なようでいて非常に難易度が高い。さらには必要に応じてその場所を変えながら闘うというのはガリオルの経験があってこその離れ業だ。

 しかし、いかにガリオルが達人であっても、延々と機械のように正確な動きができるわけもない。幾度目かのアリエッタの反撃に、障壁の強化が間に合わなかった。

 当然、薄皮一枚でアリエッタの攻撃を防いでいたその薄皮すら無くなってしまえば、結果は火を見るより明らかだ。アリエッタの氷刀が簡単にガリオルの障壁を破り、次の瞬間にはガリオルの左の二の腕から下が宙を舞っていた。

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