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僕と彼女と英雄の裏物語  作者: ヴィンディア
第2章 亜人種の住処
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11話 大蛇出現の真相

『わたしエレア!ネスカグアを退治してくれてありがとう!』


 目の前のエレアと名乗った小さな存在が発したその声は、まさに大蛇を誘導している時に聞こえてきた声そのものだった。


「君がこの場所を教えてくれたの?」


『うん!広い場所探してたみたいだから、わたしがここ作って呼んだの』


「そっか、助かったよ」


 アリエッタとエレアが会話しているのを見て不審な顔をしてるのはエメラだ。


「ねぇ、アリィ、誰と話してるの?」


「え?」


「え?」


 一瞬アリエッタは何を聞かれているか理解できなかった。声を出して会話をしているのだから、誰と話しているかなどわからない筈がない。なにか別の意味があるのかとも思ったが、アリエッタの反応を見たエメラの反応から見ても、難しい事を言っているわけではない事はアリエッタも理解できた。つまりはそのままの意味なのだろう。


「誰って、目の前のこの子だけど…?」


 アリエッタは何を当然の事を聞くのか疑問に思いながら答えると、エメラが絶句した。


『あ!ごめーん。わたしの声は多分そっちの人には聞こえてないよ』


「そうなの!?なんで僕だけ聞こえるの!?」


『さぁ?わたしの声に反応したのがお姉さんだけだったんだよ』


 アリエッタには聞こえるがエメラには聞こえていないという状況は、この場にいる誰もが想定していなかったに違いない。


「一般的に妖精と会話できるのは精霊族だけよ…」


 アリエッタはエメラと妖精が会話できないことに、エメラはアリエッタが妖精と会話している事に、そしてエレアはアリエッタと会話ができるのにエメラと会話ができない事にそれぞれ驚いていた。しかし、中でも一番一般的な反応を示したのはエメラだろう。同じ精霊魔術の使い手である精霊族と妖精は精霊魔術を通して意思疎通が図れるが、そうでない人種とは会話できないというのが通説だったからだ。


「…一回整理しよう。僕の言葉はエレアは理解できるんだよね?」


 アリエッタの言葉にエレアは軽く頷く。


「そしてエレアの言葉は僕は理解できるけど、エメラは聞こえない?」


「そうね。理解出来るとか出来ないとかじゃなくて聞こえない」


「最後にエレアはエメラの言葉も理解できる?」


『うん!わたしはどっちの言葉もわかるよー』


 つまり、エレアの言葉をアリエッタがエメラに伝えれば三人でコミュニケーションが取れるという事になる。

 そんなわけで、今までアリエッタとエレアが会話した内容をアリエッタがエメラに通訳をして話す。とは言っても、実際には大蛇を誘導している時に声が聞こえた事と、自己紹介された事くらいしか中身はない。


「…なるほど。誘導している時アリィがよくわからない事言い始めたのはそういう事だったのね。エレアも協力ありがとう」


 ようやく所々の不審な点が繋がって、納得の表情をエメラが見せ、エレアはエメラの言葉で嬉しくなったのか満面の笑顔でアリエッタとエメラの周りを飛び回っていた。


「それじゃ、今度こそ戻ろうか。あんまり遅いとリフィも可哀相だし」


「そうしよっか」


『それなら迷わないように送ってあげるよー』


 大蛇を誘導し始めた場所までであれば、これだけ派手に木々を薙ぎ倒して追い掛けてきたのだ、戻る事は容易い。しかし、そこからレゼルの集落までとなると、巧妙に隠されたそれを辿るのは苦労する可能性があった。気を利かせたレゼルがわかる場所で待機していてくれる可能性は高いが確実ではない。出来る事のあれば案内はいた方がいいだろうという判断でエレアにお願いすることにした。


 あれだけ巨大な蛇がそれなりのスピードで進んできただけあって、道は獣道ならぬ蛇道がハッキリと出来上がっていた。木々を薙ぎ倒すだけでなく、下に落ちた物も大蛇の重量によって潰れたり、割れたりしていて歩くのにも支障がないくらいの状態になっていた。

 そんな状態だけに誘導を始めた地点まで戻るのはまったく苦労するものではなく、平地を歩くのと変わらない速度で移動しあっさり到着したのだった。

 そして、そこからがエレアの真骨頂だった。レゼルと同じか、むしろもっと快適に木々を掻き分けて少しでも通りやすいポイントを抑えて移動すること数十分で、いとも簡単にレゼルの集落へと到着したのだ。


 集落の中は相変わらず静まり返っていて、人の気配が感じられない。それはレゼルに初めて案内されたときから変わらない。大蛇の件もあって、大人しく家の中で待っているのかもしれない。

 そんな閑散とした雰囲気の中、数ある家の中から一人の老人が降りてきた。頭髪は薄くなり、種族の特徴である深緑の色もなくなり僅かに残った髪も白いだけだ。額や目尻口元には深い皺が刻まれ、顔の所々に褐色に変色した部分も見受けられる。しかし、その瞳だけは精霊族である事を唯一表すように深緑の色を湛え、その輝きは生命力が溢れていた。


「おぉ、あんた方が無事帰ってきたという事は首尾よく大蛇は仕留められたようじゃの。それはそうと、レゼルは表におらんかったかの?」


 老人は見た目通りのしわがれた声でアリエッタとエメラに声をかけた。二人もレゼルと一緒に見た記憶があるが、どういった関係かまでは聞いていないため「関係者っぽい老人」という事しかわからない。


『わたしが送ってきたけど、誰もいなかったよー』


「む?妖精連れとは珍しい。しかし、すれ違ってしまったのかのう…。あんた方を迎えに表で待ってるじゃろうて、少し迎えに行ってくるから少し待っててくれんか」


 老人はそれだけ言うと返事も待たずに、老人とは思えないような足取りで集落の外に向かって走っていった。残された三人は意識しないタイミングで待ち時間ができてしまったわけだが、アリエッタとエメラには朝から休みなしで大蛇討伐を行っていた疲れが気の抜けたこのタイミングでどっと押し寄せてきた。アリエッタに至っては昏睡させられるほどの打撃も受けているのだ。身体が悲鳴を上げてもおかしくない。


「さすがにちょっと疲れたね…」


「そうね。ずっと動き詰めだったからね…」


 アリエッタはふと過去にジムと剣術の練習をしている時の事を思い出した。


「もしかしたら…」


 アリエッタはそう呟くと、魔法を使う時のように意識を集中し始めた。すると三人の体を淡い光が包み、やがて光が体に吸い込まれるように消えていくと同時に三人の体の疲れが癒されていた。


「これって、ジェシカさんの…そっか、そうだったわね、アリィも聖魔術使えるんだったね。楽になったわ、ありがとう」


 エメラは最初は呆然としていたが、次第に状況を飲み込めて納得の表情を浮かべた。


「今更だけど、前にジェシカさんがやってくれたの思い出したんだ。できるかはわかんなかったけど」


『アリエッタ凄いね!!体が軽くなったよ!』


 エレアは疲れた素振りを見せていなかったが、それでも大蛇と戦闘できるほどのスペースに精霊魔術をかけたり、その後もここまで案内するまで精霊魔術を使い通しだったのだ。体が軽くなったという事はそれなりに疲れもあったのだろう。三人はそのままレゼル達が戻ってくるのを待つ事にした。

 さして待つ事もなく、先ほど走っていった老人とレゼル、それと留守番をしていたリフィミィが戻ってきた。リフィミィはアリエッタの姿を見つけるなりアリエッタに走りよるとアリエッタの腰付近に抱きついた。


「アリ!おかり!」


「ただいまリフィ。大人しくしてた?」


「りひ、いいこ、してた!」


「そっか、えらいね」


 アリエッタはそう言うと優しくリフィミィの頭を撫でてやる。するとリフィミィは気持ち良さそうに目を細め「んふー」と声が漏れていた。『わたしもー!』とエレアもアリエッタにしがみ付くと、「私のを取るな!」と言わんばかりにリフィミィがエレアを睨み付け、それに気付いたエレアが笑いながら、文字通り飛んで逃げ出した。リフィミィもアリエッタから離れてエレアを追い掛けていった。


「リフィ!乱暴なことしちゃダメだよー!」


 アリエッタが念のため注意をするが、エレアを追いかけるリフィミィの姿は、ちょうちょを追い掛ける小さな子どもにしか見えず、微笑ましさしか覚えなかった。


「本物の親子のようですね」


 いつの間にか近くまで来ていたレゼルがアリエッタとリフィミィの様子を見て声をかけた。実際に口には出さずとも、エメラも同じ事を思っている様子で軽く。


「それはそうと、うまく大蛇は討伐していただけたみたいですね」


「あ、はい。なんとか…」


 実際に仕留めたのはアリエッタが気絶している間に出てきた何者かなのだが、それを話し始めると説明が手間になる事もあり、適当に相槌を打っておく。実際に討伐もされているので、後々迷惑も掛ける事もないし、その選択自体は間違ってはいない。


「本当にありがとうございます!これで集落も存続できます。なんてお礼を言えばいいのか…」


「いえ…僕たちの故郷にも被害が出るかもしれないから受けただけで、そんなに感謝されると逆に申し訳ないような…実際エレアに助けてもらわなければ逃げてたかもしれませんし…」


 人助けといった側面もないわけではないが、事実本来の目的はアリエッタの言った通りのセヴィーグにも影響があるかもしれないといった点なのだ。最悪広い場所が見つからなければ撒いて逃げてくると言う選択肢も無いわけではなかったのだ。


「そんなことありません!ちゃんと討伐してくれたという事実が大事なんですよ。……ところで、エレアというのはあの妖精のことですか?」


 レゼルの疑問は尤もだ。集落を出たときにはいなかった妖精を連れているなど不思議以外の何者でもない。

 アリエッタは改めて大蛇を誘導し始めてから今までの事を、レゼルと老人に報告も兼ねて一通り話した。もちろん、アリエッタに別人格のような者が出てきて、それが大蛇を一蹴した事は伏せている。やはり彼らもアリエッタがエレアと言語でコミュニケーションが取れるという事には随分と驚くのと同時に、なぜ精霊魔術を操れないアリエッタが妖精の声を聞くことができるのか疑問に感じているようだった。

 そこまで話したところで、息を切らして肩を大きく上下させながらリフィミィが戻ってきた。エレアは捕まえることができなかったようだ。


「アリ…あいつ、はやい…」


 その様子を見かねたアリエッタは聖魔術で疲労を取り除いてあげる。前後してエレアも戻ってきて、今度はアリエッタの肩に腰掛けると、それを見たリフィミィがまた捕まえようと手を伸ばす。


「ほらリフィ、ストップ。仲良くしないとダメだよ」


「あうー…」


 少し不服そうにしていたリフィミィだったが、アリエッタの言葉には逆らうつもりがないのか、頬を膨らませてアリエッタの腰付近に抱きついた。


「あなたは不思議な人ですね。通常懐くはずのない鬼の子や妖精に懐かれるなんて初めて聞きました」


「リフィはともかく、エレアにも懐かれてるんですかね?こういう子だと思ってたんですけど」


「ええ。妖精が人の肩に止まるのは、その相手を信用している証拠です。余程のことがなければ、そういう行動には出ません」


 レゼルのその言葉が本当か否か、アリエッタには判断ができない。「そうなの?」とエレアに聞いてみるが『さぁ?』と「自分たちの事だろ」とアリエッタが思うような回答しか帰ってこなかった。


「そういえば、今回の大蛇はどこから来たんでしょう?この辺に住み着いてたわけじゃないですよね?」


 アリエッタが言葉にした通り、出現経緯が不明で疑問に思っていたのだ。あれだけ凶暴で強力なモンスターだ。元々いたのであれば、もっと早くに被害がでているはずなのだが、それがなかったという事は外部から進入してきたか、突然変異した固体が突然現れたかの二択になる。しかし、アルグ火山のような強力な魔力の吹き溜まりがあったとしても、短期的にあそこまで強力な固体が出て来ることは極めて稀なケースだ。


『あのネスカグアは急に出てきたよー』


「あれがネスカグアじゃと!!?」


「確かに特徴は一致しますが、さすがに…」


 ネスカグアはジャングルの中では珍しくもない種類の大型の蛇だ。大型とはいっても通常の生物レベルでの大型であり、精々が全長五、六メートルいくかいかないかといった程度の大きさだ。性格は穏やかで、毒も持っていないため、大森林の中を住処とする精霊族の認識の中でも脅威度は低い。

 そんな脅威度の低い生物と周囲を荒らしまわった脅威の象徴であるモンスターが同じものだとは、ここの住人であるレゼルと老人にはとても思えなかったのだ。


『ホントだよ!前はお話できたのに、急におっきくなったと思ったらお話ができなくなっちゃうし、わたしのおうちも壊しちゃうし!』


 蛇と会話ができるという主張はともかくとして、エレアの言う事が事実であるならば、かの大蛇は突然変異して辺りを荒らしまわったという事になる。


「エレアちゃんの言葉を信じるなら、この辺にかなり大きな魔力の吹き溜まりが無いか調査しないと…」


「いや、それには及ばん。わし等はある程度大きい魔力の放出には敏感での。今の所、この森の中に影響のある吹き溜まりは感じられん」


 それであれば、なぜここまで強大なモンスターが出現することに気付けなかったのか、といった疑問は残る。しかし、現状魔力の吹き溜まりにより同じ災厄が発生する可能性が低いのであれば、それはそれで良しとアリエッタとエメラは判断した。先ほどのアリエッタの件と言い、今回の大蛇の件と言い、ハッキリした理由がわからずモヤモヤする所はあるものの、いくら考えたところでわかるものでもない。その辺は仕方ないと二人とも割り切るしかなかった。


「さて、依頼も片付けたし、あたし達は旅の続きを再開しよっか」


「そうだね。急ぐ旅じゃないけど、あんまり道草食ってるのもどうかと思うし」


「あう!」


「待て待て。そういう事なら、もう一晩泊まっていってくれ。まだ昼過ぎじゃが、今から出ても大して進めんじゃろ。それに、大した事はできんが、少しくらいお礼をさせてくれんか。もちろん明日はある程度の場所までレゼルに案内させるでの」


 すぐにでも出発しそうな雰囲気のアリエッタ達三人を慌てて老人が引き止めた。さすがに集落を救ってくれた大恩人に対して、何一つもてなしもせずに帰すわけにはいかなかったのだろう。アリエッタにしてもエメラにしても、人助けはあくまで二の次であって、最も大きな理由は自分達の故郷を守る為だ。しかし、そこまで感謝してもらえるのであれば悪い気はしないし、その気持ちを無碍にするつもりもない。


「そういう事であれば喜んで」


「おぉ、よかった。今夜は宴会じゃの!」


 老人はそう言うと走り去ってしまった。早速準備に取り掛かったのかもしれない。


「見た目以上に元気すぎる…あの人いくつなんだろ……」


「今年で百六十だったと思います」


「百六十…」


 アリエッタはこの世界の寿命の常識に未だに慣れる事ができないでいたのだった。





 大量のご馳走に果実酒、精霊族の精一杯のもてなしだったのだろう。セヴィーグ自治区の出来の良い農作物や家畜の肉に比べると味は落ちる。しかし、アリエッタは精一杯もてなそうとしてくれる、その気持ちこそが嬉しかった。

 レゼルの集落そのものは二十人程度の規模だったようだが、他の集落からも人が集って五十人を越えるような人数の精霊族が各集落の無事を喜び、そして結果的に集落を守ったアリエッタとエメラに感謝を口々に伝えていった。精霊族達は元々魔族や人間族には良い感情を持っていない。それは今も変わらないが、自分達とその生活を守ってくれた相手に感謝を忘れるほど礼知らずではなかったし、アリエッタとエメラだけは別と分けて考えている節もあった。


 夜は更けて、宴会もお開きになり精霊族も多くが眠りに就く頃、アリエッタは枝々の隙間に出来た窓から夜の景色を眺めていた。満月に近い月の光が、明るくジャングルの中を照らし出しており、奥の方からは夜行性の生き物が活動しているらしき音が聞こえてくる。しかしそれも誤差の範囲で、概ね静かな夜といって差し支えなかった。

 調子に乗って本能の赴くまま食べ続けた食いしん坊なリフィミィは、その後食べ過ぎて苦しそうに横になりながら唸っていたが、静かになったとアリエッタが思ったときには穏やかな寝息を立て始めていた。

 エメラも今日の出来事も勿論だが、大森林に入ってからは、休んでいるとは言っても、まともな休養が取れているとは言えず、疲労は蓄積していたはずだ。それを証明するかのように既に夢の国へと旅立って戻ってくる気配はない。

 田舎だったとは言え、日本の夜はもっと明るく、そして雑音が多かった。それに比べてこのジャングルは少しばかり生き物の鳴き声や、木々が枝を揺らす音を奏でる事はあっても、決して雑音とはアリエッタは思わなかった。そんな自然な静寂に包まれた空間は、物思いに耽るには最適な環境だった。

 今でもアリエッタがハッキリと思い出すのは、モンスター化したネスカグアを鮮やかな切り口を残して葬ってあったあの場面だ。そして、ネスカグアを一刀の元に斬り捨てたのは恐らくアリエッタ自身だという事。いや、正確に言えば、「アリエッタの身体」と言うべきか。極めつけはその身体を使っていたと思われる正体不明の存在。エメラには開き直ったようなものの言い方をしていたアリエッタだったが、やはり気になるものは気になる。特に正体不明な「誰か」が誰なのかと言う点に限れば、不安というよりも純粋に疑問の方が大きい。もし、その「誰か」がこの身体の本来の持ち主なのであれば、アリエッタは素直に返そうと思っている。しかし、その後アリエッタ、いや礼自身はどうなるのか、その事を考え始めるとあれこれ想像してしまって体の疲れに反して目が冴えてきてしまうのだ。

 初めて狩りをした時に聞こえた声の主が「誰か」だとアリエッタは考えているが、最初に認識した場面を最後に音沙汰がない。アリエッタも、さっさと出てきて事情を説明して欲しいとは思うところはあるが、あちら側にも事情があるのかも知れず、モヤモヤは増すばかりだ。

 目が冴えてしまうとは言っても、実際にはアリエッタの体も疲労が蓄積されており、やがて眠気が押し寄せてくる。アリエッタはそれに抗うこともせず、眠気にまかせて横になると、少しの間ももたずに意識を手放していた。

 しばらくは三人の寝息の音だけがその場を支配していたが、アリエッタのそれが止まってしばらくするとゆっくりとアリエッタが目を開いた。アリエッタは緩慢な動きで上半身を起こすと、おもむろに口を開いた。


「まだその時じゃない…いずれは…」


 アリエッタは、よく耳を澄ましていたとしても聞き取れるか聞き取れないかといったボリュームの声で呟くと、またすぐに横になって目を閉じて、その夜は決してその目が開かれることはなかった。

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