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僕と彼女と英雄の裏物語  作者: ヴィンディア
第1章 異邦の地ネマイラ
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11話 エメラ先生の魔法講座

「一狩りいこうよ!」


 地球で超有名な多人数協力型アクションゲームのうたい文句のような言葉を吐くエメラ。当然のことながら今までそんな事があったこともない礼は訳がわからない。


「うん、全然わかんないから最初から説明してくれる?」


「そうよねー」


 当たり前だ。何の脈絡もなく急に狩りに行こうと言われて理解できる人がいたら見てみたいと思う礼だった。


「アリィもずっと魔法の練習してるじゃない?だから成果を見てあげようと思って」


 つまり野生の動物もしくはモンスターを実験台に礼がどの程度腕を上げたか見ようとエメラは言っているのだ。即実戦とは、なかなかスパルタ教育なエメラだが、それなりに考えがあっての事だ。獲物を仕留められればお金になる。そのお金は礼が稼いだ事にすれば、以前から礼が気にしている無駄飯食いの状態も辛うじて脱することができる。


「つまり働けって事ね」


 端的に表現するとそうなるが、エメラが少し驚いた顔をする。


「む…気付いてたのね。それなら話が早いわ」


「うん、ありがとう」


 エメラはなぜお礼を言われたのか一瞬理解できていなかったのか少し考える間が空いたが、すぐに気付いて続ける。


「いいの、いいの。それじゃ、今日はこれに着替えてね」


 礼が受け取ったものを広げてみると、それはズボンと厚手のシャツだった。


「これは?」


「スカートで走り回るわけにいかないでしょ。一応それは旅に出る人がよく使う上下のセットよ。それなりに丈夫にできてるわ」


 「へぇ」と感心する礼だが、はっきり言って普通のチノパンと少し変わった形のカッターシャツにしか見えない。


「戦闘のときは上になにか防具を着けたりするんだよね?」


「え?そんなものないよ」


「えぇ!?」


 戦闘の際に防具を着けない。これは礼にとっては衝撃だった。相手の攻撃を受けてしまった時に守るものがないという事で、それは一切攻撃を受ける事が許されないという事だ。


「何を驚いているか大体想像できるけど、基本的には防具なんてあっても高出力の魔力の乗った攻撃受けたら金属製の防具だってあっという間に貫通しちゃうの」


「それじゃ、攻撃受けた時点で負けなんですね…」


「あぁ、そっちね。うん、通常みんな魔力で障壁を張ってるの。だから、こんな事としちゃっても」


 エメラは、途中で言葉を切ってキッチンからナイフを持ってくると、その刃を自らの腕に滑らせていった。


「え!?何してるの!?…って、あれ?」


 エメラの行動に驚く礼だったが、刃を這わせたエメラの腕には出血どころか引っ掻き傷すら見当たらず綺麗なままだった。


「障壁が守ってくれるから、魔力の通っていない攻撃なんて通らないわ」


 またしても、礼にとっては衝撃だった。鉄の刃がまったく通らないのだ、驚かないわけがない。


「それじゃ、相手を傷つける手段なんてないんじゃないの?」


 当然の事ながら、礼の中では相当な殺傷能力のある鉄の刃物で傷がつかないのであれば、それこそ銃や爆弾といった近代兵器を持ち出さなければ相手にダメージを負わせる事などできないように思えた。しかし、礼は一つそれに準ずるであろう地球にはない存在を忘れていた。それは


「魔法よ。魔力の乗った攻撃なら相手の障壁を破ることができるの。でも魔力量の絶対値の高いほうが勝つから、自分より魔力の高い相手の障壁は破れないわ」


 最初から魔力の優劣によって勝敗はほぼ決しているのと同義なのかと礼は思ったが次の言葉で、それも否定される。


「でも、魔力が少なくなると障壁も張れなくなるから、魔力の通ってない剣でも相手を傷つける事ができる。そうなれば元の魔力量の絶対値なんて関係ないわね。まぁ、普通はそんな状態にはならないけどね。それと例外的に魔力を圧縮できれば格上の魔力で展開された障壁も破る事が可能ね。もちろん限界はあるけど」


 つまり、魔力量に大きな差があっても、相手の魔力切れまでひたすら攻撃を回避し続けることが可能であれば勝つことも不可能ではないということだ。しかし実際に魔力が底をつけば生きてはいけない為、そんな事態が見えれば余程の馬鹿でない限り撤退することだろう。

 実際は魔力量の差を逆転して格上に勝利するのは不可能ではないが容易なことではない。そういったところが魔族誕生の際に10倍の戦力の人間族相手に魔族が対抗できた所以でもあった。


「そんな訳で、防具なんて重りにしかならないのならないの。イノシシや狼程度なら魔力量で劣ることはまずないし、力量差があることがわかれば基本的にはすぐ逃げるから死ぬ事はまず無いわ」


「あれ、だとしたら確実に最初で仕留めないと逃げられちゃうって事?」


「そうなるかな。だからいい訓練でしょ?」


「いやいやいやいや、僕攻撃できるような魔法使えないからね?」


 礼は生活魔法の制御すら覚束ないのだ。そんな状態で攻撃魔法など使えるわけがない、そう礼は思っていた。


「魔法は制御も大事だけど、もう一つ重要なのはイメージよ。明確に現象をイメージできるかどうかで発動の成否が決まるの。逆に言っちゃえば、イメージさえできれば生活魔法も攻撃魔法も一緒ってわけ」


 そんな事言われても、いきなり実戦ともなればできる自信がない礼だ。


「えぇー…」


「それなら、ちょっと来て」


 礼を庭に連れ出したエメラは、突然一抱えもありそうな石を目の前に魔法で出現させる。


「これ氷の刃で割ってみて。何度も言うようだけど大事なのはイメージ。鋭い氷の剣を出して、それを使って切るイメージをしてみて」


 礼は言われた通りに頭の中でキンキンに凍った剣で岩がスパッと切れる場面を想像する。


「できた?」


 無言で頷く礼。


「そうしたら、そのイメージを持ったまま魔力を放出してみて」


 続けてエメラの言う通り礼が意識を集中させると、礼の右手に氷で出来た刀のような形状の刃が生成された。礼がそのまま生成した刃を石に叩き付けると、岩の半ばまで刃が入ったところで氷が砕けてしまった。


「できた…?」


「うんうん、上出来。イメージは問題ないね。途中で割れちゃったのは制御の甘さだと思うから、そこは引き続き練習あるのみね」


「でも、こんなんで障壁破れるの?」


 石を半分も切る事ができればかなりの殺傷能力だろう。しかし、礼はその程度で障壁を張った相手に効果が発揮できるのか判断ができない。


「制御が甘くても、イノシシくらいなら魔力量の絶対値の差でなんとかなるよ」


「そうなんですかね…」


 そんなものかと釈然としないものを感じる礼だったが、エメラがそう言うのであれば信じるしかない。


「ほら、わかったなら準備する!」


 そう言ってエメラが礼に準備を促すと、礼は渋々といった様子で家の中に入っていく。

 その姿を見送ったエメラは、改めて礼が半ばまで割った石をまじまじ見てから残り半分を風の刃を使って完全に両断する。その切り口は鈍器で叩いて崩れたような物ではなく、果実をナイフで切ったような綺麗な断面だった。それだけ礼の魔法もエメラのそれも鋭い切れ味だった事を意味している。

 しかしエメラはその切り口を見て、魔力の大きさに驚くのではなく不思議と懐かしさを感じていた。


「なんだろう、すごく大切なものだった気がする…」


 しかし、それがなんなのか思い当たる事がない。

 物思いに耽ってる間に礼が準備をして戻ってくる気配がして、エメラは考えるのを中断した。

モ○ハ○はやったことありません!

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