時は止まらず過ぎていく
坂原が病院を後にしてユイが今までを思い返していたころ、久保は屋上でぼんやりとしていた。そこへ来宮がやってきた。
「久保先生。」
「ああ。来宮か。・・・悪かったないろいろ。巻き込んじまって」
「いえ・・・。お力になれずすみません・・・」
「いや。お前らが本気で協力してくれなかったらユイも死んでいたかもしれない。それだけで俺はいいんだ・・・」
「先生、本当に良いんですか?ユイさんに話さなくて」
「・・・ああ。今さら話してもな。・・・とりあえず、真実は別として事件は解決したんだ。あいつはこれから自分の道をちゃんと歩いていくだろう。」
「・・・そうですね」
「それより。お前、自分のことはどうなんだよ」
「自分のこと、ですか?」
「身体のこともそうだし。斉藤のことも・・・」
「ああー・・。身体はともかく。・・・斉藤にはもう来なくていいと言われました。迷惑をかけるからと」
「・・・お前、それあいつの本心だと思ってんのか」
「・・・いや。うーん。答えられません」
「・・・ふん。本心なわけないだろう。今回のことで実感したが人間ってのは案外簡単に大事な人を失う。突然に。斉藤にそんな思いさせたいのかよ」
「・・・?そっちですか」
「当然だろう。斉藤は自由ではないが死にはしない。お前は突然死ぬ可能性がある。牢屋の中で1人、支えになっている人が突然いなくなってみろ、絶望は想像を超えるぞ。」
「いや。まず斉藤が俺にそんな気持ちを」
「分かっていることだ。そこを議論する必要はもう無いだろ」
「・・・」
「とにかく。オペ受けろ。そんで。斉藤を安心させてやれ」
「・・・。久保先生も、人のことばかり心配してないで自分の心配してくださいね」
来宮は無言の返事の後、そう言ってその場を離れた。
「自分の心配か・・・。当分いいわ。疲れた・・・」
久保はそう独り言を言ってベンチに座ってコーヒーを飲んでから病棟へ戻った。
その頃、坂原探偵事務所の近くのカフェで凛久と比奈は会っていた。比奈は社長室から保護された後に警察に事情を聞かれたが、詳しいことは何も知らなかったためそのまま自宅に帰されたのだった。
「ごめんね凛久。心配かけて」
「本当にそうだよ・・・。いや。こっちこそごめん。わたし結局何にもできなかった。」
「ううん。仕方なかったのよ。相手が大きすぎた。目の前に行ってさすがに震えたし」
「あんたの度胸にはびっくり。自ら人質になるなんて。ていうか何でそこまであの男に?」
「え?いや・・好きだったからよ」
「それだけ?」
「それだけ?って。凛久。恋したことないんだ」
「は?!うるさいな!自分の命より大事な恋って何?あたしには理解できない」
「価値観は人それぞれだし。みんな自分よりも大事な人がいたからこんな悲惨な事件が起こったわけでしょ?みんな自分が一番なら・・・死ななかった・・・」
「・・・・ごめん。」
「謝る必要はないでしょ。価値観は人それぞれって言ったでしょ。凛久は凛久のままでいいんだよ。なんだかんだ言って凛久だって助けようと必死だったでしょ?」
「それは・・・仕事だから。」
「凛久はそれでいいよ。探偵助手、似合ってるよ」
「・・・比奈。これからどうするの?」
「どうするって。普通に大学に行くしかないよ」
「大丈夫なの?だってさ」
「ああ。そりゃあしばらくは思い出すかもね。でも。彼は後悔してないと思うから。私も止めなかったこと、人質になったこと、後悔してない。」
「・・・うん」
「私は彼らを忘れない。世間が忘れても、みんなが忘れたくても私は忘れない。私、これから何があっても生きていける気がするもの。」
「うん・・・」
アカネには疎遠ではあったが親族がいた。しかし温田を殺した犯人として死んだアカネの遺体は引き取られることはなかった。そして圭には親族がいなかった。結局、2人の遺体は火葬され無縁仏となることになった。凛久と比奈は圭とアカネのことを想い語り合い2人なりに供養した。




