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無念さの中で

風俗会社の社長室で悲劇が起こっていたころ、久保と凛久と来宮は医療センターへの言い訳や仕事などを池橋に任せて圭とユイの捜索をしていた。久保の車を来宮が運転し久保は捜索に全力を注いでいた。しかし神戸市内の思い当る場所をぐるぐると探してみたものの見つからず捜索は難航していた。来宮はこれでは埒が明かないと思い、久保に昔のことなども含めて何か手がかりになりそうなことを思い出すように頼む。すると久保は急に神戸空港かもしれないと言い出す。


「神戸空港ですか?」


「空港?逃げるにしても飛行機は手間がかかるし空港は遠いし・・・」


来宮と凛久は久保の意見に少し難色を示す。すると久保は静かに言った。


「神戸空港は・・・元妻が娘を連れて俺から逃げた場所なんだ。だからもしかしたら、ユイも逃げ道にそこを選ぶかもしれないと思ってね・・・」


「なるほど・・・」


「俺に残っている記憶はそれくらいしかないんだ・・・」


「あの・・・どうして、居なくなられたんですか?」


「え・・?」


「あ、いや・・・。久保先生なら21年前でもちゃんとしてただろうし・・・何かあるのかなって・・。それが手がかりになったりとか・・・」


「彼女が優しすぎて・・・あと、自尊心がとても低い人だった。夜の仕事をしている女性だったから・・・。いなくなる前に一回だけ言われたことがある。これから医者としての道を歩いていくあなたに私は釣り合わないからって・・・。その時は冗談か軽い流れでの話だと思って聞き流したんだよ。当時の自分がバカすぎて辛いよ。どんな生活だろうが仕事だろうがそんなの関係無いのに彼女は・・・」


「・・・神戸空港、行ってみましょう。賭けてみましょう。先生がもう二度と後悔しないように」


来宮は久保の話を聞きながら神戸空港の方面へと車を走らせた。久保は窓の外を見ながら込み上げてくる涙をこらえた。車通りの少ないポートアイランドをひたすら走り橋を渡ると神戸空港が見えてきた。ロータリーに入りスピードを落として圭とユイらしき人影を探す。3人は目を凝らして探すが見つからない。やはり・・・外れたかと落胆していると凛久が声をあげた。


「あれ!見てください!」


凛久が指さしたのは神戸空港の上側に見えるポートライナーの神戸空港駅だった。そこに圭とユイらしき人影が見えたのだ。2人は身を隠すように空港の中に入った。


「さっきのは・・・ユイに見えました。」


「行ってください。りっちゃんも一緒に行って」


来宮がそう指示して2人は先に車を降りて空港の中に入った。その間に来宮は深川に連絡を入れる。しかし出ない。深川からは連絡を待つことにして車を駐車場に止め自分も空港に入ろうと車を降りたとき深川から折り返し電話がかかってきた。そして神戸空港で圭とユイの姿を見つけたと伝える。深川の様子が少しおかしいことに気づいたが時間が無い為深くは聞かず深川の今すぐ向かうという返事を聞いて電話を切った。来宮が空港内に入ったころ、先に空港内に入った久保と凛久は空港内の予想外の人混みのせいで未だ2人を発見出来ては居なかった。見つけられないまま3人は合流する。


「どうですか?いましたか?」


「いや。隠れられそうな場所も探したけどいなかった・・・」


「そうですか・・・。それにしても凄い人混み・・・」


「とにかく、もう一度手分けして探しましょう」


来宮がそう言って再び3人は分かれた。


その頃、圭とユイは人目を盗んで航空チケットを手に入れ搭乗時間まで見つからないように敢えて場所を移動しながら隠れていた。2人はもう既に風俗会社の社員たちが一般人を装って人混みに紛れていることに気が付いていた。幸いにも空港内が賑わっていたためなんとか身を隠せている状況だった。そんな時、ユイが急に苦しみ始める。


「・・・痛い」


「どうした?おい・・・!」


圭はユイから血が流れ出ていることに気が付く。妊娠している状態で無理をしたからであろうか、流産しかかっていた。


「大丈夫だから・・・圭だけ行って?」


「そんなこと・・・出来るわけないだろ」


2人はその場にしばらく留まっていたが、今度は人混みが仇となり「大丈夫ですか」と声をかけられてしまう。そしてその周りの人たちもわらわらと集まってきてしまう。圭は大丈夫ですからと必死に人を遠ざけようとする。


丁度それを来宮は目撃しその集団に近づこうとする。するとその輪の中から圭が飛び出してくるのが見えたので人混みをかき分け走る。しかし来宮よりも早く圭の所へ走る、黒い影が見えた次の瞬間、ユイを取り囲んでいたであろう人々が悲鳴を上げて後ずさった。その時には来宮の後ろに久保と凛久も来ていた。凛久は事が起きたその瞬間に飛び出していき黒い影を追いかけた。久保と来宮は一瞬何が起こったのか理解できなかったがすぐに切り替えその現場に向かった。圭は心臓の辺りをナイフで刺され倒れていた。来宮は救急車を呼んでくれと叫び、空港スタッフの持ってきた物を使って処置するがその場では出来る限りの止血くらいしか出来ることは無かった。久保はユイの元へ駆け寄り彼女が流産しかかっていることに気づいた。救急隊に傷病者は2人だと伝えろと周りに頼み処置に当たる。来宮はまだユイの命を狙う社員の存在を考え、周りの人に出来る限りユイの周りを取り囲むよう頼んだ。消えゆく命の中、圭は来宮の手に触れながらかすかに口を動かした。


「・・・ユイは・・・?」


「え、ああ・・。大丈夫、もう1人の医者が見てるから。それより君は自分のことを」


「そうですか・・・良かった・・・」


「・・・おい!おい!しっかりしろ!」


圭は来宮の話は耳に入らない様子でうわ言のように良かったと呟いて気を失った。


黒い影を追いかけた凛久だが人混みと相手の人並み外れた俊足という悪条件が重なり見失う。苛立ちと無念さと情けなさでいっぱいになりながら入り口を見たときに丁度深川が入ってくるのが見えた。


「深川さん」


「ああ。君は」


「犯人を捕まえ損ねました。」


「犯人?」


「・・・こちらです」


そう言って凛久は深川を現場に連れていく。そこで深川が見たのは、命を落とした圭と小さな命を手放したユイの姿だった。ユイは朦朧とする意識の中で一粒の涙を流し手は握られていた。その場に居た久保、来宮、凛久、深川には大勢の人の騒めきとどよめきも耳には入らなかった。救急車のサイレンが沈黙を破るまで、4人は無念さをどうしようもできずに黙っていた。


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