現実で生きると言うこと
圭とアカネは本部の社長室に呼び出されていた。
「今日は店におかしな客が来たらしいじゃないか」
社長は2人を見ることもせず淡々と言い放つ。圭とアカネが黙っていると、椅子ごと回って2人を見る。
「お前たち。分かっているんだろうね。自分の立場を」
その威圧的な言葉と雰囲気に場が凍り付く。
「・・はい。私たちは何も話していません」
かろうじて答えるアカネ。しかし圭は答えない。アカネが圭を促すとようやく社長の顔を見たが話そうとはしない。その様子を見て社長はタバコを出して視線を逸らす。
「ふん。生意気だね。お前、自分がなぜ今生きているのかよく考えろ。裏切ったらどうなるかは・・・分かっているな」
そう言ってタバコをくわえ秘書が慌てて火を点ける。それを見てアカネと圭は社長室を出た。そして街の人気の少ない路地の隅まで黙って歩いた。その隅でアカネはタバコを吸い始める。
「お前・・・タバコ」
「何。こんな時くらい吸わせてよ」
「社長を思い出す」
圭がそう言うとアカネは2,3回吸った後すぐに落として靴で火を消した。その姿に圭はごめんと謝る。
「謝らないでよ。私が嫌になっただけよ」
「・・・なあ。裏切ろうか」
そう圭が切り出すとアカネは口元だけで笑う。
「何言ってるの。無理に決まってるじゃない」
「無理じゃないだろ。現に今だって誰かが追ってきているわけでもない。逃げようと思えば」
「心が鎖で繋がれているでしょ」
アカネはそう冷たく言い放つ。
「そんなもの・・・簡単に切れるよ」
「嘘よ。・・彼女を危険にさらすことだもの。あなたにそんなことできるはずがない」
アカネは優しい表情になって言う。
「でも。これじゃあお前が。いつまで俺たちこんな奴隷みたいな生活続けるんだよ」
「・・・逃げたいなら逃げても良いよ。あなた一人で。あとは私がどうにかするから」
「あのなぁ、どうにかって」
「ほら。守りたいものがある人間って、弱くなるからね。あたしはね、今も昔も風俗嬢であることには変わりないんだから、別にいいよ。あなたは・・逃げたいんでしょ?」
そうアカネが聞くと圭は言葉を濁す。アカネはその様子を見て笑って、事務所に戻ると言って先に帰っていった。
同じころ、ユイは職場にいた。そこは薄暗く、沢山の仕切りが立っていて、その中にはテーブルと広いソファがあり、テーブルの上にはお菓子とお茶があるという不思議な光景だった。
そこの1つのブースにユイはいた。かなりセクシーな服装で。そして好きでもない男の欲望を満たし、また次のブースへ行き・・・それを繰り返し夜は明けていく・・・。
彼女はピンクサロンで働いていた。いわゆるピンサロ嬢だった。妊娠してもなおここでしか働けない現状に嫌気がさしながらも、もう慣れてしまった張り付いたような作り笑いで金を稼いでいた。これが、自分の現実なのだと嫌と言うほど、知っているからである。




