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アカネという女

坂原は里美を見送った後、温田が利用していたという風俗店に向かった。入店して出てきたのは黒いスーツを着た真面目そうな若い男だった。


「いらっしゃいませ」


「いや。客じゃないんです。この店、温田って男が常連でしたよね」


そう問うとなぜかその若い男は驚いた表情をして若干顔が青くなったように見えた。分かりやすすぎるくらいに。


「お、お客様のプライバシーにかかわることなのでお答えできかねます」


「そうですか。じゃ、この店にアカネっていう子、いますよね?彼女と話をさせてください」


そう言うとまたその男は一瞬ひるむ。


「いません。」


「いるはずですよね?」


「今は居ません。出てます」


「こんな時間に?」


「お客様、どなたか存じませんが、こちらも仕事がありますので、お引き取り願えますか」


男はそう言って奥に戻っていった。坂原はそれを確認して店を出た。どう考えても怪しい。本当にその店にはいないならあんな反応にはならないはずだ。


坂原はその足で温田が暮らしていたアパートに向かった。どう見ても築50年は経っていそうなボロい外観。待ち合わせをしているのだが時間になっても現れないので坂原は1人でその隣に住む大家に交渉に向かった。


「すいません。温田守が住んでいた部屋、見せてもらえますか」


「あんた、誰」


大家は煙草をくわえたまま玄関先に出てきて面倒くさそうに答えた。


「こういうものです」


坂原は丁寧に名刺を渡す。


「探偵・・。ああ、ダメダメ。関係者以外は立ち入り禁止だよ」


大家は帰れと言わんばかりにシッシッと手を振りながら答える。


「そこを何とかお願いできませんか?」


「だからダメだって。しつこいな。帰ってよ」


煙草から灰が落ちて床が少し焼ける。大家が扉を閉めようとすると坂原の背後から手が伸びてそのドアを無理やりこじ開けた。


「ああ?なんだよあんた」


「警察です。確認したいことがあるので部屋、開けてもらえます?」


そう言われると大家はたじろぎ、一瞬渋っていたが鍵を渡して来た。そして終わったら声かけてくださいといって家の中に引っ込んだ。


「・・深川さん。遅かったですよ。裏切られたかと思いました。」


「たった10分じゃねえか。細かいやつだな。」


「職業上、裏切りには敏感になってるんで」


「ふん。まあいい。とりあえず早くしろ。俺の身のためにな。上に見つかると面倒だ」


深川はそう言って部屋の鍵を開ける。


「うわ・・。汚い・・」


「最初はもっと汚かった。押収したものもあるから今はなんとか足の踏み場がある。・・と言っても大したものは無かったけどな」


「確かに・・ゴミばかり・・・大したものはなさそうですね。女がいた感じも無いですし」


「女?」


「いえ・・・」


坂原は近くにあった引き出しを開ける。そこには一通の手紙が入っていた。どうやら温田が生前に書いたものらしい。そしてその宛名を見て、深川に気づかれないように坂原はその手紙を持ち帰った。


部屋を出て鍵を返しに再び大家の元へ向かう。


「終わりました?勝手なことされると困るんですよね」


大家はここぞとばかりに迷惑そうな顔をする。


「すみません。ありがとうございました」


深川は素直に謝り、早くその場を去ろうとする。坂原はその脇をから大家に聞く


「あの部屋、温田以外に誰か出入りしていた人間はいませんでした?」


「おい、坂原」


「前に話したけど、女が1人ね」


「女・・。もしかして、アカネっていう女ですか?」


「ああ。そうだよ。なに。もういい?」


大家は面倒くさそうに扉を閉めようとする。しかしその手が止まった。


「そうだ・・・。」


「なんですか?」


「いや・・・。思い出したんだが、あの夜、男があの部屋から出てきて・・・男は何か背負ってるみたいだったんだ。それと・・その後を追うように女が出てきて、一緒に去っていったんだ・・・・前に話した時は女のことは忘れていた」


それを聞いて深川は顔色を変える。


「2人いたと言う事ですか・・・」


「ま、そうなるね。じゃ、もういい?」


そう言って大家は今度こそ扉を閉めた。


「深川さん?」


「・・・自首した奴、自分一人でやったと供述してるんだ。」


「嘘の供述・・・ですか」


「・・・その女を守るための嘘・・・もしくは」


「本当は犯人ではない・・・可能性もありますよね」


坂原がそう言うと深川は考えたくないという表情で歩き出した。



坂原が問い詰めに行った風俗店では若い男と女が話していた。


「さっきの男・・・誰かな」


「ちょっと圭、あんた動揺しすぎ」


「いやだって・・・おいアカネ」


「大丈夫よ。どうにだってなるんだから・・・。彼女はきっと大丈夫よ」


2人はお互いを支え合う会話をして、それぞれの持ち場へと戻った。


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