戦闘訓練とその後
朝になりました。戦闘訓練があるというので暫く待っています。するとノックの後にメイドの声がかかります。
「ソフィアです。シロ様、起きてらっしゃいますか?」
「起きています。」
「お食事をお持ちいたしました。開けてもよろしいですか?」
「どうぞ。」
メイドが部屋に食事を運んできました。数多くのパン。湯気の立つ黄色いスープ。鮮やかに彩られたフルーツ盛りがテーブルに並んでいきます。
「どうぞお召し上がりください。」
「いただきます。」
僕は食べ始めました。食事をとらなくてもいいような気もしましたが、とっても問題ありません。できたての料理たちは料理人の腕がいいのかとても美味しいものでした。それほど時間をかけずに平らげます。 僕の前には空になった皿が並びます。
「シロ様はとても食欲旺盛でございますね。こんなにも綺麗に召し上がってくださりありがとうございます。料理長も喜ぶでしょう。」
そういうとメイドは皿を下げていきます。
「シロ様、本日10時より戦闘訓練があるそうです。お迎えにあがりますのでそのようにご承知ください。」
メイドは連絡事項を伝えると部屋を出ていきます。
◇◆◇◆◇
10時となりメイドに連れられ訓練場に案内されました。そこには国王と、魔導師長と呼ばれていた人、一際目立つ銀色の甲冑を着た男がいます。他にもたくさんの人がいるようです。
「勇者よ、よく眠れたかな?さて聞いたとは思うがこの2人から戦いの手ほどきを受けてもらおうと思う。我が国が誇る剣と魔法の最高峰だ。」
「勇者様、本日はよろしくお願いします。どうか人々の希望となってください。」
「勇者様、私が使える全ての魔法をお教えします。魔族は非常に強力です。魔法が切り札となる時が必ず来るでしょう。」
「僕はシロと言います。よろしくお願いします。」
剣と魔法を教えるためにこの国で一番強い人を用意したようです。この魔導師長は僕を召喚した人です。
まずは剣から訓練を始めるようです。
「勇者様どうぞこちらを振ってみてください。勇者様は大変線の細い方ですね。これが満足に振れないのなら。体づくりから始めることになります。」
鉄で出来た両刃の直剣を渡されます。これを振れとのことなので軽く振ってみます。特に重さは感じないのでいくらでも振ることができます。振るごとに剣の扱い方を思い出します。そうでした僕は剣で戦うことができるのでした。
最初は風を切る音がなっていましたがだんだんと音がなくなります。無駄な動きが削ぎ落とされ、達人と言われる領域を超えていきます。
段々と騎士団長の顔色が変わっていきます。感心したような顔から厳しい顔へと。
「勇者様、一つお手合わせ願えませんか?」
「騎士団長!勇者様を痛めつけるおつもりか!」
「魔導師長、確かめさせてくれ。勇者様は本当に戦闘経験がないのでしょうか?私にはもう既に私を超えているように思えるのですが。」
「戦闘経験はありません。ただ剣は扱えるようです。」
その言葉で急遽騎士団長との試合が行われます。皆が神妙な顔つきで僕たち2人を見ています。
「勇者様、参ります。」
騎士団長が力強い踏み込みで距離を詰めます。一太刀二太刀と剣を振り下ろします。優勢に見えるはずの騎士団長には焦りの影が見えます。それもそのはずです。切っているのに僕には当たらないのですから。
周りから見れば僕は一歩も動いていないでしょう。なのにすり抜けるように全て剣戟はあたりません。
そろそろ終わりにしましょう。僕はほんの少しだけ力を入れて剣を振りました。騎士団長は飛んでいきます。どこまでも遠くへ、一回二回と地面を跳ねて遂には試合を見ていた騎士の集団に突っ込み止まりました。
騎士達が自分たちの敬愛する騎士団長があっけなく負けたことに唖然としています。静寂の中何かがひび割れる音が聞こえます。
「もたなかったみたいですね。」
僕の持つ剣が全体にヒビが入り割れてしまいました。あまりの力に耐え切れなかったようです。
「さ、さすが勇者だ。騎士団長を、こうもたやすくあしらうとは。これならば魔王も打倒してくれるだろう。」
「そ、そうですな。これならば魔法も期待が持てるというものです。」
「次は魔法ですねよろしくお願いします。」
騎士団長が医務室へ運ばれるのを見届けた後、次は魔導師長から魔法を教えてもらいます。
「魔法とはイメージの具現化です。内にある魔力を使い世界の理を捻じ曲げます。その力は強力でやろうと思えばなんでもできます。ただ自分の理解が深くなければ使えないものも多いでしょう。ただし、呪文を唱えれば比較的簡単に魔法を発動できます。このように。」
『赤き炎よ我が手に集まり力を示せ、ファイアボール』
魔導師長の手から火の玉が現れ飛んでいきます。訓練場の壁に着弾します。壁が大きくえぐれました。
「さすが魔導師長だ。ただのファイアボールであそこまで威力が出るなんて。」
「剣の騎士団長、魔の魔導師長と言われるだけあるよな。」
その威力に周りからも声が上がります。
あれが魔法ですか。分かりました。僕にもできそうです。
「僕にもできそうなのでやってみますね。」
どうやら魂から魔力という物は汲み上げられているようです。おや空中にも同じものがあるようです。こちらも使ってみましょう。魔導師長は詠唱をしていましたがいらないようですね。省きましょう。火の他にも属性があるようです。途中で変えていきましょうか。
一瞬の思考でできた魔法が、水平に飛んでいきます。見た目はファイアボールと同じです。ただ一定の時間ごとに色が変わっていきます。高温を発する白い炎、轟くような渦を巻く水、近づけば切り刻まれる風、何者にも砕くことはできない石、他にも氷、雷、木、金、毒、無、光、闇、空、時、等他にも属性をつけれましたがここらでやめておきます。
壁に着弾した僕の魔法は思ったほどの威力は返ってきませんでした。壁にはただ黒い穴が広がっているだけです。
「あれは一体...?」
周りの人もなんなのか掴み損ねているようです。あれを僕は知っています。どこで知ったかはわかりません。
「あれは世界の悲鳴です。世界にも耐え切れないほどの威力を持つ魔法が理を捻じ曲げ、その理を世界が戻せなかった結果です。あの穴にはこの先、未来永劫何も存在することはできません。」
僕の説明を聞いた周りの人が絶句します。ただ一番驚いているのは魔導師長のようです。
「国王様、勇者様は既に私よりも遥か高みにいらっしゃいます。先ほど確認できた属性でも全属性とさらに未確認のものもありました。それに先ほど無詠唱であれほどの魔法を発動していました。あのような芸当は不可能です。勇者様に何かをお教えすることはできません。勇者様ならば今すぐ魔王と対峙しても勝てるやもしれません。いや、勝てるでしょう。」
「どうやら今代の勇者は規格外のようだな。過去の文献でもここまでの勇者はいなかった。どの勇者も初めは戦闘の経験もなく弱い存在であったと伝えられている。その後の成長幅が異常で、旅を通し魔王を倒せる存在になると言われていたが。今代の勇者、シロは強すぎるようだ。
ならば勇者シロよ、今すぐにでも世界を魔王の手から救ってはもらえないだろうか。」
「わかりました。行ってきます。」
初めから魔王をすぐに倒す気であった僕には特に断る理由もありません。
「ありがとう、勇者シロよ。すぐに勇者シロの旅の準備をしろ!一番の軍馬に旅に持てるだけの金、食料、仲間を用意するのだ!」
僕のために色々用意してくれるようです。ただ僕には必要ありません。
「心配はいりません王様。魔王の居場所はわかりました。すぐに倒してきます。」
「それはどういう...?」
慌ただしく兵士や使用人達が動く中僕たちだけが止まっています。国王は疑問の顔をしていましたが、王女は何かを悟ったのか暖かい笑みで僕を送り出してくれます。
「気をつけて行ってらっしゃいませシロ様。シロ様ならば世界を救ってくれると信じています。」
「行ってきます。」
先ほど魔法が使えるようになりましたので空間魔法で少し世界全体を把握しました。その時に遠く離れた北の大地に城が建っているのがわかります。その中に魔王らしき人物がいるのを確認しました。僕はその人がいる部屋へと転移します。
景色が移り変わります。外は吹雪が吹き荒れ雷もなっています。空が暗いので部屋の中も薄暗いです。
『何者だ。』
たくさん魔族がいます。どうやらここは玉座の間のようです。玉座に座る魔王が僕が何者か聞いてきます。
「勇者です。」
『勇者!勇者とな!フハ、フハハハハハハ!丁度貴様の話をしていたところだ。我を倒そうと愚かな王国が勇者を召喚したらしいからな。それが貴様か!面白い実に面白いぞ!』
どうやらウケているようです。魔王もその周りの側近達も笑っています。
『知っているぞ貴様は召喚されて間もないだろう。大方捨て駒にされたのだろうがここまできたのは褒めてつかわす。どうやら王国の空間魔導師も侮れんようだ。』
話が長いですね。そろそろ魔王を倒しましょう。とりあえずこの一帯を殴れば早いです。
「そろそろあなたを倒していいですか?」
『よかろうかかってくるがよい。周りの者がおとなしくしていると思うなよ。』
「そうだぜ!魔王様が手を出すまでもねぇ俺が倒してやるぜ!」
「魔族の幹部が揃っている場に来るなんてとんだおバカさん。」
「あの世で悔いるがいい。」
十人ほどが僕に襲いかかってきます。とりあえず力を入れて殴りましょう。僕は床に向けて右手を振り下ろします。
床が崩れ衝撃が広がり城が崩れます。僕に襲いかかってきていた獣のような魔族は風圧で消し飛んでしまいました。他の魔族も原型はありますがすでに息絶えています。
瓦礫の山となったここに立っているのは僕と魔王だけです。ただその魔王も右半身が吹き飛んでいます。その断面から肉が盛り上がるように再生しています。
『一体なにを、一体なにをした!!』
再生された顔は恐怖を物語っています。恐怖の象徴として語り継がれてきた魔王の顔が歪んでいます。
「殴りました。」
『そんな訳があるか!!』
僕は簡潔に言います。ただ殴ったそれだけです。魔王は僕を否定するかのように攻撃をしてきます。近づくのは危険だと思ったのか魔法で攻撃してきます。
『地獄の魔槍』
禍々しいオーラを放つ赤黒い槍が生み出されます。僕に向かってきますが特に脅威を感じないのでそのまま歩き魔王に近づきます。魔法で返してもいいのですが、世界が壊れそうなのでやめておきます。
魔王の放った槍は僕に当たりましたが服にも傷一つつけず霧散しました。
『馬鹿なっ!必殺必中の槍だぞ!』
僕を近づけまいと数々の魔法を放ちます。どれも即死級の魔法のようです。全てを受けて魔王の前に立った僕を見てついに勝てないと分かったのか膝から座り込みました。
『もうよい。魔力が尽きた。我を殺すがいい。五百年生きてきたが貴様のような奴は初めてだ。』
僕は拳を握りました。ですが、魔王は最後に僕を抱きしめます。強く、強く。
『だが、勇者よ貴様も道連れだ!』
『自爆魔法 完全消滅』
魔王は自身の命と引き換えに僕を消滅させようとします。この魔法は魂までも捧げます。それ故にこれから先魔王が転生することはないでしょう。
僕たちを中心に青と白の混じった爆発が起きます。その光に触れたもの全てが塵となっていきます。半径数キロに渡り消滅した後残ったのは僕だけでした。魔王はもうこの世のどこにもいません。
「魔王を倒しましたが僕は何のために生まれたのでしょう。」
魔王を倒してみても意味は見つかりません。そんな時この世界に飛ばされた時と同じ光が僕に降り注ぎます。またどこかへ飛ばされるようです。
その後、北の大地には何も残りませんでした。




