アナタのパパは鬼畜なの!
あれから7ヵ月が経ち、光は芸能界を正式に引退してお義父さんの会社を継ぐ為に色々としている。
悪阻も治まり、お義母さんがお腹を撫で回す事も多くなり、一日一回はお隣の実家へと帰って、「後もう少しで孫が産まれるね」なんて話したりもしている。光の婚約者については、彼女自体が面食いだった事もあり、光が紹介した俳優をいたくお気に召したようだった。
そして、今日は息子が産まれ、両家の親達は大号泣していた。その瞬間を光は高機能カメラでその様子を撮り、「来年上映会でも開くか」と言っていた。その裏はきっと、お義父さんを指差して笑うためだろう。その証拠に、二台カメラを用意しており、その内の一つのカメラはお義父に向けられたままだった。私はあえて何も言わなかった。
「ねぇ、光!ゆうが凄いの!」
息子の名前は裕司と名付けた。
命名は普通の感性も持つ、我が父である。お義父さんとお義母さんはなんでもかんでもドッキュンドッキュンする名前やキラキラお星さまのような名前を付けたがり、将来とんでもなく子供が可哀想になる事はわかっていた。ちなみに私の案は光によって全て却下された。「ト」しか言ってないのに。
「何が凄いんだ」
「まぁま」
「喋ったー!」
そうなのである。今日この日、ゆうは私の事をママと呼んだのだ。こんなに嬉しい日はない。そして、もう一つ嬉しい事がある。
光に手を伸ばしたゆうは、光に向って笑い掛けた。
「とぉまー」
「穂波」
逆鱗に触れてしまった。
ゆうがママの後に発した単語は、日々ゆうに向っていかにトー○スがシュールで格好良いか猛アピールしたが為に、このように喋るようになった。母として誇らしいが、光の女としてはとても危機感が半端ない。
「裕司、パパだ」
「ぱぁー」
「あぁ、良い子だ。ト○マスは虫けらだからな。覚えちゃ、ダメだぞ」
「ぱぁー!」
はしゃいでいるゆうに向って、光はそんな事を言う。なんという屈辱。いくら○ーマスがシュールで素晴らしい顔立ちをしているからと言ってそんな事を言うなんて、いくら光でも許し難し。
「光ー!ト○マスに謝れー!!!」
「煩いママだな、裕司」
「あー」
「なんと!!?裕司よ、そんな所で返事しちゃメッ!」
「トーマ○に浮気はダメだよな、裕司」
「あー」
「だから返事しちゃメッ!」
普段姿を見せない光が大好きな裕司に、絵本やイラスト、アニメを見せて、ト○マスを「これがアナタの父親よ」とインプットしようとしていたのに、何が問題だと言うのだ。
「おい。思っている事がダダ漏れだぞ。裕司は生身のパパが良いもんな。顔以外が鉄で出来ているような化物がパパじゃ嫌だもんな」
「何を言う!トー○スは私の愛しのマイダー」
「裕司、兄弟は欲しいか?」
「のおおおおお!!!!!」
「あい!」
両手を万歳する裕司に少しばかりの殺意が芽生えた。その可愛らしい返事一つで母である私は明日、足腰立たずにベッドとお友達になっていろというのか!そうなのか!我が息子よ!なんとも残酷な息子だ!
「のおおおおお!!!!!」
ふざけている!!
私は今この時、愛する息子の手によって地獄に落とされた。
「待って!マジで待って!この世で一番愛してるのは光なんですー!だから抱き潰すとかそんなのダメ!マジであっちゃダメ!ノンノン!!ゆうが寂しがる!」
「婆ちゃんと爺ちゃん達が居るから寂しくないもんなぁ」
「あーい!」
「メーッ!」
羊の如く喚く私を無視して、光は描き散らかした私の愛が詰まっている○ーマス達を一気にシュレッターに掛けていく。この部屋には業務用シュレッターというとてつもなく要らない機器がある。どれだけの数のトー○ス達が、シュレッターの餌食になった事か!
「妹と弟欲しいか?」
「あー!!」
「なんでそこ元気いっぱいなのかなッ!!?」
魔王は光で、勇者はトーマ○。そして私は勇者が助けに来てくれるのをひたすら待つお姫様という所だろうか。夢が広がるな。
「ところで穂波。シュールな顔をした機関車は捨て置いて」
「捨て置くな!!」
「あい!」
「元気よく返事しちゃメッ!」
全く、親子揃って私を虐めるとはどういった事だ!!
そんなこんなでやはりその後も一悶着あり、主に光がストーカーにあったりストーカー女子高生だったり、娘を出産する1ヵ月前に刺されそうになって早産したりといった事もあったり、その後もまた三年後にまた妊娠し、光の元婚約者がやってきて、やっぱり光とやり直したいとかこちらの都合も考えずに押し掛けてきたり、またそれから二年した頃にまた子供が出来、会社の社員のお偉い地位に居る人の娘が光と結婚したいからと言って、私邪魔との事で、子供達を誘拐され殺されかけた事もあったりして、正直離婚したかったが、それが許されるはずもなかった。
その度に子供達が増殖されていったので、もう既に学習能力が付き結婚10年にもなると流石に言わなくなった。
力付きました…