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一期一会  作者: 雪奈
第5章 青嵐吹く夏
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第10話 噂の出処


何もせず、ぼんやりしているとどうしても思い出してしまう。

家族のこと、秀人のこと。考えれば考える程にわからなく、辛くなってきた。

本当は考えた方がいいのだろう、でもまだそれが出来るだけの余裕はなかった。

だから、香緒里はひたすらに机に向かって勉強をした。


昔から嫌なことがあると他のことを何も考えなくていい勉強をしていた。

絵を描くことも好きだが、それでもやっぱり思考は止まらない。

ただひたすら計算をしたり、問題を読んでいる方が没頭出来て良かったのだ。

もちろん、母に褒められたくてしていた部分もあったのだが。


一学期の復習をしたり、発展問題を解いたり、二学期の予習をしたり。はたまた校内にある小さな書店で問題集を買って取り組んだり。

やりたいことは尽きなかった。


雪音達を心配させてはいけないと、食事の後は一緒に話したりとかはしていたが、それ以外の時は部屋や自習室で勉強をしていた。






「香緒里、今日も?」

「うん、そうみたい。」

「大丈夫かなぁ………。」


夕食後の談話室でのいつものまったり時間。

その中に香緒里と沙世、真はいない。もちろん秀人も。悠と圭は他の友人の所にいる。

今日の夕食後は香緒里は直ぐに、やることがあるから、と部屋に帰ってしまった。

心配する雪音や奈津達の元に、敷地内にある売店に行っていた美愛と由美が帰ってきた。


「今信じられへん話聞いたんやけど。」

「何?どうしたの?」


憮然とした表情をし、雪音達のいる机の席についた美愛に奈津が聞く。


「さっきその辺にいた女子達が、香緒里と新谷、沙世と沢田が別れて?香緒里は沢田と付き合いだして、傷付いた新谷を山瀬が慰めてるとかなんとか言うとった。意味わからへん。」

「は???」


奈津は眉根を寄せ、雪音と翔太は頭を抱えた。

嫌な予感が当たり、より面倒臭いことになってしまった………。

沙世と真が別れた………というよりはどちらかといえば距離を置いたに近いことは事実だが、他はまるで嘘なのは明白だ。

少なくとも雪音たちにとっては。

一人冷静にパソコンを叩いていた亮は手を止めた。


「小耳に挟んだ話だが、その情報の発信源は山瀬本人らしい。」

「え、そうなの?」

「あぁ。だが、状況を考えると確かにその状況を流して得をするのは山瀬くらいしかいない。吉崎を妬んでいるやつらが仮にいたとしても別れた噂を流すくらいまでだろ?」

「確かに………って、なんでそこまで分かってるのに教えてくれなかったの!?」

「まだ不確定な情報だったからな。」


でも教えてくれたっていいじゃないーと奈津はちょっと不貞腐れた。


「あと、これは不確定で俺の予想だが……。最初の吉崎と沢田が抱き合っている、という画像の流出も山瀬がやったんじゃないかと思う。」

「え?嘘でしょ?それも??」


驚く雪音達に、亮は「恐らくだけどな」と言って続けた。


「始めにあの写真がアップされたのは、SNSのこの学校のオープンチャットだ。その人物の発言を遡っていくと発言し始めたのはこの4月から、つまり1年生の可能性が高い。」


亮の言うSNSのアプリは現在多くの若者が使用しているコミュニティツールで、タイムラインへの自由な投稿やグループを作ってのチャットなどが出来る。

実名でも出来るのだが殆どの人達はハンドルネームを使っている。

雪音達は知らなかったが、どうやらその中に緑ヶ丘高校の大きなグループチャットもあるらしい。


「加えて、その人物の今までのタイムラインへの投稿やチャットでの発言内容を見ると、山瀬達目立つ女子のグループの誰かである事が予想出来る。まぁあそこのグループの誰かに聞けば特定出来そうだがな。多分友人同士でアカウントは把握してるだろうから。」

「でもそれだけじゃ山瀬だってわからなくないか?」

「まぁな。ただ、あの日の昼に食堂で山瀬が『駅ビルで買い物してからお見舞いに行く』と言っていたんだ。見舞いなら十中八九新谷のとこだろ?駅ビルならあの病院の最寄り駅の駅ビルだ。で、あの話を聞いた後に新谷に連絡して聞いてみたんだ、山瀬が来たかどうか。」

「いやあんた新谷と連絡取ってたんか、意外やわ。」

「で、結果は来ていない。つまり、山瀬は何らかの事情があって行かなかった。もしかしたら、吉崎と沢田の事を見たからなんじゃないか、と思ったんだ。あくまで俺の勘と予想だけどな。」


とはいえ、確かにあの画像をネットにアップする理由としてはゴシップ好きか、なんらかの得があるか、もしくは二人に恨みがあるかのどれかでしかない。

秀人を虎視眈々と狙っていた山瀬がアップしたのだとしたら、理由はある。


「もし本当に山瀬さんが両方ともやったんだとしたら………わざとよねぇ、香緒里と秀人を破局させるために。」

「タチ悪いねぇ………。」

「なんとかしてあげたいけど………どうしていいかわからないね。」


雪音、奈津、由美が困ったように眉を下げて溜息をつく。

翔太も考えるように口元に手を当て唸る。


「うーん、亮がそこまで考えついているなら、秀人もわかりそうなものだけど………」

「新谷なら俺が連絡した時点で察しはついてるだろうな。」

「なら、誤解することもないんじゃない?」

「誤解だと分かっていても、嫌なんだろ、要は。」

「ヤキモチって、こと?」


そう、と亮は頷いた。

いつも余裕のある秀人がヤキモチ、というのはそれなりに深い付き合いである雪音や翔太にもあまり想像はつかない。

でもそう言われるとそんな気もしてきた。


「はー、なんか、考えてたら腹立ってきたわ。ちょっともう一回外行って頭冷やしてくる。」


すくっとまた立ち上がると美愛はそう言ってスタスタと談話室の外へと出て行った。口調がいつもより苛立っているようで、その足取りも早い。


「美愛ちゃん……裏でコソコソ、とか悪口とか、そういうの嫌い、なんだよね………だから今回のことも多分内心すごく怒ってる。」


出ていく美愛を目で追いつつ、由美はぽつりと言う。

どこにぶつけたらいいのかわからないもどかしさ。

どうしたら上手くいくのかもわからない。

その場に残った面々は顔を見合わせ、それぞれ溜息をついた。





談話室を出た美愛は寮の回りを一回りしようと思い、玄関へ向かった。

いつものようにツインテールにしている髪を揺らしながら早足で歩いていると前から山瀬が来るのが見えた。

手には先程の美愛と同じく売店の袋を提げている。


「山瀬、ちょっと話があるんやけど。」

「久しぶりね、渡辺さん。なぁに?」


美愛が目で外を示し歩き出すと何も言わずに付いてきた。

山瀬は期間は短いが元女子バスケ部員のため、美愛とも面識があった。

本当に顔見知り程度で部活以外で話したことはない。

相容れないだろうことは分かっていたから敢えてあまり関わらないでいたのだ。

だが、今回はそうもいかない。


外へ出て、少し道を外れたところで美愛は立ち止まり、山瀬と向き合う。


「何かしら?話って。渡辺さんが私に話し掛けるだなんて珍しいじゃない。」

「単刀直入に聞く。香緒里達の写真や噂を流してるのはあんたやろ?」


そう聞くと、一切動揺せずに山瀬は笑った。


「何かと思ったら、そんなこと?」

「そんなこと?」

「私がやったって?証拠は?」

「……………オープンチャットであの写真をアップしたアカウントの他の履歴とかを見ると、あんたの可能性が高かった。」

「それだけ?私と同じような条件の人は他にもたくさんいるでしょ?」

「今回の、香緒里と新谷、沙世と沢田の噂についてはあんたしか得にならん話やろ。」

「つまりは全部あなたの勘ってことね?それじゃあなんの証拠にもならないわ。」


ふんっと鼻を鳴らして再度笑った。

確かに確固たる証拠があるわけでもないし、しかも概ねは亮の予想だ。

でも美愛は直感的に山瀬がやったものだと確信していた。

でもそれを言ったところで山瀬は取り合わないだろうということも分かっていた。

でも。

それでも香緒里のあの姿を見るといても立ってもいられなかった。

噂が許せなかった。


「そうね、確かに新谷くんと吉崎さんが別れてくれた方が私にはとっても好都合ね。」

「あんた、新谷のことがやっぱり好きなんか。」

「そうよ。イケメンで頭も良くて運動神経がいいなんて、私にぴったりじゃない?吉崎さんなんかにはもったいないわ。」

「あんた、いい性格してるな。やっぱり嫌いやわ。」


いけしゃあしゃあとそう自信満々に言う山瀬に美愛は舌打ちをする。

やっぱりこいつとは合わない。


「やーだそんな怖い顔しないでよ。渡辺さん、私程ではないけど、美人なんだから台無しよ?もうちょっとそのキツい性格直せばモテるのに。」

「余計なお世話や。」


溜息を一つついた後、美愛は山瀬を再度見る。


「新谷と会ってまだそないに経ってへんけれど、あいつが人の顔だけ見て選ぶとは思わんな。香緒里はあんたと違ってめっちゃいい子やからな。」

「私、落とせなかった男子っていないのよね。確かに新谷くんは難関だけど、絶対私の物にするわ。」


美愛にしてみれば最早呆れる程の自信。

顔はかわいいが、どうすればこんなに自分に自信を持てるものなのか疑問に思ってしまう。


「あぁ、それで私が噂を流したかどうかを知りたかったのよね?それじゃあ流してないってことにしておいてもらえる??」

「は?」

「私がやったにしろやらないにしろ、吉崎さんが新谷くんと上手くいかないようならラッキーよ。私、彼女嫌いだしね。まぁ、谷中さんは気の毒かなって思うけどね。」


それじゃあね、と山瀬は言い美愛に背を向けて寮へと向かおうとする。

美愛にしてみれば、その言葉は山瀬がやったと言っているような物だった。

そしてなんて自分中心な、利己的な考えだろうかとフツフツと怒りが更に湧いてきた。


その腕を掴み、引き止めた。


「自信満々なのは結構やけどな。うちは、人の噂を流して傷付けるやつらが大嫌いや。この際、あんたがやっていようがやってまいがいい。ただ、うちの大事な友達をこれ以上傷付けるような真似するなら、許さへんからな。」


言葉に力を込めて、射抜くように睨んで、美愛は言う。

振り向いた山瀬もさすがにやや怯んだように少し目線を逸らした。

だが、直ぐに口元に笑みを浮かべながら掴まれた腕をゆるりと解き、何も言わずにその場を去った。


その後ろ姿を見ながら、美愛はまた舌打ちをした。


あぁ本当に合わないやつ。

猫被ってそうなやつだとは思っていたけれど、ここまで裏表……というか美愛の嫌いなタイプの女子だったとは、想像していなかった。


釘は刺しておいた。

これ以上何も起こらない事を願いつつ、未だ腹の虫が収まらない美愛は談話室に戻らず、外をゆっくり歩いた。


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