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一期一会  作者: 雪奈
第5章 青嵐吹く夏
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第9話 一番でなければ


「沙世ー今日のお昼どうするー?」

「あーどうしよっかー。」


午前中の部活が終わった沙世は、部活の友人達と更衣室で話しながら着替える。

同学年の部員の一部は香緒里と真との噂を聞いた後、『沙世かわいそう』と同情をし沙世を囲っている。

元々秀人のファンで、香緒里をよく思っていない者たちもいた為尚更その傾向はあった。


そうして、無理して香緒里達の所に行かなくていい、という言葉に甘えてしまい、しばらく一緒に行動している。

由美とは部屋が同室のため顔を合わせる機会も必然として多くなってしまうが、消灯ギリギリまで部屋に帰らないようにしている。


香緒里と真が本当に浮気しているとは思っていない。

何かしら………例えば、香緒里の家の話とかがあった上で、あの写真の状況になったのだろうということは、あまり頭の回転が早くない沙世でも分かる。

とはいえ、それが嫌でないかと言われるとそんなことはない。

もちろん、嫌だ。

まして香緒里は以前真が好きだった人だ。

モヤモヤだってする。


そうして何となく顔を合わせづらく、避けているうちに戻れなくなってしまった。

雪音が何か話したそうにこちらへ来たそうな顔をしている時もあるが気付かないふりをして避けてしまっている。

でも、そろそろ心を決めなくてはならない。




-----------


午後の部活の後の自主練を終え、片付けもした真は同じく自主練をしていた前野と部室を出た。

何だかんだで一番最後になってしまった。

夕方とはいえ、まだまだ外はかなり暑い。

タオルで吹いたはずなのにすぐにじんわりと汗が額に滲む。


「鍵、返してくるよ。丁度職員室にも用があるからさ。」


鍵を掛けた前野はこちらを振り返りそう言う。


「え、いいのか?」

「ついでついで。それに、彼女が待ってるぞ?」


前野が視線を向けた方向、校庭から寮に向かう木陰に沙世が立っているのが見えた。


「悪い、じゃあ頼むわ。」

「おー、またな。」


校舎に向かう前野と別れ、沙世の方に走る。


「沙世!」

「あ、真………。」


こうして沙世と向き合うのは数日ぶりだった。

香緒里との噂は当事者の真の耳にも入っていた。野球部員から聞かれたのだ。

もちろん否定はした。

部員はそれ以降はあまり興味が無いのか大して突っ込むことも責めることもしてこなかったが。


誤解しているだろう沙世とも話そうと思っていたが避けられたり、一緒にいる女子テニス部員に睨まれたりとなかなかその機会を得られなかった。


久しぶりに見た沙世に以前の笑顔はなく、表情は硬かった。


「話、しようと思って待ってた。」

「暑いのに、大丈夫か?連絡くれれば早く切り上げたのに。」

「いいの、勝手に待ってただけだから。」


何となく気まずい雰囲気が2人の間に流れる。

幼い頃に出会ってから、数日話さないなんて事は今までなかった。


「あの、さ。香緒里と浮気してる………っていうのは本当?」

「嘘に決まってるだろ。」

「そう、だよね。」

「香緒里の、本当の母親が見つかったらしくて、それで向こうが『そのうち会いたい』って言ってるらしい。」

「え………そっか、やっぱりそういう事か……。」


何かあったのだろうとは思っていたが、その何かはなかなか衝撃的な物だった。

香緒里がずっと、恐らく、気にしないようにしていたことだ。


「それを知ったのが二人で秀人の見舞いに行ったあの日。病室で父親から来たメールを見た香緒里が取り乱して、『会った方がいい』って言った秀人とぶつかったんだ。それで、病室を出た香緒里を追いかけて…」

「慰めた、ってことね。」

「あぁ、だから噂は誤解だ。」

「誤解、ね………」


小さく息を吐き、沙世は真から一度目を逸らした。

その後、しっかりと視線を合わせる。


「ねぇ、真。香緒里のこと、まだ好きなんじゃないの?」

「いや、そんなこと………」

「ないわけない。ずっと、昔からずっと一緒にいたからわかるもん。

明確に好きって認識はしてないかもしれない。でも、守りたい、傍にいたいって思ってるでしょ?」

「そりゃ………今、秀人も傍にいないし、家の話も考えると……力になりたい、支えてやりたいって思うけど……」

「私だって、香緒里のことは心配。

でも、それとこれとは別。他の子の近くで支えてあげたい、なんて思っている真とは…………一緒にいれない。

それでもいいよ、なんて優しく言ってあげられるほど、私は心広くない。辛いもん。」

「沙世………」

「だから、別れて。」

「え………いや、でも……」

「私は!」


驚き、言い淀む真に沙世は声を少し大きくする。

その目には、涙が滲んでいた。


「私は………真の一番じゃなきゃ、嫌なの………ごめん。だから、お願い……」


そう言い残して、背を向けて走り出した。

拒絶するようなその態度に真は追い掛けるのを躊躇ってしまった。

あっという間に校舎の陰へと消えていき、見えなくなってしまう。

沙世には届かなかったが、真はその場で小さく「ごめん」と呟いた。




走り続けていた沙世は、人にぶつかりそうになって慌ててブレーキをかけた。


「谷中……??真と一緒じゃなかったのか?」


前野は涙ぐんでいる沙世を驚いて見た。

何かあったのか?と心配したように聞いてきた言葉が聞こえたようで、聞こえなかった。

立ち止まったら、涙が目から溢れ出てきた。

嗚咽も口から漏れる。


悲しさ、悔しさ、嫉妬。色んな感情がごちゃ混ぜになっている。

動揺する前野を前に、子供のようにしばらく泣きじゃくることしか出来なかった。






その日の夜。

雪音と翔太は、二人からすれば明らかに無理をしている沙世と明らかに様子が変な真を夕食の時に見て、真の方を寮への帰りがけ、呼び止めた。


「「は!!??別れた………!?」」


寮の外の人があまり通らないところに行き、沙世と何かあったかと問うと予想外……いや、ある意味想定はしていたが、とにかく声を思わず上げてしまう答えを言われ、二人して大きな声を出してしまう。

慌てて辺りを見回すが幸い人は近くにいなかった。


「何かあったのか、とは思っていたけど………。」

「一体どういうことよ?沙世から??」


少し小声になり、真に再度問うと視線を逸らされる。

それでも、ぽつりぽつりと今日の沙世との話をやや俯き加減に話した。


聞き終えた雪音と翔太は顔を見合わせた。


「沙世らしい……というかなんというか。まぁでも気持ちは分かる、かなぁ。」

「家族の話が出て……秀人もいない、しかも喧嘩中、そんな香緒里を放っておけないっていうのは、真らしいけどさ……。」


元々、香緒里と真の間に何もなければ沙世はここまで過敏にならなかったかもしれない。

もちろん、嫉妬はしただろう。

でも、優しい真のことだからある程度はしょうがない、と思ったかもれない。

相手が雪音だったらきっとそうだったはずだ。


でも、香緒里はかつて真が好きだった相手。

しかも家庭環境が同様に複雑だから、理解もある。

だからこそ、不安なのだろうと思う。


「俺は………正直、別れるつもりはなかった。

……けど、沙世にあぁ言われたら、何も返せなかった。」

「それは、沙世の話が図星だから?」

「いや………図星かどうかは、分からない。

香緒里のことは大切だし、こんな状況だからこそ、支えてあげたいとは思う。でも………この好きが、翔太が雪音を好きっていうのと同じなのかは分からないんだ。」


心配させて、迷惑かけてごめん、と真は言った。

再度二人は顔を見合わせる。

香緒里の家庭環境について一番共感出来るのは真だろうし、辛さがわかるからこそ支えて理解してあげたいと思うのもわかる。

だけど、それでは沙世があまりに辛い。

沙世自身が真のそういう部分を見抜いて離れていったのだろうとわかるから、どうしてあげればいいのかがわからない。

香緒里と秀人の話も何も進展しないままだ。


「とりあえず、早いうちに秀人に会いに行って少し話してくる。あいつの話も聞いておかないと。」


なんとなくもやもやしたまま話が終わり、真が部屋に帰って行った後、残った翔太は雪音に言う。


「そうね……これ以上、ややこしいことにならなければいいんだけれど……。」

「そうだなぁ………。」


翔太は同意したものの、何故か少し嫌な予感がしてしまった。

それが予感だけで済めばいいのだが。

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