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一期一会  作者: 雪奈
第19章 秋と冬の狭間で
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7、当たり前に


翌朝、由美はいつもより少しだけ早く目覚めた。

モヤモヤが晴れたわけではないけれど、ここ最近で一番いい眠りだったような気がした。

変な夢を見ることもなく、しっかり眠れた。


伸びをした後、ベッドから出て支度を始める。


昨日は思ったよりたくさん話してしまった。

ただ、そのおかげか少しだけすっきりはした。


顔も洗い、制服に着替えたりした後、未だにベッドに潜って眠っているルームメイトの沙世に声を掛ける。

先程からずっと沙世のスマホのアラームが鳴っている。


「沙世ちゃん、そろそろ起きないとご飯食べに行くの遅くなっちゃうよ?」

「うーんゆみぃ、私の代わりにきがえておいてぇ……。」

「沙世ちゃんまた寝惚けてる………。」


休みの日の翌日は大体なかなか起きない。

イベントのある日や遊びに行く日はすんなり起きるのだが。


「沙世ちゃん!6時半になるよ!」

「もう6時半!?やばい、ご飯食べる時間なくなる!」


揺り起こすとようやく沙世は起き上がり、慌てて支度をし始める。

きっと昨日も部屋に入ってからスマホを弄っていてなかなか寝なかったのだろうということは予測がつく。


沙世の支度が無事に済み、部屋を出ると丁度数部屋隣の香緒里と美愛も出てきたところだった。


「由美、沙世おはよーさん。」

「おはよー危なかったー寝坊するかと思ったよー。由美のおかげで大丈夫だったけど。」

「沙世、また夜更かししてたんでしょ。」

「相変わらずやなぁ。」

「……美愛も人のこと言えないよ?」

「美愛ちゃんもか……。」


4人で話しながら食堂へと向かう。

丁度朝食の時間帯なのであちこちの部屋から人が出てくる。

この階は3年生の部屋しかないため、聞こえてくる話の中には受験や勉強の話も割りとある。


「あーそういえばな、昨日大学のパンフ見てて気付いたんやけど。」

「なになに?」


美愛はそう言って沙世に話を振り出す。

由美は一歩下がってその話を聞く。


すると香緒里は由美の近くに来て、話し掛ける。


「昨日はしっかり休めた?」

「え?」

「昨日、ちょっと元気なかったから。」


気の所為だった?と首を傾げる香緒里に由美は少し笑う。


「うん、大丈夫。しっかり寝たよ。」

「そっか、それなら良かった。」


もうすぐ期末試験だし体調崩したら大変だよねーと二人で話す。

気を遣わせてしまったかな……。

なんて事を思ってしまう。


食堂に着くと既にいつものメンバーが大体揃っていた。

圭の姿を見て、昨日の出来事を思い出す。

自分の気持ちをたくさん聞いてもらってしまった手前、なんだか気恥しさはある。


「おはよう。」


圭はいつも通り、いつものように、声を掛けてくれる。

みんなの前では何もなかったように振舞ってくれる。

確かにそういう人だったなと由美は思う。


おはよう、と由美もいつも通り返した。



--------------


夜、談話室でいつものように皆で集まり勉強をしていた。

由美は翌日の英語の予習をする。


「カオリ何見てるのー?」


勉強が一段落してスマホを眺めていた香緒里に直樹が近寄り覗き込む。


「物件見てるよー。」

「え、物件?一人暮らしするん?」

「……あ、ごめん、言うの忘れてた……。春から一人暮らしすることになったの。」


雪音、翔太、沙世、真には話していた。

ので香緒里はすっかり話した気になっていたが、美愛たちには伝えるのを忘れていた。


「えぇぇぇそうなの??お家の事情か何か?」

「うんまぁそんな感じ、かな。」


奈津に聞かれた香緒里は曖昧に笑ってそう答えた。

詳しくは聞いていないが、香緒里の家庭に少し複雑な事情があることは高校からの友人である奈津たちも知っている。

ので、その後は詳しく突っ込むことはしなかった。


「俺も受かった場合を想定して少し調べておかないとかな……。」

「うちらもどないするか決めなあかんなぁ。」

「そうだねぇ……。」


一人暮らしをする可能性のある翔太、美愛、直樹はそう言って考え込む。

勉強と並行しながらやらなければならない。


「バタバタしないように一応調べるだけ調べておかないとかなぁって。物件もそうだし、家具や家電も。」


しっかり者の香緒里らしい。

自分で決めて調べてって出来る香緒里ちゃんはすごいな……と由美はそれを見て改めて思う。


「直樹、面接の練習はどうなった?」

「先生に相談したら今度やってくれるって言ってたよ〜何回か練習した方がいいだろうって。」


亮に聞かれた直樹はそう答える。

少し特殊な学部を受験予定なので、試験内容も普通の私大と違うらしい。


「私は小論文の練習しなきゃな………。」

「みんな筆記試験以外あるの大変だねぇ。」


ある程度より上のランクの私大になってくるとマーク試験以外にも色々試験内容があるらしい。

大変そうだな……と思いつつ、由美は英語の教科書に目を落とし、ノートに書き写していく。


昨日圭は、由美だからみんな友達になった、と言っていた。

信じてみたいと思う一方、こうして上手く会話に加われなかったりする自分を実感すると、本当にこの自分が好かれているのか?と不安になる。


こんなめんどくさい事を考えていることを圭には知られてしまった。

チラリと圭の方に視線を向けると、いつもと変わらず参考書を開きつつ、問題集の答え合わせをしている。


視線に気付いたのか圭は顔を上げて由美の方を見た。

目が合うと少しだけ微笑んで、また問題集を見た。


モヤモヤし始めた気持ちが少しだけ、止まる。

もう少し、もう少しだけでいい。

自分に自信を持てたら変われるのかな……。



-----------


「あ………小麦粉、切らしてたんだった……。」


数日後の放課後。

部活がなかったので寮のキッチンを借りてお菓子を作るために、部屋にある冷蔵庫を開けると、小麦粉が僅かしかなかった。


小麦粉を使わないお菓子のレシピもレパートリーにあるが、そちらも作るには材料が足りない。


どうしよう……。

いつも、部活で作ったものか自分で作ったものかを持って夕食後に談話室へと行く。


お菓子があれば、喜んで貰える。

自分がいてもいいような気がするから。

お菓子を作るくらいしか、役立てないから。


それもなかったら………何があるのだろうか。


わからない。

でも、わからないけれど自分を変えるためには行かなければいけないような気がした。


圭の言葉を信じるなら。

みんなが本当に私だから好きでいてくれると思えるようになるには。

勇気を出さなければ、いけない。


由美は部屋を出て、そのまま談話室へ向かうことにする。

既に皆は談話室にいるはずだ。


怖い。

お菓子ないならいいかな、と言われたら。

いやみんなならそんな事言わないだろう。

でも気を遣わせてしまうかもしれない。


談話室へ入ると、いつもの場所に香緒里たちはいた。

圭は席を外しているのか、いない。


「あれ?由美、この時間に来るの珍しいねー。」


気付いた沙世が声を掛けてくる。


「あ……うん、今日はちょっと材料足りなくて作れなかったんだよね……。」

「なるほど、そういうことか。」

「あの、お菓子持ってきてないけど……ここいても大丈夫?」


由美がそう言うと、香緒里たちはきょとんとした顔をする。


「そりゃもちろん全然いいでしょ。」

「え、むしろいてくれないの?」


奈津と雪音がまずそう言う。


「というか毎回お菓子持ってきてくれてありがとうなんだけど???」

「私たちは由美と話したいだけだしね。」


沙世と香緒里も言う。


「ユミのお菓子は好きだけど、ユミいなきゃねぇ。」

「勉強に疲れた時のうちの話し相手になってもらわんと。」


直樹と美愛も、言う。

秀人たちも、今更何を言ってるんだろう、と言いたげな顔をしている。


「そっ……か。そうだよね……。」

「それに!今日はお菓子の心配ないよ!何せ修学旅行のお土産を秀かおファンクラブから貰ったからね!」


ジャーン!と沙世は紙袋からお菓子の箱や袋をいくつか出す。


「修学旅行から帰ってきたのって先々週だよな?」

「いやー本人たちに直接渡したかったらしいんだけど、恥ずかしくて渡せないからってことで、女テニの後輩の元へ集めて私に届けられたらしいよ?」

「それにしてもすごい数だな……。」

「未だに拡大してるらしいよ?」


真に聞かれた沙世は答えながらお菓子を並べる。

それを見て、翔太と奈津は話す。


「由美も荷物置いて食べようよ。」


香緒里に声を掛けられる。

由美は掛けられた言葉をまだ飲み込みきれていなかった。

なので、ちょっと笑って、


「ありがとう、そしたら先にトイレ行ってくるね。」


そう言って机に荷物を置いて、談話室の入口へ向かう。

何も気にすることはなかったのかもしれない。

安堵で出そうになる涙を今零すわけにはいかない、いらぬ心配を掛けてしまう。


談話室のドアを開け、外に出ると丁度圭が戻って来たところに出会した。

部屋に戻っていたのか、参考書やノートを手に持っている。


「由美ちゃん?どうしたの?珍しいね、この時間に……」

「あ、えっと……お菓子、作れなかったからとりあえずこっちに来たんだけど……」


圭の顔を見たら、ホッとして気が緩んで涙が溢れそうになる。

あぁダメだ、また泣いてしまう。

堪えようと目に力を入れる。

だが、


「由美ちゃん……?何かあった?」


優しくそう声を掛けてくれる圭の声に、表情に、堪えきれなくなって涙が溢れる。


「あの、ごめん…………っ」


涙が後から後から流れて止まらない。

その由美を見た圭は少し驚いた表情をした後、由美の手を取り、4階へと向かう階段の方へと行く。

3階と4階の間の踊り場に辿り着くと、由美の方へ向き直り、視線を合わせる。


「大丈夫……?何かあった?」


そう、再び問い掛ける圭の服の裾を由美はそっと掴んだ。


「圭くんの、言った通りだった…………。」

「え?」

「お菓子、作れなくて…………でも、談話室行ってみたの……。お菓子、持ってきてないけど、いても大丈夫か、聞いたの。」


言葉に詰まりながら由美は説明する。


「そしたら、ね、『全然いい』『むしろいてくれないの?』『由美と話したいだけ』とか、みんな言ってくれて……」

「そっか。」

「私……ここにいて、いいんだね……。」

「うん、そうだよ。」

「友達で、いいんだよね……?」

「もちろん。」


みんな当たり前のように由美がいることを受け入れてくれていて。

「いつも」の中に由美がいて。

きっと友達だって思っていて。


あんなに不安だったのに、今は胸の中が温かい。


泣きじゃくる由美の頭を圭はそっと撫でる。

その温かさを感じながら、勇気が出たのはきっと圭くんのおかげだと由美は思った。


「ありがとう……。」


呟いて、視線を上げると目が合う。

圭は優しく由美に微笑みかける。


その笑顔を見て、少し顔が赤くなるのを感じた。


圭は由美の涙が落ち着くまで、ずっと何も言わずに傍にいてくれた。

それが、とても居心地が良かった。


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