1、今年は
夏休み終盤の登校日。
文化祭の内容を詰めるためにホームルームが行われた。
それが終わった後、C組の学級委員である吉崎香緒里は同じく学級委員である八代蒼介と共に、話し合ったことをまとめ、今後の方針を固めていた。
友人の河村柚希と藤村七恵も一緒である。
「じゃあメニューはこれで確定で、買うもののリストアップしなきゃね。」
「吉崎さん、1年の頃カフェやってたよね?どこで買ってた?」
「あぁ、あれは駅前のスーパーで買ったんだ。」
「今度価格だけ見ておいて予算組んでおいた方がいいね。」
「とりあえず、生徒会に提出する企画書早めに書き上げた方がいいでしょ。」
七恵も1、2年時に学級委員をしており、柚希は香緒里と共に生徒会をしていたため、この4人で話し合うとやらなければならないことがサクサク終わっていく。
「ところで、1年の時のC組のカフェの衣装クオリティ高かったけど、あれどこでレンタルしたの?買ったやつじゃないよね?」
七恵はそう香緒里に聞く。
今年の香緒里たちC組はカフェをやる予定である。
「あーあれは知り合い………というか秀人のお母さんに頼んだよね。」
「あー、新谷くんのお母さんってアパレル会社の社長なんだっけ。」
「え、そうなの?」
「家も金持ちとかほんとあいつ何者なんだよ……。」
柚希が言うと七恵は驚き、八代はややげんなりした顔をする。
「今年も何かあれば言ってねーとは言われてるから……ちょっと相談してみるね。」
「家族とも仲良いのすごいねぇ。」
「確かに仲良いかも……。雪音や沙世たちの家族とも仲良いけどね。」
中学からの付き合いになるのでお互いの家にも特に中学の時はよく行き来していた。
その中でも秀人の家には何か集まる時によく行っていた。
しばらく話し合いながらまとめ、提出する書類も仕上げた。
「じゃあ俺生徒会にこれ出して来るよ。」
「え、いいの?」
「いいよ、先に3人で帰ってて。」
そう言って八代は書類を手に取る。
「ありがとう、助かる。」
笑顔で言う香緒里を見た八代はちょっと固まり、その後溜め息をついた。
「吉崎さんさ、あんまりそういう顔、新谷以外の男にしない方がいいよ?勘違いする。」
「え……???そういう?」
「八代、ドンマイ。」
「ドンマイ、香緒里のかわいさは天然。」
分かってなさそうな香緒里を見て、柚希と七恵は生温かい目を八代に向ける。
香緒里に告白して振られた八代だが、そう簡単に諦められるわけはなく、しかもクラスメイトとして接点も多いため揺れているのだろうということは二人が見ていても分かる。
「これで俺が新谷に睨まれるの納得いかねーんだよなぁ……。」
と呟きながら、八代は書類と自分の鞄を持って教室を出て行った。
「なんかいけないことしたかな……。」
そういえば、去年も悠と似たようなやり取りをしたような覚えがある。
気を付けているつもりではあったが難しい……と香緒里は思う。
難しい顔をしだした香緒里を見て、柚希はちょっと笑う。
「良くも悪くも香緒里は素直でストレートなだけなんだよね。」
「あーそうだね、そんな感じ。そこがかわいいんだけどさ。」
柚希が言い、七恵も笑って同意した。
香緒里はまだ若干納得のいっていないような顔をしている。
元生徒会の日向里華のようにかわいい自覚がありすぎるのも困るが、なさすぎるのも残念ではあるな、と柚希は思う。
画面偏差値が高い集団にいるから基準がおかしいのかもしれない、とも。
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「あ、秀人。今年のうちのクラスのカフェの衣装、美鈴さんからレンタルすることになったよ。」
数日後、夜に談話室で勉強してる際に香緒里は新谷秀人に報告した。
「今回は隠さないんだな?」
「前回言って欲しそうだったから。」
1年生の時は、『驚かせたいから、秀人には内緒にしましょ!』と美鈴に言われていたため当日まで内緒にしていた。
「まぁ言ってもらえてた方がいいけどな……。母さん、文化祭は来るって?」
「うん、今年はちょうど休みだから来てくれるみたい。」
「……香緒里の方が母さんの予定知ってるってのもなんだかな……。」
時折、香緒里と美鈴はメッセージアプリでやり取りをしている。
彼氏の母親との距離感としてはかなり近い方だとは香緒里自身も思うが、娘のように可愛がって貰えてるのは嬉しい。
「香緒里のクラスはカフェやるんだっけ?メイド?」
「ううん、普通のカフェ。ウェイトレスとウェイターの格好はするけどね。沙世たちのクラスはお祭り?」
「そうそう。チョコバナナとかフランクフルトとか軽食売る予定〜。」
「いいねー何か衣装は着るの?」
「あー、うん、着る。浴衣。」
続けて香緒里が聞いた質問に谷中沙世は歯切れ悪く答えた。
「気乗りしなさそうだね?」
「いや、まぁ浴衣は好きなんだけどさ……。着付けとかヘアアレンジは多分私が大体することになりそうだし……」
「浴衣着るって提案したのが、山瀬さんなんだよね。」
安西雪音がちょっと苦笑いをしながら言う。
沙世は山瀬舞とあまり仲が良くない。
お互い相容れないと思っているし、何かと気に障ると思っている、特に沙世が。
「私のこと好きじゃないくせにさー、そういうとこだけ利用してこようとするのがちょっと腹立つんだよね。なんか雪音にも対抗意識燃やしてるし。」
「まぁそれは1年生の時からそうだったかなぁ……。」
自信家でナルシストの山瀬は、1年の時に秀人にアタックをかけていて香緒里をライバル視していたことはもちろんここのメンバーには周知の事実だが、同じく美人の雪音にも対抗心があったらしい。
「そういえば、山瀬は新谷のことは狙うとったけど、亮や圭の方へは行かんかったな。」
渡辺美愛は当時を思い返して言う。
秀人のスペックの高さを気に入り、好きになった山瀬。
スペックだけで言うならば、鮎川亮、圭も同様に高い。
「まぁ、亮は当時身長低かったし、圭はチャラかったからってのもあるんじゃない?」
「今は身長伸びたし、チャラさも減ったけどな?」
「うーん……山瀬のスタイル的には変わってはなさそうだから……あとは単純に顔の好み?」
沙世が予想すると、沢田真がそう言う。
2人とも、となるとやはり好みの問題もあるのかもしれない、基本は同じ顔なので。
圭的には、山瀬はちょっと傾向として元カノのくるみと近いところがあるので、好意を持たれない方が精神衛生上は良いなと思った。
「狙われないならそれに越したことはないけどねー。」
「面倒がなくていい。」
亮の婚約者である上原奈津はそう言い、亮も同意する。
奈津も圭と似たような理由で山瀬は得意ではない。
「圭くんも亮くんもかっこいいのにねぇ。」
須賀由美が何気なしに言ったその言葉に圭は一瞬固まった。
今までは気にしたことなかったその言葉につい心が乱される。
が、何事もなかったかのようにそのまま勉強を続ける。
一瞬揺れたその瞳を香緒里は見逃さなかった。
今日も揺さぶられてるなぁ、とそれを見て思う。
文化祭、大丈夫だろうか??
「ユウのクラスはお化け屋敷でしょ?大丈夫なの?」
渡辺直樹が鮎川悠にそう聞く。
「あー……まぁ、やる側ならまだいいな。あんま中には入りたくねぇけど。」
悠や秀人、石川翔太のクラスであるA組はお化け屋敷迷路をする。
毎年3年生のクラスの中から1クラス、第二体育館を使うことが出来る。
今年抽選に当たったのはA組だった。
「とりあえず、今年は女装しなくて良さそうだからもうそれだけで俺は文化祭を楽しめる……!!!!」
悠はそう言って拳を握り締める。
余程嬉しいらしい。
1年時はクラスの出し物でメイド服を着て、2年時は女装が似合うからという理由で女装コンテストに出させられていた。
悠自体は女装にかなり抵抗がある。
身長がついに180cmになったため、かわいいという理由で女装をさせられることは恐らくないだろう。
「今も女装したらそれはそれで逆に美人になりそうやけどな?去年の新谷みたいに。」
「絶対やらねーからな!!」
「え?それは振りなん?」
「振りじゃねーよ!」
ニヤニヤしながら言う美愛に悠は突っ込む。
「去年の秀人は確かに美人だったわねー。」
「いやーあれはびっくりしたよな。」
「悠も素質あると思うんだけどなー。」
「絶対やめろ。」
雪音と翔太は去年の爆美女となった秀人を思い出し、沙世は悠のことをジーッと見つめながらそう言った。
「なおちゃんも今でも女装似合いそうだよねぇ。」
「ほんと?身長伸びたけどまだいけるかな?」
「いけるいける、逆に美人になると思う。」
奈津にそう言われた直樹は両手を顎の下に持ってきてかわいく小首を傾げる。
直樹も身長が伸び、170cmを超えた。
が、元がクォーターの美形のためかわいい系のイケメンとなった。
「今の悠と直樹で去年の劇やっても面白いかもな。」
「あー確かにな。」
イケメン王子と高身長美人姫になるな、と圭と秀人は話す。
「去年のことは思い出すなよ!」
「えー王子ーつめたぁい♡」
「だからその裏声と話し方やめろって言ってるだろ!そしてくっつくな!」
悠は隣に座りに来てかわいいポーズをする直樹を押し返す。
「うーん、それはそれでありか。」
「沙世はほんとイケメン好きだね?」
「まぁね。でも一番好きなのは真だけどね!」
「そうかよ。」
じゃれる悠と直樹を見つつ言う沙世を見て香緒里と真は苦笑いをする。
2学期も始まり、もうすぐ文化祭準備期間も始める。
最後の文化祭シーズンのスタートに、香緒里は少しだけ胸が踊った。




