閑話 鮎川家にて
「ねぇねぇ、愛してるゲームしない??」
春休みに鮎川家でお泊まり会をしている時に、沙世は突然そう言った。
女子組は先にお風呂に入り終え、リビングで寛いでおり、男子組はまだいない。
「えー面白そう!一度やってみたかったんだよね〜。」
すぐに賛同するのはもちろん奈津。
「なんやねんそれ??」
「相手に向かって『愛してるよ』って言って、照れたり笑ったりした方が負けっていうゲームだよ〜女子同士だしやろーよー。」
そう言って、なし崩し的に始まった愛してるゲーム。
まずは言い出しっぺの沙世からである。
「雪音、愛してる♡」
「はいはい、ありがとう。」
「ちょっと!流しすぎじゃない!?」
「そういうゲームでしょ?」
ニッコリ微笑んで雪音は言う。
続いて、雪音は隣に座る香緒里を見た。
「香緒里、愛してる。」
「あの、ちょっと待って……」
「顔赤すぎない??」
「むしろなんでそんなに普通でいられるの……?」
「はいじゃあ雪音プラス1点、香緒里はマイナス1点〜、次は奈津に言ってね〜。」
次に香緒里は奈津を見る。
奈津も香緒里を見つめる。
「えっと……愛してるよ……?」
「よし、かわいい。」
真っ赤になりながらも言う香緒里に奈津は満足そうに頷いた。
「香緒里の初愛してるもらった!!新谷に言ったらどんな顔するかな〜」
「すごい複雑な顔するだろうね。」
「絶対言わないで……恥ずかしすぎる……」
「由美ちゃん、愛してるよ?」
「なっちゃんかわいすぎて無理………」
「あ、赤くなった。」
「はい、由美マイナス1点〜奈津はプラス1点!」
「これ組み合わせもあるね??」
「1周終わったら席替えしよっか。」
「まだやるの!?」
「美愛ちゃん、やらなきゃダメ……?」
「ゲームやからなぁ。」
「うぅ……愛してる、よ?」
「うちも愛してるで?」
「もう!美愛ちゃん!!」
イチャイチャしだす美愛と由美を沙世たちはにまにま見つめる。
「沙世、そんな余裕ぶっててええの?」
「え?」
美愛は沙世の隣に座り、手をその頬に添える。
「沙世、愛してる。」
「うぉわぁぁずるい!それはずるいよ美愛!!イケメン……!!!」
キリッと顔を決めて言い放つ美愛にさすがの沙世も照れる。
イケメンに弱い。
「やっぱり美愛ちゃんが強いかー。」
「この中だと攻めさせたら一番だろうね。」
奈津と雪音がその様子を見て話す。
「悠連れて来なきゃダメ?」
「いやー美愛は悠に対しても全然ノリで言えそう。」
「言われるのはダメじゃない?」
「そもそも悠が言えなさそう。」
「それはある。」
そうして順番を入れ替えて2周目が始まってしまった。
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一方その頃男子組はお風呂にいた。
鮎川家の風呂は従業員も入ることもあるので大浴場並みに広い。
女子風呂は隣の上原家にある。
「後でプラベしようぜー。」
「一人足りないだろ。」
「美愛誘う?多分やってくれるでしょ。」
先程までやっていたゲームの話をしながら湯船に浸かっていると、「そういえばさー」と直樹が悠に話を振った。
「ユウの初恋って、やっぱりミメイなの?」
「は!?なんだよいきなり!」
「美愛だと思うよ。」
「だろうな。」
自分で言う前に兄弟たちにバラされる。
後に引けなくなった悠は、
「……そうだよ。そう言う直樹はどうなんだよ。」
「オレ?オレはまだかなーそれどころでもなかったしね。だから今後のお楽しみ。」
楽しそうに言った直樹は次に圭を見た。
「え、次俺?俺は奈津だね。」
「あーやっぱりそこはそうなるのか。」
「一番身近な子だからね。」
亮も知っているようで特に何も言わない。
「亮はもちろん上原だろ?その中で悠だけ初恋が今までなかったのってちょっと面白いな。」
「悠は幼稚園上がってしばらくするまで、奈津のこと本当の姉だと思ってたからね。」
真が言うと圭はそう付け加えた。
「おい、揃って残念ものを見る目すんな!」
「なんかさすが悠だな。」
「確かによく一緒にいるとて、間違えるか…??」
「四六時中一緒にいたら4姉弟だと思うだろ!」
秀人と翔太は「思わねーよ。」と突っ込んだ。
「秀人は?」
「香緒里だけど?」
「お前もさすがだな……。」
圭が聞くと秀人はさらりと答えた。
「翔太は?雪音ちゃん?」
「雪音って言いたいところだけど、残念ながら初恋は幼稚園かなー。名前も覚えてないけど……あーでも雰囲気は雪音に近いかなぁ。」
次に真の方を見る。
「俺……?いやーまぁ……」
歯切れの悪い真は秀人の方をちょっと見た。
「え?秀人?」
「んなわけねーだろ!」
「……香緒里だろ?今更俺は気にしてねーよ?」
「まぁ、そう。」
「「は!?」」
秀人と真の発言に悠と圭は驚く。
そっか、そういえば高校に入ってからこの話を人にしたことなかったか、と翔太は思う。
「え?いつ?」
「中学の時。」
「いやいやいや初耳なんだけど!?真、香緒里ちゃんのこと好きだったの!?」
「別にだからと言って俺と真が揉めたことはねーぞ?」
「いやそうだとしても衝撃的すぎるわ!」
まぁ今の関係性を見れば驚かれるのも無理はない。
ややこしい事態にならないように、あまり話していなかったのもあるが。
さすがの亮も少し驚いた顔をしている。
直樹は面白そうに悠や圭の様子を見ている。
イケメン二人の初恋奪うとか香緒里ちゃん強すぎでしょ……と圭は思うも、香緒里ちゃんなら有り得るか、とも考える。
そしてだからこその一年生の夏の一件で揉めて拗れたのか、と妙に納得した。
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お風呂を上がり、リビングに男子組が辿り着いた時も女子組は未だ愛してるゲームをしている最中だった。
その様子を見た男子組………主に秀人、翔太、真、悠は固まった。
「えーと………何してるの?」
「あ、戻ってきたんだ。おかえりー。」
「何って見てわかるでしょ、愛してるゲーム。」
「そりゃわかるけれども。」
圭が聞くと奈津と沙世が反応する。
「今最後1周だからちょっと待っててねー。」
「ねぇ、秀人たちも来たからやめない???」
「ダメ、まだ私香緒里から言われてないもん。」
「勘弁して………。」
沙世は香緒里の元へ行き、急かす。
香緒里は秀人の方をちらりと見た後、さすがに聞かれたくないのか沙世の耳元で小さく言う。
沙世は満足そうににんまりした。
翔太は隣に立つ秀人の顔を見ると、「俺も言われたことないが?」と言いたげな顔をしていた。
「よしじゃあ私ねー由美、愛してるよ。」
「沙世ちゃん………勇気あるね……。」
「まぁ減るもんじゃないし。じゃあ由美は雪音にね?」
由美→雪音、雪音→奈津、奈津→美愛と繰り返した後、美愛は香緒里を向く。
「新谷の前でやるとなんか申し訳なさあるんやけど……まぁ、ゲームだし、許したってな?……愛してるで、香緒里。」
「………美愛、そのイケメンぶりはずるいって……。」
「悠まで赤くならなくてもいいんじゃない?」
「うるせー。」
圭が隣に立つ悠を見て言う。
耐性が無さすぎていっそかわいい。
「ユウ、愛してるよ?」
「お前もうるせー!」
きゅるんとかわいくポーズをして言う直樹の頭を悠は叩いた。
「せっかくだからさー、男子交えてやって、彼氏に言ってあげてもいいんじゃない???」
奈津が突如爆弾を投げ込む。
「無理……!絶対無理……!!」
「私、彼氏いないからセーフだよね……?」
「んーじゃあ由美ちゃんは圭か直樹で。」
「なんで……!??」
香緒里と由美は崩れ落ちる。
翔太と亮、圭は苦笑いしている。
「えー……じゃあ言い出しっぺからしてよー。」
「いいよ?」
軽く了承すると、奈津は亮の元へ行く。
「亮、愛してる。」
「知ってる。」
にっこり微笑んで言う奈津に、照れもせず少し笑って亮は答える。
「このカップル強すぎでしょ………。」
沙世はその様子を見て呟く。
皆同じ気持ちである。
「さぁじゃあ次は沙世ちゃんね。」
「うぇぇぇ………ほんとにやるの?」
真をチラリと見る。
普段のテンションなら多分いける。
でもこう改まると恥ずかしさが勝ってしまう。
その様子を見た真は沙世のそばに行き、頭を撫でる。
「いいよ、言わなくても。伝わってるし。」
「……それ、ずるすぎ。」
顔を赤くして沙世は真を見上げた。
「香緒里は?」
「………無理です……。」
断固拒否の香緒里に、秀人は近付き、覗き込む。
「無理?」
「…………無理。」
「じゃあ、そう思ってない?」
「そ……そんなことない………。」
赤くなり、手で顔を覆う香緒里は秀人はちょっと満足そうに、愛しそうに見ながら頭を撫でた。
「なんか空気が甘さで飽和してきたな……」
「ほんとね……」
翔太と雪音が周りの様子を見て言う。
美愛は悠に近付いてみる。
正直、ノリでいけば言えるとは思う。
「悠?」
「なんだよ……。」
「いっぱいいっぱいそうやから、やめとくな?」
「そうしてくれ……。」
「ユミー??」
「直樹くん、近い。」
「オレから代わりに言おうかー?」
「……いいです……。」
隣に座る直樹から由美はちょっと距離を取る。
美少年に接近されるのは少々心臓によくない。
「直樹、由美ちゃんがかわいいからってあんまりからかったらダメだよ?」
「あはは、ごめんごめん〜。」
圭は二人の間に手を出して遮る。
由美はちょっとホッとしたように表情を緩めた。
「翔太、どうする??」
「んー、もったいないから、二人の時に言ってもらおうかな。」
「わかった、じゃあ今度ね。」
「で、奈津、満足したか?」
「うん、みんな仲良さそうで何より。」
それぞれの反応を楽しんでいた様子の奈津を見て、亮は聞く。
奈津はにっこり微笑んだ。
平和な春休みが一番だ。




