閑話 推しが尊い
私、中村彩葉は緑ヶ丘高校に入学した直後、衝撃的な出会いをした。
校内にとんでもないイケメンを発見してしまったのだ。
現在は見た目ギャルでやらせてもらっているが、昔からオタク気質だった。
アイドルを追っていたこともあるし、2次元に推しがいた時期もある。
かわいい子もかっこいい人も大好き。
ミーハーなのは否めない。
ともかく。
私は新谷秀人先輩に出会ってしまった。
とにかくビジュがいい。
足が長くてすらりと身長も高めで。
きれいな癖のない黒髪に理知的な瞳、神が作ったのかというくらい無駄のない比率のいい顔。
100人いればその100人全員が「イケメン」と言うだろう。
私以外の女子達ももちろんキャーキャー言っていた。
おまけに噂によれば成績は学年1位でしかも毎度全教科満点、運動神経も抜群。
どこの漫画の主人公かというくらいのスペック。
大変推せる。
「ほんっと新谷先輩かっこいいよね〜。」
「お近付きになってみたいよね〜やっぱり男バスのマネになるしかないかなー?」
なんて周りの子たちも話している。
お付き合いしたいなんて烏滸がましいことは思わない。
私はあくまでファンである。
そんな新谷先輩に彼女がいる、という話はすぐに入ってきた。
空手部にいるとの噂を聞き、仮入部期間に見学に行ってみた。
他にも同じように考えた子達がいたのだろう、見学者はたくさんいた。
そして私はまた新たな推しに出会ってしまった。
吉崎香緒里先輩だ。
普段は清楚で知的で穏やかそうな美人なのに、空手をしていると最高にクールで凛々しくてかっこいい、ギャップ萌えだ。
これは新谷先輩の彼女であってもおかしくない、むしろお似合いである。
目の保養にいいカップル。
しかし、私は更なる衝撃を受ける。
その日、私は試しに男子バスケ部の仮入部をしていた。
もちろん、女子マネとして。
その帰り道のことだ。
私が第1体育館を出て帰ろうとすると、丁度吉崎先輩が第2体育館から出てきた。
視線の先には新谷先輩と女子バスケ部のこれまた美人な安西先輩、そしてサッカー部の石川先輩。
吉崎先輩は、新谷先輩を見つけるとパッと笑顔になって駆け寄り、そしてその近くに行くと新谷先輩の顔を見上げ、何も言わずに微笑んだ。
か わ い い
私と同様のことを周りにいた男子たちも、そしてもちろん新谷先輩も思ったのだろう。
手を取り引き寄せ、吉崎先輩に優しい視線を向けつつ、周りにいる私たちには冷えた視線を向ける。
私は膝から崩れ落ちた。
なんだあのカップル……!!!!
無自覚にかわいい彼女!そしてその彼女を独占し牽制する彼氏!!!!!
推す!!!!
そうして私は新谷吉崎ファンクラブ………後の秀かおファンクラブを立ち上げることを決意した。
また、この二人をなるべく間近で観測したく、男バスの女子マネになった。
空手部に入るにはちょっとハードルが高かった。
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ある日、私は小倉部長に頼まれて新谷先輩を食堂で探していた。
先輩は、いつものように吉崎先輩や他の仲のいい方々と一緒にお昼ご飯を食べていた。
見つけて声を掛け、用件を伝える。
は〜推しカプを近くで見れるの最高に幸せ……!
と思い、頬が緩んでしまう。
私に付いて移動しようとした新谷先輩が止まった。
振り返ると、なんと吉崎先輩が新谷先輩の裾を掴んでいる。
「香緒里…?」
「え……?あ、ごめん…なんでもない!」
無意識だったらしい吉崎先輩は、顔をちょっと赤くして慌てて手を離した。
新谷先輩は表情を少し柔らかくして、吉崎先輩の頭を撫で、低めの声で優しく、
「大丈夫、後でな。」
と言っていた。
おわぁぁぁぁもしかして私すごい今いい仕事した!?
したよね!?
私がヤキモチイベ発生させてしまったよね!?
でも新谷先輩すぐに察したね!?
スパダリか!?
尊すぎるその光景に、しばらくニヤニヤするのを抑えるので必死であった。
新谷先輩の傍でニコニコ嬉しそうに微笑む吉崎先輩。
吉崎先輩だけを優しい眼差しで見つめる新谷先輩。
その姿は校内で度々目撃されていたらしく、ファンクラブは増加の一途を辿っていた。
吉崎先輩が生徒会長に無事に就任されてからはまた一段と増えた。
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そうして迎えた二学期初日。
秀かおファンクラブがひっくり返るような事件が発生した。
吉崎先輩が倒れたのだ、学食で。
生徒会での文化祭準備、インターハイからの国体の練習。
大変にお疲れだったのだと思う。
問題はそこからだ。
床に倒れ込む寸前、新谷先輩が駆け付けて支えた。
そして直ぐさま額に手を当て熱をチェック。
の後にお姫様抱っこで保健室へ向かった。
私は声にならぬ悲鳴を上げた。
ちょうど私も学食に入ってきたところで、ばっちり間近で目撃してしまったのだ。
学食中、黄色い悲鳴と囃し立てる声が響いた。
そんな騒ぎにも新谷先輩は目もくれない。
私の隣にはファンクラブの友人もいた。
彼女も私と同じく呆然と立ち尽くしていた。
なんだ今のシーンは。
「今の、私の夢じゃない??妄想じゃない??」
「妄想じゃなかった、公式だった。やはり公式が最大手……!!!」
手を取り合って、感動を分かち合う。
推してて良かった……!!!!
秀かおよ、幸せであれ……!!!
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文化祭でも強かった。
男装する吉崎先輩のクールビューティーさイケメンさを堪能していると、突然ものすごい美女が出てきた。
多分私が今まで見た中で一番美女。
そして色気半端ない。
え?これ男性なの??
うちの学校の???このレベルの顔面偏差値なんてあの方しかいないのでは……?
と一瞬のうちに考えを巡らしていると、
「秀人………!?」
と吉崎先輩が言った。
え、ほんとに!?
いや、MCの佐倉先輩がアナウンスしたから確定なんだけど。
え、吉崎先輩今のでわかったの???
近くに来たわけでも話したわけでもないのに???
すごくない?????
出てきて数秒だよ?
やば、尊………。
拝んでいると、新谷先輩は吉崎先輩に近寄り、片手でその顎を持ち上げ、「驚いた?」と顔を近付け、笑う。
当然吉崎先輩は真っ赤。
これはあかんよ……!!!!
いつもと反転した性別、なのに力関係は変わらず。
イケメンの吉崎先輩すらも新谷先輩はものにする。
「尊すぎ………。」
私はまたもや膝から崩れ落ちた。
あのカプ強すぎ………。
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文化祭から数日。
日常に戻りつつある中、今日も放課後は部活だ。
秋季大会も近いので、バスケ部部員も気合いが入る。
そんな中、
「あ、後藤さん中村さん、秀人呼んでもらってもいい?」
天使もとい吉崎先輩がやって来た。
推しに話し掛けられてしまった……!
と固まっていると、私より先に咲乃は動き出し、部長の新谷先輩を呼びに行く。
「大会近いんだっけ?大変だねぇ。」
単独で話し掛けられてしまった!
どうしよう!
あはは〜そうなんです〜という微妙な返答しか出来ない!
吉崎先輩はお仕事中のようで、生徒会の腕章を付けていた。
「香緒里、なんかあったか?」
タオルで汗を拭きつつ新谷先輩がやって来る。
私はお邪魔にならないように少し離れつつ、様子を伺う。
「練習中なのにごめんね。」
「いいよ、部費の話?」
「うん、そう。この間の遠征費のことなんだけどーーー」
吉崎先輩が持ってきた書類を二人で見つつ話している。
新谷先輩の声も視線も、部活をしている時より柔らかい。
吉崎先輩は完全にお仕事モードのようだが。
「飽きないねぇ、彩葉も。」
「あのカプは飽きないよ……!」
戻ってきた咲乃にそう言われる。
「結局、新谷先輩が好きってことではないの?」
「そうじゃないんだなーまぁもちろんかっこいいし素敵とは思うけど、恋じゃないのよ。吉崎先輩のことも大好きだし。あの二人の関係性が尊くて大好きなの。」
「ふーん……??」
推し活をいまいち咲乃には理解してもらえないが、いいのだ。
「うん、それじゃこれでOKね。ありがとう。」
「いや、むしろ悪いなわざわざ来てもらって。」
「ううん、いいの。……ついでに会いたかったし。」
新谷先輩にしか聞こえないくらいのボリュームに下げて、吉崎先輩はそう言った。
私には聞こえる、耳がかなりいいので。
推しの声は聞き逃さない。
新谷先輩はそれを聞いて、優しく微笑み、頭をポンと撫でた。
「生徒会も、練習も頑張れ。でも無理すんなよ。」
「うん、ありがとう。またね。」
吉崎先輩も微笑む。
完全にお仕事モードが解除されている。
大変にかわいい。
去って行く吉崎先輩をしばらく見つめた後、新谷先輩は練習に戻る。
私が見ていることにも恐らく気付いていらっしゃるだろうが、一瞥したのみだ。
あ〜〜今日も推しカプが尊い。
女子マネしてて良かった〜。
これからも秀かおが幸せでありますように。
邪魔する者は秀かおファンクラブが全力で阻止します!!




