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一期一会  作者: 雪奈
第10章 梅雨闇に揺らぐ
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1、ある日の夜


5月末。

春の暖かさがまだ薄ら残りつつ、梅雨を思わせる湿気がやや鬱陶しく感じ出す頃。


「会長、これ確か今日までに回収だよな?」


吉崎香緒里が朝食を食堂で食べていると、同じ生徒会の小野一輝がプリントを持ってやって来た。


「うん、そう。各部に呼び掛けないと。」

「そしたら後で放送委員会にアナウンスしてもらうよう頼んどく。」

「ありがとう、助かる。」


生徒会長に就任して10日程。

慣れるよりも早く、来月に迫る体育祭の準備を体育委員会と共に準備をしなければならず、日々忙しい。


「香緒里、会長っぽーい。」


そのやり取りを見ていた谷中沙世が感心したように言う。


「毎日忙しそうよね、体調気を付けなよ?」

「ありがとう雪音、でもとはいえやること山積みなんだよね……。」

「年間スケジュールがエグすぎるんだよ………選挙、中間テスト、そのすぐ後に体育祭って意味わからん……。」


安西雪音がそう声を掛けてくれるも香緒里と一輝は二人でげんなりする。


「大変だな。」

「俺は割りとお前のこと恨んでるからな???」


他人事のように言う秀人に、一輝は恨みがましい目で見た。

なお、内心は香緒里のことを心配しているので他人事ではないのだろうが。


「秀人が生徒会やった方が絶対適任だったのに……。」

「悪いな、俺は高校で生徒会をやる気は全くなかった。バスケに専念したい。」


それを聞いて一輝は溜息をつく。

その一輝の目が後ろから手で覆われた。


「だーれだ♡」

「朝から気色悪い声出すな!」

「ぐふっ……」

「おはようトッキー、今日も朝から元気いいな……」

「朝からそのテンションでいられるのすげぇよな……」


一輝に肘鉄をされた佐倉時行に同じクラスの石川翔太と同じ野球部の沢田真が声を掛ける。

そろそろ一輝と時行のその絡みを見慣れてきた香緒里はそれに特にコメントすることなく、聞く。


「トッキー、どうしたの?」

「いや、かおりんとカズがいるの見掛けたから、生徒会のことかなと。」


立ち直った時行はそう言う。


「今日提出の書類の話よ。」

「今日は会議は遅刻してくんなよ。」

「善処はしましょう。」


8割がた遅刻してくる時行に忠告するも多分また遅刻する。


「そういえば一輝、藤村さんとは一緒じゃないんだ?」

「あー向こうで同じ部活のやつらと食べてるよ。お前らみたいに四六時中一緒なわけじゃないからな。」


翔太に言われると、食堂の奥の方のテーブルを見て一輝は言った。

香緒里たちはカップルになる以前から友人であるためずっといることに違和感はなかったが、言われてみれば他のカップルに比べると過ごしてる時間は多分多い。


「藤村さんって?」

「あぁ、うちのクラスの子で一輝の彼女なんだよ。」

「は!??一輝いつの間に彼女出来たんだよ!?」


翔太の言葉に丁度後ろの席に座っていた悠が驚いて振り返る。


「少し前くらいから。別に特に公言してるわけじゃないしな。」

「うちのクラスでは話題になったんだけどね。」

「秀人は知ってたの?」

「もちろん。というか俺と翔太は一輝の相談に乗ってたし。」


香緒里の問いに秀人は頷いた。


「俺知らねぇんだけど!?」

「悠に相談してもねぇ?」

「しゃーないやん、近くに爆モテする新谷と安心と信頼の石川がいるんやったら。わざわざ悠には行かんやろ。」

「気付かないのが悠らしいね。」

「部活中だとバスケのことしか考えてねーだろうからな。」


鮎川圭、渡辺美愛、上原奈津、鮎川亮にそれぞれ言われ、悠は項垂れる。

そこをまぁまぁと須賀由美が宥めている。


「相変わらず賑やかだねぇ。」

「お前には絶対言われたくないだろ。んじゃ、食事中に悪いな。また後で。」

「えー?もうちょい話しててもよくない?」

「まだ朝食べてねーんだよ、どうせお前もだろ?」


そう言いながら一輝は時行を引っ張って行く。


「生徒会って、柚希や他の子もだけど、キャラ濃いよねぇ。」

「香緒里や一輝の苦労が知れるな……。」


沙世と翔太が2人の後ろ姿を見ながら言う。


「まぁとにかく、無理するなよ?インターハイ予選も始まっててそっちも大変なんだからさ。」

「う……そうなんだよねぇ……部活にもしっかり行かないと……。」


秀人に釘を刺される。

空手部エースとしても部活は手を抜けないし、今年こそはインターハイも行きたい。

運動部ばかりの生徒会なので、会議や仕事をするのは大体昼休みか部活後になる。

社会人なら残業もいいところである。


「そういえば、みんなもう始まってるんだもんな、地区予選。」


秀人の話を聞いて思い出したらしく、真が話す。


「とりあえず順調に勝ち進んでるところが多いみたいね。」

「女テニは個人戦は何人か1回戦負けしてたな〜。」

「個人競技はなかなか大変だよね。」


香緒里の所属する空手部も順調に皆個人戦も団体戦も1回戦を突破。

この週末にまた予選の続きがある。

とりあえず中間テストは無事に乗り越えたものの、まだまだ課題がいっぱいである。



----------------


「では、今日の会議はここまでです。お疲れ様でした。」

「「「お疲れ様でしたー」」」


談話室も入っている多目的棟の4階には部活等の放課後会議で使われる部屋がいくつかあり、今日はその一室で生徒会と体育委員会の体育祭についての合同会議が行われていた。


部活にも力をいれる生徒が多い学校のため、大体の会議は生徒会の会議と同様部活後、夕食後となる。

全寮制故の時間帯ではある。

生徒の自主性を重んじる故に、学校からも特に何か言われることもない。


「はーー疲れたー!!!」


体育委員会が帰った後、生徒会メンバーで進捗報告会をしてようやくお開きとなる。

時行はべしゃっと机に突っ伏した。


「それじゃあ私たちは帰りますねー。」

「お疲れ様です。」


1年生の日向里華と手塚颯斗は帰っていく。

河村柚希は香緒里の前に会議の議事録を置いた。


「………うん、ばっちり。いつも丁寧に書いてくれてありがとう。」

「別に………あんたのためではないから。」


目線を一切合わせずに柚希は部屋を出ていく。

相変わらず嫌われているらしい。


「ユズもね〜もう少しかおりんに心開いてくれるといいよね〜。」

「相性悪いもんな、会長と。」

「まぁでも、仕事は丁寧にやってくれるから、とりあえずいいかなぁ。」


秀人のことが好きな柚希はその彼女である香緒里を嫌っている。

だがそれを生徒会の仕事には持ち込まないということは、本来真面目な性格なのだろうと香緒里は思っている。


「二人ともお風呂まだだって言ってたよね?早く入らないと大浴場閉まっちゃうよ?」


まだ残っていた時行と一輝に声を掛ける。


「かおりんは?」

「私は書類仕上げてから帰るから、気にしないで。」

「そっか。」

「無理すんなよ。」


残った香緒里は書類と睨めっこをする。

そういえば亮もよく談話室で書類見たりパソコンで仕事をしたりしている。

改めて考えると授業を受け、部活にも出て、仕事をしているってなかなか大変なことをしているんだなと感じた。

しかも会社の仕事だ、考える内容も難しいだろう。


流石に連日の会議やらインターハイ前の追い込みトレーニングやらで疲れて眠くなっているのか欠伸が出る。

部屋に戻ったら明日の英語の予習もしないといけない。


秀人は、みんなは今何してるんだろう。


「やっぱりまだいた。」


部屋の扉がガチャリと開いた音が聞こえ、顔を上げると秀人がいた。


「秀人、どうしたの?」

「風呂から上がった一輝とトッキーに会ったんだよ。二人が出る時香緒里がまだ仕事あるって言って残ったって聞いたから、まだいるだろうなと。もうすぐ消灯だぞ?」


スマホで時間を確認すると、寮内の共用部の消灯である22時まであと15分程だった。


「うわ、もうそんな時間だったの!?全然気が付かなかった……。」

「無理するなよって言ったそばからこれだもんなぁ……。」

「う、ごめん……。」


少し呆れた様子の秀人に謝る。


「これ、渡しに来たんだよ。」


何枚かルーズリーフを渡される。

そこには英語と日本語が書かれていた。


「これ、もしかして教科書の和訳?」

「そう。これから戻って英語の予習するつもりだったんだろ?」

「なんで知ってるの……。」

「時間割は沙世から聞いた。いつもは多分予習貯めしてるけど、最近忙しくてそんな暇ないんじゃないかと思って。」


大体授業の2回先くらいまでは確かに予習をしている。

連日の忙しさでそのストックは切れていた。


「香緒里の勉強を奪いたいわけじゃないからな?ただ、明後日またインターハイ予選だろ?なのに最近疲れて寝不足になってる。」

「う………はい、そうです……。」

「だから、明日の分の予習だけ渡すからさ、今日はしっかり寝てくれ。」

「ありがとう……。」


そこまで見ててくれたとは、気付かなかった。

正直めちゃくちゃ助かりはする。

もちろん予習をしたい気持ちはあるがもう既に眠気は来ている。


「っていうのはまぁ、建前。」


座る香緒里の前に立っていた秀人は目線を合わせてしゃがんだ。


「本音は、寝る前に香緒里に会いたくなっただけ。」


香緒里の目を見て微笑んで、優しく言う。

香緒里は自分の頬が赤くなるのがわかった。


「私も、ね。会いたいなぁって、思ってた……から、嬉しい。」


そんなこと言われると毎日会いに来たくなってしまうだろ、と秀人は思ったがなんとか胸の中に留める。

代わりに優しく頭を撫で、少しだけその赤い頬に手を振れた。


「戻るぞ。」


立ち上がった秀人に合わせて香緒里も荷物をまとめて椅子から立ち上がった。

電気消して戸締りするんだろ?と秀人は荷物を持つ。

部屋も片付け、戸締りをする。

消灯まであと5分くらい。


差し出された手を取って多目的棟の入口へ向かった。


雨が降っているのか、窓の外から雫の音が聞こえた。


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