1話 生まれ変わりと大根
大樹が目の前にある。
ただそれは、既に枯れてしまった大樹のようで、瑞々しい葉っぱは一枚もなく、ただただ枯れた幹だけが佇んでいるようであった。
ふと不思議なものが目につく。
大樹の根元に腰を下ろした、人の形をしたなにか。
それは干っからびた死体さんであり、こんな状態になるまで放っておかれたことを考えると、少しばかり不憫に思えてきた。
あたしは弔ってやろうと、手を合わせかけたのだけど、不思議なことに自身の手がないことに気が付く。
いや、身体そのものがない。
これは夢か、それともあたしもホトケさんになっちまったのか、今のあたしには判別ができない。
どうしたものかと考えながら、干っからびたホトケさんを眺めると、その両手には赤子が抱かれている。
これまた不憫。
生まれたばかりの赤子までがこんな姿になってしまうなんて。
手を合わせられないものの、心で弔うことくらいはできるはずだと、あたしは二人の成仏を願う。
そんな折に、干っからびた赤子の表面がパキリとひび割れ、植物の芽が顔を出す。
奇っ怪なこともあるものだと眺めていると、新芽がところどころから顔を出して、最後には真っ白な花が咲く。
奇っ怪な夢だと考えていたあたしだが、花を見ている内に身体が引き寄せられるような感覚に襲われる。
身体なんてものはないのだが、ぐぐっと引き寄せられていたのだ。
よくわからないままに身を任せてみると、次第に意識は遠のいていき、夢はここで終わった。
―――
「姫様、どうかお目覚めください。こんな状況ではありますが、生を受けたばかりの貴女様が身罷られるようなことは、あってはならないのです」
聞き覚えのない声が耳に響く。
何かを嘆くような声の主は、いったい何を嘆いているんだろうか。
「なんだい…煩いねぇ」
「姫様!」
「誰が姫様だってんだい、あたしゃ老いぼれの婆だよ」
「姫様…?」
目を開くとそこには、目鼻口が彫られた大根のような何かがこちらを覗き込んでおり、心配そうな表情を浮かべている。
…いや、この顔が心配そうなのかはわからないが、不思議とそう思えた気がする。
「なんだい、夢を…見てた気がするけど、その続きかい?」
「いえ、夢ではないのですが…」
顔をつねろうと手を持ち上げた時、ふと違和感を覚える。
あたしの手はしわくちゃだったはずなのだが、どうにも瑞々しい、子供のような小さな手をしているではないか。
「ほう、若返りの夢かい?…痛でで」
頬をつねってみたところ、どうにも痛みがある。
仕方ないので反対の頬もつねってみるが結果は同じ。
「…夢じゃない?」
「何名かのドライアド様の誕生に立ち会いましたが、ご自身の生を、夢だと疑う方は初めてにございます」
大根が喋り、古びた衣服を足元に置く。
子供用と思しき小さな服。
孫たちの小っさい頃の、だいたい五歳くらいのものにも思える。
短い手足に、妙に重い頭を考えると、あたしはそれくらいの年齢まで若返っちまったようだ。
「お着替えはできますか?」
「バカ言っちゃいけないよ。……あいたっ」
「お手伝いしますね」
貫頭衣を被るだけだというのに関わらず、身体がいうことを聞かない。
なんともまあ、子供の身体というのは不便極まりない。
…自然と受け入れそうになっているが、なんであたしは子供になっているんだろうか?
「なあ大根さん、あたしはどんな姿をしているんだい?」
「大根さんって…。私のことは一旦置いときまして、姫様は可愛らしい花人族の幼体にございます。御髪に見られる白い花は…茉莉花のものでしょうか、先代様と同系かと思われます」
この大根が何を言っているかはよくわからない。
ただ、髪に見られる花、という言葉から髪に手を伸ばして顔の前に持ってくると、シンプルな純白の花が所々に生えており、嗅ぎ覚えのある匂いがする。
これは…ジャスミンティーの匂いかね?
少しフローラルな感じが強い気がするが。
「どらいあど、っていうのはなんだい?」
「姫様はご自身の種族を理解できないのですか?」
「普通はわかるもんなのかい?」
「動物の赤子とは異なり、産まれた時には必要な記憶が備わっていますゆえ、ご自身への知識があってしかるべき存在なのです。…しかし、そうなると困りものですね」
大根は腕組みをしながら身体を傾けている。
どうやらあたしには必要な知識が欠落しているらしい。
仕方なしに記憶を探ってみると、婆だった時のあたしの記憶ばかりが思い出される。
一番新しい記憶…明日の仕込みを養子たちとして、消費税の増税だなんだって話をしていた気がするね。
もしかしてあたしは…死んじまった?
しかし、三途の川を渡った記憶もないし、閻魔様に会った記憶もない。
「はぁー…」
「どうかなさいましたか?」
「明日、孫が恋人を連れてくるって話をしてたんだよ。孫のためにも、恋人の性根を見定めてやろうと思っていたんだが、なんでこんなことになっちまうのかねぇ…」
「先ほどから…不可解なことばかりを口走っておられますが、姫様には何か記憶がお有りなので?」
「ああ、あたしゃ春原翠子っていってね、義父母の菓子店を切り盛りしてきたんだよ。
そろそろ孫も手が掛からなくなってきて、足腰も悪くなってきたから、養子たちに店を任せようと思ってたんだが、人生というのは急なもんだね」
大根は深刻そうな表情を浮かべている。
―――
「…先代様は、姫様の種を地中に隠された。もしかしたら現状を打破するだけの策を講じていたのでしょうか?………ですが、ご自身への理解ができていないというのなら、私めが教えるということになってしまいますね」
大根はぶつくさと独り言を呟いている。
「教えてくれるってならあたしも助かる。是非とも頼みたいね」
「そうですか。では姫様、いえスノハラミドリコ様とお呼びした方がよろしいでしょうか?」
「スイでいいよ。親しい人は皆そう呼んでくれていたから」
「かしこまりました」
最初に呼び始めたのは義母さんだった。
「ところで大根さん。あんたにも名前はあるんだろう?」
「名前は…先代様から頂いた大切なものがあるのですが、先代様亡き後それを名乗るのはいささか気が引けまして」
「へぇー。大根さんなんて呼び続けるのもあれだし……そうだねぇ、大介って呼ばしてもらうよ」
「承知しました。私の時間はさほど長くはありませんが、命尽きるその時まで、スイ様にご協力をいたします」
大介は先が長くないという。
話す植物の年齢なんていうのはよくわからないが、実際にそうなのだろう。
よく見ると、大介の手足にあたる部分は、その先から黒く変色している。
「それでは何からお教えしましょうか」
「『どらいあど』っていうのかな」
「花人族は、花の星神によって創造された種族に―――」
「…???」
「……。」
正直よくわからない。
孫たちがしていたピコピコの話を聞いている気分だ。
「わかりませんか」
「ああ、わからん。髪から花が生えてるし、あたしは大介みたいな動く野菜になったということかい?」
「えーっと…広義ではそういう認識でも合っています…かねぇ…。ただ、そういった物言いをすると憤慨する花人族もおりますゆえ、発言にはお気をつけください」
「わかったよ。じゃあ聞き方を変えるか、人間とはどう違うんだい?」
「人間族、ですか?」
「呼び名はよくわからんが、あたしは人間だったんだよ」
大介は怪訝な瞳をしている…気がする。
目の形に凹んでるだけなのに、感情がちっとばかし読み取れるような感覚があるんだ。
「人間族なのに花人族を知らない…遠い辺鄙の生まれだったのでしょうか……まあいいです。人間族との違いですね」
大介曰く。
『どらいあど』は人間とは異なり、日光と水を愛する自然の一部たる生き物らしい。
ただ、どらいあど毎に食事をしたりしなかったり、根を生やして地面から栄養を得たりと、個人の差が大きいとのこと。
加えて植物の成長を促進させたり、植物を管理したりといった力があるみたいで、植物と一緒に生きているのだとか。
「なんというか…理解に苦しむね」
「理解してもらわねば困るのですがね」
「孫の成長を楽しく見守るだけの婆だったんだ、冷えた鉄みたいなものさ」
そうは言ってみたものの、ここで目を覚ましてからは大介の言葉が頭に残りやすい気がする。…これが若さかね?
「今更なんだけど、あたしは何歳なんだい?産まれたばかりにしては大きい気がするんだけど」
「産まれたばかりにございます。花人族は他の種族とは異なり、知識を持ったまま産まれ、産まれ落ちた瞬間から独り立ちをする種族ですから」
「へぇ。…じゃあ、大介が口にしてる先代様っていうのが、あたしの親ってことかい?」
「親…というのも難しく、発生に関わった者というのが正しい間柄だと思います」
「なんだ、余所余所しい関係じゃないか」
「基本的に、花人族が群れることがありませんので」
なんともまあ冷血な生き物だことで。
「それでは先に説明した成長のスキルを使用してみましょうか」
「植物の成長を早められるんだっけ?」
「そうです。日光と水だけでも生きていける方もいますが、幼体の時期に栄養を摂取して悪いことはございません。いくつか管理していた種がございますので、それを成長させて食べてください」
「わかったよ」
大介が歩き出したので、あたしも追うようにして歩く。
「そういえば、ここはどこなんだい?」
「ここは先代様が育て上げた大樹、世界樹の枯れ木にございます。世界樹は枯れ、住民たちは全て去り、汚染ばかりが残るこの地の、最後の砦でもあります」
「なんだか大変だね」
「はい。この地、この時代にスイ様がお産まれになったことは、これからの未来を作り上げるためだと私めは考えております。
…長い時を経てでも、この世界樹の地を再び、緑豊かで賑やかな土地にしてください」
「産まれて間もないあたしに、とんでもないことを任してくるじゃないか」
「スイ様は私にとって…最後にして最初の希望にございますから」
哀愁漂う後ろ姿を目にしてしまっては、断ることは容易じゃない。
…こういった姿をあたしは一度見たことがある。
あれは戦争で婚約相手が亡くなったと知らされた時、嫁ぎ先の義父母から感じたものだ。
結婚がご破談となり、本来であれば義父母のことなど気にする必要などなかったのだろうが、あたしは二人を不憫に思い義理の娘として家業を手伝うことにした。
あの時の沈み込んだ雰囲気が、大介の中にもある気がする。
「仕方ないね。できることくらいはやってやるさ」
「ありがとうございます」
「それで………どうしてそんな状況になったんだい?」
「…戦争にございます」
聞かない方がよかったかもしれない。
けれど、いずれ知ることにはなったんだろう。
人がいれば、馬鹿者共が戦争をおっ始めるっていうのが、世の慣わしのようだ。
「大介」
「なんでしょう?」
「やれることはやってやるよ」
「…ありがとうございます、スイ様」
―――
少し進んで日光を浴び、世界樹というものを振り返ってみると、天高くそびえる枯れ木が立っていた。
見覚えがある気がしたが、きっと気のせいだろう。
そして目の前に広がる光景は、荒廃した街だった土地。
人っ子一人おらず、まばらに草木が生えているだけの、お世辞にも良い土地なんて言えない場所だ。
「こちらに種を用意いたしました」
大介の手には、尖った筆先みたいな形の、茶色い種が二つ握られている。
これは明確に記憶にあるんだが、なんの果物だっただろうか?
「これは…何の種だい?見覚えがあるんだけど、どうにも思い出しきれないんだよ」
「棗にございます」
「あ〜、小さい頃にお兄と食べたよ。なんなら食べ過ぎて腹を下しちゃってね、お兄といっしょにおっ母に怒られたもんだ」
「産まれたてのスイ様からあれこれと思い出話が出てくることに驚きを隠せませんが、楽しそうに語る姿から良い思い出なのだと察せられます」
「ああ、良い思い出だよ」
「ふふっ。それでは成長スキルを使って、棗を育ててみましょうか」
「すきるっていうのは力だと言っていたが、どうやったらそんな力が湧くんだい?」
大介は腕組みをして考え込む。
「とりあえず…地面に置いた一つ目の種に対して、力を分け与えるようなイメージをしながら『成長』と唱えてみてください」
「はいよ。……『成長』!」
何も起きない……なんて落胆していると、棗の種から芽が出た。そして時間を置かずにそれはぐんぐんと伸びていき、立派な棗の木が一本育ちきった。
「はぁー…凄いもんだねぇ、すきるってのは」
「ご立派にございます。……木の棒で突けば、実を落とせますかね?」
「なんだ、準備をしてなかったのかい。まあいいか、一緒に探しに行こう…あ痛っ」
頭に何か衝撃を受けたと思ったら、足元に棗が一つ転がっている。
運よく一つが落ったらしい。
それを拾い上げては服で表面を拭き、パクリと口に放り込むと、甚く懐かしい味わいが口に広がる。
しゃくしゃくとした食感を楽しんでいると、りんごを控えめにしたような素朴な甘みが口に広がり、あたしの舌を楽しませてくれる。
思い出の味、なんていうには少し弱いが、それでもお兄との思い出が脳裏によぎって、自然と笑みがこぼれていく。
「悪いね、先に食べちゃって」
「いえいえ、お気になさらずに。スイ様に必要な栄養ですから」
「そうかい」
ふと枝に実った果実を見上げて手を伸ばしてみると、不思議なことに枝が曲がって手の届くところまで降りてきた。
「おぉ!『植物操作』のスキルを取得なさったのですね!?」
「え?いや、よくわからないけど…なんか、手が届いたらいいなって思ってな」
「スキルの取得に明確な決まり事はございませんが、こうして新たな力を得られたということは、今後も様々な力を得られることでしょう。頑張ってくださいね、スイ様」
「まあ頑張ってみるよ」
「その意気です」
あたしは二人分の棗を採り、木の枝を元の形に戻してやった。
そういえば、棗の菓子っていうのはあんまり覚えがない。…強いていうなら干し棗くらい。
何かに使えるかね?
―――
あたしが産まれれ変わってから、数日の時間が経った。
現状は夢じゃないらしく、寝ても覚めても慣れ親しんだ皺苦茶の姿に戻ることはなく、5歳くらいの子供の姿だ。
さて、そんな現となってしまったあたしだが、少しばかり困った状況に陥っている。
「身体が上手く、動かせない…ね」
「やはり、ですか…」
「訳知り顔…かい?」
「はい」
大介は申し訳なさそうな表情を露わにしつつ、重そうな口で言葉を続ける。
「前にお伝えした通り、この地は戦争により汚染され、毒の充満する場所となっております」
「それがあたしに悪さしてるっていうのかい?」
「そうなります。この毒は生き物や植物を問わず、その体内の魔力の動きを著しく衰退させる働きがありまして、身体が衰弱してしまいます」
「……はぁ、産まれれたばかりなのに、もうホトケさんになっちまうなんて……運のない人生だね」
あたしは大介に対して『やれることはやってやる』なんて言っちまったのに、なんともまあ情けない。
「ただ、毒を受けた者の全てが衰弱し、死に至るわけではございません。私のように手足が黒く変色し、この環境においても活動できるようになることがあり、…私はスイ様が現状を克服してくれることに賭けております」
「なるほど…。悪くなったから…変色しているわけじゃないんだね」
「そんな風に見られていたのですか…」
なんにせよ、おたふく風邪みたいなもんかね?
はやり風邪みたいな苦しさは感じないが、どんどんと身体が動かなくなっていくような恐怖は感じる。
「なんか、やれることはあるかい?」
「…残念ながら、星に運を委ねるほかございません」
「そうかい」
あたしは朽ちている天井を眺めながら、目蓋を閉ざす。
記憶が正しければ、あたしは苦しんでからホトケになったわけではない。寝ている間に、誰にも別れを告げずに、世を去ったんだと思う。
そう考えると目蓋を下ろして、目に映る世界を断ってしまうのは、いささか怖さを覚える。
「大介、近くにいてくれ」
「承知しました」
―――
私、……大介はスイ様を見下ろしながら、己の無力さに震える。
先代様の遺児といって差し支えないスイ様のために、私はただ見守ることしかできないのだから。
花人族としては異質で、人間族だった記憶を持っているスイ様は…。
この穢く、そして毒く変わってしまった世界樹の地を、再び美しい都に変えてくれるのだと思いたい。
…きっとこれは、押し付けなのでしょう。
けれど私は、先代様がお作りになり、その美しさに誰しもが感嘆の息を漏らした世界樹の地を、復活させてほしいと希っている。
一年と保つことのなさそうなこの身体では、未来の都を望むことは叶いませんが。
それでもいいのです。今はただ…スイ様が毒を克服することを祈るばかりです。
先代様…貴女が命を賭して隠された種は、御子となってこの地に芽吹きました。ですので、あと一押しだけお願いします。
スイ様が根を伸ばしきれるように。
―――
あたしスイは目を覚ました。
喉が渇いた。腹が減った。
寝起きだというのに、あたしの身体は欲求に素直だ。
大介が昨日取ってきてくれた棗を食べようと思い、軽く身体を動かしてみると、不思議と動きにくさがなかった。
どうやら昨日の今日で治ってしまったらしく、大介が心配するほどのものではなかったようだ。
心配性なのかもね。
「大介、いるかい?………?」
返事はなかった。
上体を起こして周囲を見回すと、しわしわになった棗が積み上がっている。
…なんとなく、いい予感はしなかった。
あたしが立ち上がると『昨日』よりも視線が高く、見下ろした身体や手足は、細長くなっている。まるで成長したみたいに。
そして意識を向ける部分は、黒く変色してひび割れの入った腕と脚だろうか。
手の指先から肘上、足の指先から膝上くらいの範囲が、黒く変色しており、その境目には黒いひび割れが広がっている。
触ってみるも、実際にひび割れているわけではなく、そういった模様らしい。
毒を克服できたのだろうか?
あたしは大介を探そうと歩き出したところで、壁にもたれ掛かり干っ乾びた大根を見つける。
「……。あたしゃどんだけ眠ってたんだろうね」
干乾びた大根には目鼻口があり、細くなってしまったものの、大介と同じくらいの大きさだ。
色々と教えてもらうはずだった。大介のために頑張ってやるはずだった。
それらは泡となって消え去ったらしい。
「…?」
大介の足元には、文字の書かれた木の板が転がっている。
それは日本語でないのにも関わらず、不思議とすらすらと読み進めることができた。
『スイ様、貴女の目覚めを待つことなく先立つ私めをお許しください。
貴女の眠り続ける最中、手足の黒化が進み始めたのを確認できましたので、憂いなく旅立てることをここにお約束いたします。
さて、スイ様に色々とお教えすることをお約束いたしましたが、時間が足りず申し訳ございません。必要最低限ではございますが、必要そうな知識と物品は用意しておりますので、それらをご活用ください。
私にとってスイ様は、終わりの間際に舞い降りた一縷の希望にございます。私の望みを叶えてくれる可能性のある、最後の種です。
ですが、それを使命とは思わないでもらいたいのです。スイ様にはスイ様の生涯がありますゆえ、気が向いた時や、思い出した時にでも世界樹の地を緑豊かな都にしてください。スイ様ならできます。
私は先代様の許に向かいますが、スイ様はお元気で。再会は遠い彼方の時にお願いします。
大介より』
「まったく…見送ることすら叶わないとはね」
あたしは壁に寄りかかった大介を抱き上げ、世界樹の外に出る。
この世界樹は大介に取って大切な、先代様とやらの育てた大樹だ。
その根元に埋めてやるのが一番だろう。
大介を地面に横たえて穴を掘っていると、大介から一つの種がこぼれ落ちる。
大根の種というには大きな、胡桃くらいの大きさをした種。
何の種かは分からないが、大介にとって大切なものなんだろう。
あたしは、大介と一緒にその種を埋めて、成長のスキルを使ってやる。
ぐんぐんと成長したその樹は、葉や幹から朧げな光を放っている。不思議な樹だと眺めていれば、樹の根元からは青々とした草が生え始め、周囲に広がっていく。
どんな戦争で、どんなやつらが、どうやってこの地を穢したかは分からない。
けど、この新樹は、現状を打開できるだけの何かで、大介が遺した希望なのかもしれない。
「じゃあね、大介。先代様とやらと仲良くね」
あたしは手を合わせ弔ってから、踵を返す。
戦争なんていうことを仕出かす馬鹿者共の後始末を、あたしはやらなくっちゃいけないんだから。
―――
それから二年ほどの時が流れた。
花人族というのは成長が早いらしく、十五歳ほどの見た目になっている。
日課の散策がてら使えそうな廃品を集めていると、獣の耳を頭に生やし、獣の尻尾を腰から生やした人を見つけた。
「これは…なんだっけ?」
「…ぅ」
ひっくり返すと人間のような顔があり、口からは小さな呻きが漏れ出た。
どうやら生きているらしい。
とりあえず助けてみよう。
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