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再生のプロローグ  作者: 出落ちの人
二望の過間編
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第36話 消えた残り

 僕、空閑(くが)形真(けいま)はベッドに包まりながら、スマホの画面を眺めていた


 短い秋も終盤に差し掛かっているので、朝というのは冷える。こうして起きてすぐは、何かに包まっていないと始まらない


 画面左上部に小さく表示されている時間は「5:00」


「そりゃ、冷えてるわ……」


ベッドの隣を見てみると、いつも敷布団で寝ている形兄(けいにい)の姿はなかった


 スマホが振動を始め、電話がかかってきたことを知らせてくる震え、小さな通知音が鳴る。渋々ベッドから体を起こしてから、スマホの画面を見ると、小澤(おざわ)翔也(しょうや)さんからだ


 大きなあくびをしながら開いてみると、案の定例の宝石店強盗の新しい情報が来ていた


 元々実行犯グループの確保及び捜査をしていた警察の人員、実質的な捜査本部は解散になり、OWAからの無能力者の引き渡しに必要な最低限の人員のみしか残っていないらしい


 今は捜査第四課という、組織的な犯罪者グループの捜査などをする課が当事件の捜査をしているとのこと


 現在確保済みの実行犯からの聴取で、どうやら当事件はネット上のいわゆる闇バイト募集なるもので集まった人達らしく、そういう事案は四課というものがやるらしい


 ちなみに翔也さんも解散した1人であるらしい。しかし、可能な限りの情報提供はまだやってくれるらしいので、お言葉に甘えて知りたいことは今のうちに聞いておこうと思う


 とりあえず、まだぼやけている目を擦りながら寝室を出る。居間にも形兄はいなかったので、この感じはすでに任務か何かに出ているのだろう


 椅子を引き、一息ついて腰を降ろす


「…(かん)事件のことでも聞くか」


 間事件はOWA日本支部における、任務のあり方を変えるきっかけになる事件らしい


 以前正吾さんに聞いた時、そのせいで間事件は未だ警察の管轄下にある事件であり、OWAが無理に首を突っ込めるようなものではないと言っていた


 だが今回の事件は、恐らく間事件で未だ捕まえることが出来ていない最後の1人が関係しているのが、僕でも分かる。この状況で間事件に首を突っ込まないのはおかしいだろう


 ということで、間事件の一切について知りたいという旨を翔也さんに連絡し、とりあえずはスマホの電源を落とした


 特に何の意味もなく、テーブルに置いてあったリモコンを取ってテレビの電源を点ける。早朝なのでどのチャンネルもニュース系しかやっていない


 例の感染症でネットが一般的になっている近年で、一々こんなニュース番組を見る僕は色々遅れていると自分でも感じる


「全部同じだな…」


 全てのニュース番組は例の強盗、ではなくそれの大元であるらしい犯罪組織関連の報道ばかりだった


 例の強盗からもう一週間は経つ。しかしOWA(こっち)のほうでもこれといった進展もなく、気付くとニュースではそれに関する報道もほとんどなくなっていた


 自分で調査しようも何も、どこから何を始めなければいけないとかも分からないのは前提として、僕自身がそういうことが自主的に出来るような性格をしていないのが問題だ


 とりあえずは、翔也さんから間事件の詳細が送られてくるまで待つしかない


「おっはよーございまーす!!」


 突如入り口の扉が勢いよく開けられ、元気のいい挨拶と共に優が入ってきた。結構大きな声で鼓膜が震え、まだ傷が残っている顔の右半分が痛む


「ちょ、声デカい…」


 優は普通にリビングに入ってきて、珍しく早く起きている僕を見て驚くような顔を見せた


「んぁ?形起きてたんだ。ま、健康的な日本男児にとって、早起きは三文の徳だよね~」


「えぇ…じゃあ優は何なの」


「んぇ?男女差別?殺すよ?」


「いやいやいや…なんでなんで……」


 そうして僕は優と結構な時間、適当に駄弁った。会話の内容はこれといって特徴のない、わざわざ優がこっちに来て話すようなものでもなかった


 話ながら、僕は時々スマホを確認して翔也さんから連絡が来ているか見ていたが、既読と了解のスタンプがついただけで、それ以上の連絡はなかった


「──で、始めて優里に勝ったんだよね~」


「へー…でも大駒落ちでしょ?結構なハンデなんじゃ──」


「いーや!勝ちは勝ちだかんね、異論は認めん」


「えぇ…」


 そんな感じで話していると、優はちらりと時計を見て、何かを決めたようなことを呟いて立ち上がった


「よし形、食堂行こ」


 優にそう言われて時計を見てみると、時計はすでに6時半を過ぎていることを示していた。僕は優について行き、食堂で志田(しだ)優里(ゆうり)さんと合流した


 そのまま3人同じテーブルで朝食を取ったが、さっきと特に変わらないような、他愛のない会話が繰り広げられた


「そういやさ、優里ってどんな能力持ってるんだっけ?」


 どんな流れの会話だったかは分からないが、何かの拍子に優が優里さんにそう聞いた。聞かれた優里さんは、少し驚いたような顔になる


「あれ、言ってなかったっけ?まぁ減るもんじゃないし…いいか」


 優里さんはそう言うと両手を構え、急に僕らに対してデコピンをしてきた


「え、何──」


 数秒の間、デコピンの痛みが続いた。ジーンと痛みが残るというものではなく、デコピンをされた瞬間の衝撃が変わらず残り続けているという感じだ


 しかも、何でデコピンをしてきたのかという驚きがその数秒の間、頭の中に残り続けて他の思考に移れなかった


 そうして数秒後にそれらから解放され、優の方を横目で見てみる。多分優も僕と同じ状況になっていたのか、横目でも困惑しているのが見て取れる


「これが私の能力、『心体衝撃の延縮(フォーエバー)』って呼んでる。私が対象に与えた思考的だったり、身体的な衝撃が対象に与えられ続ける時間を延長したり短縮したり…まぁそれしかできないけどね」


「なるほ……ってことは攻撃を当てて、今みたいに相手を永遠にフリーズさせるってことをするってこと?」


 そう聞く優に対し、優里さんは少し笑いながらそれを否定する


「そんな長々できないよ。与えた衝撃の強さが多ければ多いほど延長できるのは長くなるけど、それでも一番長くて10数秒。思ってるより使い勝手はよくないと思うけどね」


「あんなクソコンボ決めておいてよく言うぜ……」


 優里さんの隣の席に、いつの間にか鍵山(かぎやま)正吾(しょうご)さんが座っていた。正吾さんはこういう突如現れる節があるが、なんだかもう慣れてきた気がする


 正吾さんの顔は、物凄く不機嫌そうに見える。クソコンボと言ったが、優里さんがクソコンボを正吾さんに対して決めたという解釈でいいのだろうか


「いや~、クソコンボに対抗できない正吾の方が悪いでしょ。2度も3度も引っかかって……」


「あ”ぁ”!?ざけんな、あんなクソコンボどうやって対策すりゃいいんだってんだよ?!」


「はぁ!?能力性能は圧倒的にあんたの方が上でしょ?逆になんでそれで対策案が出てこないの!?」


 なんか気付いた瞬間、2人の口喧嘩が勃発していた。その陰で、2人の後ろに形兄があきれ顔で突っ立っているのが目に入った


「形兄、おはようご…おはよう」


「おはよう形真。すまなかったな、何も言わずに出てて」


 僕は恐る恐る優を見てみる。優はテーブルの下で向かいにいる形兄達に見えないように、親指を立てていた


 一応僕は優から実質的な強制で、敬語抜き大作戦なるものをやっている。今突如思い出して抜くのを意識見てみたが、どうやら良かったらしい


「んで、まだ7時を回った朝っぱらから喧嘩してるのかは知らんが…正吾、頼みたいことがある」


 形兄はそう言うと、正吾さんに何やらUSBのような小さな物を渡した。正吾さんと優里さんの口喧嘩はあっさりと終了し、真剣な顔になる


「防犯カメラ映像…?今日の朝いなかったってことは、形…形司がこれを?」


 最近気づいたのだが、正吾さんから形兄に対するあだ名は多分「形」で、優から僕に対するあだ名と同じだ。今正吾さんが言葉を一瞬詰まらせたのは、多分そのせいだろう


 何だか、申し訳ない


「あぁ、俺…いや厳密には形真の負ってる任務に関係するんだがな。例の宝石店周辺の防犯カメラ映像を拝借してきたってところだ。事件前後の映像も入っている」


「つーまり、俺に残りの実行犯の足取りを可能な限り見つけてほしいってわけね?りょーかい、行くぞっ形真くん」


──────────────────


 ということで僕は正吾さんの寮の部屋を訪れていた。訪れたのはAT(アニマルトレード)の一件以来で、凄い久しぶりだ


 僕は適当な椅子に座っているが、正吾さんはパソコンに面と向かって何やら作業をしている


「──をこっちに移した…よし。形真、へいパス!」


 急に正吾さんは何か小さい物体を投げてきた。僕は少し慌てながらも、無事にキャッチした。それはUSBだった


「んであと…このノートもだな。パスワードは『ハゲカス野郎』を小文字アルファベットだ」


 正吾さんは席を立ち上がり、ノートパソコンを僕の目の前に置いた


 今から僕は、例の宝石店周辺の防犯カメラの映像を1つ1つ見ていくという、長い単純作業を行っていくことになる


 映像の数は少ないが、見なければならない映像の長さは結構途方もない。動画サイトでよく見るような長尺動画なんて比にならない、余裕で10数倍にも上る


「…正吾さんって、こういうのよくしたりするんですか…?」


「ん?まぁ良くやってはいるな。んでも、そんな心配するもんじゃないぜ。一応専用のツールがあるから、それを使えばあんたが想像するより圧倒的に早く終わる」


 そうして僕は正吾さんにそのツールの使い方を教えてもらい、その作業を開始した


 正吾さんは、僕の想像より圧倒的に早く終わると言っていた。しかし現在時刻は午後3時を回った頃、多分僕の想像くらいの時間はかかっている


「やっぱ消えてる……形真、お前の方はどうだ?」


「こっちも…多分これは、消えてると思います」


 実行犯が逃走に使った黒いバン、それが近くの河原に乗り捨てられていた、というのは前の警察の操作で判明している


 場所が場所ということもあり、バンが河原に到着した瞬間を捉えている防犯カメラは、結構遠目から見ているものしかなかった


 到着の瞬間を捉えるところは見えても、バンの内部を確認が出来ない。しかも夜ということもあり、到着以前から内部を確認することが出来ない


 そこが、問題だった


 正吾さんは到着直後、実行犯であろう人達がバンから降りてくる映像を見ながら人数を数える


「──3人、4人…やっぱ足りねぇ、足りねぇぞ……消えてやがる…?」


 警察からの情報、防犯カメラの映像から実行犯はバンの運転手を含めて計6人。現在確保しているのは運転手を含めて4人


 逃走時にバンに乗っていたのは5人だが、恐らく警官2名を能力で地面に埋めたと思われる人物がその後にバンに乗ってきているのは、他の防犯カメラ映像で確認している


 つまりバンに乗っているのは6人であると確定しているわけだ


 しかし正吾さんが数えている、バンから降りてきている人物の数は4人…2人足りないのだ。他の防犯カメラ映像を確認する限り、バンがどこかで止まって残りの2名を降ろしたような様子はない


 2人がまるまる消えた、というわけである


 それが判明したのは今から3時間くらい前で、そこからずっとそれに関しての迷走が続いている


「正吾さん…一旦ちょっと、休憩しません……?」


 僕は真剣に画面を凝視している正吾さんの背中に向って、そう声をかけてみる。画面とにらめっこを始めてもう7時間ほどは経っており、その間僕らは一度も休憩を取っていない


「…休憩?あ、やべ…ぶっ通しでやってたか。すまん、形真のこと何も考えてなかったわ。そうだな、一回休憩取るか」


 案外、あっさりと正吾さんは休憩の誘いに乗ってきた。そうして僕と正吾さんはパソコンの電源を落とし、床に座って休憩を取った


 結構目を酷使したので、瞼の上から目をグリグリとマッサージする


 正吾さんはココアを入れたマグカップを持ってきてくれた。僕はありがたく受け取り、少し啜ってみる


 少し肌寒くなってきているこの時期に、ココアというものは体に良く染みる。だが、僕は出来立てというものを考慮せずに啜ったため、舌を普通に火傷した


 まるで犬のような舌の冷まし方をしていると、正吾さんは「気ぃ付けろよ~」と言ってきた


 そうして少し経つと、正吾さんがゆっくりと口を開いて話しかけてきた


「形真、消えた2人のこと…どう思う?」


「え…どうって、どこら辺のことですか……?」


「どの辺って…能力だよ、能力のこと」


「あ、能力……いや、特に考えてなかったです。いつ何処で別れたってことしか…」


「なるほど、いい意味で形真は一般的な目線だな。逆に羨ましいぜ…んまぁ、とりあえず消えた2人はどっちも能力者なのかってことだ」


 正吾さんは、持っているマグカップを置きながらそう聞いてきた


 どっちも能力者、という可能性は全く頭になかった


 言われてみれば、もし消えたのが能力の影響だとすると、残る能力者の能力が埋まる能力だと能力の一貫性がなくなって色々と辻褄が合わない


「確か、すでに捕まってる4人の中に能力者は1人だし……両方とも能力者は…まぁある気はします」


 ちなみに、その4人のうちの1人の能力者の能力の条件(フラグ)は本人曰く、犯罪成功による一次的な感情の高ぶりらしい


「まぁ、あるよなぁ…とすると本当にわけの分からない状況になってくるな」


 正吾さんがそう呟いた時、僕のスマホが震えた。画面を見てみると、翔也さんからだ


 どうやら間事件の資料を手に入れたらしく、指定した場所に来てほしいとのことだ


「…その翔也って奴…誰?」


 気付くと、正吾さんが僕の背後からスマホの画面を覗きに来ていた


「あ、えっと…この人は、今回の事件の警察官系の人です」


「はぁっ!?警察関係者ぁ!?」


 突如、正吾さんは声を張り上げた。僕は驚いてスマホを落としかけるが、間一髪でキャッチする


 僕は何が何だか分からず、正吾さんを見ながらただハテナを頭に浮かべる


「あっ、そうだ。形司とか優とかがお前アルタの説明寝てたって言ってたな……いやこれは教えとけよ」


 正吾さんはため息をついて、僕の目を見て話し出す


「いいか形真くん、俺たちOWA隊員は基本的に警察関係者とかを含む、一般人との連絡先の交換は禁止事項になってる。ほら、入ったときに家族とかの連絡先消しただろ」


 言われてみれば、そういう事をした記憶がある。当時は全く意味が分からないままやっていたが、そういう意図だったのかと初めて知った


「ち、ちなみに…何でですか…?」


OWA(俺たち)は基本的に一般社会に対して存在を秘匿している立場。もしそんな奴が適当なインターネットのSNSを使ってみろ?その穴から雑菌が入ってOWAは立ちまち崩壊、ってのを防ぐためだ」


「あの…一応協力者っていう立場の人でいるんですけど…この人……」


「協力者…だとしても正式な許可がいる。その顔だとしてねぇだろうし、下手したらそいつもお前も首が飛ぶぜ」


 顔が青ざめてくる感じがする。自分のせいで翔也さんの首が飛ぶ…?


「まぁ、他の奴に言わないってなら問題はないだろ…俺は別に人の違反を、委員会に報告するような質じゃねえし。特に変なことなきゃ変ぁ…な」


 僕は「委員会…?」と小声で呟いたが、正吾さんの耳には届いていないようで、元の席に戻り、置いていたマグカップを手に取って口に持って行った


「ま…連絡を取るのも今回の事案までにしとけよ。俺以外だと形司とか優にバレるのは良いだろうが、他にバレたらたまったもんじゃない。一段落ついたら、連絡を絶つのが吉だぜ」


 連絡を絶つ、というのは無断でやっていいものなのだろうか。何も言わずにそういうのを人にするのは、僕的には何だかしようとは思えない。一応、どこかの場面でそれを翔也さんに言っておこうと思う


 そう考えていると、正吾さんは飲み終えたようでマグカップを持って立ち上がり、シンクに向かった


「とりま、今日のこの後の残りは俺がやっておく。形真は行くところに行って、受け取る物を受け取ってこい」


「え、読んだ…というより、良いんですか…?」


 実行犯2人が消えたあの謎は、3時間かかっても僕たちは分からなかった。なのに僕が翔也さんのところに取りに行くと、正吾さん1人で考えさせてしまうことになる


 正吾さんはこの任務に半ば巻き込まれた形なので、流石にそれは申し訳ない


「大丈夫だ。防犯カメラを使った能力者の追跡なんて大体こんなもんだ。一応許可が出れば青憂団(せいゆうだん)のスパコンもどきも使えるし、心配はいらんぜぃ」


 正吾さんはシンクでマグカップと向かい合って洗いながら、僕に向けて親指を立てた。僕は持っているマグカップに入っているココアを飲み干す


「ごちそうさまです。じゃあ…行ってきます」


「うむ、行ってら」


 僕は空になったマグカップをシンクの中に静かに置き、正吾さんの部屋を出た


 そして正吾さんの部屋の扉の前で、翔也さんから指定されている場所を確認する。見たところ、例の宝石店とは離れているようだ


「…まずは準備か」


 そうして僕は、形兄の部屋へ向かった


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