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リーナが歯を食いしばる。
「……まだよ!」
風が渦を巻き、杖の先で濃縮されていく。
「ウィンドカッター!! ウィンドカッター!! ウィンドカッター!!」
連続する風の刃が、雷鳴のような音を立てランディスに向かう。
「ウィンドカッター!! ウィンドカッター!! ウィンドカッター!!」
さらに続ける。
観客席が息を飲む。
ランディスの表情がわずかに変わった。
(避けない!?)
「おおおおっ!」
大剣に魔力を込め、受け止める構えを取った。
衝撃がフィールドに響く。
ドォンッ!!
砂埃が舞い上がり、地面に大きな溝が刻まれた。
リーナの息が荒くなる。
「はぁ……はぁ……!」
「……見事だ」
砂埃の向こうからランディスの声が聞こえる。
やがて煙が晴れ――
ランディスは片膝をついていた。
観客席がざわめく。
「ひ、膝をついたぞ……!」
「Aランク上位相手に、あの威力……!」
リーナ自身も目を見開いた。
「……当たった……?」
だがその直後、ランディスは笑って立ち上がった。
「まさか俺に、膝をつかせるとはな。……大したもんだ」
その目はまだ戦意を失っていない。
「今の六連撃、合格点だ」
ランディスが大剣を構え直した。
「だが――まだ終わりじゃないぞ。リーナ、次を見せてみろ!」
リーナの喉が鳴る。
疲労はあるが、目の奥に恐れはない。
(やれる……! ここからだ、リーナ!)
「次は、これよ!! ウォーターショット! ウォーターショット! ウォーターショット!」
三連射の水弾が、弾丸のような速度でランディスへと飛ぶ。
だが――。
「甘い!」
ランディスは一歩踏み込み、〈大剣〉をなぎ払った。
鋼の壁のような剣圧が生まれ、三発のウォーターショットは霧散する。
それでもリーナは止まらない。
「なら……これでどうッ!」
彼女の足元に魔力が集まり、風が巻き起こる。
「ホバームービング!」
ふわりと浮かんだ足取りのまま、リーナは一気に側面へ滑り込むように移動した。
ランディスが驚きに目を見開く。
「ほう……!」
重戦士タイプのランディスは、この急激な横移動には反応が一瞬遅れた。
「ここっ!!」
リーナは空中で身体をひねり、風魔法を同時発動する。
「ウィンドカッター!!」
鋭い刃風がランディスの肩口に走り――
ガキィン! と火花を散らしながら鎧を切り裂いた。
観客席がどよめく。
「おおおっ!?」
「当てたぞ!? Aランク上位に!」
ランディスが一歩後退し、肩から血を一筋だけ流す。
しかし、その顔は怒りではなく――歓喜だった。
「やりやがったな……!!」
ランディスの瞳が燃えるように輝き、次の瞬間――
大気が震えるほどの踏み込みが来た。
ドンッ!!
地面が割れ、粉塵が巻き上がる。
Aランク上位らしい、理不尽なまでの質量と速さを兼ね備えた突進だ。
「っ――!」
リーナは反射的に後退しようとするが、
(速い! これじゃ――避けきれない!!)
俺は奥歯を噛みしめ、拳を握る。
この距離、この速度。
どんな上位冒険者でも避けるだけで精一杯のはずだ。
だが、その瞬間――。
「はぁぁぁっ!!」
リーナが――
自分から前へ踏み込んだ。
「なっ……!?」
ランディスが驚きの声を漏らす。
逃げれば追われる。
ならば、あえて間合いを潰す。
そんな発想、普通はできない。
大剣が振り下ろされる。
頭上に落ちる鉄塊の影。
リーナはほんの指先ほど姿勢をズラし、
刃の風圧だけを頬に受けてかわした。
「おおおおっ!!」
「す、すげぇ……!」
観客席が騒然となる。
リーナはその刹那、左手を大剣に添えて軌道を外し、
体をひねってランディスの懐へ潜り込む。
彼女の動きは流れるようで、まるで舞踏のようだった。
「まだだぁっ!!」
ランディスが即座に大剣を振り戻す。
横薙ぎ。
リーナの体は宙に浮かび、ホバームービングでギリギリの回避を行う。
鋼の斬撃が空を裂き、風圧だけで観客席の髪が揺れた。
「くっ……!」
リーナの額から汗が一筋落ちる。
だが、瞳にはまだ諦めがない。
「これでもくらえっ!」
風の魔力が渦巻く。
「ウィンドカッター!!」
風の刃がランディスの腕をかすめ、火花が散った。
いいぞ!! いけるぞ、リーナ!!
ランディスは怯まない。
大剣を肩に担ぎ、低く構える。
「これでどうだ!!」
次は突き。
狙いは心臓。
貫かれれば当然、試験はそこで終了――いや、普通なら命がない。
「う……!」
リーナは咄嗟に身を回転させ、魔力で軽く地面を蹴る。
紙一重の回避――しかし風圧だけでも体勢が崩れる。
ランディスが笑う。
「いいぞリーナ! 付いて来い!」
「まだ……まだいけるっ!」
リーナは息を荒げながらも、構え直す。
足元に水の魔力が溜まり、キラキラと光る。
「ウォーターショット! ウォーターショット! ウォーターショット!」
三連射。
だがランディスは大剣を盾のように構え、次々と斬り払った。
飛び散る水しぶきが光の粒となって宙に舞う。
それでもリーナは止まらない。
ここだ……今しかない!
水しぶきでランディスの視界がわずかに乱れた。
リーナの足が地を蹴る。
風が流れる。
風の魔法が彼女の体を加速させる。
「いっけぇぇぇっ!!」
リーナは風の軌跡を残しながらランディスの真正面へ飛び込む。
そして――大剣の振り上げ動作を読み切り、体を滑らせて懐へ潜る。
ランディスが気づいた時には、もう遅かった。
「えいっ!」
掌底で――
ランディスの顎をバシッツと突いた。
一瞬の静寂。
そして次の瞬間――。
「――っぶははははははは!!」
ランディスは豪快に笑いながら、その場に片膝をついた。
「参った、参った!! 完全に一本取られた! ……ちょっとは痛かったぜ!」
観客席が大爆発のように盛り上がる。
「勝った?? やったの??」
リーナは呆然と立ち尽くしていた。
胸を大きく上下させ、信じられない表情でランディスを見る。
「……っ、わ、わたし……ほんとに……?」
ランディスは豪快に笑い、親指を立てた。
「文句なしの合格だ、リーナ!!」
リーナは呆然としながらも、息を切らしつつランディスを見つめた。
「……わ、わたし……合格、ですか?」
リーナの目が大きく見開かれ、次いで潤む。
「……よかった……っ!」
よし……! 本当にやったな、リーナ!
俺とカイは抱き合って喜んでいた。
これにて第4部終了です。
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