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ルナ外伝 ~月の約束~ 4

 「はぁ……はぁ……参った……」


 「お前は1番マシだな」


 故郷では神童とまで言われるほどに圧倒的だった。


 生まれた時から誰かの組み手の姿を見てたからか、飲み込みの早いフリードは類い希な肉体と溢れる才能でムーンハート家最高傑作なんて呼ばれる。


 ソラの一族であるだけでも強さの象徴でありながら、中でも突出したフリードは大事に育てられた。


 全てが自分の思い通りにいく、何かが欲しい時は執事やメイドが何でも与え、暴力という力で全能感に浸っていた。


 コーゴーに入ったのも通用すると確信していたからだ、自分の才能があればたった数年でも特等聖戦士にだってなってやれる、その気しか無かった。


 しかしコーゴーはあらゆる場所から神童や悪魔などと呼ばれてきた者達が集う場所。


 だからこそ自身が井の中の蛙だという事が痛いほど理解出来てしまう。


 そんなコーゴーの育成同期ですらも神童っぷりを見せつけ、絶対的な立ち位置を勝ち取りもはや負ける事は無かった。




 ──彼以外には。




 あれは強いとか弱いとか、そういった価値観の外側にいる存在なんじゃないかと思い始めている。


 無表情のまま変わることは無い、どんなに汚い手を使っても効かない、どんなときでも自分たちではなく未来ばかりを見ている気もした。


 フリードは確信する、あれこそが特等聖戦士になれる存在だ、自分はそうではなかった、と。




   ※ ※ ※ ※ ※




 同時期に育成戦士から晴れてコーゴー戦士の仲間入りを果たした両者。


 配属先は両者共にホーウェン班となった。


 コーゴー最高戦力とされる特等聖戦士、その個性的な人々の中心となり、さらに実力も特等聖戦士内でも最強格と称されるホーウェン・フェンリル。


 その下に入れた事はこの上ない幸せだったが、ルナも同じだった事は少し気に食わなかった。


 さらには常に2人1組で任務に当たるコーゴー戦士だが、なんと指示ではルナとバディになれとの事だった。


 激しく後悔しつつも、コーゴー戦士としての日々を過ごす中で僅かずつ、本当に僅かずつ2人の距離は縮まっていく。




   ※ ※ ※ ※ ※




 「未だに何かの間違いかと思うぞ、俺とお前がダチってさ」


 「そうだな」


 2人の絆が深まった理由は特別でも何でもない。


 ルナは無関心だっただけで嫌っていた訳では無く、フリードも嫌っていなく尊敬はしていた、それだけの話だ。


 コーゴーの職務は本物の化け物でも無い限り1人でこなせるようなモノでは無い。


 つまりコンビを組んだ2人は必然的に互いを必要とし、協力してどこよりも速く成り上がっていったのだ。


 しかしたった1つの野望に魂を燃やし突き進んでいくルナを見て、フリードは自ら限界の線を引いてしまった。


 追いつけ、置いて行かれないように、あいつにしがみつけ……そう自らを鼓舞してきたが、1度得てしまった確信はそう簡単には剥がせない。


 ルナは特等聖戦士となる事が約束されたような存在、宿命なのだろうと、その確信は揺らがなかった。


 「もう秒読みだな、特等になるのも」


 「……ホーウェンさんからはまだまだと言われているがな」


 「いやいや俺のお眼鏡は秒読みだって言ってんぞ!」


 「お前のかよ……」


 「でもよ、特等と上等でこんだけ差があんのはやっぱコーゴーすげぇって思わせてくれるよな……化け物揃いだもんな」


 「……確かに全員が最強格なのは認める、特にホーウェンさんは突出している、間違いなくコーゴー最強だ」


 「だよな~、隙がねぇし、完璧っていうか……」


 「だが最強とは枠組みが違う、もはや最強(・・)などとは逸脱した無敵(・・)の存在もいる、我が道を行き、誰も越えられない無敵の存在が」


 上等聖戦士は特等専属戦士(セカンド)を除けば最も特等聖戦士と接する時間は長く、そこで強者のオーラをひしひしと感じることが出来る。


 「誰だそりゃ」


 「──シキシマさんと……アインさんだ」

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