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召喚獣の億劫  作者: DTスナギツネ
始まり
1/10

プロローグ 召喚

1月いっぱい頑張って毎日投稿したいと思います!

よろしくお願いします!

「私は力なき召喚者、どうかこんな私に少しの力を貸してください。」


自分の背丈より少し短い程度の杖を両手で握り、目をつぶったままに前に押し出すと少女は祈るように詠唱した。


実に短く、そしてぎこちない詠唱だった。同じくらいの年の魔法使いたちはもっと長く、それでいてスラスラと高度な呪文を言ってのける。


それでも思いだけは誰よりも強く込め、ただ願った。


師匠は詠唱の厳密さや、その内容よりも大切なのは心だと教えてくれた。


少女の手に握られたロッドと呼ばれる木製の魔法杖の石突が地面にぶつかり黄色の光が突如地面に伝わり波打った。


その波紋はやがて収束し、やはりというべきか円や三角、四角と言った複雑とは言い難い簡素な形が重なって描かれる。


ジジジッと安定せずに境界が何度かブレたあとにようやく魔法門とロッドとが繋がった。


時として、魔法陣はその呼称を変える。そうさせるのは発動させる魔法の性質ゆえであり、今回の召喚魔術はまさにその一つであった。


術師は魔力により現象を起こすのではない。境界を曖昧にし、門を築き異世界との扉を開け”呼ぶ”のだ。


ロッドの先端にはオレンジの水晶が埋め込まれとおりその大きさは少女の握りこぶしより一回りも大きい。


「すぅー……はぁーーー……」


少女は深呼吸をして呼吸を整えると緊張を解こうと頭の中で何度も大丈夫だと自分を励ます。


「何度も練習したから……きっとできる……!」


言い聞かせるように意気込んで息を呑みロッドを握る手に力を込めた。もちろん物理的な力なんていうのは必要なく、力んでしまうのはその未熟さとこの呪文に込める気持ちの強さの表れだ。


それが功をなしてか、下手にカッコつけて巧くやろうとするよりも端たないなりに成功させようとする思いが良い結果を生んだ。


師匠や相弟子達が魔法を使う時と同じ様な感覚がようやく肌を伝わって分かった。これは握りしめたロッドの水晶が周囲の魔力を吸っていることの他ならない。


自分の体を風ともつかない何か透明のものが通り過ぎていくような感覚に見舞われて、水晶がオレンジ色に強く発光した。


少女は声に出さず、心の中でよし、よし。と成功の実感を反芻する。


そのまま順調に魔法は進み水晶から木の棒を伝い、地面に魔力が注ぎ込まれる。


それに答えるかのように魔法門は脈動を始めた。


魔法門が小刻みに跳ねるのと連動して自分の鼓動が早まっていくのを感じる。


もしかしたら成功するかもしれないという興奮と共にこの先で失敗したくはないといった緊張が入り混じって、集中力はこれほどまでにないだろうというほど研ぎ澄まされる。


魔法門の中心部に黒い稲妻が走り、空気が振動し小さく穴があいた。


奈落を思わせるそこの見えない暗黒がジワリと口を広げ綺麗に魔法門を飲み込む。重要なのはこの先だ。


周囲の魔力が小刻みに揺れ始め、少女はそれが何かを待ってソワソワとしているんだなと思った。


お願い。と心の中で呟くと待ってましたと言わんばかりに魔力が地面に空いた穴に引き寄せられていく。


それを確かに感じ取れば、ロッドを握る手にさらに熱が篭る。


穴と水晶、その両方の引力に惹かれ、どちらを選ぶべきか戸惑う魔力がその間で優柔不断に揺れ動く。


これで、これで成功だ。


この後は神頼みか自分の運というのを信じる他にない。


ギュッと目をつぶって何度も見返したおとぎ話を思い出す。召喚獣と共に数々の魅力的な冒険を繰り出すありふれたあの話。


憧れが高じて目指した召喚術師。だがしかし現実は上手くいかず私の目に映るのはいつも失敗して開ききらない魔法門と既に召喚に成功した同い年の子達の喜ぶ顔だ。


一体どれだけの失敗を重ねただろう。召喚獣と共に歩き、共に笑い合う人達を見て何度自分と重ねただろう。


いつも枕を濡らすばかりでいい結果は帰ってこなかった。


私の不器用さと才能のなさを見かねて何度諦めろと言われたか。


相弟子からはからかいを通り越して哀れみの目を向けられ、両親にさえ違う道もあるんじゃないか諭される。


だけど、師匠は違った。


毎晩密かに寝部屋を抜け出し月に祈りを捧げ杖を掲げる私を見て頭を撫で、あなたならできるよと疑いの一切ない目で信じ抜いてくれた。


魔力が水晶と暗闇との間にどんどんと集まり一固まりの餌となって収束してゆく。


「お願いっ! お願いっ!」


いつの間にか、声が漏れていた。


既に自分が扱える魔力の限界は越している。だけどここで引き下がれない。


私の事を信じてくれた師匠にようやく報いることができるかも知れないのだ。そんなチャンスを逃すなんてことなど出来るわけがないと少女はただ思う。


あたりにバチリバチリと雷撃が走って長く、淡いピンクの髪に火が付いた。


周囲の魔力が小さくはじけて辺りが光に包まれる。


衝撃が体にも伝わって体が焼けて、皮膚が薄く切れる。それでも、それでも。


「来てっっっっ!!!」


その切実な願いに周りで見ていた者たちは無意識に息を呑み、心の中で頼む。と願っていることに気がついた。


バチリッ


大きな雷が少女の周りをひとまわりして周囲が大きな光に包まれた。


突風が吹いて、飛んでくる小石に目も開けることができない。


これが最後だとバチバチバチッと少女の周りで何重にも重ねって魔力が破裂する。


バチンッッッッ


「フォートッッッッッ!!!!」


最愛の弟子の名を叫んで駆け寄る女性がいた。途中で止めるべきだった。しかし彼女には止めることができなかった。


誰よりも頑張るその姿を一番近くで見ていたから。だからこそ続けさせてやりたかった。


そんな自分の身勝手な願いのせいで一人の少女の身を危険にさらしてしまった。女性はそれを酷く悔いた。


駆け寄ると既に爆発は止み、光の中から少女が現れた。地面の穴はとうに消えてたどり着くとふらりと揺れて女性の腕の中に少女はすっぽりと収まった。


「ししょぉ……」


「ばか……」


自分を抱きとめた存在に気づくと傷だらけなのに顔いっぱいに嬉しそうにいつものように女性を呼ぶ。


そんな少女を見て師匠と呼ばれた女性は涙を流して抱きしめた。


「ほら……見て師匠……」


美味しそうな匂いがした。僕たちの暗い世界に小さな穴があいて光が差し込んできたんだ。


不安とか怖いなとかいっぱいの感情を押しのけてワクワクしたんだ。


ようやく、飛び出せるんだって。


この殻から飛び出した先でママが待ってるんだって。


お腹がペコペコの僕を待ってたのは誕生を祝う色鮮やかな光と最高のご馳走だった。


周りをかける雷を飲み込んで爆発のシャワーを浴びたらデザートにひとまとまりの魔力を口に含む。


夢中になって食べて、幸せな気持ちになって、僕を産んでくれた人を見たんだ。


とってもとっても大きくて、なんでか傷だらけで、でもピンク色の長い髪がとっても綺麗で、僕に優しくて、包み込んでくれるような笑顔を向けてくる。


「ドラゴン……」


僕がママの傷を心配して、舐めてあげていたらなにか声がした。


黒髪のママよりもっと大きくて。


クルルルルゥゥウゥ


「大丈夫……大丈夫だよ……」


唸る僕の頬を撫でてママはそういった。


その人はママをとっても大事そうに抱いて、ママの言うとおりに敵じゃないよって示すように、なにか棒を手放した。


アレがなんだかわからないけどきっと牙みたいなもので


だから、安心して、ママに撫でられると眠くなって……


ママのお腹は暖かかくて……。



十五センチほどとあまりに小さい、しかしその姿形はドラゴンそのものだった。


フォートに駆け寄る女性を見て確かに召喚術師を守るように小さな牙を向け唸ると大気に溢れる魔力が小さな守護者の集まった。


魔力はまるでドラゴンの手足のように自在に動き喉奥へと収束した。


その小さくとも恐るべき力を持った召喚獣が今はフォートに頬を撫でられ召喚主の腹で丸くなって眠っている。


その全てに驚かずにはいられなかった。しかし師匠と呼ばれた女性にとってはそのどれもが優先すべき事柄ではなかった。


膝と頭を持ち、召還獣と共に眠りこける愛弟子の腕を自らの方に回すと抱き抱えた。


まずは治療だ。


生きてさえいればどうにでもなるだろう。そう結論づけた女性は静かに微笑み治療室へ少女と一匹のドラゴンを運ぶのだった。

1日目です!

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