001 強襲
昼前に調べた魔法適性をもとに、学徒たちは二つの組に分けられた。教師の監督のもと、一人ずつ魔法を放つ。そんな授業だった。
俺は水、土、風をひとまとめにしたグループの一員。9番のくじを軽く睨みつけながら、風仲間はいないだろうかと同グループの魔法を眺めていた。
どがんと、轟音が響く。地鳴りを錯覚させる振動と、冷えてきた季節に似合わないぬるい突風、数瞬だけ太陽の役割を奪った閃光。
何より、振り返ってこちらを見た彼女の笑顔。今でも鮮明に思い出せる。
洞穴の中でパチパチと響く焚き火の声が、俺をまどろみから呼び起こす。背中に当たる冷たい岩の感触で、ここが村ではないことを思い出した。
2か3秒。惨状の記憶が蘇り、眠った頭を働かせるまでにかかった時間だ。
すぐさま、隣で倒れたままの彼女の脈と呼吸を確認する。
「…ふぅ」
ふっと飛びそうになった意識を無理やり呼び起こして、痛む背中を擦りながら立ちあがる。
彼女が起きるまで、せめて夜がちゃんと明けるまでは起き続けなければ。
村はどうなっただろうか。いや、壊滅以外あり得ないのは分かっている。だが、それでも育った故郷のことをそう易々と忘れられるはずがない。
「でしゃばるんじゃねぇ、役立たずの騎士様」
それでも、きっと大切な場所なはず。
「フェド」
小さく、俺の名が呼ばれた。
「ロア」
振り向いて、駆け寄って、膝をつく。地に腰掛けている彼女は、そんな俺を見てか小さく笑う。
無事で良かったとは心から思うが、なんか馬鹿にされている感じがしてほんの少し気に食わない。
「その…村は、どうなったの」
「逃げたのは俺…だけだ。年寄り含めて、みんな戦ってた」
「あたしも、多分逃げてたよ。おんなじ状況なら。戦闘魔術なんて知らないし…うん」
言い終わった直後、ロアは頭を抱えながらため息をつく。俺も、ため息。
目が合って、二人して苦笑する。
「ロアはもうちょい安静にしてて。頭打っての気絶だし。ちょっと薪と食べ物取ってくる」
「おかえり、フェド」
ゆっくりと起き上がったロアが、俺の抱えた品々に目をやる。
「ただいま、ロア」
戦果を見せつけるように、抱えた薪と食料をほんの少し掲げる。
それから、消えてしまった焚き火に目をやった。
食料をそばに置いて、乾いた枝を何本か組んで、点火魔術を使おうとする。
その途中。
「待って。あたしがやる」
「そう? なら、任せる」
ゆっくりと床に腰掛ける。そろそろ日が上り始める時間だ。
気づけば、上半身は床に吸い寄せられる。
「魔物、いた?」
「…いや、見て、な、ぃ…」
ゆっくりと、睡魔は俺を飲み込んだ。
湿っぽい薪もあったが、それでも焚き火になってくれた。照らされた彼の寝顔を眺める。
「…近場の魔物が、一斉に村に突撃。知恵のない生き物の動き方ではないよね」
しかも、これは2回目。偶然でもない。
彼が持ってきた木の実ときのこ。それらに毒がないか識別魔術で調べながら、ぶつぶつと独り言。
「タチの悪い魔術研究者。もしくは」
教養の授業で聞いた単語が、頭に浮かんだ。どこか童話の世界の話だと思っていた種族の名。
「魔族の、強襲」




