第四章 夏期魔導実技集中補習④ 2-Bの奇人たち-羽川洋輔と内海乃美、ついでにバカ魔力-
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オープニング曲『Pride yourself』
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補習授業4日目。
本日2-Bも午後番なのだが、澪は朝から学校にいた。生徒が学校へ来ている、ということは、風紀委員会の仕事がある、ということだ。本日の当番なのである。
風紀の仕事と言っても黒坂のような「問題」がそうたびたび起こるわけはなく、「防衛システム」というよりも「ボランティア団体」としての仕事がメインになる。一番多い仕事は「箸の貸し出し」。貸し出しと言っても忘れてきてしまった生徒に割り箸を1膳手渡すだけではある。それだけならいっそ風紀委員の部屋の前に「ご自由にお持ちください。」とでもして置いておけば、と思うところだが、かつてはそれで丸ごとゴッソリ持って行かれたことがある。こうした迷惑行為をする者は、場所も時代も選ばないものなのだ。
午後番のクラスは午後に来る、と思いきや、夏休みだということもあり、バカンス気分で午前中から来る生徒が多数あった。澪が昼の見回りで3階渡り廊下から中庭を見下ろした時にはあちこちで昼食を広げていて、まるで行楽地かと思ったほど。「暑いのに…」と思いつつも、「その手があったか」とも思った。とはいえ…大樹と連絡を取るのに一苦労、そのアイディアは却下された。同居しているのに? 確かに「ひとつ屋根の下」ではあるのだが、澪は風紀の仕事に加えバイオリンの練習もある。大樹はといえば夜遅くまでバイトで、午前は学校が無ければ昼前まで眠っている。同じ高校3年生なのにずいぶんと生活サイクルが違い、一緒に住んでいる割には顔を合わせる機会がない。携帯があるならメールなりなんなりで、と思うところだが、大樹が慣れていないせいで家に忘れてきたり充電されていなかったりと、携帯はその本来の役目を果たせずにいる。それに――――澪の中で、「大事な用件」は直接伝えるという大樹のお世話番から生まれた無意識の不文律があるので、「会って話す」のが当たり前となっていたのだ。
さて、今日も実技補習が始まった。本来なら週に2~3回の授業が毎日なのだ、さすがに生徒も飽きてくる。しかしその中に一人、やけに顔色の良い者がいた。それはのちの話として。
本日の課題は物体操作。主に土要素の実力判定といった趣き。レーンに敷き詰められたタングステン球の上に積まれた10m先のレンガのタワーを崩すのが目標である。タングステンは金とほぼ同じ比重を持ち、実に重い金属。昨今では釣り用オモリとして使用されることが増えたおかげで容易に入手できるようになり、レーンに敷かれているのもそれを流用したもの。糸を結ぶ部品を付ける前のものを業者から大量購入した。ただでさえ重いタングステンの上に、重いレンガを積み上げてあり、タングステン球を動かすことでレンガのタワーを崩してみろ、ということだ。『地面』に対する操作だから土要素に秀でる者が有利。そもそも土要素はレアスキルなのでこの課題を突破できる者はなかなかいない。誰もが手も足も出ず無力感が支配する中、そこへ飽きが重なるから誰もがダレるダレる。
しかし我らが澪はこんなムチャ振りの課題にすら真剣に取り組むのだ。
「う、うううう、うう、 …ダメだぁ」
土要素に多少は心得のある澪ですら、さすがにタングステン球を自在に操るのは無理である。
「うへぇぇぇ…ビクともしなかったよぉぉぉ…」
まるで昨日の大樹を彷彿とさせるようなガックリぶりで大樹たちの元へ戻ってきた。
「おつかれさーん、澪ー」
「うん…本当に疲れた…」
ガックリを通り越してまるでゾンビだ。
「なぁ、お前の風ってヤツで、どーんとブッ飛ばすわけにはいかねぇの?」
「できれば苦労はしないわよぉ。やっぱりね、風って結局空気だから、質量、対象の重さが問題なのよね。さすがにレンガほどの重さがあるとピクリとも動かないの」
「あのスゲー奴は? なんかこう、ズドーンと飛んでくヤツ」
「空穿? ダメダメ。その程度じゃ全然よ。どのくらいの風力が必要なのか、前にお父様にお願いして計算してもらったの。あのね、『三匹の子豚』って童話があるじゃない? あれ、一番末っ子の弟ちゃんがレンガで家を作って、それをオオカミが鼻息で壊そうとしたでしょ? それを例にとれば、余裕でオオカミの鼻が壊れちゃうくらいの風速。鼻息でおうちを壊すより、鼻血で壊す方が先になるって感じよ。空穿をもっと圧縮すればっていうのも計算してもらったんだけど、それだとレンガが動くより壊れる方が先だって」
楽しそうに語る澪に、大樹は別な思いを重ねた。
(こいつ、そんなことまで考えてんだ…)
なんでもかんでもとりあえずブッ飛ばせばいいと考える大樹にとって、こうした緻密な思考で同じことをやろうとしている澪は不思議な存在に見える。そういえば尾関愛波は澪の魔導を称して密度の高い構文、と言っていた。今さらながら澪の魔導の本質を理解できるようになった大樹である。
「次。神代」
「うっす! ほんじゃ行ってくる」
「うん。がんばってね」
「ひろっちもウチらと同じ残念組に入ろー!」
「まぁ、そうなりそうだがな…」
やれやれとブースへ着いた大樹。しかしなんとなく、何とかなりそうな気もした。自分にできないことを澪ができるなら、澪にできないことが自分にはできるのではないだろうか? 根拠はないが、そんな予感めいたものがある。
「ちと試してみっか… …とりあえず、バラバラになって全部落ちろ!」
久しぶりに使う「とりあえず構文」。そしてやはりというか… …レンガは素直だった。
パンッ パン パパンッ パンッ…
まるでレンガ一つひとつが「バラバラなればいいのね! あいよ!」とばかりに爆竹のような音を立て爆ぜ飛んでいく。結局すべてのレンガがパンパン弾けて赤い砂の山になった。
「形を維持したまま…って考えてなかった…」
大樹は… …頭を抱えてしゃがみ込んだ。
「先生、済まねぇ…」
「…構わん。爆発しなかっただけ今回はマシだ…」
落ちた拍子に割れるレンガはあるだろうとは思っていたが、まさかすべて砕けるとは。さくらも軽く想像を超越される。
「…バカ魔力…」
誰かが言った。
「バカ魔力だ…」
「なんてバカ魔力…」
これを機に「AMI0」「PM星人」に続く第3のあだ名「バカ魔力」が、大樹に追加された。
ともかく、レーンの真ん中にこんもり赤い山ができたため、レーン1つが事実上閉鎖。残り2レーンで実技は続く。そしてこの男の登場だ。
「フ ハ ハ ハ ハ ハ。我が雌伏の時は終わった。ここからは我の独壇場よ!」
羽川洋輔。あのクラス委員の羽川である。上機嫌だったのはこの男。例のごとく謎の文語体で登場だ。羽川はAMI値1.5ながらも土属性を得意とする。性格はアレだが、スキルはレアなのだ。
「何言ってんの羽川。土要素なら私でしょっての」
「ぬぬぬ。お前はっ!」
「お前は、って、さっきから隣にいるっての」
内海乃美。羽川と同じく土を得意とし、AMI値は羽川をわずかに上回る1.6。二人は1年のときからのライバル同士。現在までの勝敗は羽川5:乃美6。なかなかの好勝負だ。
「みのみがんばれー」
「羽川、負けんじゃねぇぞー!」
みな飽きているのでこうした「イベント」にはノリノリだ。
「どっちだ?」
「羽川に1本」
「そんじゃオレは内海に1本」
男子はどこでもだいたいこんなもの。購買の自販機の売り上げに貢献するのである。
「AMIなら私の方が上だからね」
乃美の煽りに
「AMI値の差が能力の絶対的な差ではないことを証明してみせようっ!」
羽川がどこかで聞いたようなセリフで受けて立つ。煽り合いに「ギャラリー」は大喜びで盛り上がる。騒がしくなれば普段は諌めるさくらだが、こうして競い合うことで互いの能力を向上できるなら、とそこは見ぬふり聞かぬふり。
「それじゃ二人とも、始めなさい」
なんとも普通にGOサインを出した。
「要素は土! 我が請いに応え、大地を揺るがせ、タングステン!【盤地揺動】ッ!」
「土要素でタングステンへアクセス。震えなさい。揺らぎなさい。【グラウンドウェイビング】!」
一斉に構文が詠唱され、「勝負」が始まった。
「ムムゥッ!」
「ぬぅぅッ! くぅぅッ!」
二人とも魔導ステッキがプルプル震えるほどに力を込めている。土要素は他要素と違いエリア魔導に近い性質を持ち、集中力が広く分散する。なおかつ重いタングステン球相手だ、それこそ、発動対象エリアのすべてのタングステン球を持ち上げるがごとき力を要するのだ。
「ヌゥゥッ!」
「うぅぅぅッ!」
〈ビー 時間です〉
持ち時間終了の合図に
「ハァッ! ハァッ ハァッ…」
「ハッ ハァッ ハッ…」
二人とも全力疾走してきたかのように息が荒い。
「よーし、それじゃ次」
「さくら先生ェッ! 待ってくださいッ!」
「な、なんだ?」
「お願い! もう1回っ! もう1回やらせてくださいっ!」
「いやしかし…」
順番はあるのだが。
「いいぜぇさくらちゃーん」
「やらせてあげてー」
「白黒つけようぜー!」
と大歓声。もちろん…どのみち自分たちがやっても歯が立たないことが分かっている。譲ったつもりで体よくサボろうという魂胆だ。
「さくら先生ッ! やらせてくださいッ!」
なんともまぁ、羽川の鬼気迫る形相よ。両目が見開き血走っている。これにはさすがにさくらもドン引き。
「お、おう…それじゃもう1回だけな」
「さすが大佐ー!」
「話が分かるぜー!」
やんやの大歓声だがもちろんサボりたいだけである。
そんな調子で。
「さくら先生。そろそろいいですか?」
次のクラスが来ているのだが、二人の勝負はついていなかった。ちなみにすでに他の生徒は退出済み。
「ほらっ! いい加減にしろ! 行くぞっ!」
「あ、あの、さくらちゃーん⁈」
「さくら先生ッ! 勝負を! 決着をーッ!」
羽川と乃美、さくらに襟口を掴まれ引きずり出されていった。
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