第四話 「境遇」
一時間目から戦闘があった以外、その日は何も無く放課後になった。まだ高校生というのもあり、実戦的な授業は無く普通の高校生ライフを送れるようになっている。特殊部隊の任務も同様だ。
基本的には簡単な任務を隊のメンバー全員で取り組むという形になっている。
部隊の構成は以下の通り。
総隊長:ヴァリァス特殊部隊のトップ。
そこからS、A、B、C、D、Eランクに別れている。各ランクには功績が優れている順に10番まで隊が名づけられている。Sランク(の)一番隊、Aランク(の)二番隊みたいな呼ばれ方だ。
Sランクには部隊を持たない、俗にいうソロ隊員も存在する。彼らは異次元の強さを持っているために部隊が逆に足手纏いになることを恐れて単独で行動しているらしい。
部隊の隊員構成は強さ順に振り分けられるのだが、隊長に関しては例外がある。
例えば、同ランクの一番隊隊員と二番隊隊長では当然後者の方が実力が上である。人の上に立つ奴は安定した人間でないと務まらないからだろう。
基本的に各ランクにはそれ相応の難易度の任務が与えられ、昇格するには少し難易度の高い任務が入るのを待ち、チーム全体で完了する、これを繰り返していくことでランクはすぐに上がる。
最初はDランクの部隊を率いていた人が最終的にAランク下位まで上り詰めたという話が伝説として残っている。
ヴァリァスの起源は現在の人類の技術では解明できておらず、古代の壁画などから最低でもエジプト文明の時には存在していたと考えられている。それ故、ヴァリァス特殊部隊が作られる前は幕府が有能な武士を募った「黒泥対策組」というのができていた。呼び方は時代ごとに変わるが。
現在の特殊部隊が結成されたのは明治維新の時の改革の一環として作られた。戦後には廃止の意見も飛び交ったようだが、なんか無くならずに済んだらしい。(戦争に参加しなかった説が有力)
そして俺はEランク。試験であれだけの実力があることが判明したとはいえ、まだ子供だから危険な目には合わせられないということで今の階級に落ち着いたそうだ。
下っ端のぺーぺーだが、給料は月二万は軽くもらえるから高校生にしては金持ちの部類だと思っている。
◇
ここでヴァリァスの特徴や性質を教えよう。
まずヴァリァスが発現するのは影のある場所だけ。夜でも街灯などで照らされている場所には発現しないが、逆に昼間でも車の影が原因で発現してしまうこともある。
そしてヴァリァスは地表にのみ発現し、建造物や空中に浮いている物体には出現しないことが判明している。
ヴァリァスに侵食された物体は性質や状態を無視して隣接する物体も蝕み始める。生物が触れれば、その部位は機能を失い、五臓や脳に達すれば仮死状態になる。
ヴァリァスを消滅させても、侵食された部分は砂のように崩れ落ちるため、侵食されたら生き残ったとしてもどこかしら欠損がある状態になってしまう。
ただヴァリァスには個体差で侵食する速さが異なるため大体の場合は生き残る。
オーバーブレイクすると侵食が無くなる。つまり生体への侵食は仮死状態になるということだ。
次にヴァリァスに出現するフィールドボス(化け物)について教えよう。
実はヴァリァスにも隊と同様にランク分けがされている。ランクが上がれば、ヴァリァスの範囲も出現する魔物の強さも比例する。ここでランクごとのヴァリァスと化け物の強さを比較してみよう。
Z:震度8のような存在しないレベルを上限とする。一言で表すなら「国家滅亡の危機」。
出てくる化け物の強さは、歴代の特殊部隊を総動員しても厳しいと言われている。
S:Sランク部隊をいくつか派遣すれば問題なく攻略可能。隊長格の実力者であれば、軽傷を負うおそれはあるが、多分攻略できる。
A:Aランク部隊が釣り合う難易度。敵によってはAランク隊員単騎でも消滅させることは可能かもしれない。それでも災害レベルの脅威を誇るのに変わりはない。
B:全任務の半分はここに分類される。Aランクなら単騎で攻略可能、Bランクでも上位の人間であれば
単騎でどうにかなるらしい。
C:一般的な隊員の平均的な強さの指標として用いられている。とはいえ、油断をしているとBランクでも殺されることが稀にある。
D:ほとんどの隊員の感覚では準備体操にあたる。フィールドボスが強い場合もあるが、その確率は
限りなく低い。ゲームでのガチャで欲しかったキャラを単発で出すくらいだと思ってほしい。
E:現場でミスしたり、功績を上げられなかった隊員が腹いせに潰すレベル。控えめに言ってザコ。
海外ではトラックで魔物を轢き殺した後に再化結晶も巻き込んでヴァリァスを消滅させてしまう等、
一般人が攻略してしまった事例も度々報告される。
俺が倒したのはDランクだった。一般人がDランクを仕留めたのは三十年ぶりだと聞かされたが、だったら何かあるのか?というのが正直な感想だった。
だが魔物の攻撃を食らうとそこから侵食が始まると聞かされた。下手したら俺もあの場で死んでいたかもしれない。
死にたいときには生かされ、生きたいと思うと簡単に死んでしまう。昔から俺の人生はそうだった。
良くも悪くも必ず自分の望むことと逆のことが起きてしまう。そんな人生にも最期まで付き合ってやらないといけないと思うと憂鬱な気分になった。
結局、俺は部活には入らず家に帰ってスマホを触ることが日課になっていた。時間は一瞬で過ぎ、夜になったところで目が疲れてしまったので、ベッドに横になり、天井の模様を目でなぞりながら考え事をしていた。
最近は母親が家に帰って来ない日もちらほら見られるようになり、自分で家事をこなすのが当たり前になっていた。そして突然来たかと思えば、飯はまだか、なんて叫ぶ始末。
俺が小さい頃から虐待まがいのことはしてきたから母親は何も変わっていないと言えるだろう。
テストでの点数が高ければ”それが当然”、悪ければ体罰。
確か、小学四年生とかそこらだった時がピークだった。休日は朝ごはんなんて無いし、空腹で倒れそうな俺に、自販機まで行って酒を買って来いと言いつけていた。自殺を考えたこともあった。何より辛かったのはその事実を誰にも打ち明けられず、絶対に勝てないものと独りで戦い続けてきたことだった。
他の子どもたちは親に抱きついたり、授業参観では子が嬉しそうに親に手を振った。
俺も母親に抱きついた。愛情なんかじゃない、振り落とされないようにするため。
日頃から手も振った。嬉しいからじゃない、助けを求めるため。
担任もわかっていたはずだ、教室で一人だけ明らかに不自然な表情をしてると。先生が生徒の親と活動するときは毎回先生が俺のところに来てくれていた。
俺は忘れてない。見て見ぬふりをしつつも横目で憐れむように見ていたクラスメイトの視線を。
運動会、合唱祭、遠足、修学旅行……何一つとしていい思い出が無い。親たちは自分の子供に釘付けになっている中、俺は誰の視線も浴びないまま動き続けていた。惰性で動き続けるマリオネットのように……
「はッ……!」
(ダメだ……思考が全てマイナスに持ってかれる……)
気分直しに台所で水を飲んだ時、明日が初の勤務日であることを思い出した。
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