第百三十六話 「やや危なめなアトラクション」
「大丈夫なのか……?」
今川さんは如月さんを止めようとしていた。でも彼女は引き下がる気は無いのが、その表情から察せた。
「如月さんが行くなら、俺も行きます。やっぱり近接役が行くのが一番でしょう」
「なら、僕がヤツの背まで送ろう。部下たちには吹き飛ばされてもいいように準備させておくから、怪我の心配はしないでくれ」
今川さんはテキパキと指示を出すと、俺と如月さんを抱えて地面を蹴った。
瞬きをしたその直後にはアンタレスの背中にいた。
「コイツに振り落とされないように気をつけてくれ。この鱗も割と滑りやすいからうっかり滑らないように。じゃあ後は頼んだよ」
「わかってる」「任せて下さい」
今川さんはジェスチャーでファイトのポーズをしてすぐに離れた。
「私の手を握って。そしたらコイツの背の真ん中を歩こう。そうすれば落ちにくくなるはず」
俺は如月さんの手を握り、足に細心の注意を払いながら進んだ。
アンタレスは首を振りながら光線を放って周囲の建物を消し炭に変えていく。こんな恐ろしい化け物を瞬殺した父さんの凄さを肌で感じた。
「止まって。何か出てきてる」
如月さんに引っ張られるようにして止まった俺は前方に目をやった。
「卵……?まさか」
ピキッ___!
卵にヒビが入る音が聞こえた。
「もし私に何かあっても自分のことだけを気に掛けてよ。共倒れだけは避けたいから」
「……わかりました」
「それと、コイツの相手は私がするから結晶は君が破壊してくれる?」
姜椰は頷く。
そしてゆっくりと手を離す。
掌からは彼女の温もりが絶たれ、少し冷たい風が当たった。
「……では」
姜椰は如月にその一言を残し、卵の上を駆け抜けた。
「頼んだよ___」
◇
姜椰は体力を温存するために『加速』は使わずに進んだ。
「これか……!」
電撃剣を取り出し、思いっきり斬りつける。しかし結晶は想像の何倍も固く、表面を白く削ることしかできなかった。
「なんだこの硬さは……!はぁ……セイエイ、俺の電撃剣に移動してくれないか?」
「お、おう。わかった……けど、何をする気だ?」
『加速・最高倍率』______ッ!!!!!
剣の先端だけ結晶に突き刺さった。
「セイエイ……!コイツから……できるだけヴァリァスを吸え……ッ!!」
「了解!」
俺がさらに剣を押し込むと同時にセイエイはヴァリァスの吸収を開始した。
ギャオォォォォォォォォォォォーーーーーーーーン!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
「⁉」
アンタレスが結晶の破損に気づき、体を大きく揺らし始めた。
(ぐうっ……振り落とされる……!)
俺は電撃剣を右手で全力で掴み、蒼電剣を咥えて少しだけ出した。
少し出せばあとは左手だけで引き抜ける。
ドゴーン!!!!!
蒼電剣で結晶を攻撃しようとした時、また一段と大きい衝撃が襲ってきた。
(しまった!如月さんは無事か⁉)
俺は彼女が衝撃で振り落とされてないか心配になって振り返ってしまった。
彼女は槍をアンタレスに突き刺し、それに掴まる形でどうにか耐えていた。
「如月さん!!!!!!」
声が届いたのか、彼女はこちらへ顔を向けた。よく見ると、さっきの卵から孵化した化け物が彼女に近づいている。化け物は衝撃なんて無いように動いている。
やはりアンタレスの一部だからだろうか。
俺は当たることを祈って蒼電剣を化け物に向かって投げた。
(頼む……!せめて掠りでもしてくれれば……!)
剣はくるくる回りながら放物線を描く。
見つめていると剣は化け物の右肩に切り傷を与えた。
「グアァ……!!!」
化け物は変な声を上げると、俺の方に全力疾走してきた。
「セイエイ!あとどれくらいかかる⁉」
「アンタレスのヴァリァスはとんでもない量なんだぞ。あと三十分は待ってくれ」
その間にも化け物はどんどん近づいてくる。
(俺が剣を抜けば間違いなく吹っ飛ばされる。だが抜かなくてはコイツの攻撃を防げない!しかしそれではセイエイの吸収が中断されてしまう……)
「なあ!ここ以外の場所でも吸収は出来るのか⁉」
「できるけど時間がかかりすぎる!ここが一番ガードが緩くて吸収しやすいんだ!」
セイエイでさえ俺の助けには入れない。
如月さんは必死に槍に掴まりながら「どうして私に構ったの……⁉」って顔をしている。
幅一寸の退路さえも……無いのか___?
「いや……生きている限り、道は必ずある!」
俺は躊躇いなく剣を引き抜き、迫りくる化け物に向かって高く剣を振り翳した。
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