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嘘つき英雄と嘘の妹 ~リメイク版~  作者: 野良犬タロ
アステリオン編
71/71

#70 屑


~レイド 王都プロテア:牢獄~



「だぁから!! 俺はなんにもしてねぇって!!」

「うるさいッ!! 黙って寝てろッ!!」

 牢屋越しにギャンギャン吠えまくる金鎧男、ギャバラに見張りの兵士が怒鳴り返す。



「ちくしょう・・・こんなの理不尽だ・・・!」

 ギャバラはとぼとぼと俺達の元へ戻ってどさっと尻餅をつくように座り込む。

「・・・。」

 ふと上を見上げる。

 鉄格子の小窓越しに見える空は暗闇の中に無数の星空。

 まさしく夜。

「・・・ふッ。」

 黙って鼻で笑いつつ思う。



 どうしてこうなったあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!



「ぐおおおぉ・・・!」

 頭を抱えずにはいられず、その恰好のまま前のめりに地面に蹲る。

「何ウジウジしてんだよ、なっさけねぇなぁ。」

「!」

 横から声を掛けられてそっちを見ると、壁にもたれかかりながらに片膝立てて胡坐を描いて座ってる男が居た。

 あの戦場で派手に暴れていた男、ディラガだ。

 此処に投獄された時、軽く名前は聞いていた。

「おめぇ、街中じゃあんなにキマってたくせになんだ? 今賢者モードか?」

「うるせぇ・・・!」

「んだよ、俺について来るって言ったのてめぇだろうが。」

「・・・。」

 あの時の自分が目の前にいるなら思いっきり右ストレートかましてぶん殴ってるわ。

「お前についていくとは言ったが、牢屋までついてくなんて言ってねぇよ・・・!」

「おーおー、随分と都合のいい口約束だなぁオイ。」

「うるせぇ・・・!」

 実に的を得た皮肉を言われるのがめちゃくちゃムカつく・・・!



「・・・。」

「・・・。」

「・・・。」

 俺達は三人とも黙り込み、しばらく変な沈黙が続く。



「なぁ。」

「あ?」

 会話を切り出したのはディラガだ。

「なんだよ。」

「なんで俺について来てぇって思ったんだ?」

「・・・。」

 考えてみれば当然の質問かもな。



(よえ)ぇ自分を変えたかったからだ。」



「あ? んだそりゃ。」

 ディラガは眼帯で覆われてない方の目を細める。

「クソ親父の反対を押し切って冒険者になったはいいが・・・エルマの街に現れた獣人共に何も出来ず、相棒を死なせちまった。」

「あ、相棒を・・・?」

 横から盗み聞いていたギャバラがリアクションを返す。

「それで自分が弱いせいで諦めなきゃ行けねぇって思ったんだよ、冒険者を・・・けどなッ!!」

 俺は睨むようにディラガを見る!



「このまま負けたまんまですごすご引き下がるのなんざ悔しいだろうが!!」

「おいうるさいぞ黙れッ!!」

 大声を出したせいで見張りの兵士に怒鳴られる!

 


「だから強い奴について行ってでも俺は、冒険者続けて強くなりてぇんだよッ!! 悪いかッ!!」

 だがそれでも俺は言った。

 言わなきゃ気が済まないからだ!!



「・・・へッ。」

 ディラガは鼻で笑う。

「何がおかしい!!」



「冒険者で居たいから『強くなりたい』? ちゃんちゃらおかしいな!!」



「何ぃ!?」

「だってそうだろ? お前は惨めに『冒険者』ってもんにしがみついて、その為に強くなりた~いってことだろ?」

「てめぇッ!!」

 怒りで立ち上がり、ディラガに殴りかかる!!

 だが・・・。



「ッ!?」

「・・・。」

 あっさり俺の拳はディラガに掌で止められる!



「ぐッ・・・!」

 ディラガは掌を閉じると俺の拳を握って来る!

 物凄い力だッ!!



「おい暴れるなッ!!」

「応援を呼べッ!!」

「はッ!!」

 兵士ががなり立ててそのうちの一人が仲間を呼びに走り去った!



「『強くなりたい』って事にいちいち理由つけんじゃねぇよ。みみっちぃんだよ。」

「・・・!」



 何言ってんだこいつ?

「世界中!! 何処行ったって!! 居んだよいくらでも!! 『強くなりてぇ男』ってのはな!!」

「・・・何が言いてぇんだよ。」

「だが現実はどうだ? どいつもこいつも、『守るためにだけ強くなれりゃいい』だの、『俺は此処が潮時』だの、理由を着けて強くなろうとした奴は綺麗事や甘ったれた泣き言言って強くなるのを諦めて腑抜けていく奴ばっかだ!! てめぇみてぇにな!!」

「・・・!」

 こいつ・・・!

 

 

「けどそれでもおめぇはまた『強くなりてぇ』って願って俺に声かけた!!」

「・・・?」



「だからおめぇは面白(おもしれ)ぇ!!」

「は?」

「牙が折れても生えてくる獣が居るか? それが目の前に居るんだ!! はは、はははは!!」

「・・・なんだよ。」

「気に入った。」

 戸惑う俺を他所にディラガは俺の拳から手を放し・・・。



「来いよ、歓迎するぜ? おめぇが選んだ『修羅の道』がどんなものか、嫌ほど見せてやる。」

 手を差し出してくる。

 眼前で横向きの『握手』と言うより、『俺に掴ませるように翳してる』ような感じの手だった。

「・・・。」

 震える手でその手に手を伸ばす。

 

 

「おい囚人共!! 大人しくしろッ!! 壁に向かって両手を着け!!」

「ヒィィッ!!!」

 鉄格子の鍵が開き、兵士と一緒に鎧を纏った騎士が入ってきてがなり立ててきて、ギャバラはそれにビビって立ち上がり、壁に向かって両手を着く!!



 だが俺は・・・!



「ッ!!」

 ディラガの手を取った!!



~ウルド アステリオン:光る湖~



「・・・。」

 あれから一通り顔を洗って軽く酔いを醒ますとグラと並んで座って湖を眺めていた。



 先ほど湖が七色に光っているように見えたのは、どうやら俺が酔っていたからって訳じゃなさそうだ。

 確かに湖は光っていた。



 いや、()()()()()()()()()()()と言った方が正しいか?

 


 湖から魔力を感じるし、目を閉じても明確に光や色が判別できる。

 この感じは魔覚に訴えている物だった。

「すげぇだろ、この湖。」

「ああ、魔力がある湖なんて見たことねぇ。」

「この湖に入るとな、傷が立ちどころに治るんだ! 見ろ!」

「!!」

 そう言ってグラが身を乗り出して俺の前に顔を出すと、自分の頬を指さす。

「!」

 最初に会ったとき、いや、ちょっと違うか?

 俺から逃げて兵士の前で倒れてた時から炎のような妙な模様が付いていた。

 今もそれは残っているが、あの時は真っ黒だったのに対し、今は少し赤黒い程度でミミズ腫れのように色が薄まっていた。

「獣人の能力、『火神(アグニ)』を使って出来る模様だ。」

「それ、ほっとくとマズいのか?」

「ああ! あのままにしとくと身体の熱が治まらなくなって燃えちまうんだ。まぁ、だから『火神(アグニ)』って名前なんだけどよ。」

「おいおい! なんでそんな危険な能力使うんだ!」

「大丈夫だって! この泉で身体を清めるとな? この模様も時間は掛かるけど消えて、身体も燃えなくなるんだ!」

「・・・なるほどな。」

 こいつがやってた水浴びは、下手すりゃ命に係わることだったわけだ。

「それにしても、何が起こりゃこんな湖が出来るんだ・・・。」

「俺だって分かんねぇよ! 何せこの湖は神が作ったって言われてるんだ!」

「神様が?」

「ああ! その神の名前に因んで『ミノスの涙』って言うんだ、この湖。」

「ミノスの涙・・・!」

 それって・・・!

「アステリオンにいる色んな村に一人ずつ『賢者(リシ)』って言う伝説を伝える奴が居てな、そいつらの一人の話によると



(いくさ)が終わって仲間の墓の前で泣きまくった神様の涙で出来た湖か?」



「え・・・?」

 俺が答えを言い当てるとグラは固まった。

 まぁ、予想通りのリアクションだけど・・・。

「お前、なんで知ってんだ!?」

「あの遺跡に変な文字で書いてあったんだよ、読んだのはルタだけ

「あの遺跡の文字、読めたのか!?」

「っ!!?」

 グラは目を見開いて食い気味に身体を乗り出して俺を見る。

「だ、だからルタだよ! 読んだのは!」

「そ、それで・・・他にはなんて書いてあったんだ!?」

「え・・・?」

 あれ?

 なんか違和感が・・・!

「ちょっと待て、お前ら、あの遺跡の文字読めなかったのか?」

「ああ、読めねぇ! 俺なんて最初誰かがラクガキしたのかと思ってたぜ?」

「・・・。」

 ケロっと答えるグラのあっけらかんとした顔を見るとちょっと複雑な気分になる。

 余所者の俺達ならまだしも、なんで地元の住人が読めねぇんだよ・・・。

 いや待て?



『獣文字は三千年以上前の言語だよ♪』



 そう言えばルタがこんな事言ってたっけな?

 三千年以上前に使われてた古代文字が現在まで使われてる保障なんて無いし、こいつら獣人は部族だ。

 偏見かもしれんが文字を使う習慣が無いかもしれんと思えばあの文字をアステリオンの住人が読めなくてもなんら不思議な事じゃないのかもしれん。

「なぁ、もういい加減勿体ぶるのはやめろよ! 早く教えろって!!」

「!!」

 食い気味に四つん這いになって寄って聞いてくるグラは耳をぴょこぴょこ立てながら尻尾がゆらゆら揺れている。

 興味津々なのが言うまでもなく見て取れる。

「・・・ハァ。」

 まぁ減るもんじゃねぇし。

「わかったよ―――



―――それからあの遺跡に書かれていたことを試練の内容と並行して聞かせた。



―――敵国の王の挑発に敢えて乗り、迷宮攻略をして王の首を取ったこと。



―――四方八方の敵の恐怖から自分を奮い立たせて戦い抜いたこと。



―――傷だらけの自分の身を案じた仲間の意思を汲んで辛い気持ちを押し殺して故郷に逃げ帰ったこと。



―――戦場に舞い戻った時に、仲間の死と共に全てが終わっていたこと。



 それらを試練を通して疑似体験したことをグラに全て伝えた―――


「・・・。」

 グラは黙ってそれを聞いていた。

 俺が話終わるころにはおとなしく湖を眺めながら俯くような姿勢で大人しくなっていた。

「話は終わりだ。」

「そっか・・・。」

 グラは折り曲げて立てた膝に顔を埋めて震える。

 結局のところ悲劇で幕を閉じた物語だ。

 感化されて泣くってことがあっても・・・。



「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!」



「ッ!!?」

 なんだ!?

 急に立ち上がったかと思ったら叫びだして!!

「おいッ!! 急に叫ぶなッ!!」

「俺ッ!! ミノス神と同じ冒険をしてたって事だよな!!」

「え・・・?」

「あの試練はミノス神と同じ戦いをさせる為に作られた遺跡で、俺達はあの遺跡の試練でミノス神と同じ戦場にいたってことなんだよな!!」

 眼前に拳を固めて震わせながら興奮気味に話すグラ。

 なんかすっげぇ無邪気で子供っぽい。

 俺に槍を向けてた時のあの獣みたいな姿とは大違いだ。

「お前ってミノス神のファンか何かか?」

「え?」

 グラが目を丸くしてるが俺の質問は当然のものだろう。

 この話し方の熱量、ただ信仰してる神様って感じに収まるもんじゃ到底ないからな。

 まるで町中の奴が有名な冒険者や、大好きな本の著者、所謂『推し』について話してはしゃいでる時の様子にそっくりだ。

「『ふぁん』ってなんだ?」

「ああ、その、なんて言うの? 『大好き』? いや、なんて言うか、『一人の誰かに憧れてる奴』? 的な・・・。」



「そうだッ!! けどそれは俺だけじゃないッ!! アステリオンにいる獣人達にとって、ミノス神は憧れだ!!」



「そう、は、はは・・・!」

 物凄く目をキラキラさせて語るグラを見てると思わず苦笑いが漏れる。

「誰よりも強くて!! 勇敢で!! それに仲間想いだった!! 俺も小さい時からアステリオンの色んな村に行って話聞いて、ミノス神みたいに強くてカッコいい戦士になりてぇって決めてたんだ!!」

「・・・。」

 無邪気にべらべらと語るグラを見て思うことがあった。



『父と母は町一番の冒険者で、私の自慢なのです!!』



 こいつ、メロとそっくりだ。

 憧れてる相手が居て、自分もそうありたいと思って今もなお努力し続けてる。

 あいつとグラが仲良かったのって案外心の奥底みたいなとこでそういう内面が合致して波長が合ってたからかもな。

「うっ・・・ひっく・・・!」

「・・・?」

 突然変な嗚咽が聞こえてグラの方を見るとグラは泣いていた。

「グラ・・・?」

「だってよぉ・・・! こんなに湖が出来るほど泣いたんだろ!? 辛かったんだろうなぁ、ミノス神って・・・! 仲間が、すごく大事だったんだろうな・・・!」

「・・・。」

 なんと言うか、感情移入しすぎだろ。

 いくら憧れの人物相手だからって・・・。

「・・・。」



『英雄アルトの仲間?』

『いや、戦ってる途中に死んだんだし、ザコじゃね?』

「・・・ッ。」



 くそッ、嫌な事思い出しちまった。

 けど現実あんな奴らが普通だと思ってた。

 でも・・・。

「うッ・・・うぅッ・・・!」

 憧れの相手に対してその相手の気持ちを汲んで泣いてくれている。

 あの時のあいつらが、こいつみたいに泣いてくれたら・・・なんて。

 たらればの話をしたって仕方ないな。

「良い奴らだな、獣人達って・・・。」

「・・・ウルド?」

「なんでもねぇよ!」

 グラが俺の腹のうちに気づく前に誤魔化してすぐに立ち上がる。

「さぁて!! 酔いも覚めたし、宴会に戻っ



「もしかして、お前も死んだ仲間が居るのか?」



「・・・ッ!!」

 予想外に鋭い言葉で胸を貫かれたような感覚がしてつい足が止まってしまう。

「・・・は、はは。」

 なんとか愛想笑いで誤魔化して歩を進めようとするが・・・。



「・・・。」

 鉛のように足は進まず、結局その場に尻餅をついて座ってしまう。



『分かりやすいね♪ お兄ちゃんって♪』



「・・・。」

 ルタに色々看破されて、あいつが妙に洞察力ある奴だと思ってたが、バレるのはどうやらそれだけじゃねぇらしい。

 俺って、『嘘』、下手なんだな。

「・・・そっか。」

 グラは俺のすぐ後ろまで歩いて来ると・・・。

「だったら!!」

「ッ!?」

 急に後ろから抱き着いた!?



「話してみろよ!!」

「!!」



「ウジウジ悩むなんざカッコ(わり)いぞ!! ため込んでる物があるなら吐き出してみろって!!」

「・・・!」



『そいつが小さい時から弱いせいで村のガキどもに虐められててな、グラはそいつをいつも守ってた。』



 ゾルガと話してた時のことを思い出す。

「面倒見が良いの・・・ホントなんだな。」

「え?」

「なんでもねぇよ!」

 つい本音が漏れたのをなんとか誤魔化す。

「・・・。」

 しばらく黙る。

「・・・。」

 だがグラは急かしてこない。

 俺が話せるタイミングを待ってくれてるんだろう。



「・・・四人。」

「え?」

 拙い言葉で俺は斬り出す。



「四人、居たんだ・・・。」

「仲間が?」

「・・・。」

 グラから離れつつ、湖に向いて座りなおす。

「・・・。」

 グラも俺の横に座りなおす。

「魔王が居た頃な・・・。」

「ああ、あの時か。」

「俺達にはどうしても倒さないといけない敵が居たんだ。」

「倒さないといけない敵・・・?」



霧魔(ミストエビル)・・・だ。大型の・・・。」

 敢えて嘘をつく。



『魔王と戦った』なんて例え俗世から離れた連中相手でも馬鹿正直に話せば何かしら面倒な騒ぎになりかねないからな。

「そいつとの戦いで・・・?」

「ああ。」

「・・・どんな奴らだったんだ?」

「・・・。」

 少し湖を眺めてから目を閉じる。

 そして・・・。



「一人は・・・声がデカくて、乱暴者で、思い付きで人を振り回すとんでもねぇ奴だった。」



「おいおい、死んだ仲間にエラい言い方だな。」

「事実だ、あいつのせいで何度も死にかけてたし、その場のノリで生きてるような奴だったからな。」

「本当に大事な仲間か? それ。」

 グラが笑いながら茶化して来る。

「・・・ああ。今なら分かる、あいつが居るから辛い事があっても空気が軽くて、明るかった。」

 俺はまた視線を落とす。



「二人目は・・・偏屈で、陰湿って言うの? とにかくグチグチグチグチ小言が多い人だったな。」



「・・・なんか、俺、会いたくないな。そいつ・・・。」

「ああ、多分、初対面だと面食らうだろうさ。」

 グラの苦い顔を見て俺もそれに同意する。

 多分、この国の獣人達とは絶望的に合わないタイプだと思うし・・・。

「けどその人・・・昔、色々あったせいで他人が信用できないだけだったんだ。」

「なんでそんなことが分かるんだ?」

「その人の師匠? って言うの? いや、親みたいな人かな? その人からいろいろ話を聞いた。」

「めんどくせえなぁ、いちいち他の奴から話聞かないといけねぇなんてよ! ちゃんと自分で話せっつの!」

「それができねぇ人だったんだよ。でもまぁ付き合いが長くなってくると意外と面倒見が良いところもわかってきたし、ホント、素直じゃない人だったけどな。」

「めんどくせえなぁ。」

「かもな。」

 乾いた笑いを漏らしながら目を閉じる。



「三人目は無口で、無表情で、何考えてるか分かんない奴だった。」



「そんな奴がいるのか?」

 グラは苦い顔して俺を見た。

「居たんだよ、実際。」

 淡々と事実を伝えつつ納得できる面もある。

 確かにグラを始め、ここの獣人達はどいつも喜怒哀楽が激しくて、なんて言うか人間味のある連中だ。

 あいつみたいな感情の無さそうな人間なんて想像できないだろうな。

「そいつと初めて会った時は、とにかく不気味だったよ。けど成り行きで仲間になってからしばらく見てるとなぁ・・・。」

 目を開いて鼻で息を吐いて気を落ち着かせる。

「『笑ったり、怒ったり、泣いたりできる生き方をしてなかったんだろうな』って分かって、ほっとけなくなってきたんだよ。」

「ふーん、なんか弟みたいだな。」

「・・・!」



『あいつには弟分が居たんだ。』

 ゾルガの言葉を思い出す。



「そう・・・だな。」

 つい歯切れ悪く答える。

「うん・・・うん。」

 グラは指を一本ずつ立てて三本まで立てると・・・。

「全部で四人ってことは、あと一人か。」

「あぁ。」

 俺はまた視線を落とす。

「最後の一人は・・・。」

 そいつの事を思い出すと・・・。



「泣き虫で鈍臭いくせに、お節介で色々とズレてるやつだった・・・。」

 話してるとすごく胸の奥が締め付けられる。



「これまた随分とひでぇ言いようだな。」

「・・・事実だ。」

「それに『ズレてる』ってどういう事だ?」

「・・・。」

 何も答えず近くにあった石を拾う。

「ッ!」

 石を湖に投げ入れる。

 こうでもしないと気が晴れないからだ。

「いつも自分の事なんざ後回し、自分の身の回りのことも満足に出来ない癖に誰かの事を助けようとしてばっかり、自分がどんなに辛くても笑って誤魔化すくせに、誰かが不幸になれば自分の事のように泣くやつだった。」

 話してて嫌になり、思わず右手で右目を覆う。



『生きてね・・・アルト。』



「・・・。」

 胡坐を描いていた右膝を上げ、両膝に顔を埋める。

「最後の最後まで・・・自分の為に生きられない奴だったよ。」

「・・・そいつが一番大事な奴みたいだな。」

 グラは目を細めて俺を見る。

「そいつとは一番長い付き合いだった・・・でも正直分かってたよ。あいつのお節介には何度も救われたってな。他の奴らもそうだ。長く付き合ってりゃ良いところよりも悪いところがどんどん見つかる。けど・・・。」

 膝に埋めた顔を上げる。

「それでも一緒にいるって言うことが当たり前になってるうちにあいつらと一緒にいない時の事なんか考えられなくなってた。」

 俺は視線を上げて湖を眺める。

「それで例の戦いがあって、みんなが死んだ時に思い知らされたよ。あいつらは、もう仲間じゃなくて、俺の『居場所』だったんだって・・・。」

「・・・。」

 黙ったまま、俺を見ながら聞いていたグラだったが視線を湖に移す。



「泣いたのか?」

「!」



「そいつらの墓の前で泣いたか? お前。」

「・・・。」



『う・・・うぅ・・・!』



 あの数少ない一度目の墓参りのことを思い出す。

 そりゃ泣いた。

 だけど、あの日は大雨だった。

 どれだけ泣いたかなんて涙を洗い流されれば分かるわけがない。

 けど・・・。

「流石にこんな泉ができるほど泣きはしなかったよ。」

 皮肉を込めて答えてやった。

「ふーん、そっか・・・やっぱり泣いたんだな。」

「いちいち言わすなって、え!?」

 突然予想外のことが起きる。



「痛てッ!?」

 急にドンッと体を押され、バランスが崩れて倒れ、身体を地面に打ち付ける!



 無論グラが押したんだろうけど、なんなんだ一体・・・!

「・・・は?」

 目を開けた瞬間、予想外の光景が目に映る。



「・・・へへ。」

 グラは俺の上を取るように四つん這いで跨って、真正面から俺の顔を見下ろしていた。

「なんだよ。」

「なぁ、ウルド。」

「あ?」

「一発やらねぇねぇか?」

「は? 何を?」



「決まってんだろ? 交尾だよ!」

「はああああぁ!!!?」

 こいつ、いきなり何言い出しやがんだ!?




「なんでそんな流れになんだよッ!!!」

「ミノス神は俺たちの尊敬そのものだ。」

「・・・???」

 何言ってんのこいつ???

 いやとにかくッ!!

「へぇへぇそうですかい!! 勝手に 尊敬してろよッ!! ってか、それがどう交尾する理由に繋がんだよ!!」

「 理由? 理由ならあるぜ?」

「は? 何だよ!!」

(つえ)ぇ奴と交尾しなきゃ強いガキ産めねえだろ?」

「あ、あぁ、そんなこと言ってたな・・・けどそれは・・・!」

「それだけじゃねぇ!」

「は?」

「ミノス神は強くて『仲間想い』だった。賢者(リシ)の話でしか聞いたことなかったけど俺、そんなミノス神に憧れてたんだよ。」

「・・・?」

 話が見えん。



「お前、強いし仲間想いでミノス神みたいだ!! だからお前のガキ産みたい!!」

「ッ!!!」



 こ、こいつ・・・!

 真顔でとんでもない事言いやがる・・・!

 でも、だからって・・・!

「ふざけんなッ!! 昨日今日会ったような女孕ませるとかそんなクズな真似出来るかッ!!」

「何へんな事気にしてんだよ!! ほら、脱げって!!」

「やめろッ!!」

 早速とばかりにズボンに手を掛けるグラの手を掴んで制止する。

「こういうッのはッいッきッおッいが大事だろ!?」

「そういう考えッがッ後々後ッ悔するッんだよッ!!」

 言い合いながらギリギリと力比べの脱がせようとするグラVS(バーサス)脱がせまいとする俺の攻防戦が繰り広げられる!!

「雌に誘われた雄が何嫌がってんだよッ!! ヤりてぇ盛りの雄のくせにッ!!」

「勝手に俺をそういうクズみたいな男にすんじゃねぇッ!!」



『『種火』、弟分になったそいつは村のガキ共の中で一番弱かった。けどグラは何故かそいつを『種火』に選んだんだ。』

「・・・!」

 ふとゾルガの言葉を思い出す・・・!



「なぁ・・・。」

「あ?」

 俺が声を掛けると様子がおかしい事に気づいてか、グラは手を緩める。

「ゾルガから聞いた。」

「あ? 親父から? 何をだよ。」



「お前、『弟分』が居るんだってな。」

「!!!」

 グラは目を見開く。



「それなのにお前

「やめろッ!!!」

「・・・。」

 ゾルガには話すのを止められていた。

 事情もよく分かってる。

 この話をするのは酷だって分かってるだけどこの場じゃどうしても言わなくちゃいけない。



「お前、俺とこんなことしようと思ってるの、本当はそいつの事を忘れようとしてんじゃねぇのか?」

「ッ・・・!」

 グラの顔が引きつる。

 どうやら図星の様だ。



「ッ!!」

「うッ!?」

 俺はグラを突き飛ばして離れる。

「そんな理由なら尚更お前を抱くわけにゃいかねぇ。そんなの、お互い不幸だ。」

 そう言って立ち上が



「うるせぇッ!!!!」

「ッ!!?」

 いきなりグラが俺を突き飛ばす!!



()てッ!!」

 再びバランスを崩して転ぶ!!

「どうでも良いだろそんなことッ!!」

「ッ!!」

 グラは再び俺に覆いかぶさるように両手で俺の両肩を押さえつける!!

「お前は黙って俺の腹に子種入れてりゃ良いんだよッ!!」

「お前、それでいいのかよッ!?」

「もうごちゃごちゃ言ってんじゃねぇ!! 黙って俺を抱けッ!!」

 俺の言う事なんて雑音を払うようにヤケクソ気味に罵声を浴びせてくるグラ。

「お前みたいな奴抱けるかッ!!」

「なんだよッ!! 人族(ヒューム)の目には俺がブスに見えんのか!?」

「そう言う事言ってんじゃッ・・・!?」

 反論しようとしたが言葉が急に詰まる!!

「?」

 頬に何か冷たい液体が落ちたからだ。

「・・・!」

 自分の頬からグラに視線を戻すと目を疑った!



「俺じゃ・・・ダメか?」

 涙を流しながら悲し気にグラは俺を見下ろしていた!



「ッ・・・!」

 完全な不意討ちだった!

 最初に会った時はそれはもう獣のように睨んで来ていて、それからのこいつの顔も見ていたがガサツでそれこそ男を相手にしているような気分だった。

 なのに今のこいつの顔は、まるで捨て猫がなけなしの力で足に縋って助けを求めてくるような弱々しい顔だった!

 反則だろこれ!!

 あんなガサツな女が急にこんなしおらしくなるとか・・・!



「一度で良いんだ・・・抱いてくれよぉ・・・!」

「・・・!」

 徐々にグラの顔が近づいて来る!



「ま、待て・・・!」

 なんとか理性を振り絞って言葉で制止を促すが、抵抗しようとする手が動かない!

 何考えてんだ俺ッ!!

 こんなのどう考えたってやっちゃダメな事だろ!!

 なのに・・・こんな可愛い顔で、女の顔して迫られたら強く拒絶でき



「口先であんな啖呵切っておいてそれ?」

「「!!?」」

 突然、変な方向から声が聞こえる!!



 俺から向かって右側をグラと俺が揃って向くと・・・。



「ク~ズ☆」

 しゃがみ込んで足に頬杖を突いたルタが小悪魔な笑みで笑ってやがった・・・!




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