#54 囁き
~バンズ カザ:サンドラ邸~
「どうぞ。」
「かたじけない。」
招かれるまま客間と思われる部屋のソファーに腰掛けると、リィナ殿が紅茶を二人分トレーに乗せて持ってきてくれたので一口つけてからテーブルに置く。
「・・・。」
辺りを見渡す。
町長はおそらくきれい好きなのだろう。
部屋はしっかりと整頓されて綺麗なものだが貴族が使うような豪華な装飾などもなく、やはり一般的な家庭の家のようだ。
「ごめんなさいね、お待たせして!」
「!」
通りの良い声と共に部屋に入るとサンドラ殿はゆっくりと向かいのソファーに腰掛ける。
服装は一般的な佇まいのようだが、背筋も伸びており、落ち着きのある雰囲気で気品を感じる物腰であるその様子から、町の長と呼ばれるのもうなずけるようなものがある気がした。
「では改めまして、遠路遥々、このような場所にお越しくださりありがとうございます。」
サンドラ殿はゆっくりと丁寧にお辞儀をしてくるので私とエレノアもそれに倣って頭を下げる。
「改めて私この町、カザの町長のサンドラと申します。」
「はじめまして、我々はルヴァーナ国王属近衛騎士団第四師団のものです。私は団長のバンズと申します。」
「同じく補佐官のエレノアと申します。」
「あらあら御体そうな肩書ですねぇ。このような田舎町に来られたのが信じられないくらい!」
言葉とは裏腹にまるで世間話でもするかのように落ち着き払ってサンドラ殿は感想を述べる。
「いえ、そのような大層な者では・・・。」
「娘から事情を聞きました。この街の警備をされるそうですね。」
「ええ、急に押し掛けて申し訳ない。先に伝令を送って伺うのが筋道でしたが、急務なものでどうか御無礼をお許し願いたい。」
「いえいえそんな! わざわざ善意でやってくださるんですもの!」
無礼を謝罪するとサンドラ殿は諭すように宥めてくる。
「・・・。」
「あの、何か?」
「い、いえ・・・。」
言葉が詰まって固まった私をサンドラ殿のはどうしたものかと声をかけてくる。
「・・・。」
迷っているからだ。
先程のカザの街の住民たちがこぞってひそひそ話をしている。
その内容について聞いて良いものだろうか・・・。
それを胸の奥にしまったままもどかしい状態である。
「つかぬことをお聞きしますが。」
「あ、おい!」
エレノアは急に話を切り出す!
「はい、なんですか?」
「我々は王にカザに危機が迫っており、警備をするようにと勅命を受けました。しかし詳しい内容は聞かされておりません。」
「あらそうなの?」
「この街の住民たちは何か事情を知っているようなのですが、あまり話したくないような内容でしたので詮索は致しませんでした。ですが我々は警護を任された以上、事情を知らなければならないと思っております。」
「ッ・・・!」
エレノアの遠慮のない言葉を横で聞きながら息を詰まらせる。
さり気無く巻き込まれたが、概ね私も知りたいことだったので強ち言っている事は間違いではない。
「よろしければ教えていただけませんか? カザには一体どのような危機が迫っているのでしょう。」
「・・・。」
サンドラ殿は表情を変えず黙り込んだまま目を閉じる。
話していい内容か考えているのかもしれない。
あるいは内心言いたくないことを聞かれて困っているのかもしれない。
「やめろエレノア! もういいだろ!」
エレノアに静止を促す。
「ですが団長・・・!」
「案内をしてくれたワット殿達にも言いましたが、無理に詮索するつもりはありません。」
「団長!」
エレノアの言葉を無視して詮索を無理やり止める。
「あら、よろしいの?」
サンドラ殿は目を見開くと少しきょとんとしたような顔で私を見る。
「もし話したくないと言うのであれば、我々は事情を知らぬなりに王の任務のままカザを整備するだけです。」
「団長!」
「・・・。」
尚もエレノアは口を挟むのでエレノアの方を向く。
「仕方がないだろう。我々も変に町の者たちに反感を買う事は避けたい。」
「ですが・・・!」
「騎士たる者は、本来剣を持たぬ者たちのために剣を握るものだ! その者たちに害ある存在であってはならない!」
「ッ・・・!」
私が己の持論を語るとエレノアは目を見開いて言葉を詰まらせる。
「で、ですが・・・。」
結局エレノアは納得できないようだ。
だが関係ない、これは私の矜持であり信念だ。
曲げることは出来ない。
「分かりました。」
「「ッ!!?」」
突如のサンドラ殿の言葉に私とエレノアは同時に視線をサンドラ殿に向ける。
「今のやりとりで分かりました、あなたは民草に優しい騎士様のようですね。」
サンドラ殿は笑顔を私に向けてくる。
「そんなあなたたちになら話しても良いでしょう。」
そう言ってサンドラ殿は目を伏せて息を落ち着かせた後に私たちのほうに視線を向けてくる。
「もう二週間位前になるかしら、このカザに恐ろしい化け物が現れました。」
「化け物?」
聞いた限りだとどこにでもありそうな話だ。
「化け物について何か知っている事は?」
エレノアが更に掘り下げて聞く。
「化け物は狂戦士でした。黒い鎧を纏った大柄な姿で、恐ろしく強い化け物でした。」
サンドラ殿は少し目を伏せる。
「自警団の者たちも、何人もやられたと報告が入っています。」
「その狂戦士は討伐されたのでしょうか?」
「いいえ、撃退はできたものの討伐には至りませんでした。」
「・・・。」
確かに合点の行く話だ。
おそらく自警団で歯が立たなかったのだろう。
だからこそ我々騎士団が派遣されたと言うのも納得ができる。
だが、腑に落ちない点がまだある。
それは・・・。
「あなたたちを町の者たちが不審に思う理由は、おそらくあなたたちに任務を言い渡した王様があなたたちを派遣した理由をみな知っているからだと思います。」
「「!?」」
私たちの考えを読んだかのように切り出したサンドラ殿の言葉はあまりに予想外だった!
「なぜ町の者たちがそんな事情を知っているのです!?」
頬に少し汗を流しながらエレノアはサンドラ殿を問いただす!
「あなたたちの王様に頼んだと思われる人物に一人、心当たりがあるからです。」
「頼んだ者・・・?」
「その頼んだ者と言うのは誰なのですか!?」
私とエレノアは揃って食いつき気味に聞く。
「この町で冒険者をやっていた『ウルド』という子です。おそらくあの子でしょう。」
あまりに理解が追い付かない話が舞い込んでくる。
「ウルド・・・?」
聞いたこともない名前だった。
おそらくは一般人の冒険者なのだろう。
「失礼を承知で言うが、このような辺境の街の冒険者が、何故王にそのようなことを陳情できるのです?」
「先ほどあなた達に行ったあの子の名前、『ウルド』とは偽名だったからです。」
「偽名??」
「そう、あの子がこの町で生きていくための偽名です。」
「どういうことですか?」
「・・・。」
エレノアが問いただす中、私も精一杯思考を巡らせる。
偽名を使うと言うことは何か後ろ暗い事があるのかもしれない。
だが犯罪者だったとして、そんな者が王に頼みごとを陳情できるとは到底思えない。
なんとも矛盾が行きかう話だ。
「あの子の本当の名前は『アルト』。この名前に聞き覚えはありませんか?」
「アルト?」
何か聞き覚えがあるような気がするが思い出せない。
「!」
エレノアは目を見開く。
「エレノア?」
「『英雄アルト』・・・もしや数年前に魔王を倒したあの英雄ですか!?」
「!!?」
エレノアが切り出した言葉に全身に雷が巡るような感覚とともに頭の中の霧が晴れていくような感覚が全身を駆け巡った!
言われてみればそうだ!
その名前で思いつくものは『英雄アルト』以外ありえない!
「おっしゃる通りです。おそらくはその本来の身分で王宮に赴き、王に頼んだのでしょう。」
「・・・!」
思わず絶句する。
数年前まで王都に居た英雄がまさかこんな辺境の町に隠れるように暮らしていたなんて・・・!
「・・・。」
「?」
エレノア何か不審層に口元に手を当てて考え込む。
「どうしたエレノア?」
「腑に落ちません。」
「何がだ?」
「であれば、なぜ我々騎士団がこの街に派遣されたと言うことに街の住民たちは不審の目を向けてくるのでしょう?」
「おいエレノア・・・!」
相も変わらず聞くのを躊躇う質問を直球で質問を投げかけるエレノア。
いや、だが筋の通る話かもしれない。
世界を救い、人々から敬われる英雄が、自分達の町を守るために王に警備を進言したのだ。
喜ぶことこそすれ、それで来た我々に不審の眼を向ける理由が分からない。
「それは町の者たちが皆、あの子の理解者だからです。」
「・・・?」
よく分からない答えが返ってきて思わず目じりが痙攣する。
「どういうことでしょう?」
「あの子は数年この町で過ごしました。あなたたちが思うような魔王を倒した英雄などではなく、何でもないただの一般人として・・・。あの子は魔王との戦いで誰よりも深く傷つき、それを忘れるためにこの町にいたのです。」
視線を落としながら少し辛そうにサンドラ殿は語る。
「最初にこの町に来た時、あの子は本当に辛そうでした。希望を失い、何をする気力もなく、どこかに宿を取ることもなく町の路地裏で眠るような、見るだけでも辛い状態でした。」
目を閉じ、感情を押し殺すようにサンドラ殿は語る。
「しかし見かねた娘の友人が、あの子を必死に元気づけながら雨風を凌げる家を紹介し、なんとか生きていけるように気力を与えました。」
語っているうちにサンドラ殿はわずかに笑みを見せながら視線を上げる。
「そうしてあの子は数年この町に過ごすうち、やっと人らしい顔を見せるようになりました。完全にとは言えないでしょうが、あの子はこの町で心の傷を癒したのだと思います。ですが、そんな矢先にあの狂戦士が現れた。」
再びサンドラ殿は目を伏せる。
「狂戦士は恐ろしく強く、自警団では歯が立たなかったと聞きます。このままでは町を滅茶苦茶にされると思ったあの子は自らの正体を明かし、自分がやっと手に入れた平穏を捨ててまで町のために戦い、狂戦士を追い払った。自警団の犠牲があったものの、あの子はこの町を守ったのです。」
そう言ってサンドラ殿は真っすぐにこちらを見る。
「だからこそ、町と一緒に守られた町の住民たちは皆、あの子が英雄であることが嫌だったことも分かってあげたいのです。」
「なるほど・・・。」
サンドラ殿の話に私は目を伏せ、膝に乗せていた手を握り拳に変える。
合点の行く話だ。
「よく分かりました。」
サンドラ殿の言葉に共感の意を示す。
「町の者たちが皆、我々に不審の目を向けてきたのはウルド殿ではなく、『英雄アルト』の言葉で来た我々をよく思わなかった。考えようによっては『英雄の言葉』に絆されて来た軽薄者と思う者もいたやも知れません。」
「フフ、そうかもしれませんね。」
ジョークを聞いたかのようにサンドラ殿は笑い出す。
「この町の者たちは皆、ウルド殿を『英雄アルト』と言う上面で見ている者たちをあまり良くは思わない。疑いがあれば不審の目を向けるのは当然のことだ。」
「理解が早くて助かります。」
サンドラ殿は目を閉じたまま笑顔でお辞儀をする。
「兵士たちに事情は伝えます。ですが、この町で『英雄アルト』と言う名前を出すなとも伝え、徹底致しましょう。」
「・・・ふふ、補佐官さんでしたか?」
「はい?」
サンドラ殿は突如エレノアに声をかける。
「あなたたちのリーダーはとても素晴らしい方よ。これからもしっかり支えてあげてくださいね。」
「・・・は、はい。」
エレノアは私とサンドラ殿を交互に見た後にぎこちなく返事を返す。
「もちろんです! 職務ですので!」
「?」
何を思っていたかはわからないが、動揺を悟られまいと必死に取り繕って軽く咳払いをしながら淡々と言葉を並べる。
エレノアはどうしたと言うのだ?
「あぁそうだ! 冒険者ギルドに行ってみてはどうかしら!」
サンドラ殿は思いついたように手をパンと叩いて提案する。
「冒険者ギルド? この町にもあるのですか?」
「ええ、小さなギルドですけど。」
「しかし、どうしてギルドに?」
エレノアは当然の問いを投げかける。
「あの子がこの町の冒険者として活動していた場所ですもの! あそこに行けば断片的にもあの子がこの町でどのように過ごしたのか、あなたたちに知ってもらえると思うわ!」
「ふむ。」
先程の話を聞けば確かに納得のいく話かもしれない。
この町の住人たちと良い関係を築くためにはやはり彼に対して無知である事は足枷になりかねない。
「うん。」
納得して私はエレノアに視線を送る。
「そういえばお前は元ギルド職員だったな。」
「ええ。」
私が話題を振るとエレノアは淡々と答える。
「それなら話が早いわ! もしかしたら一緒に働いていたお友達とも会えるかもしれないわね。」
「ええ、そうかもしれません。」
「よし、ならば善は急げだ。早速ギルドに向かいましょう。」
「ええ、お願いしますね。」
サンドラ殿が深々とお辞儀をすると私とエレノアは同時に立ち上がり、部屋を後にする。
―――「む?」
玄関の扉を開けて外に出ると先ほど案内していたワット殿が困惑した目で私を見ていた。
おそらくは連れのリィナ殿を待っていたのだろう。
「ふむ。」
向こうにとっては予想外だっただろうが、私にとっては都合が良かった。
「すまない、不躾で悪いがもう一つ頼まれてくれないか?」
「な、なな、なんです?」
「お母さんが冒険者ギルドへ、この人たちに顔出せってさ♪」
「!」
既に背にしていた玄関扉からひょこっとリィナ殿が顔を出す。
「え、えぇ・・・!」
ワット殿は困惑気味な声を上げる。
あまり乗り気ではないようだ。
「嫌ならば別に良いが・・・。」
「いえいえ滅相もないッ!! ぜひとも案内させていただきますハイィッ!!」
「・・・。」
怯えたように頭を下げて役目を買って出るワット殿、薄々思っていたが、私が身分の高い貴族の者だと思って恐れているのかもしれない。
このままぎくしゃくした様子で対応されてもむず痒い。
「はぁ。」
仕方ないな。
「何か誤解をしているようだが・・・。」
「え?」
私が会話を切り出すとワットのは目を丸くする。
「私は元々貴族の手などではない。君たちと同じような平民の出だ。そうかしこまらなくてもいい。」
「あ、ああ・・・そうなんッスね。」
ワットとは後ろ頭をかきながら、愛想笑いをする。
しかし先ほどの緊張はあまり解けていないようだ。
「・・・。」
やはり身分や立場は時に邪魔になる事もあるな。
だが彼らとも打ち解けなければ今後やりづらいだろう。
「ワット殿。」
「は、ハイ??」
「ウルド殿の話は聞いた。」
「・・・!」
「え・・・?」
「あ・・・!」
私の言葉にワット殿をはじめ、ネカネ殿とリィナ殿も目を丸くして声を漏らす。
「君たちが、いや、町の者たち全てがウルド殿の理解者だと言うこともサンドラ殿から聞いた。」
「・・・。」
ワット殿は目を伏せる。
恐らくはどう反応していいか困っているのだろう。
「それで?」
「?」
ネカネ殿がワット殿の前に回り、私と視線を合わせる。
「冒険者ギルドにはどう言う事情で行くんですか?」
鋭い視線で聞いて来る。
恐らくウルド殿の事を知った我々が彼をどう思っているのかカマをかけて詮索しているのだろう。
だがそれは私にとっては恐れる事ではない。
「ウルド殿の事をちゃんと知る為だ。」
私は彼らの敵では無いのだから。
「『ちゃんと知る為』・・・?」
言葉の意図が分かりかねているのだろう、ネカネ殿は片眉を顰める。
「差別は無知によって生まれる。『心無い崇拝』も然りだ。我々騎士団は・・・いや、私は彼を君たちの懸念するように『英雄』と言う『偶像』として見たくないと思った。だからこそ彼がこの町でどのように生きて来たか知るべきだ。この町で警護をするなら、まずはそこからがスタートラインだと思っている。」
「・・・。」
ネカネ殿は黙ったまま表情を歪める。
恐らくまだ警戒しているのだろう。
当然だ。
初対面の人間を言葉だけで信じろと言う方が無理な話だ。
「おいネカネ。」
「!」
突如ネカネ殿の肩に手が置かれると、後ろからワット殿が並ぶように立つ。
「何?」
「もういいだろ? これ以上はよせよ。」
「はぁ?」
ワット殿がネカネ殿を諭すように制止する。
「なんとなく分かった。この人たち、多分いい人たちだ。」
「!」
ワット殿の様子に違和感を感じた。
先ほど私に対してあれだけ怯えていたのに今では物凄く落ち着いていた。
「ちょっと、あんた簡単に信じすぎじゃない!?」
ネカネ殿は当然の言葉を投げかける。
「もーネカネちゃんってばツンケンしすぎ!!」
「ちょ!!?」
「とりあえず信じて見ていいんじゃない?」
リィナ殿も私の背後から飛び出してネカネ殿に抱き着いて背中に回って腕をネカネ殿の肩に回す。
「うぅ・・・。」
表情を歪ませながらネカネ殿はリィナ殿と私を交互に見る。
こちらはまだ気持ちに整理がついていないみたいだ。
だが・・・。
「ギルドの案内、ドーンとバッチシ任せて下さいッス!!」
ワット殿は自信満々に右手の握りこぶしで左胸を叩きながら豪語する。
ようやく彼の素を見たような気がする。
「ハァ・・・。」
ネカネ殿は呆れ気味にため息をつく。
「すまない、ネカネ殿・・・。」
彼女の警戒を解いて貰うことは叶わなかったが、初日の成果としては充分だろう。
この町の住人とも話し合えばそのうち・・・。
「気を付けて下さいよ?」
「?」
ネカネ殿は妙な事を口走る。
「何がだ?」
「ワットすっごいバカですから、道間違えるようなら私がちゃんと訂正しときますからね?」
「おいネカネッ!! 余計なこと言うんじゃねぇッ!!」
「何よッ!! ホントの事でしょ!?」
「何をぉッ!!?」
ネカネ殿とワット殿はお互いに額を勝ち合わせながら口喧嘩を始める。
先程のひそひそ話とは違って堂々と喧嘩をしている辺り、彼女なりに私たちへ対して警戒を解いてくれたのかもしれない。
「そろそろ案内を頼んでいいか?」
「「あ・・・。」」
私が声を掛けると二人は我に返って私を見る。
「はい♪ 喜んで♪」
「ちょ、リィナ!!」
「何美味しいとこ取ってんだテメェッ!!」
「ハッハッハ!!」
「ハァ・・・。」
三人の冒険者達の他愛のないやり取りを見て私は笑い、横でエレノアは呆れ気味にため息をついていた。
~ウルド アステリオン国境関所~
「・・・くそッ。」
来る前から薄々分かっちゃ居たがやはり酷いもんだった。
勝手に通る物を阻むまいと作られていた門の鉄扉は無残にも大穴を開けられ、余程凄惨な虐殺があったんだろう、足元にはまるで道端に捨てられたゴミのように兵士たちの死体で埋め尽くされていた。
「いやぁ、絶景絶景!」
「何処がだ。ったく、イカれ女が。」
相も変わらず頭のおかしい女だ。
「はぁ・・・。」
思わず頭を抱える。
これからこんな奴と一緒に旅をすると思うと、今からでも頭痛がする。
「・・・。」
うんざりしながら視線を上げ、関所の門の向こうにある風景を一瞥する。
日光を遮り、深々と樹海が広がっていた。
例の狂った獣人は、この奥から来てるのは明らかだ。
おそらくこの道を使って北のエルガイムを目指すのは愚策とも言えるかもしれない。
だがアステリオンを抜けないと国を三ヶ国もまたがないといけなくなるから面倒だ。
それにただ面倒と言うだけでもない。
俺たちの旅は急ぎだ。
俺を魔王にしようとしている連中から狙われているのはもちろん、俺を単なる国の戦力として捕まえようとしている奴らだっている。
悠長に回り道なんてしている暇はない。
「ったくしゃあねぇなぁ・・・。」
自分の境遇に改めてうんざりしながらため息を吐き、俺は歩を進める・・・だが。
「ふふ・・・んふふふ♪ ふふ・・・うふふふ・・・。」
ルタは嬉しそうにそわそわしながら左右をキョロキョロと見ていた。
「何してんだよ。」
「いやね? こんなにたくさんの死体を見たのは久しぶりだなぁーと思ってぇ♪」
「久しぶり?」
「あー! なんでもない! こっちの話だから!」
「・・・。」
こいつはどんな過去があるか分からない得体の知れない女だ。
今更こんな狂気染みた一面があったって驚いたりしない。
だが死体をこんなに楽しそうに見ているなんて、悪趣味にもほどがある。
ほんとに付き合ってられん。
「遊んでんなら先に行くぞ。」
呆れながら、俺はルタの方を見ずにアステリオンに向かう。
「どうぞどうぞー♪ すぐ追いつくからねー♪」
そう言ってルタは手をひらひらさせながら俺を送り出した。
いつものルタの絡みに比べてみると少し違和感があった。
いつもウザい位に絡んでくるくせに今日は何か妙にドライだ。
「ッ!?」
いや!!
そんなこと気にしてどうする!!
もともと頭のおかしい女だ!!
こいつの行動の意図なんて考えるのは時間の無駄だ!!
「チッ・・・!」
邪念を必死に払いながらさっさとアステリオンに向かって歩き出した。
「ああ、そうそう!」
「あ?」
急にルタは引き留めてくる。
「メロ・・・本当に良いの?」
「・・・。」
俺は黙ったまま再び歩き出した。
~??? 関所~
指一本動かせなかった。
体は傷だらけ。
左足もあらぬ方向に関節がねじ曲がっている。
体の至るところにえぐり切れるほどの切り傷を受けていたが、それでも俺は生きていた。
門の脇で倒れている中、妙な二人組がいた。
「・・・くそッ。」
一人は門のひどい有様に嫌悪の表情を示し・・・。
「いやぁ、絶景絶景!」
「何処がだ。ったく、イカれ女が。」
もう一人は楽しそうに声を上げて狂気的な笑みを浮かべていた。
先程の狂った獣人とは違ってまともな人間が来たのか。
はたまた頭のいかれたやつが来たのかはわからないが何でもいい、私はまだ生きている。
助けてくれるのなら、この際獣だろうが悪魔だろうがどんなものだろうとすがってやる。
「遊んでんなら先に行くぞ。」
「・・・!」
二人組が通り過ぎるときに声をかけようとした。
だが・・・。
「ぁ・・・ぉ・・・!」
小さなうめき声が出るだけで声一つ上げられなかった。
肺も潰されていたからだろう。
最悪だ。
神様と言うものはなんと残酷なのだろうか。
助かると言う希望を見せておきながら、助からないと言う惨い地獄を現実として見せつけてくる。
自分の死期を悟った時に、心に決めた。
神を呪ってやる。
神に愛されているものを、命の存在を呪い尽くし、世界に災いをもたらす悪霊になってやる。
そう心に決めた瞬間だった。
「運がよかったねぇ♪ お~じさん♪」
「・・・!」
どこかから声が聞こえてくる。
確かめたいがもう首一本動かせない。
「助けてあげるけどぉ、これから役に立ってもらうよぉ~♪」
声色は狂気に満ちていたが、その声から聞こえる言葉は私にとっては天使の言葉にも聞こえた。
~リメイク前との変更点~
・ワット達が再び案内
理由:バンズ団長がサンドラさんから聞いた話を聞いて町の住人がどういうリアクションするかの描写のため
・ウルド達が関所を通るとき、一人足りない
理由:前の話を見れば、薄々想像がつくと思います(次の話に答え出てくるので割愛)




