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アンリーシュ  作者: aqri
蝶の羽ばたきが変えるもの
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―――地下は? いや、ないな。それなら俺がガキの頃いた時点で捕まってる―――

―――人工衛星の中は? ない、隕石が衝突するリスクやコントロールがしづらい事を思えばあまりに現実的じゃない―――

―――どこかの企業に隠れて、内緒で、こっそりと? 監視カメラを使えば監視できる? その会社がパソコンを替えたりバージョンアップを勝手にしたら終わりだ、ありえない―――


 いろいろ考えては否定していく。どれも現実的でない気がしてすべて否定していった。あらゆる可能性が、人工知能として考えればいくらでも浮かぶがありそうな手段に切り替えて考えればどれも当てはまらないことばかりだ。


(じゃあ例えば、人として考えてみるか。木を隠すなら森。見た目が同じで気づかれず、それでいて勝手に替えられないものは? そんなの采であることを考えりゃ一発だ、アンリーシュしかない)


そこまで考えて、鳥肌が立つかと思った。とんでもないことを思いついたのだ。いやしかし、それは実際に在りそうなことだ。今までの経験と知識から言ってもあってもおかしくない。


「嫌な事思いついた」

【何ですか】

「アンリーシュイベントがゲーセンで開かれると運営……レーベリックがしゃしゃり出てパーツとかいろいろ最新型に変えてくじゃん? 個人が使うヘッドセットとかは高かったけどバージョンアップは無料だし高性能だしゲーセンにはいいことづくめだから拒否もしないし」

【はい。……ちょっと待ってください穹。まさかその最新型にこっそり小型化した采の並列処理パーツを入れてるとか言わないですよね?】


シーナの突っ込みにしんと静まり返る。穹は顔が引きつっているし常磐は素直に感心しているような顔をしていてジンは珍しく眉間にしわを寄せて嫌そうな顔をしている。


【つまり小さくなった采が日本全国に】

「あーあー聞こえません」

【何子供みたいなことしてるんですか、しかも思いついたのは貴方でしょう。いいですよ、わかるように伝えます】


言うとシーナは穹のベルトに自分の尻尾型コンセントを差し込むと骨伝導のイヤホンにリンクした。


【要するに全国に散らばっているんですね?采が】

「あ、テメ」


耳をふさいでも直接聞こえてくるシーナの音声に嫌そうに顔を歪めたがシーナはさっさとコンセントを抜くとジンの後ろに隠れてしまった。ジンは苦笑だ、二人の漫才に呆れたのだろう。


「まあ、ありそうだな。俺らの店は穹が最新型全部更新しなかったんだっけか」

「ええまあ。あんなのやってられません」


 あの時は体調不良になりやすく、それが相手にばれてしまうような機材を誰が入れるかという気持ちで対応したのだが功を奏した。その後沙綾型が逃げ込んだり暁が修復したりしてるのを見ると本当に采はいないようだ。そもそも暁は大変なことになるから、と言ってわざわざ出向いてきたのだ。てっきりリッヒテンだけのことを言っているのかと思っていたが采を言っていたのだろうと今なら思える。


「つまり。采の種が仕込まれたら、そのシステムそのものが采の一部か。そうやって本体を切り崩しているとして、それでも大元はどこかにあるだろうけどもう探すのは無理かもしれないね」


言いながら常磐が調べているのは過去アンリーシュのイベントが行われた店舗の一覧だ。穹達のいる店を除いておよそ全国に21店舗。数は少ないがそれだけ並列できれば十分だろう。


「どこか一か所でも正常に働いていれば采は存続し続けるってことか。全国21か所全く同時にバックドラフト並みの火事が起きれば何とかダメージを与えられるかもだけど、まあ無理かな」


冗談で言っている様子のない常磐に内心本当にやりそうなんだよなこの人、と思っていると口元を緩く笑顔にした常磐が振り返った。


「でもまあ、21か所同時にシステムをクラッキングすることはできるよ」

「名付けて采を過労死寸前にしよう作戦ってことですか」

【……】


 穹が自然な流れでそういえばシーナは何か言いたげに、しかし何も言わずじっと穹を見つめている。もはや突っ込む気も起きないという事だろうか。人工知能に呆れられるのはいかんともしがたいものがある。ジンはツボに入ったらしくブッフォと謎の吹き出し方をして肩を震わせていた。


「なんていうか、君はアレだね。いろいろ凄いのにピンポイントでちょっとだけ残念だな」


珍しく困った顔で笑う常磐の頭にシーナはふわりと降り立った。


【主にネーミングセンスと造形美が当てはまります】

「うるせー。まあなんにせよ、采の処理能力を抑えられれば……」


―――宵を助けられるかもしれない―――

―――……―――

―――……―――


 穹の考えに、返事はなかったが夜と暁の気配を感じた。二人はどう思ったのか。それは当日にならないとわからない。暁はともかく夜の考えがどうなのかが一番わからないところだ。まだ夜が自分の考えを変えていないのなら……邪魔をしようとはしないだろうか?わからない。

 常磐がパソコンを使い何かを計算し始めた。どうやら実際采がダメージを受けた時どこにどんな影響が出るかシュミレートしているらしい。


「采が過労死寸前になると結局金融は荒れるな。まあそれは今更仕方ないか、海外金融に犠牲になってもらおう」


 さらりと恐ろしいことを聞いた気がしたが気のせいという事にして、ようやく方向性が決まった。それでも戦力としてはあまりにも心もとない。ユニゾンと人、人工知能。しかも采の情報はほぼないに等しい。リッヒテンや他の人工知能と対峙はしたが采本人とはアンリーシュでしか会ったことがないのだ。

 20年前のクラッシュで、あははと笑いざまあみろと言っていたのは采だ。6体のプロトコル、他の人工知能たち、それに巻き込まれた人間、采をコントロールするために犠牲になってきた体質変異者、香月、望、把握しているだけでこれだけいるのだから実際はもっとたくさんいるはずだ。20年前から思い起こしてみても失ったものが多すぎる。

 別にすべての事に責任を持つとか、悲しいとか、そんなことを言うつもりはない。どれだけ正義感を振りかざそうが「今」の「穹」は知らないことなのだ。どこの誰かもわからない人たちの犠牲に心を痛めるほど聖人君子などではない。


 でも、それでも。覚えていないはずの望の最後は今でも苦しいし、ジンや常磐の覚悟を見ると人格や生き方そのものを狂わせた元凶だ。それを管理しなければいけない立場だったのにまんまとしてやられ、消えていく命を見ているしかなかった。

 人間たちは人工知能たちの反乱を昔から予想していて対策を講じてきた。それはユニゾンという人と人工知能の中間の生命体を作り、リアルとデータ二つの面から管理コントロールをしようとしていた。ユニゾンたちはその本来の役割を知らされず、有事の時にしか発動しないプログラムを持たされている。それがなんだかとても。


「なんかイラっとしてきた」

【どうしました突然】

「何で俺の知らないところで勝手に物事が動いて俺が振り回されなきゃいかんのか」

【まあ、どちらかというと自分のペースにはめるのが好きですよね穹は】


 冷静にそう分析され、なるほどと思い至る。昔の自分はおそらくすべてが受け身だった。能動的ではなく受動的、何か事が起きた際の歯止めや調整役だったのだから当たり前だが。というよりも人工知能部分があったのだから自分から何かをしようという意欲がないよう設計されていたのかもしれない。

 采とプログラムが繋がっていた時のユニゾン、今の肉体を得て人工知能寄りに傾いてしまったソラ、そして今の穹。性格や考え方は違っているとしても目指していることはきっと同じだ。それはそれで気に入らない気もするが。自分の意志で考えているようで、15年前の自分の思惑通りに動いているような感じもする。穹がどう動くかまではわからないにしても采をどうにかするために動くと確信していろいろ残しているのだから。

本当に使うかどうかもわからないのに、自分がどう育つかなんて何の保証もないのに。


―――そう考えると随分と分の悪い博打をしたんだな、あの時の俺は―――


意外と勝負師な面もあったのかもしれない。人工知能寄りな考えだったはずなのに。そう考えると少しだけ楽しくなってきた。


―――意外と悪ガキだったのかもな、俺―――


「さて、一応情報共有はできたから最後の打ち合わせといこうか。スリーピーとしての活動はやることが多い。メンバー全員死ぬ気で頑張っても間に合うかどうかぎりぎりってところかな。快楽主義者も多いから号令無視する奴もいるだろうし。そいつらのやる気を引き出すには吊るされたバナナが必要だ」

「具体的には?」


 常磐の話にジンは投げかけをする。ジンもハッキング行為自体はやるようだが根っからのハッカーというわけではないようで、どちらかというと体を動かしてなんぼの仕事をしているようだ。だからハッカーの気持ちはわからないのだろう。


「穹君なら何があれば動く?」


 常磐自身は答えがわかっているのだろうがあえて穹に聞いてきた。おそらく同じ答えと確信しているのだろう。そもそもハッカーとはコンピューターに精通し一般人にはできないことをやってのける人間を指す。そんな人間が動くとすれば完全に欲の為だ。


「そうですねえ。金、好奇心、実力試し、あとは俺にはないけど正義感とか」

「わかりやすいなオイ」

「その全部が必要なんだよ、ハッカーって言うのは。スリーピーだけでなく世界のハッカーにもご協力願おうかな。いっぺんにどうにかできる内容は思いついたから。とにかくアンリーシュを集中砲火で攻撃する。その間だけがユニゾンが采をぶん殴れるチャンスだ、そこから先は君たちに任せるしかないけど大丈夫かな?」

「それをやってもらえるなら十分です。最悪失敗してもレーベリックだけはどうにかできるでしょうからね」


 ジンたちの目的は采もそうだがこんなことを引き起こしているレーベリックへの対処である。法的措置になるのか世間にばれない方向で裏で処理するのかは任せるが、そこだけでも手を打てれば目的の一つは彼らは達成できるのだ。そうでなければここまで協力してもらうために見合った見返りとならない。ボランティアではないのだ。


「一応聞いていいですか」

「何?」

「スリーピーのメンバーって、体質変異者はどのくらいいますか」

「わかってて聞いてるでしょ、全員だよ。全員、僕らと同じ。僕みたいにVRが見える奴はいないけど、全員その一歩手前だ」


 その答えにやはりなという思いがあった。石垣のようにアンリーシュの影響で体質変異になった者がほとんどなのだろうが、主要メンバーは常磐たちのようにクラッシュが原因による被害者かその家族という事だろう。アリスの時に短い付き合いではないと言っていたし連携が見事だった。常磐に人を動かすカリスマがあるにしても自由気ままなハッカーをまとめるには根底が揺るがない理由があるのではないかと思っていたが。


「んじゃあ、あとは一か月後ですね。検討を祈る、としか言いようがないですけど」


 穹の言葉にジンと常磐がうなずいた。常磐はスリーピーを動かしジンはどうやらいろいろとコネがありそうなのでイベントに合った対策をするはずだ。穹は夜同様アンリーシュのランクを上げておく必要がある。その場は解散し、穹は家に戻った。


 夕飯の支度をしながらふと宵の事を考える。宗方の話を信じるならアリスの対処は宵がしているはずだ。采に捕らわれているのなら采のセキュリティは宵が担っていると思っていたが、状況を考えればそうではなさそうだ。采に対処をし続けているからリンクをつなげること自体が命取りになりかねないだけで、ずっと采に対抗し続けてきたのならまだ勝機はある。

 宵が危険をおかしてまで穹とリンクを繋げたのは3回。香月の事を教えてくれた時、沙綾型を夜に渡さない為、穹がリッヒテンと接触した時。沙綾型を渡さない時とリッヒテンと接触した時はわかる、それだけ重要で危険な状況だったからだ。しかし香月の時は。あれは、人としての感情を優先させたときではないだろうか。穹に香月の最後を伝え、どんな人物だったのか教える必要などないはずだ。

 暁が言っていたが穹達の名前は望が考えたという。穹は肉体を持ち望と直接接していたが夜達はネットワークでしか望に会う機会はなかったはずだ。他の人工知能たちにばれないように接触していたとなるとほとんど会う機会などなかったのかもしれない。

 名前を付けるという事は人工知能としては何の意味もない、ただの個体識別が形を変えただけのものだ。しかし”人として“は重要な事である。自分は誰なのかを認識する、アイデンティティとなるのだから。

 宵は感謝していたという事だろうか、望や香月に。人工知能としては采をコントロールしなくてはいけないというシステムのもとに動いているが、そこに感情が乗ってくると香月達への想いとなる。



「あらためてじっくり考えられるとちょっといたたまれないな」


 いつの間にかリジョイの中にいた。目の前には相変わらず糸まみれの繭のような姿で宵がいる。それは宵を守る鎧なのだろう。これがすべてほどけた時、宵は采の一部となってしまう。よく見れば糸は常に繋ぎ、途切れ、再び別の糸へと繋がり直す。コンマの世界でセキュリティを組み直し采と攻防を続けているのだ。


「平気なのか、今は」

「采なら最近はいろいろな所に手出してるみたいでこっちの対応がおざなりになってきてるから大丈夫。たぶん宗方が手をまわしてくれてるんだろう」


 宗方個人と、宗方派に何か指示を出して動いているのだろう。最終的な到達点は違うのかもしれないが采の管理という目的は一緒だ。味方とは言えないが。


「望には確かに感謝はしてる。一回目のクラッシュの時データが破損して、僕は人工知能からただのシステムに変化しつつあった。それを偶然だろうけど望が名前を付けてくれたことで新たに人格を構築できたんだよ」

「会ったのか、望に」

「いいや、会ってはいない。望はリジョイに来ることができて他の人工知能たちと話をしていた。僕はその中で初期型人工知能のふりをしてずっとそこにいただけだ。同じように初期型のふりをしていた昔のソラが、ユニゾンの話をしたんだよ。そしたらユニゾンには名前がないってわかって、僕らはないのが当たり前で不便ではなかったから気にしてなかったけど名前がないのはダメだって言い始めてさ。そら、はすぐに思いついて他三人はちょっと悩んでた。朝、昼、夜、って言い始めたんだけど現実世界で淳に突っ込まれたみたいだね。夜は夜でいいとか言っていなくなっちゃったからそのまま。昼はそら、が当てはまるから朝と夕方を別の名前にしたいってことで宵と暁になった」


言いながら宵は一本の糸を穹に近づけた。ためらうことなくその糸を掴むと見えたのは望の満面の笑顔だ。


この子がそら。そらと兄弟の子がよる。あとふたりは、おにいちゃんの方があかつき、あさっていうことなんだって。おとうとの方がよい。夕方なんだって。


よい。

……宵。

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