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アンリーシュ  作者: aqri
地下の戦い
70/105

6

「……全員で来るとか予想外だった。穹くらいかと思ってたけどな」


穹、暁、シーナ全員がジンの腕を止めていた。暁はジンの二の腕にしがみつきシーナはジンの腕に体当たり、穹は自らの腕を常磐の首の前に出し首を切られないように守っていた。


「トキに頼まれてる。もし自分が自分じゃなくなったら殺してくれって」

「でしょうね」

「あいつの体質変化は症状が重くてヘッドセットだけじゃどうにもならないレベルに来てた。そのせいでだいぶ肉体検証に使われてたからな」

【あなたはそれを間近に見てきた。誰よりもその辛さを理解していて、そうすることが唯一の救いであることは貴方が一番理解しているのでしょう。それは客観的に判断してもそう思います】

【この人も君なら必ずやり遂げてくれるってわかってたから頼んだんだろうからね。その罪とか思いを全部抱えて生きてくれるって知ってるから頼んだ】

「まあ唯一の誤算はそれを止める奴が大勢いて多勢に無勢だったってことですかね。ジンさん」


 改めてジンを見る。そこに我慢しているような辛さや感情はまったくない。昨日今日決めたことではない、ずっと前から決意をして生きてきたのだという事がわかる。それでもジンは反論も抵抗もせずに穹の言葉に耳を傾けてくれている。


「生憎それとまったく同じことをやられたことがあって軽くトラウマになりかけてるんで同じ手は使えません。それをやった人がどうやって生きてどうなったのかも知ってるので」

【同じく。アレ結構きついんだよ】


暁の言葉に穹も驚いた。だから咄嗟に反応できたのか。そんな二人の様子をじっと見ていたが、ふと何かに気づき目を見開いて、小さく苦笑した。


「お前も来たのか」


 その言葉と同時にジンの腕の力が抜けた。暁の重みで腕は地面に垂れ下がり、持っていたナイフはシーナが回収する。たったっと軽快な足音とともに現れたのは小型犬だ。本物のように見えるがそういうボディのパートナーである。ジンのパートナーの扶桑だ。


【新しいボディのシーナの機動力には劣るからここまで時間がかかったがやっと追いついた。そしていいタイミングだったようだ】

「お前が呼んだのか」


穹がシーナに聞くとシーナはジンの腕にポンポンと体当たりをしながらそうです、と答えた。


【さすがにジンが地下にいるとは思っていなかったのでこれは偶然ですけど。扶桑はかなり細かい種類のアーカイブ検索が得意ですので地下について調べてもらおうと連絡してから地下に来たんです】


そういえばシーナと扶桑は店でよく一緒にいるので情報交換はしていたようだった。扶桑はジンの足元までくると常磐を一度見てから改めてジンを見る。


【ついにこの時が来たのか。そしてこういう状況になっていると】

「穹以外が予想外過ぎた」

【そうか? 私もこうしていたぞ。せっかく動けるボディになったのだから】


 その言葉にジンは静かに目を閉じる。パートナーは自分の分身だ、自分の思考を学習し育っていく。ジンの本音は扶桑の本音。理性で言えばジンの選択が正しいし感情で言えば穹達の選択が正しい。本当はその選択を出来たらどれだけよかったか。


「呑気にだべってる暇はないので手短にいきますよ。常磐さんを助けに行きます。アレを野放しにもできないですし」

「できるのか、とは聞かないからな。できなかったら俺が再チャレンジするだけだ。2回目はお前たちの言い分はきかない」

「それはちょっと待って欲しいですね。今回の人工知能が彼の体を取るなら、ターゲットが死んだ瞬間です」


 最悪なのは常磐が生きている状態で乗っ取られてしまうことだ。そうなると常磐の意識を起こすことはできないし常磐の能力をそのまま使えることになる。常磐がどんな人物なのか知らないが、霞に目をつけられていたのならクォーツより優秀なのだろう。

 霞相手であるなら急がなければならない。人の乗っ取り方などプログラムがあるわけではないのでやり方は彼らが独自に学んだ方法だろう。毘沙門亀甲はAPに対してかなり時間をかけていたようだし、沙綾型はそもそも選ぶことに時間をかけていたがリッヒテンが来て咄嗟にターゲットの体に逃げようとしていたようなのでそれができる準備をしていたのだろう。

 それに比べて霞はあっさりと望の体を乗っ取ることに成功している。前々から狙って準備していたのだとしても霞の対応の速さはダントツと考えていい。


【僕ら二人で行くってこと?】

「いや、それだとたぶん探査型とリッヒテンに見つかる。それに俺だけじゃフィールド発生ができない。暁には場のフォロー頼む。霞を逃がさないでほしい」

【今かなり無茶ぶりしてるのわかってる?】

「どっちにしろ俺とお前とじゃ協力関係にはなれないんだろ。連携できないなら二人で行っても意味がない」


 正直な所常磐と親しいわけでもないし自分に降りかかるリスクを考えるとここまでするには割に合わない。それでも目の前で起きたことに対して見て見ぬふりなどできなかった。

 香月に告げた望のようにならないという言葉、それは自分だけがそうならなければ後はどうでもいいというわけではない。すべての被害者に関わることなどできないが、今こうして彼らの過去を聞き常磐がどういう目に合って生きて来たかを知った。人間らしく言えば、けじめはつけなければならない。霞にも、自分にもだ。


「アンリーシュスタイルで戦う。そこまで有効な作戦があるわけでもないから時間はかけられない」


霞はアンリーシュのバトルでは戦おうとしなかった。それでは穹が圧倒的に不利だ。それならまだルールがあるアンリーシュとして戦った方が策はある。


【わかってると思うけど、穹を誘い込むための罠だからねこれ】

「わかってるよ。ユニゾンの体の方が便利だろうからな。で、俺の体が取れなくてもこの人の体があるから霞にとってはいいことずくめ。そんなことさせるかっつーの。シーナ」

【はい】

「本気で戦うと俺の体がもたないからお前にもバックアップを頼む。俺が前に組んでおいたスキル出せるか」


 シーナは穹のパソコンに繋がり中に入っているデータを吸い上げ始める。使おうと思ってスキルを作ったはいいが発動条件が厳しく実用的ではないと使わずにとっておいたものだ。発動条件を待ってはいられないので自分で処理して使うしかない。それは相当な負担だ。しかしそれくらい無茶をしないと短期決戦などできない。

 霞とは一度戦ってしまっている。穹の戦略の立て方を学習しているはずだ。あの戦い方もそれなりに無茶だったと思うが霞のとった方法も大概だったのだからお互い様といえる。いや、あれは霞の戦法ではなくクォーツ自身のやり方を彼女の思考回路から学んで使ったという事か。


―――人工知能に真正面から戦ったところで勝ち目はない。沙綾型のときのようにエラーか思考のるつぼにはめないと。その糸口はクォーツか―――


「ジンさん、扶桑を使わせてもらえますか」

「いいぞ。ロックは外す」

【私にできることなら何でも言ってくれ】

「シーナのハッキングプログラム使ってクォーツの個人情報探してほしい」

【具体的には?】


その質問に一瞬だけ人工知能としての考えを働かせた。人として考えた仮説を人工知能として何十回も演算し一つの具体策を導き出す。


「そうだな、家庭に問題がなかったかどうかを中心にSNS関連は全部頼む。自宅を割り出して児童相談所と教育委員会のデータを探ってほしい」


それを聞いて扶桑は了承したがジンが小さくため息をついた。


「さすがにそれだけのことをパートナーにやらせるのは酷だろう。俺がやる」


 助かるのならその方法が良いに決まっている。言葉には出さなかったがそれがまぎれもないジンの本音だ。ジンはポケットから端末を取り出すと扶桑へとつないで操作を始めた。穹も常磐に近づきシーナを店の電源へと繋ぐ。店をキープしてあったというだけあって電気は繋がったままだ。ただし地上にはアクセスできないので穹の自宅パソコンにつなぐことはできない。今持っているツールだけでなんとかしなくては。


【いいよ、地上へのアクセスは僕が手伝う】


 穹の考えを察した暁の言葉に連動するように扶桑の目が光る。今クォーツの記録を検索しているのだろう。

 必要以上に目立ちたがるのは自己顕示欲の現れだ。自分を誇示したい、要は自己愛が強いという事になる。この手のパターンは本来与えられる愛情が親から与えられなかった場合に起こることがある。親から過干渉されると親のいう事でしか物事を考えられず完全な内弁慶となりがちだが、愛情を与えられなかった場合は自分を愛することができるのは自分だけとなる。


 そういう家庭の者すべてが自己顕示欲が強くなるわけではないが、ふと思い出したのだ。以前シーナがネット番組でいじめや家庭の問題について当事者たちが討論しているのを見ていたことがあった。それを試しに分析させてみたところ、「彼らは単に自己中心的なだけです」という見解を示した。番組の構成から言えば彼らは辛い経験をしたが今懸命に生きている、みんなも頑張ろうという趣旨だった。辛い経験をしているのだから彼らは被害者で守られるべき存在だ、それは間違いない。

 しかしシーナの分析はなんとも辛辣な結果だった。何故かと聞いてみると、彼らはその場にいる同じ境遇の者たちの話について相槌も意見も言わず自分の事しかしゃべっていない。自分の事だけ知ってもらって同情してもらえればいいようにしか見えなかったというのだ。同じ境遇の人たちがその場にいるのに、誰も他人に興味を示していないという。

 リプレイを見てみると確かに誰もお互い目を合わせないし自分の境遇しかしゃべっていなかった。悪いのは常に周り、環境、自分じゃない。人であればそこで彼らにはそう言う権利がある、可哀そうだという評価になるが人工知能は判断に感情が入らないのであくまで客観的にしか判断できなかったのだ。

 そんなことをなんとなく思い出したからこそ思いついた今回の頼み事。霞がクォーツと深く結びついていたのなら使えるはずだ。

 穹は首につけていたチョーカーを外した。これは体への影響をおさえる効果が確かにあるがそれだとユニゾンとしての能力も制限する事になる。今この状況では不利になるだけだ。


【チームにする?】

「いや、俺が戦う。シーナはサポートだ」

【穹、それは】

「今回ばかりは俺じゃなきゃだめだ。体にダメージ受けないようサポートするのがシーナの役目になる」

【わかりました】

【準備はいい?】

「ああ」


暁の問いかけに返事をすると頭の奥に針を通されるようなピリピリとした感覚がよぎり、目の前が真っ暗になった。


 目を開くと同時に勢いよく右に飛んだ。穹がいた所には細い糸のような物がうねりながら勢いよく遠ざかっていくところだった。避けていなければ頭が砕かれていたかもしれない。あれは霞のリンクそのものだ。

 穹の隣にシーナが現れた。今シーナはスキルの宝庫だ、必要と思ったスキルをすべてつけてきてもらった。


「シーナは扶桑からのデータを受け取れ」

【もう持ってきました】


 シーナの出した情報を一瞬で見て改めて目の前の霞を見る。姿かたちはクォーツだ、まだ常磐の姿をしていない。APの時は人工知能とリンクが深くなったらキャラの特徴を引き継いでいたし沙綾型の時も体を乗っ取る予定だった者の顔を模っていたのでそれが彼らのやり方だ。まだ常磐の体は完全に霞の物になっていないと考えていい。


「攻撃してきたんだから俺の番だ」


《ああ、この場か。やっかいだな》


 どうやら人工知能たちが使っている特殊な場だということに気づいたようだ。さすがに暁が発生させた場だとは思っていないだろうが。本音を言えば暁と協力できるのならそれが一番よかった。穹とシーナだけでは戦力としては不十分だ。しかし暁が言ったように、人寄りの特徴を持っている者同士ではおそらく二人いても霞には勝てないだろうと思う。似たような特徴の物同士ではメリットが二倍ではなくデメリットが二倍と思っていい。

 本来相性が良いはずの夜は穹が生理的に嫌悪しているし宵は構図で言えば向こうが穹を嫌っているはずだ。その割に向こうからやたらと接触してきたが。いや、向こうの都合を押し付けられているだけなので感情で言えばおそらく宵にとって穹は理解する必要のない存在と言ったところか。


「じゃあいくか」


 穹が動かせるスキルは4つまで、シーナにつけてきたスキルを穹自ら使用する。シーナは今回サポート役なので霞から攻撃が行くことはない。サポートに与えられる影響は動きを止めたり何らかの効果が出たりと直接的な攻撃はない。暁が作る空間ならそのルールを無視することはできないだろう。以前夜と宵が沙綾型を取り合おうとしていた時、空間同士が拮抗していたことを見ると誰かが作り出した空間ではその作り出した者のルール通りにしか動けないということだ。だから夜と宵は自分の空間を広げることで自分にとって都合が良い場を作ろうとしていた。


―――今思うと、あの時俺はその無茶苦茶な空間たちを何とかしようとしていた。それがモジュレートしようとしていたのなら、あの時二人がしまった、という反応をしたのは探査型が来たからじゃなく俺が二人をモジュレートしようとしていたからか―――

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