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沙綾型はコードの修復を行う。その修復自体は一瞬だが茶番を仕掛けたせいでタイムロスができた。沙綾型がスキル発動をするが穹の方が一歩速い。持っているカウンターの一つを相手に晒した。内容を見せたのだ。それを見て沙綾型の動きが止まる。
穹が内容を見せたのは「スキルコピー」、それは任意で発動できるアンチカウンターだ。そしてスキルコピーには重ね掛けで即発動スキルもついている。沙綾型が全スキル1ターン禁止を使う瞬間穹はこれを使う。本来はスキルを使われてからでなければコピーができない。一度発動されたスキルをコピーする、つまりスキルのコードをコピーするということだ。何故穹が使えるかと言えば、このスキルを穹に堂々と広げて中身を見せたからだ。穹の動きが見たくて、さんざん自分の想定外の事をして戦略を引っ掻き回した穹が慌てたらどうするのかを見たくて。焦ったらどういう行動パターンをするのか学ぼうとした。
慌てたのだ、人工知能でありながら。これは沙綾型のデータにはないが、おそらく。きっと、「屈辱」という言葉が一番適合している。
あと一歩の処理が残っている沙綾型と、すでにコピーが終わり即発動スキルも準備万端な穹。人工知能の方が処理能力は上だが、この状態ではどちらが速いか予測が立たない。
使えば不利なのは沙綾型に決まっている。穹のスキルが1ターン使えなくても次はシーナのターンだ。シーナは一度も攻撃してきていない、おそらく大技を使うために準備をしてきている。かといってシーナのスキルを封じても次のターンは穹。かばうを使いシーナをかばってスキル無効を使ってくる。加えて穹は貫通のライフルがある。またアレを打たれたら今度はどのコードを変更されるかわからない。完全にスキル停止が使えなくなってしまった状態だ。
思考は1秒もなかった。沙綾型は全スキル停止の使用をぎりぎりで止める。このターンは穹により攻撃が無効化されただけで終わりとなった。
想定外だ、穹の能力がここまで高いのもスキルのコードが変更されていたことも何もかも。まず穹の思考が全く読めない。銃を持っていて殴り掛かるし自分の手の内を教えるしミスまで教えてくる。それらがどうやって穹に有利な材料となるのかまったくわからない。
穹が次にどんな攻撃を仕掛けてくるのかわからないが、沙綾型は穹からの攻撃はしのげるという回答に至っている。今までの攻撃も今までにない行動が多かったが、では実際に沙綾型が危機にい陥ったかというとそうではない。あくまでその場しのぎの行動が多かった。つまり穹自身には今沙綾型に有効な攻撃手段がないということだ。貫通のスキル破壊がコードエラーを起こすクラッキングだということはわかったのでそれを防ぐ手立てももう組み立てた。
問題はシーナだが、こちらもどうにかできる戦略は作った。この空間ではスキル制限があまりなく動けるにもかかわらず穹は小細工ばかりしている。つまり処理できるスキル数に限りがあるのだ。沙綾型はほぼ無制限にある、様子を見ていたが次のターンがまわってきたら叩くつもりだ。リッヒテンにはもう見つかってしまっている。一般のセキュリティの中に隠れているがいつ見つかるかわからない為これ以上長引かせたくない。
穹はじっと何かを考えていたが思いついたように聞いてきた。
「ちょっと気になってたんだけど。お前何でアンリーシュのバトルスタイルで戦うんだ?」
《……》
「ユーザーの体を変化させたいのはまあこの手段じゃないとできないのはわかった。でも今俺の体が欲しいなら体内チップなりシーナなりハッキングすれば早いだろ。何でわざわざこういう場所に連れてきて、しかもゲームのルールにのっとって律義に喧嘩ふっかける。ライフなんて概念必要もない、俺の精神ズタズタにして意識失ってるうちに取ればいいじゃねえか。ゲームやってるわけじゃねえんだから」
《……》
「そうしないといけない理由は? ゲームのバトルっていう形にしなけりゃいけないのは何でだ」
【そういえば何故でしょう?】
ずっと話を聞いていたシーナも首をかしげる。疑問にも思っていなかったというような反応だ。穹はそんな沙綾型とシーナさえもひどく残念なものでも見るかのように冷たい目で見つめるとため息をつく。
「なるほどな。疑問に思った事ないのか。本当、融通きかないな人工知能って。近道をしようとも思わない、そういう選択肢が最初からない。あくまで決められたルールの上でしか動けない。型にはまってないと存在さえできない……まるで文様そのものだな。ああ、文様と言えば。お前、ちょっと不細工になってるぞ」
いわれている意味がわからず反応が遅れた。しかし穹がじっと見つめる一点、それは先ほど穹にコードを破壊されエラーが出ていた部分。急いで修復したが、ただ単に数値を入れれば終了というわけではない。そのあたりを丸ごと切り取って新たに入力し直しつなぎ直したのだ。いわば植物の接ぎ木のようなことをしたのだが、何もおかしなところはない。
穹は回復スキルを使用し、足に喰らった攻撃3か所の回復をした。
「いや、数値じゃなくて。全体像」
全体像、と言われた瞬間理解した。その部分を修復したためコードが変更となったので、全体像がほんの少し変わったのだ。その部分も沙綾型の一部として織り込まれている。それが少し、ほんの少しだけ、とある一角の線の結び目が。
ずれている。
よく見ないと分からない、おそらくパッと見ただけでは全く気付かない。実際沙綾型が気づかなかったくらいだ、何も問題はないのだろう。
しかしずれた。
規則正しく並んでいた直線が、寸分違わぬ美しい角度が、一番大切な卍部分の重なっている部分が。
不細工になっていた。
不細工。こいつのせいで。
大切な、大切な沙綾型が。守らなければいけない沙綾型が、存在意義そのものである文様が。
いくつも作った戦略などもはやどうでもよかった。今すぐ目の前にいるユニゾンを消したかった。ただでさえ理解できないことばかりでペースを崩されていて戦略を何十回も立て直しているというのに。
歪められた、汚された、ユニゾンに。ユニゾンなんかに。人工知能のフォローアップが役割のくせに。
もういい、なんでもいい。大きなスキルを使わなければ倒せるはずだ。かばおうが防御しようがカウンターを使おうが全部こちらでどうにかできるだけのスキルを持っている。
一瞬にしてスキルを変更し、クォーツが使っていた戦略を使う。相手が回復した際使う回復スキル専用トラップ、今はもうこれしか穹に攻撃できる手段がなかった。付け焼刃だが攻撃するスキルはあれこれたくさんつけずシンプルに射撃スキルだ。サブマシンガンのスキルを使いありったけの射撃をした。本来は弾の制限があるがここではそんなものはない。何百発でも打ち込める限りの弾を連射し続けた。
もう穹の肉体が欲しいなどと思わない。こんなモノの体など使いたくもない。とにかく消したい。肉の塊にでもなればいいと撃ち続けたが、穹のライフが減っていないことに気づく。
射撃をやめ、よく見れば穹はまたスキルを開示していた。穹のではなくシーナのスキルだ。
今有効なスキルはシーナの防御となっている。そして穹にダメージがいっていないのならシーナの防御によって穹が守られているからだ。確かに今シーナのターンだが、何故穹まで防御対象になっているのか。
その答えは穹が開示しているスキルの中にある。チーム戦で使えるスキルは個人戦と違いチーム全体に効果をもたらすスキルがある。対象人数が多いほど一人当たりの数値が弱くなってしまうので使われることはあまりないのだが。
それにしても妙だ、今の攻撃はかなりの攻撃力があったというのにまったくダメージを受けていないなど。最初の物理攻撃の時は確かに防ぎきれずに穹が動いていた。その耐久値を想定しても、今の攻撃は同じくらいの威力があったので防ぎきれないはずだ。
「さっきお前じっくりスキルコード見せてくれたからこれも礼に教えてやろうか、何でこんなことになってんのか」
淡々と告げる穹が何だか得体のしれない物のように思えた。人間ではないし、かといって人工知能でもない。今までバトルをしてきた人間たちとは明らかに違う。しかし完全な人工知能ではないので穹の考えがまったくわからない。
理解できない。なんなのだ、ユニゾンとは。
「シーナがつけてるスキルはチーム全体防御、サイキック能力の炎攻撃、防御すればするほど次のターンで攻撃か防御好きな方が上昇する特殊スキル。お前さっきの刃物攻撃、一種類の攻撃じゃなく一本一本全部違う攻撃だったよな? トータル125本までシーナは受けた。つまり125回分シーナは防御力を上げたんだ。今の銃攻撃は全部防げるだけ防御が上がってるし、今のお前の攻撃も防御上昇に貢献してくれてる」
沙綾型の攻撃は完全に防がれてカウンタートラップは失敗となって終わる。今の防御はあくまでシーナの前のターンの防御効果となるので、次はシーナのターンだ。
失敗した、穹をどうにもできなかった。戦略を立て直す。次に穹をどうにかするにはどうすればいい。一体どうやって、なにで攻撃すればいい。
「で、シーナにつけてるスキルでもう一個。防御と攻撃の数値交換」
《え?》
「だから、防御と攻撃の数値交換」
まずい。
一体何度攻撃した?一回の攻撃ならまだしも、刃物をぶつける攻撃はすべて独立させて違う攻撃とした。何か防がれても他の攻撃が防げないように。
「125回分と今の1回分、足して126回分か。チート使いまくってる奴にはこれでちょうどいいくらいか? 普通なら22.3回は死ぬとこだな、じっくり喰らえ」
シーナが両手を目の前にかざす。サイキック能力の炎、範囲攻撃で相手の回避を大幅に下げる効果がもともとついている。その分威力が通常の物理攻撃に劣るため攻撃力増加スキルとセットで使う場合が多い。
シーナの手から一気に炎が走り沙綾型を包み込む。沙綾型は様々な防御関連のスキルを使用しているようだが、126回強化された攻撃を防ぐ手段はそうあるものではない。回数の制限や発動条件は処理能力さえあれば無視できるのだが、「同じスキルは1個しか使えない」などの絶対的なルール自体を変えることはできない。防御やカウンターのスキルはすべてが確実に防いでくれるという内容ではない。防げる手段は限られている。
そうだ、何故ここはいじることができない? 何故妙なところでルールに従わなければならない? ここはアンリーシュバトルフィールドではない。そもそも何故戦いを仕掛けて体を手に入れようとしなければならない?何故体内チップのハッキングができない? 何故こんな、遠回りな手段でなければ干渉できないのか?
沙綾型も崩された、これだけは絶対に守らなければならないのに。バトルをしている場合ではない、早くこれを元に戻さないと。沙綾型なのに今“己”は沙綾型ではないのだから。
いや、今はバトルに集中しなければ。防ぎきらないと肉体を持たない自分はダメージがそのまま反映されてしまう。痛みなどないが「ライフがゼロになる」という認識をしてしまったら、プログラムの修復に時間がかかる。今修復している暇はない、リッヒテンに見つかる。
穹が理解できない。もっとわかりやすい奴ならこんなことにはならなかったのに。
思考が次々と広がり、上手く戦略が立てられない。作っては廃棄し、作っては廃棄する。これではだめだ、負ける。とにかくこのターンを防げれば、次のターンとなる。
―――さすがは人工知能、スキル発動数がハンパじゃないな。回復の種類が多すぎる。ダメか、ぎりぎり届かない。次のターンに来たら終わりだ。なんとかこの攻撃を通すにはもう―――
あと一つ。もう一つスキルが使えれば。しかし今防御上昇、サイキック炎、攻撃と防御交換、チーム全体効果スキルの4つ動かしている。穹が処理できるのは4つまでだ。あと一個分足りない。足りないが、他に方法はない。
「シーナ、戻ったらノリ突っ込み頼む」
【え?】
「たぶんそれが俺にとって一番良い方法だ」
意味が分からず問おうとしたが穹はゆっくりと目を閉じ、深呼吸をするように上を向いた。そして次に目を開いた時には、まるでCDの裏側のような銀色でわずかに虹色に光る不思議な色をしていた。5つ目のスキル処理に入る。
穹は無表情だが相当無理をしているというのはシーナにもわかる。穹の体内チップから彼の生体データがわかるが、今の穹は脳波がめちゃくちゃだ。心拍数も血圧も上がり危険な状態に入ってきている。
「同じ動作2回実行スキルを使う」




