宮廷の準備
紀元四九五十年。皇帝史四八六年。
「そんな顔をしながら作業をするな。笑顔だ笑顔」
上官から仕事に関係のない笑顔の強要をされたので思いっきり笑って見せた。
これでもかというほど顔の筋肉が引きつるくらい状態を保っていれば、遊びじゃないんだぞと違う人に怒られる。なんでだ。
紀元は大陸が誕生したとされる年数で、皇帝史は皇帝という王が出来てからの年数を表している。今日から四日後の日はその皇帝史の数字がまた一つ増える日で、いわゆる建国建帝記念日となっていた。
酒の入った樽をあっちからこっちへ、こっちからあっちへと忙しなく色んな所へ運ばされている。当日はお祝い行事として朝廷の中心で宴が開かれるのだ。
そのために宮廷内は今各々自分の仕事よりそっちの準備を優先させている。
なんと言っても「皇帝」というものの誕生日。盛大に祝わなくてはむしろ反逆罪に問われるほどだ。……というのは言い過ぎかもしれないが、それほどここの人間は宴に力を入れている。
なのでちょっとでも仕事をさぼると、
「なんじゃぁその持ち方は! 腰に力を入れて運ばんかい!!」
「その台車を貸してくだされば……」
「若いもんは素手で十分じゃ!」
広場の階段でちょっと休憩をしていれば怒鳴られる。怒鳴られてばっかりだ。
サボる私もどうかと思うけれど、同じものをこちらは素手、あちらは台車で運んでいるのを見るとサボりたくなる。元々力仕事は大の苦手だ。好きではない仕事は基本したくない。とは言ってもそれが許されるほど仕事も世間も甘くはないので、よいしょッと気合いを入れて再び樽を持ち上げた。
「推~、この花の細工上手くな~い?」
すれ違う文官達の向こう側から、桜が桃の花の飾りを持って近づいてきた。確か花の飾りを紙で作るとか何とか言っていたような。飛び跳ねて機嫌がいい様子を見る限り出来が良かったんだろう。どれどれと樽を持ち抱えたまま見る。確かに不器用な桜の腕前にしては良く出来ていた。
えらいえらい。
褒める私に更に機嫌を良くしたようで、桜はその花を私の耳の上に差し込んだ。私達だってお洒落したいよね! なんて天女の微笑みを残して去って行く。可愛いなぁ本当に。年下だから余計に思う。妹がいたらこんな感じだろうか。
「こらぁ! な~にを浮かれとるんじゃ!」
いつの間にか往復してきたらしき文官のじいさんに頭の花を見られて怒鳴られる。年季の入った唾が顔にかかった。
うるさいな。そんなに大きな声を出してると寿命縮まるかんな。
「これは儂が付けておく」
「ああ!!」
サッと花を取られた。
そして取られた花はじいさんの胸の合わせに射し込まれる。
くそう、今にみていろジジィめ。
憤る心の内を地団太を踏むことで押さえた後は、大人しく仕事を再開した。




