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メタモルフォーゼス  作者: 新町 東
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第50話『なぁ、本当にそれで良いのか?』

第50話『なぁ、本当にそれで良いのか?』


 俺がそこに到着した時、既に問題は解決されていた。


 縄でグルグルに縛られた黒服たちとその傍らで座り込んでいる九条と宇佐美さん。


「大丈夫か!!」


「あぁ……大丈夫だぁ」


 どこか覇気の無い返事を返してくる九条。


「それよりよくここがわかったなぁ」


「そこにいる黒服の仲間が親切に教えてくれたからな」


 それを聞くとハッと笑い、


「馬鹿な奴らもいたもんだぁ……いや、俺もバカだったかぁ……」


 そう呟くと、事の詳細を説明し始めた。


 九条の話によると、今日の放課後に非通知で電話が掛かって来た。


 その電話内容は九条が小学校の時に起こした事件を知っている。宇佐美七海にそれをばらされたくなければ廃工場に来い。との事だった。


「それであたしに『夕食は買って済ませろ』なんて連絡をしたんだね」


「ああ、本当は巻き込まない為にそうしたはずだったんだがぁ、結局こうなっちまったぁ」


「それで? あいつらは何者なんだ?」


「あの黒服たちは知らねぇ。でもそいつらを率いていた奴は知っている。牧園っていう小学校の時の元担任だぁ」


「先生が首謀者かよ!?」


 いつの間にか来ていた智樹がそれを聞いて驚く。


「どうして教員がこんな事を?」


 そんな俺の疑問に九条は事の発端を軽く説明してくれた。


 魔法を使える者と使えない者で差別したこと。


 そのせいで学級崩壊が起こり、それどころか学校そのものが大変な事態に陥っていた事。


 そしてそれを九条が何かをして解決したこと。


「その何かってなんだ?」


「悪いがそれは言えない」


 静かに首を横に振る。


「ねぇ、くーちゃん。そろそろ教えてよ。あの時くーちゃんは一体何をしたの?」


「だからそれは言えないと……」


 教えてくれと懇願する宇佐美とそれを拒む九条だったが、その答えは別の所から聞こえた。


「潰したんですよ」


「え?」


「てめぇ!!」


 縄に結ばれながらもククッと笑っている牧園の姿があった。


「自分に歯向かってくる者たちを男女問わず、クラスを問わず、学年を問わず、誰であろうと構わずに戦い続けてその全てを完膚なきまでに叩き潰したんですよ。その男はね」


「くーちゃん……」


 宇佐美の声と表情はそれを信じられないと言いたそうであったがどこかそれに感づいていたようだった。


 そして九条は笑っている牧園に向かって行くと、


「……」


 その顔を殴りつけた。何も言わずにただ黙って、ただひたすらに殴り続け、再度意識を飛ばしたところでその手を止めた。


「ああ、そうだぁ。こいつの言う通りだぁ。俺はこんな風に誰だろうと構わずに殴り続けたぁ」


「……どうして九条はそんな事をしたんだ?」


 俺は率直に問う。


「あの時の俺はそんな方法しか思いつかなかったからだぁ」


 そして九条は俯いていた顔を上げ、俺たちを見ると、


「これでわかっただろぉ、俺はどうしようもない屑だぁ。助けてくれたことは感謝する。だがもう二度と俺に関わるなぁ。七海、おまえもなぁ」


 そんな事を口にした。


「悪いな七海。俺はおまえが思っているようないい人間じゃない。所詮俺は、世間からは鼻を摘ままれるような人種なんだぁ。だから……もう、さようならだぁ」


 九条はそう言って俺たちの横を通り過ぎて、この場から立ち去ろうとした。


「ふざけないでよ!! そんなこと勝手に決めないでよ!!」


 宇佐美の声が工場内に響き渡る。だが九条はそれを歩みを止める事無く無視する。




 これで良かったんだ。


 九条は思う。遅かれ早かれこうなる事はわかっていたのだから。


 自分がした事は世間的にはどう考えても悪い事だ。そこにどんな理由があってもそれが覆ることは無い。


 それに七海の今後を考えれば自分の存在がどう考えても足枷になるのはわかっていた。


 だからこそ、これで良かったのだと。


 だが、


「なぁ、本当にそれで良いのか?」


 そんな声が聞こえた。だけど無視する。歩みは止めない。


「学校中の人間を敵に回しても宇佐美さんの日常を取り戻したかったんだろう?」


 確かにそうだったなと思う。だけど歩みは止めない。


「それなのに、そんな事をしてまで取り戻したかった宇佐美さんの日常からおまえは姿を消すのか?」


 その言葉に引っ掛かりを覚える。だから自然に足が止まる。


「言ってたじゃないか、宇佐美さんの身の回りの世話を俺がしてるんだって。『あいつは不器用だから俺がやらなくちゃなぁ』って。『そうじゃないといつ野足れ死ぬかわからないからなぁ』って言ってただろ!! いいか九条、よく聞け」


「……」


 何故だかその男の言葉が胸の奥底に刺さったような感触があった。だからだろうか、俺は自然と振り向いてその男に顔を向ける。


「おまえが今やろうとしている事は、その何が何でも取り戻したかった日常を紛れもないおまえ自身が壊そうとしているんだぞ。なぁ九条、本当にそれで良いのか?」


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