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34 森の探索!

久々の投稿です、時間掛かっちゃいました

 朝、突然体が揺れ動いてそれに驚き目を覚ました。

 とうとうこの世界でも地震が!?と思ったが、どうやら違ったらしい。頭がぼやけたまま周囲を確認すると、まず俺を一心不乱に揺さぶっているザルフが目に入った。

 「おきろトシユキ。早く準備をしないと間に合わないぞ」

 そう言いながらひたすらに俺の襟元を掴んでぐわんぐわんと体を揺すぶっている。あまりに激しい動きに、若干吐きそうになるが吐き気を抑えてザルフに話しかける。

 「おいザルフ、早朝からこれは何事だ」

 「お、起きた。おはようトシユキ」

 俺が声をかけると、それまでの凄まじい動きをしていた手をピタリと止めてザルフは挨拶をする。正直この状況でそんな呑気な挨拶をされてもただイライラするだけだが、それはひとまず置いておいてこの状況の説明を求める。

 「おはようザルフ。それで、なんで俺は上下に激しく揺られながら起床してるんだ?」

 なるべく冷静を装いながら、未だに俺の襟首から手を離さないザルフに聞いてみると、少しムッとした表情を浮かべながらザルフは口を開いた。

 「何でって、この前森の探索をするって言ったじゃないか」

 未だに寝ぼけている頭をフル回転させながら、以前した会話を思い出す。そういえばそんな約束もしていたような気がする。

 「それにしても起こし方があるだろ。声をかけるとかさ。揺らして起こすったって、お前がやったら下手したら首折れてお陀仏の可能性だってあるからな」

 「はは、すまんすまん。だって声をかけるって言ってもさ、あんまり大きい声出すとリーランとレオンを起こすかもしれなかったし仕方無いだろ」

 ザルフは背後で寝ている二人を親指で指し、そして軽く手を合わせて謝った。てか、お前は二人の安眠のために俺を永眠させるつもりだったのか。恐ろしい。

 「まぁ、とりあえずこれ持って準備始めてくれ」

 そう言ってザルフが渡してきたのは、白い巾着のような袋だった。それを受け取って中身を確認すると、大きめのおにぎりが数個詰められていた。

 「これって、おにぎり?」

 「今日行く森って意外と広いからな。昼食として一応持っていこうと思って、昨日おばちゃんとイノに作ってもらったんだ」

 嬉しそうにザルフは話し、そのまま背中にある緑色の風呂敷のような物を見せてきた。風呂敷は俺のものと同等の大きさでこんもりとしており、俺に手渡してきた物と同じくらいのおにぎりが入っているのがわかる。

 布団に入ったまましばらくの間その袋を眺めていると、ザルフは押入れのような場所から新しい衣服を取り出して、それを渡してきた。

 「とりあえずこれに着替えて、その中のおにぎり何個か食べたら出発するぞ」

 そう言うと、ザルフはその場に座って袋から二つおにぎりを取り出した。目の前でもしゃもしゃとおにぎりを食べ始めたザルフを眺めていたら、なんだか俺も無性に腹が減ってきた。とりあえずザルフに言われたとおり、新しく渡された道着に着替えて俺も袋に入ったおにぎりを食べる。袋の中身を確認すると、おにぎりは合計六個入っていたのでその内の二つを食べた。

 一応の朝食を済ませると、ザルフが出発を促した。

 「腹ごなしも済んだし、早く出発するぞ。じゃなきゃ砂漠を越える時にキツくなるからな」

 「そうなのか?まぁ、それなら俺も暑いのは嫌だしさっそく出発するか」

 既に寝起きの状態からは目覚めて居るので、頭だけでなく体も同様に目を覚ましていていつでも出発できる状態だった。

 「よし、じゃあ出発だ!」

 全ての身支度を整えて、いざ森に向けて俺とザルフは歩き出した。


※※※


玄関先からしばらく歩いて、村から砂漠ゾーンに差し掛かった時。先程までゆったりと歩いていたはずのザルフが突如「走るぞ!」と言って目の前を全力疾走していった。

 突然の出来事に唖然としていたが、すぐさま置いていかれないようにザルフの後を追う。しかし、身体強化魔法を使っているのか、いくら頑張ってもザルフに追い付く事が出来ない。それに俺は元々体力が無いので、距離に伴いゆっくりとペースを落としていった。

 しばらくしていつまでたっても追い付いて来ない俺に痺れを切らしたのか、前方に消えていたザルフが俺のところまで戻ってきて確認をしにきた。

 「おい、トシユキ。何だその様は、ふざけてるのか」

 ふざけるも何もこれが全力だっつの。と、反論したかったが急激に漏れ出ては入り込む呼吸の所為でまともに口を開く事も出来なかった。

 「む、無理・・・!そんなっ、俺早く走れない!」

 息も絶え絶えになりながらも、自分の意見を伝える。すると、ザルフは何やら怪訝そうな表情で俺を見つめた。

 「なぁ、どうして身体強化魔法を使ってないんだ?昨日トシユキが身体強化魔法を習得したって聞いたから結構トバし気味に走ってたんだけど、一向に追い付いて来ないし」

 「あ、あのなぁ・・・・・・俺はまだ、魔力の制御が、上手くできないから、使えないんだよ・・・・・・」

 どうやらザルフは俺が身体強化魔法を使えると思っていたから、あんなに早足で森に向かっていたらしい。そもそも、俺が身体強化魔法を使えるようになったというデマ情報はどこから流れて来たのか。大方セルロあたりだろうが、今はそれを咎めている余裕は無い。それよりも今はザルフに身体強化魔法を使えないという事を正確に伝える必要がある。

 「なんだ、そんな事か。ならオレがサポートしてやるから、一回ここでやってみようぜ」

 しかし、そんな俺の焦りとは裏腹にザルフは優しく微笑んだ。使えない事を咎められると思っていたが、そんな事は俺の杞憂だったようだ。

 「ひとまず、一旦呼吸を落ち着かせて息を整えろ。魔法を使うのはそれからだ」

 俺の背中に手を当てて、深呼吸をさせるザルフ。そのおかげで何度か深呼吸を行った末に何とか呼吸を落ち着ける事はできた。

 「・・・・・・よし、もう大丈夫だ。だが、俺が身体強化魔法を使えるようになるのはまだ先だと思うぞ。魔力のコントロールがまるで出来ないんだ」

 サポートする、とは言われたが結局は自分自身の問題なので次第に使えるようになるまで時間は掛かるだろう。そもそも白虎の住人でもない俺が一日で習得するという事が無理だったんだ。そう思って、半ば諦めた気持ちで居た。

 「魔力の操作なんて最初から出来る奴なんて、極稀にしか居ないぞ。別に恥じるような事でもないと思うし、それに制御できないって言うならオレが今度は外側から魔力の放出を制限してみるから一回使ってみろ」

 すると、ザルフが慰めと励ましの言葉と同時に何とも信じがたい事を口にした。

 「外側から制限?そんな事ができるのか?」

 「まぁ、実用するにはコツが必要なんだけどな。それにそんな方法を知ってるのは白虎の奴らぐらいだろう」

 ザルフはそう言うと、さするようにしていた手を背中に押し付けてきた。恐らく、この腕を介して魔力の放出を制限するのだろう。探るように動いていた手つきが不意に止まり、「始めて良いぞ」とザルフが言った。

 その言葉を聞いて、なるべく以前と同じ状態に近づけようと思って精神を集中させる。そのまま全身に力を込めていき、前と同じく徐々に徐々にと、体の末端から熱を帯びていく。指先、手、腕、上半身。つま先、ふくらはぎ、太腿、下半身と少しずつ体に熱が回っていくのがわかる。だが、どうにも前と比べると熱、もとい魔力の回りが遅い。長い間体に力を込め続けるというのは中々にキツいが、少し気を緩めると集中を解いて解除される可能性がある。そうならないように、以前の倍ほどの時間をかけてやっと魔力が頭部にまで達した。

 「おぉ・・・・・・」

 魔力が全身を包んだとき、俺が真っ先に感じたのは視界の違いだった。別段俺は視力が悪い方ではないが、あまりにも鮮明に写る視界の光景に思わず感嘆の声が漏れ出てしまった。すると、感動していたところでザルフが安心したように一息ついていた。

 「ふぅ・・・・・・何とか成功か。初めてだったが上手くいったな。トシユキ、何か異常とかはあるか?」

 言われて体の動作確認をするが、特に何も問題無し。その事を報告すると、

 「そうか、他にも何か無性に走り回りたいとか適等に何でもいいから破壊したいとか無いよな?」

 どんな危険人物だ、と言いそうになったが前回は俺がそういった状態になっていたので何とも言えない。だが、言われてみれば以前のような感情の昂ぶりはあまり無い。なるほど、確かにこれは成功のようだ。

 「じゃ、上手くいった事だし早く向かうぞ。早くしないとこの砂漠も段々暑くなってくるからな。森の到着を急ごう」

 言い終えるとザルフは再び走り出した。また置いていかれるわけにはいかないと思って俺もその後に続くが、走る脚が妙に軽い。変化はそれだけではなく、肺活量も大幅に向上していた。息苦しかった呼吸は安定しており、蹴る足に負担がまるで掛かっていないように思える。

 今までの体とはまったく違う自分の体に半ば興奮気味になりながら、ザルフの跡を着いていくと不意にザルフが足を止めた。

 急停止に思わず身構えると、目の前には広大な森が目に入る。そこで、いつの間にか森に到着していた事を悟る。今回来るのは二回目だが、どうにもこの森のおどろおどろしい雰囲気は苦手だ。森に入る前は眩しく、痛いほどに照りつける太陽光がこの森の中では50%以上カット。ありえないくらいに薄暗く、それ故に中に存在する食虫植物も化け物レベルのものだというのだから良い印象はどうやっても与えられないだろう。

 一日振りの森を見て、少し立ち尽くしているとザルフが休憩をしようと言い出した。恐らく俺が走ったことによる疲労で呆然としていたと勘違いしたのだろう。けど、本当はただ森の雰囲気にビビッてただけなのだが。

 「トシユキはこっちに来てそんなに日が立ってないんだろ?使い慣れない魔力を使うのは相当辛いからな。あまり無理はするなよ」

 こちらを気遣う姿勢でひどく俺を労わるザルフ。あまりにも一方的な勘違い過ぎて、なんか否定がしづらい。ここは素直にザルフの厚意に甘えておこう。

 「そうだな。そうさせてもらうよ」

 そう言って近くの大きめの石に腰を掛ける。日があまり当たらない場所にある所為かその石はひんやりとして、走って火照った体に心地良い温度だ。それに合わせてザルフも近くの木に背をもたげる。

 そういえば、ふと思ったのだがザルフの探し物についてまだ俺は聞いていなかった。今日の目標であり、目的。それを俺はまだ把握していなかったのだ。

 「なぁ、ザルフ。聞き忘れてたんだけど、今日ここに探しにきたものって一体何なんだ?」

 俺と同じく体を休めていたザルフにそう聞くと、ザルフは少し不思議そうな顔をした。

 「あれ、まだ言っていなかったっけ。俺はこの森に居るであろう『大きい白い虎』を探しにきたんだ」

 ザルフはどこか決意をするかのような目をしてそう言った。しかし、探し物と聞いていたから何か物を探しにきたのかと思っていたがそうではないらしい。居るであろうという結構不安要素たっぷりなセリフを言っていたザルフだったが、その真剣な表情から察するに余程重大な件なのだろう。それはザルフの真剣な表情から窺えた。

 「よし、そろそろ休憩も終了だ。行くぞトシユキ」

 ザルフがもたれていた木から背を離し、ゆっくりと歩きながら言った。とりあえずとして休んでいた休憩時間だったが、それなりに体力も回復しているようで少ない疲労が無くなっていた。スタスタと歩いていくザルフに少々出遅れながらも着いて行く。

 森に入ってみると、以前見かけたやたら甘い臭いのする植物や牙のような葉を生やした植物が口を開けていたりと相変わらずのようだった。どれも元の世界で見たことがあるような植物たちだが、そのサイズと凶悪度は元の世界の比ではない。ウツボカズラのような植物は人一人入れるような深さだし、ハエトリグサに似た植物は牙が異常に大きくだらしなくよだれを口外に垂れ流していた。以前ザルフから聞いた話によると、この植物に片腕を食われた人がいるらしい。最早それは食虫植物というよりは食人植物だろ、と考えていると突然ザルフから声をかけられた。

 「そんなにそれが気になるのか?」

 そう言ってザルフが指を刺したのは今言っていた牙がある植物だ。別にそこまで気になるというわけではないが、少し興味をそそられる。元々俺は不思議な植物や動物が好きだった。かつてネットで見かけた見た目がグロテスクな蜘蛛や、やたらと足が多い節足動物。それらの虫類を本気で家で飼育しようと考えていたほどだ。だが、それは一家の大黒柱を始めとする家族全員に断固拒否を申し入れられあえなく断念したのだが。

 つまりこういう不思議生物に惹かれる部分は多少なりともあるという事は否定できない。しかし、それは自らが基本的に安心できる立場だかろこそ出来る娯楽であって、自分の命を危険に晒すまでの危険生物は惹かれるどころか軽く引く。そんなジレンマじみた状態で俺は眺めていただけであって、そこまで俺はその危険な植物に興味があるわけではない。

 なのに、ザルフは何を思ったか噛み付こうとする植物の牙を器用に体を捻ってかわし、あげく根元から手刀で切断して俺に渡してくるではないか。

 「え、ちょ、ちょっ!何してんのお前!?」

 「ん?だってトシユキが物欲しそうに見てたから、欲しいのかなって」

 「んなわけあるか!」

 茎から切り離したというのに未だに元気に咬み付いてこようとする植物に向かって手で追い払う仕草をする。それを見てザルフは少し残念そうな顔をしたが、渋々といった様子でそれを放り投げる。

 「あーびっくりした・・・・・・。この森ってあんな植物が多く生息しているのか?」

 「あぁ結構いるな、ああいうのは。もともと生存競争が激しい場所だし生きるのに必死なんだろう」

 確かに、この森で肉食じゃない生物を見たことが無い。きっと食物連鎖なぞ存在せず、魔獣だろうが植物だろうが関係無しにお互いをエサと思っているんだろう。

 「ちなみにあの植物の実はかなり美味いんだ。ただ今は春じゃなくて夏だから食えないけどな」

 ・・・・・・恐らくこいつはこの森の食物連鎖の頂点だろうな。何でも食うし。

 今見た植物とはまた違うがここはそれなりに木が生い茂っている。きっと肉食が多いから逆に育ちやすいのだろう、全長10mを悠に越すサイズがそこらじゅうに広がっている。だが、それよりも気になるのがその奥に居る何かしらの魔獣たちだ。ザルフは森の獣道をどんどん進んでいくが、まるで森の魔獣は機会を窺うように木の隙間等からこちらを覗いている。きっと隙あらば獲って食おうという魂胆だろう。そのあまりの緊張感から、少し息が漏れ出る。

 「どうしたトシユキ。ため息なんかついて」

 こちらの気も知らずに随分とのらりくらりとした調子の声でザルフは声をかける。

 「どうしたっていうか・・・・・・なんかここ、凄い視線を感じるんだが・・・・・・」

 「あーそういう事か。そうなんだよなぁ、最近森の浅い所までこいつらがうじゃうじゃしてるから村のガキ達の身体教科魔法の訓練も付けれないんだよ」

 ザルフは本当に困っているように頭を掻いて深いため息をついた。以前にザルフから聞いたとおり、魔獣の影をそこかしこで見かける。その中には俺が見たことも無いような姿をしているものもあり、ちょっとした疑問を覚える。

 「そもそも何でこんな危険な場所で訓練なんてするんだ?俺のときみたく村ですれば良いだろうに」

 訓練をわざわざこんな危険な場所で、それも子供たちは好奇心旺盛なやんちゃ盛りじゃないか。余計に危険性が増してしまう。それをこんな人食い植物や肉食の危険な魔獣がいるところでやらなくても、と思ってしまう。

 「村でやるのも良いんだが、それだけだと才能が中途半端に開花してしまう恐れがあるんだよ。白虎の魔人の特性はその膨大な魔力の器だ。それが幼少期に出来上がるんだが、その時期により多くの魔力を浴びて内蔵する魔力の器を大きくする必要がある。だからこの森みたく充分な魔力が漂うような土地じゃないと一人前にはなれないんだよ」

 「そうなのか・・・・・・」

 どうやら、意外と複雑な事情だったらしい。というか、今初めて白虎の人が魔力の保有する量が多い理由を知った。なるほど、だからわざわざこんな危ない森に子供たちを連れてくるんだな。納得がいった。

 白虎の魔人について詳しく教えてもらって聞いたことの無い知識に感心していると、俺とザルフの間に突然一体の魔獣が現れた。

 「キュロロロロロォ・・・・・・」

 そこに現れたのは、豪快な足音を立てながら静かに鳴き声を漏らす青い鹿のような魔獣。それは以前ザルフとレオンと共に狩りに行った時に見かけたあのシブズという魔獣だ。 

 シブズは少し興奮しているのか、鼻息を荒げて角を振り回して威嚇をしている。だが、見た目こそ前に見たものと同じだがそのサイズはふた回りほど小さい大きさだった。

 「こいつは・・・・・・まだ若いオスだ。それに少し興奮気味なのを見るとどうやら魔力酔いをしてるっぽいな」

 至近距離に居るシブズを目を細めながら眺めて冷静に状態を確認するザルフ。この辺は流石に場慣れしているというか、この程度ではうろたえないようだ。

 「・・・・・・じゃなくてッ!こ、こいつどうすんだ!」

 「ふむ、別にこの位のサイズならお前がやっても問題無さそうだぞトシユキ」

 「はぁ!?」

 この危機的状況で何をほざきやがってんだこの男は。何も弱くてクソ雑魚の俺が直々に手を煩わせる必要性は皆無なはずだ。それに俺はまともに戦った経験が無い。それはこの世界でも、前の世界でもだ。本気で殴りあった記憶もあるにはあるが、弟とのガチ喧嘩はノーカンだろう。

 「キュロロロロロォ・・・・・・」

 俺とザルフが間を通して会話をしているというのに、何故かその間小さい声で鳴いてその場で黙って待機をしてくれているシブズさん。もしかして実は優しい奴ですよ~とかっていうありがたいオチだと良いんだけど。

 「キュロロロロ!」

 そう心の中で思った矢先、シブズが突然前足を振り上げて暴れだした。まぁ、そりゃそうだよね。シブズさんだってこの森に生きる立派な魔獣だものね。

 「トシユキ!そっち行ったぞ!」

 シブズの進路決定を裏付けるようにザルフが叫んだ。すると、その声の通りシブズは掲げた前足をこちらの方向に向けて角を誇示するように向けてきた。

 「キュロロロロロロロロロロロロロ!」

 まるで親の仇を殺す勢いで猪突猛進をしてくるシブズ。慌てて突進を避けようとするが、その瞬間にザルフが大きな声で俺に注意をした。

 「トシユキ!今のお前には身体強化魔法があるんだぞ!それを使えば若いシブズなんて楽勝だ!」

 俺の闘争心を煽るようにザルフは言う。そういえば、俺は今身体強化魔法を使ってる状態だったな。そうか、その力を使えばこんな変なヤギもどきぐらい赤子の手を捻るようなものか。

 ザルフに言われて、避けようとしていた体を戻して腕を体の前で作って体当たりを受け止める体制に入る。それを挑発と受け取ったか、シブズがそのまま突進を繰り出した。

 「グハッ!」

 しかし、シブズの突進を格好良く受け止めるという俺の想像は脆くも崩れ去り、シブズの突進を直に受け止めてそのまま吹っ飛ばされてしまった。軽く2mほど宙に浮き、背中から勢い良く着地をする。

 「おい、何してるんだトシユキ」

 着地点で痛みに悶絶しているとザルフが駆け寄ってきて心配するトーンで声を掛けた。だが、その声色に多少の呆れと嘲笑が含まれているように感じたのはきっと気のせいだろう。

 「お前そんな状態で挑めばそりゃそうなるに決まってるだろ」

 「そんな状態?」

 「身体強化魔法ったって常にフル出力なわけではないだぞ。さっきお前に施した身体強化魔法は肺の辺りを強化しただけだから、身体を強化する箇所に魔力を集めないと耐久もくそもないって。だから前みたく意識集中させて身体に魔力纏わないと」

 そういうのは先に言ってくれ。と、そんな小言を言う暇もなくシブズが再び遠くでイノシシの如く土を蹴り上げて発進準備をしている。

 「まぁ、こんなふうにだな」

 ザルフはそう言って背後から突撃をしてきたシブズを裏拳一撃で吹っ飛ばした。完全に不意打ちの反撃だったので、シブズは短い悲鳴を上げてどこかへ行ってしまった。

 「ふん、逃げたか。大方今ので魔力酔いが醒めたんだろう。まぁ追う必要も無いか」

 逃げ帰るシブズを一瞥し、未だに地面に伏している俺に手を伸ばした。その手を受け取り、体に異常が無いか確かめるように触ってみる。どうやら、軽い全身打撲で済んだようだ。

 「いってぇ・・・・・・てか、そういう重要な事は先に言うもんだろ」

 痛む背中をさすりながら、事前に言うという配慮を忘れていたザルフに文句を垂れる。すると、「いや、知ってるもんかと思ってな」と苦笑いを浮かべながら言った。 

 「まぁまぁ、過ぎたことは何言ってもしょうがないしそろそろ先に進もうぜ」

 自分のミスを棚に挙げ、その場の雰囲気で流そうとするザルフ。・・・・・・まぁ、言ってる事は正しいっちゃ正しいから良いんだけどさ。今更前のミスをとやかく文句を言っても仕方が無い。それよりだったらザルフの言うとおり先に進んだ方が懸命だろう。何か釈然としないが。

 「そんな怒んなよ~トシユキ~」

 「怒ってない」

 「いや、その声絶対怒ってんじゃん。悪気は無かったってばさー」

 「だから別に怒っていない」

 「完全に拗ねてんじゃん!おいおい、機嫌直してくれよー」

 そんな他愛の無い会話をしながら、向かってくる魔獣を蹴散らしつつ(主にザルフが)森の奥へと俺たちは歩を進めていった。


※※※


 『白い虎』探しからしばらく経ち、いい加減に疲労も溜まり空腹も限界が近かった。あの後も何度か無謀にも俺たちに挑んでくる若い魔獣と半ば強制的に戦わされ、そのおかげで全身がクタクタだ。そんな状態じゃ腹も減るというもの。

 「ザルフ、そろそろメシにしないか」

 この問いかけも既に何度行ったかわからない程に言った。が、その都度まだ早いと断られてきた。今の発言もダメ元で言ったのだが、帰ってきたのはあっさりとした了承だった。

 「そろそろトシユキの魔力も限界だろうし、ここらで昼飯にするか」

 そう言ってザルフは地面に座り、持ってきた風呂敷を広げた。まるで自分の家のような自然な立ち振る舞いだったが、何度か蹴散らしたはずの魔獣どもが遠目から窺ってると知ってか知らずかまったく警戒をしていなかった。

 「どうした、トシユキ。お前も腹が減ってたんじゃないのか?」

 「あ、あぁ。そうだな」

 ザルフに言われて俺も地面に座り風呂敷を取り出す。地面に風呂敷を広げるとおにぎりが四つコロコロとその場に転がった。

 「さて。それじゃ、いただきます!」

 「いただきます」

 二人で食事の挨拶を済ませ、一緒におにぎりを食べ始めた。俺が食べたおにぎりの中身は、赤い塩辛のような味の具だった。それを見たザルフが、

 「おー、それ多分前に狩りで獲ったシブズだな。シブズの一番美味い調理法っていったらそれくらいしかないんだよな」

 「へぇ、これがか。てか、仲間のシブズの前で食うの申し訳無いな・・・・・・」

 「ははは、そりゃ仕方無いって。食わなきゃ死ぬし、そもそもここの魔獣どもにしたってそこんとこは本能で理解してるだろ」

 ザルフはそう言いながら手にしていたおにぎりを口に放り込んだ。その理屈に納得し、俺も二つ目のおにぎりに手を伸ばす。

 「ま、気にしたってしょうがないか。美味い物は美味い、それは変わらないんだしな」

 「そういう事だ。深く考えたって意味無いんだ、適当が一番だよ」

 そうだよな、とザルフの意見に同意してその後もくだらない会話を続けながら昼食をとった。四つのおにぎりを平らげると、ザルフは「腹休めだ」と言って地面に横たわった。それに乗じて俺も少し横になる。

 「意外とあのおにぎりデカかったな」

 「そうか?あれくらいギリギリ一人前かどうかぐらいだぞ」

 「そりゃザルフとか白虎の連中に比べりゃそうだろうよ・・・・・・」

 「何だよそれ、まるでオレが大食いキャラみたいじゃないか。どっちかと言うと大食いは・・・・・・」  「グォォォォォォォォォ!!!」

 ザルフが話そうとした途端、どこからか獣の咆哮のような鳴き声が聞こえた。あまりにも大きな声に体が固まってしまい、硬直したままとなる。

 「なっ、なんだ今の?」

 慌てて身を起こし、周囲を確認する。しかし、それらしい魔獣の影は見当たらず、それどころか先程まで周りにいたシブズ等の魔獣までも姿を消していた。

 「・・・・・・・・・・・・」

 ザルフの方を向いて何事かと聞こうとしたが、ザルフも今の声に驚いているのか目を見開き身体を強張らせている。そして、森に再び静寂が来たと感じた途端、

 「グォォォォォォォォォォォォ!!!」

 咆哮が再び辺りに響き、大地を振るわせた。その声はまるで見えない何かをおびき寄せるような声で、挑発的な意図を孕んでいた。

 「あっちか・・・・・・ッ!」

 二度目の鳴き声を聞いたザルフが突如立ち上がり、何処かへ走り出した。ザルフが向かっていたその方向は先程から雄叫びが聞こえている方角だ。ザルフは今までに無いほどの俊足でその場所へ駆けていく。その速さは身体強化魔法を覚えた俺でさえ、追い付く事はおろかその背を見失わないようにするのが精一杯だった。

 追い付かないながらもザルフを必死に追いかけ、たどり着いたのはやけに拓けた森の一部だった。その場所をよく見てみるとそこかしこに乱暴になぎ倒された木々が転がっており、元々木が多かった場所を無理矢理開拓したように見えた。

 「・・・・・・トシユキ、下がれ」

 しばらくそこで立ち止まっていたザルフだが、唐突に俺を引っ張り後方へと飛び退く。後ろの襟を引っ張られた事で首が絞まり、つい咳き込んでしまう。そしてどうしたんだとザルフに聞くその時。

 ――ザルフが退いたその場所に、巨大な白い虎が轟音と共に姿を現した。

次回からは書くペースを上げたいです(上げるとは言ってない)

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