3 模擬戦決着!
クローサの開始の合図と共にリーランがこちらへ向かってきた。構えていた大剣を上に振り上げたまま、走ってくる。目にも止まらぬ速さによって一瞬で模擬戦終了、なんてことにならなくてよかった。ま、あれだけ大きい大剣を振り回すとなれば当然だろう。目測でも150cm以上はありそうなほど巨大な代物を担いで歩くというだけで充分すごいと思うけどな。
あーだこーだと色々な事を考えていたら、いつの間にか剣を構えたリーランが正面に現れた。
「ハッ!」
「うわっ!あぶねぇ!」
振り下ろされた大剣を横っ飛びでかわし、ゴロゴロと地面を転がる。一瞬、気づくのが遅かったら今の一撃で殺られていただろう。しかし、今リーランが一瞬で距離を詰めたような気がするが・・・・・・。
「・・・どうやら、気がついたようですね」
考え込んでいたところを見透かされたようなタイミングでリーランが発言した。気がついた、ということは今の移動には何か仕掛けがあったのだろう。
「魔法か?」
「その通りです。風魔法『フーリ』その応用ですよ」
やはり、あったか。異世界定番決まり文句、『魔法』の存在が。
「なるほどな。魔法で加速したわけか」
「はい。さすがにわかりますね」
魔族が魔法を使えるということは恐らく俺も使えるんじゃないだろうか。異世界といえば魔法、魔法といえば異世界だ。召還されたのだから一度は魔法の神秘というものを味わってみたい。
しかし、今はそれどころではない。今まさに魔法を使う奴と対峙しているのだ。それに腕力や剣の扱いなども確実にあちらが上だ。俺が油断していい相手ではない。注意深く観察していないと、再び魔法を使った急接近でやられてしまう。そうならないためにも、相手の様子を見続けないといけない。
「今、何が起こったかわかるカ?」「すごいゾ!あのヴァルキリー様の一撃を見切ったゾ!」「あの速さを見切るとは・・・今代の闇勇者様はすごいな・・・」
観客席からゴブリン三人組の大きな声が聞こえた。そんな騒ぎ立てるほどの事はまだしてないんだがな。てか最後の奴キャラ変わりすぎだろ。
しかし、あの最初のアクションからリーランが動かなくなってしまった。完全に待ちの姿勢で俺の攻撃を待っている。ここで迂闊に攻撃をしてしまったら、その攻撃を見切られその隙を突かれ反撃されるだろう。それがわかっているから、俺も動くに動けなくなってしまう。
「どうしたのですか?攻撃しないのですか?」
動かない俺を見て、兜の奥からリーランが挑発的に言う。だが、俺はそんな安い挑発に乗るはずもなくそのままその場に静止する。
「リーランこそ、その大剣を振らなくていいのか?」
「本当は私の戦闘スタイルは待ちなんです。隙が大きいですからね」
このまま俺が挑発を続けても、きっとリーランは剣を振らないだろう。基本スタイルが待ちというのも事実だろうし、それなら自分から攻めるということはまず無い。
・・・・・・こうなったら自爆覚悟で突っ込んでみるしかない。リーランに攻撃する覚悟を決め、片手剣の柄を強く握った。いざとなったら盾がある。これで防げばいいだろう。
「ハアアアアアアア!」
掛け声と共に勢いよくリーランに向かって走った。すると、リーランはそのまま大剣を構えた姿勢の状態で身構えた。
「ハァッ!」
片手剣を振りかぶり、力を込め全力で縦に振る。
すると、リーランが大剣を構えたまま俺の攻撃をいなした。
「フッ!」
俺の片手剣をいなしたリーランは、そのまま横薙ぎに大剣を振るった。
「うわっと!」
リーランの大剣が目の前に迫り、慌てて持っていた盾で防御をする。
しかし、俺の体勢が悪いのを好機と思ったリーランはそのまま大剣で斬撃を次々と繰り出す。
「ハッ!セイッ!ヤァ!」
連続した掛け声と共に重い剣での連撃が俺の盾の耐久度を下げていく。一撃の重さゆえにこちらの反撃する暇が無く、まさに防戦一方のまま盾で攻撃を凌いでいく。どうにかしないといけないと頭で判断するが、隙がまるで見当たらない。
「ハァッ!」
より一層力がこめられた一撃を受けて今まで攻撃を防いでいた盾が弾かれてしまった。
「しまった!」
追撃が来ると重い、目を瞑り、体が強張った瞬間。衝撃音と共にリーランの体が大剣と共に吹き飛ばされていた。そのまま宙を舞ったリーランは受身を取りながら地面に着地した。
「・・・・・・?今のは一体何だ?風魔法による突風でもなく、土魔法での土の打突でもない。それになにより、詠唱が無かった・・・・・・」
少し離れた場所でリーランが何かブツブツ言っているが、頭を打ったとかじゃなさそうだし大丈夫だろう。
しかし、今の音は何だ?迫ってくるリーランがまるで見えない何かに弾かれたかのようなそんな音だった。まさか、さっきリーランが言っていた風の魔法か?なるほど、加速が出来るならそれを利用して弾き返すことも出来る、か。
じゃあ、俺はこれでもう魔法を習得した事になるのか!?マジで!?じ、じゃ早速使ってみようかな。えっと、さっき確かリーランは『フーリ』と言っていたはずだ。これを唱えればもう一度あれを起こせるかもしれない。
「『フーリ』!」
なるべく大きな声で魔法を唱えた。決闘場の真ん中で叫ぶというのは中々恥ずかしいが、魔法の代償とすれば安いものだ。
「あれ?」
しかし、予想に反してその場では突風はおろか、微風すら出現しなかった。
何故だ?今の呪文じゃないのか?そもそもMPが足りないとかか?いやじゃあさっきはなんで発動したんだって事になるぞ?
「あの、闇勇者様。何をしているのですか?」
様々な疑問を頭の中でグルグルと自問自答していると、いつの間にか立ち上がっていたリーランに声をかけられた。
「い、いや、さっきの風魔法を発動しようとしたんだがな・・・・・・」
決闘中だが、敵のリーランにアドバイスをもらえないだろうか。さすがにそこまで甘くは無いか。
「えっと、先程の魔法は恐らく風魔法じゃないと思いますが・・・・・・」
「え?」
じゃさっきの出来事は何だったんだ?風以外で相手を吹き飛ばす、そんな力なんて・・・・・・・・・・・・あっ。
「もしかして、『斥力』か?」
そういえば昔テレビで見たことがある。確か、磁石に働く力の名前で、引き合う力を引力、反発しあう力を斥力というらしい。もしかするとその力か?それなら納得できるし、むしろ他に思いつかない。
試してみる価値はある。唱えてそれじゃなければまた別のことを考えよう。
「『斥力』」
近くに転がっていた片手剣用の盾に向かって唱える。すると、先程と同じような音を立てて吹き飛んだ。
やはり、合っていた。ならば逆に『引力』は使えるのだろうか?反発しあう力を使えるという事はその対になる力も使えるんじゃないだろうか。物は試しだ、飛んでいった盾に向かって唱えてみよう。
「『引力』」
盾が吹っ飛んでいった方向に手をかざし、引力と唱える。すると飛ばされた盾がかざした手の中に物凄いスピードで戻ってきた。少し手が痛い。
「おぉ・・・・・・」
近くで俺の力を見ていたリーランが、感嘆の声を上げた。確かにこの力はすごい。要は物を弾き返す力と物を引き寄せる力だからな。なんというかチートという感じはしないが、使いこなすと相当強い能力だろう。
「なるほど、返す力に引く力ですか」
「あぁ、どうもそれっぽいな」
きっと最初の内に無詠唱で出たのは反射的にというべきか、身の危機を感じた時に咄嗟に出たように感じるな。
「さて、それではこれにて模擬戦終了ですね。魔王様」
『ふぇっ!?』
突然リーランに話を振られたクローサが変な声を出した。しかしこの魔王、威厳も何も無いな・・・。
『えっ、あっ、はい!そうです!それではこれにて模擬戦終了です!』
「なんだ、もう終わりカー」「まだ10分ぐらいしか経ってないゾー」「あせる魔王ちゃんもかわいいー」
『もう!いい加減に魔王ちゃんはやめなさーい!』
そんな魔王の照れた怒声にて、今回の模擬戦は終了した。
模擬戦を終えた俺は控え室のような部屋で、リーランとクローサに俺の能力について話をしていた。
「それじゃあ、闇勇者様の権能は、いんりょくとせきりょく、という御力なんですか?」
「あぁ。恐らくリーランは理解していただろうが、『引力』が引き寄せる力、『斥力』が弾き返す力だ」
まぁ、ちょっと違うけど大体こんな認識でいいだろう。それにこの世界で磁石だなんだと言ってもわからないだろうからな。
「なるほど。そのような力でしたら今までの闇勇者様と引けをとらない魔法、といっても過言ではありませんね」
「そういってもらえると嬉しいよ」
実際にはまだ使いこなせてるとは言えないがな。まだ加減が出来ないから引力を使ったときものすごい勢いで盾が向かってきたからちょっと怖かったんだよね。
「それで闇勇者様、汗をかかれているようなので一度大浴場に入られてみてはいかがですか?」
これは暗に一緒に入りませんか、という意味で言っているのか!?まさかの混浴フラグですか?誘ってるんですね、わかります!
「クローサも入るのか?」
「い、いえわたしはまだ仕事が残ってますので、ちょっと遠慮させてもらおうかなーって思ってます」
「いや、一緒に入るぞ」
「い、いやーわたしは別に汗もかいてませんし・・・」
うーん、どうしても入ってくれないようだ。これでは異世界なのに美少女とイチャイチャするというもう一つの目的が達成できない。かくなる上は、非常手段だ。
「一緒に入ってくれないと俺、闇勇者引退します」
と、言って無理やりにでも一緒に入る理由を作るしかない。大分ゲスい方法だけど文句を言われる筋合いはない。正直クローサの巨乳を間直で見れれば俺は満足です。
「えっ!?何言ってるんですか!引退しないで下さいよ!」
「じゃあ、選択は一つしかないな。俺の条件を飲めば闇勇者をやろう。逆に言うと飲まない限り俺は闇勇者に就く気は無い」
少し大げさな話になったが、目的さえ完了できればいいのだ。我が心と行動に一片の迷いなし、全てが正義だ。
「えぇー!いやでも・・・・・・」
「俺の質問には、はいか、いいえで答えてくれ。さぁ、どっちだ?」
なんか変にテンション上がって俺自信も何言ってるかわかんなくなってきたが、今はそれは些細な問題だ。
「そう・・・ですね。せっかく召還に成功したんですから・・・・・・これを無駄にするわけには行きませんよね・・・・・・・・・」
よ、予想以上に精神的に追い詰めてしまったようだ。さすがにここまで追い詰めた表情をされると申し訳ない感情に襲われる。俺が原因なんだけどね。
「ま、まぁ、言ってみればそれさえこなせば俺は誰が何と言おうと正式に闇勇者という立場に就くという事だから、な。そんな落ち込むなって」
「いいえ、大丈夫です。わたし、闇勇者様とお風呂に入ります!」
お、おう。何とかこの結果にこぎつけたが物凄い罪悪感に苛まれそうだ。いくら魔王といえど見た目中学生くらいの女の子だからな。・・・あとで少し謝っておこう。
「私も大浴場へ同行させていただきます」
隣に立っていた黒い鎧から、そんな声が聞こえたような気がした。
この作品を書いていて早くも感想を頂きました。
すごくありがたいと思っています。
不定期更新なのでバラつきがあると思いますが最後まで応援よろしくお願いします。




