4 困ったわ…。
「うーん……」
わたくしは今、人生最大の難関に向き合っている。
生まれてこの方、これほど悩んだことがあっただろうか。いやない。
「うーーん…………」
自室で机に向かい、延々見ていても、何も浮かばない。いや浮かびすぎて、選べないと言った方が正しい。
何をやってるかって?
今度の夜会に着ていくドレスのデザインを考えてます。もちろん、可愛い妹の!!
だってだって、いつもなら私情が入りすぎてなかなか決まらなくて、見兼ねたお母様が決めてるのだけれど、今回は! なんと、妹から!!
『一度でいいから、お姉様が選んだドレスを着てみたい…なんて無理ですよね…』
なんて、ちょっと淋し気に言われたのよ?!
ここはわたくしのすべての能力を出し切って、最高に妹を輝かせたいじゃない!!
いえ、妹は何を着てても最高よ?
正直、何を着せても似合うし着こなすし、何色でもどれを身に着けても、『この衣服たちはアルヴィナに着てもらうために作られたのだわ…』と毎回新鮮な驚きをわたくしに齎してくれるほどよ。
例え、平民が着る飾りひとつないシンプルなワンピースでも、いえ、いっそシンプルが故にアルヴィナの美しさを引き立てるに違いないわ。見たことはないけれど。…最高級の生地で一度、仕立ててみようかしら?
白? ピンク? 空色? 紫? 緑? ああ、どれも似合うでしょうねえ…(うっとり)。
シンプルも似合うといっても、レースやフリルが可愛い妹の美しさを阻害するかといえば、否。断じて否!
すべての飾りが妹の美しさに平伏すように、この世に存在する物質は我が妹のためにあると言っても過言ではないのだから!!!
…いえ、可愛い妹の愛らしさと美しさを(脳内で)語っている場合ではなかったわ。
「……うーーーーん……………」
いろいろなサンプルを取り寄せ、デザイン画をあれこれ見ているが、一向に決まらない。いっそ全部仕立ててみたい。そして1時間ごとくらいに着替えさせて愛でてみたい。
しかし、一度の夜会で、それも王家主催の夜会で、王族より目立つような真似はできない。それくらいの良識はある。
可愛い妹は容貌は言うまでもないが、スタイルもいい。まだ13歳だというのに、メリハリのある身体にその年頃特有の危うさがあって、年々、いえ月々…日々、毎時間?魅力が増していっているのよ。
その妹に相応しいドレスを!となると、何という難題…!
お母様はよく、あんな素敵なドレスを毎回選べるなと感心しきり。アルヴィナを輝かせるだけでなく、しっくりくるのよね。
「……うーーーーーーん……………」
「…お嬢様」
Aライン? プリンセス? エンパイア? マーメイド?
ああああああああ…どれも似合うのよ。選べないのよ。
「……うーーーーーーーん」
「ディアナお嬢様」
お嬢様、と間近で呼ばれ、振り返ると侍女のミラが難しい顔をして立っている。
「あ、ごめんなさい。何かしら?」
「…就寝のお時間ですよ」
「え、もうそんな時間なの?」
時計を見ると22時を回っていた。しかし、まだ何も決まってもいないし、という内心を見透かしたようにミラが一言。
「就寝の、お時間です」
「…はい」
ううう…と若干涙目で寝台に向かっていると。
「ディアナお嬢様が寝不足でクマなど作ったら、アルヴィナお嬢様がどう思われるか…」
「おやすみなさい!!!」
そうよ、可愛い妹と並んで立つのに、クマなんて…あり得ない、あり得ないわ!
そうなったら有能な侍女たちは目立たないようにしてくれるだろうけれど、そんな誤魔化し、わたくしの天使の隣に立つのに到底相応しいとは言えないわ!!
容姿に関してはどうしようもないのだから、せめて身嗜みはきちんとしなくては。
可愛い妹や、両親は美しいと言ってくれるけれど、身内の欲目ということは言われずともだし、分は弁えているわ。
だからこそ、最低限、周囲が不快に思われないよう、身なりには気を遣っているのである。とはいえ、学園では制服なので、変わり映えしない恰好ではあるけれども。
もし、もしもよ?
可愛いだけではなく、優しい妹だけれど。
姉であるわたくしを立てて、言葉にすることはないかもしれないけれど。
その可愛い妹に、可愛いアルヴィナに、幻滅などされたら…。
「………」
じわりと、想像だけで涙が浮かんできそうになる。
だめ、堪えるのよ、ディアナ!
ここで泣いて目を腫らしてもだめよ。擦ってもだめ。
明日のことを考えるのよ!
幻滅されたり、嫌われたりは、そうならないために努力すべきなのよ!!
それに、万が一、いいえ、億が一にでもそんな事態になったら。
わたくし、きっと生きていけない…。
◇ ◇ ◇
「アルヴィナお嬢様」
「分かっているわ」
もう22時を回っている。デザイン画から目を離さず答えるわたくしに、侍女のラナが頷き退室する。明日の朝の準備を追加してくれるのだろう。
万が一、目の下にクマなど作った日には、お姉様にどれだけ心配をかけてしまうか。それをラナは十分に理解している。
いつもなら、とっくに寝台に入っている時間帯ではあるのだが、先日、お姉様にドレスを選んでほしいとおねだりしてみたら、
『そ、それじゃあ、もしよかったら、わたくしのドレスも、アルヴィナが選んでくれないかしら…』
と、それはもう、その場にいた全員の心を撃ち抜かんばかりの可愛らしさで、もじもじしながら言われたのだ。
美しいだけではなく、可愛らしさも持ち合わせているなんて、お姉様の存在自体がこの世の奇跡で、天上のものであるなど分かりきっていたことだが、目に焼き付けようとするわたくしの思考を支配していたのは、この場にいるのが身内だけでよかった、だった。
元から、異性も同性も無自覚に引き寄せるお姉様。何もしなくとも、すべての人類を虜にしてしまうお姉様。
美しいだけでもそれを成し遂げてしまうお姉様に、あのような可愛らしさまで知られてしまうと、いつ誰に攫われるか、襲われるか、気が気ではない。
もちろん、そのような可愛らしい面があることなど、このわたくしはとっくに把握していましたけれど。滅多に拝めませんが。
とまあ、そんな美しくも可愛らしいお姉様のドレスを選ぶため、空いた時間はすべてそれに費やしている。
しかし、お姉様の美しさに見合うドレスがなかなかなく、いっそデザイン画から起こすべきかと悩み中。
王族より目立つのはご法度。
そんな不文律のぎりぎりを攻める最高級品、且つお姉様を最も輝かせ………いやあまりお姉様の魅力を輝かせてしまうと、害虫が血迷って求婚などしてしまう可能性もと、嫌な考えが浮かぶ。
かといって、お姉様の魅力を損なうドレスを選ぶなど、このわたくしの矜持が許さない。
それ以前に、お姉様に似合わないドレスを着せるなど、世の損失で、許されるわけがない。
…ジレンマである。




