2 声が聞こえた
『かわいいいもうとがいいな』
ゆらゆらと心地よく微睡んでるとき、そんな声が聞こえた。
『ディアナは妹がいいの?』
『はい! かわいいいもうとがほしいのです』
『あらどうして?』
『かわいいいもうとと、おそろいのドレスをきたりしたいのです!』
『そう。…お姉様は、あなたが妹だったらなって言ってるわよ?』
ぽんぽんと、軽い振動。ゆらゆら、ゆらゆら。
穏やかな優しい声と、少し高い、けれど心地よい声。
『はやくあいたいな。はやくうまれないかな』
楽しそうに、ころころと笑っている、誰かの声。
『まだまだ、時間はかかるわねえ。この子も早くお姉様に会いたいだろうけれど』
『あとどれくらいですか?』
『あと、3カ月くらいかしら?』
『さんかげつ?』
『ディアナが、毎日楽しく過ごしていたら、あっという間に過ぎるわ』
『そうなの?』
『だからね、もし弟でもがっかりしちゃだめよ?』
『おとうとも、ドレスいっしょにきてくれるかなぁ?』
『…それはどうかしらね』
ふふ、と笑う落ち着いた声。
『お嬢様。作法の先生がいらしてますよ』
『はい、いまいきます。それではおかあさま、またあとで』
『またあとでね』
ふっと傍から温かい気配が遠ざかる。なんだか、音が遠ざかっていくような気がする。
なんだろう…。
『おかあさま、おからだのちょうしはどうですか?』
『あらディアナ、いらっしゃい。順調よ。この子もね』
軽やかな足音。なんだか、気配が安定しない。どうやら、周りをうろついているようだ。
『…さわってみてもいいですか?』
『いいわよ。…そっと、驚かせないようにね』
『わぁ…! おかあさま、いま、うごきましたよ!』
『そうね。お姉様が触れてるって分かったのかしら』
そしてまた遠くなる。
『おなか、おおきくなりましたねぇ』
『そうね、もうすぐかしら』
『はやくでておいで、わたしのかわいいいもうと』
『ディアナったら、まだ言ってるのね。弟かもしれないのに』
『いいえ、たぶん、おんなのこです。そうでしょう?』
こちらに語り掛ける声は、優しさばかりで。幼い、なのに、慈しみに溢れた声。
『げんきにうまれてきてね、おねえさまはまってるわ』
お母様の中で聞いた声は、それが最後で。
「母子共に健康、無事ご出産です! …女の子です!!」
たぶん、声を上げて泣いているのは本能。
産湯につかり、何かで包まれた感覚。
「セレイラ、よく頑張ってくれた」
「……ええ。でも本当に、女の子だったわね」
「ディアナはずっと妹が欲しいって言ってたな、そういえば」
「おかあさま」
ああ、ずっと、聞いていた声だ。聞きたかった声だ。不明瞭ではなく、澄んだ声。
「ほら、ディアナ。…あなたの妹よ」
ひょいと覗き込んできた幼い顔が、笑顔になる。ぱあっと花開くような。
「はじめまして! おねえさまですよ。わたしのかわいいいもうと」
そうしてわたしは、ようやく、あなたに逢えたのだ。
妊娠6カ月くらいから胎児に声は聞こえるとか。
ばっちばちの王太子との戦いを希望していた方には、大変申し訳なく…。




