あとがきと解説
この作品のテーマ、何を考えて書いていたのかなどの解説です。
読者へのおまけというよりは、忘れっぽい自分のためのメモ帳ですが。
もしよろしければお付き合いください。
■このお話のテーマ
現在2026年7月。絵だけじゃなくて小説も、AIで書ける時代になってしまいました。
私は反AIとまではいかないのですが、AIの作った作品、創作物ってやつは、あまり好きじゃありません。
(囲碁分野ではかなり助けられてますけどね、それとこれとは話が別です)
でも、ですよ。「AIの作品は好きじゃない」とは言ったものの、AI作品と人間作品の境目なんて、どこにあるのでしょう。
『作品だけを見て人間とAIの区別がつかない場合、もしくは人間の作品と全く同じものをAIが作り出した場合、それは芸術と呼べるんだろうか?』
という疑問が浮かぶのです。
良い悪いはともかく、いずれ技術は芸術作品を生み出します。作品自体の出来、そして製作スピードは勝てなくなります。まあ、スピードは今もですけど。
誰が作ろうが、作品は作品です。批判するには理由がいります。私には、先ほどの疑問に何かしらの答えが必要です。
ということで色々考え始めたのが、このお話を書いたきっかけです。
ええそうです、囲碁がメインの小説ですが、囲碁要素は実は後付けです。
ただ、AI論を書くにあたって、囲碁と芸術は同列には扱えません。
囲碁には勝ち負けという結果があります。そこには明確な正解が存在するけど、芸術にはそんなことありませんからね。
まあともかく、この小説のテーマが決まっていった順番としては
①AI芸術論 ②囲碁と記憶能力 ③音楽 ④カリフォルニア ですね。
最終的に自分なりの答えを見つけることができたため、その点には満足してます。
実は、完全記憶能力持ちの棋士の設定は、以前から考えていました。
今回の小説も、当初の舞台は日本の小樽でした。2日制の名人戦、初日の深夜、ホテルで対局者二人が語り合う、みたいな場面まで書いていたんです。
ただ、何度読み直してもどう考えても、くっそつまらないお話でした。じゃあどうしよう→以前住んでいた(嘘)カリフォルニアのことを思い出しながら、ロードサイドの乾いた空気をぶち込んでみました。
結果的に納得できる出来だったので、うまくいったんじゃないかなと思ってます。
ちなみに当初の主人公は「角巻伊織」でした。伊織の名前は、私が一番好きな棋士、井上幻庵因碩の「庵」から取っています。
ただ、こっちの都合でまるっとさっぱり出番を消してしまったのが申し訳なくなり、結局ゲスト出演してもらいました。ありがとう。
最後にちょろっと書きますが。
私は、芸術は「積み上げられた思考や感情が、音楽や絵画などという別の形で表現されるもの」だと考えてます。
もちろん、思考はそのまま絵にはできないので、何らかのフィルターを通しての表現になりますよね。そのフィルター部分こそが、芸術の芯の部分じゃなかろうかと考えているわけです。
つまり、芸術に大切なのは、「○○を表現したい」という意思だと思うわけです。
■音楽の話
ちょっと上の話と時系列は前後するんですが。
日本を舞台に書いて行き詰っていた時に、頭を切り替えようと夜のドライブ、略して夜ドラに行ったのです。私のお気に入り音楽をぶち込んだカーオーディオをランダム設定にして、ガンガン流しながら走るのです。
で、その時流れてきたのが『クイーンズライク』というバンドの『オペレーション:マインドクライム(Operation: Mindcrime)』ですね。
それを聞いた瞬間に気付きました。ああ、この話はロックが足りないんだと。
クイーンズライクの音楽ジャンルは、プログレッシブ・メタルと呼ばれてます。説明が難しいのですが、実験的・前衛的・挑戦的なことをやってるメタルバンドだと思ってください。
マインドクライムというアルバムは1988年にリリースされたコンセプトアルバムで、アルバム全体で、一つのストーリーになっています。
社会の腐敗に怒る青年ニッキー(Nikki)が主人公です。彼は組織に利用されて暗殺者として働いたりもするのですが、シスターメアリーと出会って、自分を取り戻そうと色々がんばる、って感じですね。
主人公の名前「ニコ」もニッキーから来ていますが、このお話の殺伐部分はだいたいこのアルバムのせいです。じつはアシュリーも、最初はヤク中だったりしましたからね。
このお話のテーマとかぶる部分もあるので、良かったら聞いてみてください。
■囲碁の話
私は碁打ちなのですが、囲碁界にとって2016年は象徴的な年です。アルファ碁という人工知能が、人間のトッププロに初めて勝利した年です。
物語の年代を決めた理由の一つでもあります。
お話の中では、囲碁の対局シーンが何度も出てきます。
書き手として困るのが、「小説の焦点を、碁を知っている人と知らない人、どちらに合わせるべきなのか」ということですね。
碁を知っている人向けに書くと、知らない人にはわからない。だが、知らない人に合わせると、逆に説明臭くて文章のテンポが落ちる。両方に合わせるのは無理です。
ということで、ここはもう完全に割り切って、文章のテンポを取りました。
囲碁を知らない人に対して気をつかったのは、最低限「どっちが勝っているか、プレイヤーがどういう意図・考えで打っているか」は理解できるように書こう、という点ですね。そこは意識して書いたつもり。他には、小説として必要ないルールは、基本的にオミットしてます。コミとかですね。
ただ、それでもやっぱりわかりにくいと思います。ごめんね、感想欄とかでもいいので、気になったら気軽に質問してください。
あとは対局シーン解説ですね。
ニコさんには謝らなければいけません。描写した対局でほぼすべて負けてるのは、さすがにあんまりですね。強い強いと持ち上げておきながら、対戦結果はこれかよ、と。
まあ勝負の世界は厳しいのです、3ヶ月でポンポン勝たれたら、私自身ムカつくので。
①5話、アッシュとニコの対局(大斜×2)
モデルなし、アッシュの作戦勝ちの局です。大斜定石自体、複雑な変化が多くありますが、今回の焦点はその後です。
大斜はその後の打ち方も難しい定石で、それは定石本には載っていない部分です。それをアッシュは利用したわけですね。
②7話、モブとニコ(角巻さんが観戦してた局)
モデルは本因坊道策と井上道砂因碩の局です。1683年、今から340年以上前の棋譜ですね。すっごい!
実は、実戦で中国流に構えたのは、白の道策のほうです。黒が37手目に深く入っていくのですが(写真の上辺にある黒石ですね)、最初に見たときにびっくりしたのを覚えています。
ただ、小説の中でびっくりした理由は「すごい深いところに打ち込んだなー」なのですが、私は「まだ広い場所があるのに、何でこんな狭いところから入っていくの?」ってことに驚きでした。
③8話、アッシュとコリンズ
モデルはありませんが、強いて言うなら自分の負け局ですかねえ。
負ける瞬間の分岐点って、なぜか予感があるものです。そして、ひたすら耐える時間って、めっちゃ苦しいですよね。
あとは、囲碁って劇的な一手で形勢が傾くことは、なかなかない気がします。大抵、「ノゾキを利かされた」「先に頭を叩かれた」みたいな地味な一撃で、その後のリズムが崩れていく感じ。
そのあたりを表現しました。
④10話、角巻とニコ
モデルは本因坊秀和と本因坊秀策、1851年に打たれた棋譜です。
まず、「ニコが記憶をなぞる作戦を取り、角巻がそれを受け止めて勝つ」なら、どんな流れの棋譜になるんだろうかと考えました。
特徴的な戦いや競り合いが無く、流れるように地を取り合いヨセに入るようなイメージです。誤解を恐れず言うと、「没個性的な棋譜」ですね。
武宮さんの白番とかも思い浮かびましたが、それよりも強いイメージとしては、本因坊秀策。秀策の棋譜から探すなら、イメージに合う打ち手は秀和かな。ということで二人の棋譜をパラパラ見てたら、イメージ通りの局を見つけました。
あくまでもイメージのモデルであって、そのものではありませんが。ちなみに原局は黒、つまりニコ側の3目勝ちです。コミ無し碁なので、仮にコミ6目半とすると、白の3目半勝ちですね。
■AIの話
これはAI相手にキレちらかした話なので、ちょっとだけですね。
初めてAIを作品制作に使用しました。
といっても、文章をそのまま書いてもらおう!ってことではありません。(実は試したこともあったんですが、酷いことになって終わりました)
お願いしたのは、文化考証です。ただ、それもぶち切れる羽目になるという……。
例えば1話目でコーラの瓶を投げつけるシーンで、「2016年なら一般的にはペットボトルが使用されています」とか指摘されちゃって。そんなのわかってるよ! お前はペットボトルを投げつけて絵になると思ってるのか!と説教しました。
他にも2話目、「フォードのヴィクトリア」という表記ですね。「フォードのクラウンヴィクトリア、もしくはクラウンヴィクトリアという表記のほうが~」「パトカーのイメージが強いので、若いカップルには不適当」みたいなことを言われたんですが。
日本人読者からすれば、クラウンって書いたらトヨタ車かと思われちゃいます。その前にカローラまで出してるから、なおさらね。あと車種については「ヤンキーカップルが乗ってる、車高低くしたマークXのイメージだ」って言ったらわかってくれました。
逆にうまく行ったのは、チェスの描写です。
実は私、チェスはまったく知りません。白が先手というルールすら、今回初めて知ったくらいです。
これも実際に書くまでには紆余曲折あったのですが。最終的には、「もういい。囲碁で希望するシチュエーションを書くから、それをチェスに変換しろ」って言って、なんとか。
最近はかなりうまく付き合えるようになってきましたけどね。やっぱりなかなか難しい。
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以上であとがきは終わりです。
ここまで読んでくれて本当にありがとうございました。
じゃ、また別のお話で会えるといいね。




