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マフィアの息子ですが、普通に学園生活を送りたい ~なぜか学園にファミリーが出来ました~  作者: 工程能力1.33


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第8話 屋上事件

 中庭の芝生の上。

 テオは気絶したエリザベートを抱えたまま、完全に固まっていた。


「……えっと……ローゼンベルク? 起きてる? いや起きてないよな? どうしようこれ……」


 ぺちぺち、と軽く頬を叩く。

 反応なし。


(医務室?いやその前に説明?だとすると、屋上から落ちて無事なことを説明しないか。女体化を隠す言い訳が思いつかない。いや落ち着け俺、まず状況整理だ。俺は屋上から飛び降りて――)


 テオは頭が混乱して、思考がまとまらなかった。

 そこへ――


「――あら?」


 背後から、大人の女性の声。

 テオの背筋がぴしりと伸びた。


(見られた!!)


「何してるの、テオ」


 振り向けば、そこに立っていたのは家庭教師をつとめたリディアだった。

 教師用のローブを羽織り、腕を組み、面白いものを見つけた顔をしている。


「せ、先生……どうしてここに?」


 リディアはゆっくりと歩み寄り、テオの腕の中を覗き込む。


「この学園の教師になったのよ。まあまあ……お姫様抱っこ。青春ね」

「違います!!」


 即答だった。

 リディアに指摘され、テオは図らずも美少女をお姫様抱っこしていることを思い出し、恥ずかしさから顔が真っ赤になった。


「屋上から落ちて!俺が、追いかけて飛び降りて!」

「追いかけて飛び降りたのね。でも、大丈夫そうなのは力を解放したからよね。あら、まだ胸が大きいままよ」


 リディアはクスリと笑うと、テオの胸を指さした。


「あっ!」


 テオは慌てて魔力を使うのをやめた。

 そして周囲をきょろきょろと見回す。


「まだ隠しているのね」

「当り前じゃないですか。恥ずかしいんですよ」

「あら、そう?世の中の半分は女よ。私は女であることを恥ずかしいなんて思ったことないわ」


 そう言われると、テオは言い返せなかった。

 そこでもう一度、何故自分が恥ずかしいと思っているのかを考え直す。

 そうして出た結論は、変化した自分が異質なものであり、それを他人に見られなくないからだということであった。

 だから、これが女体化ではなく、獣人に変化したとしても、誰かに見られたくない、見られたら恥ずかしいと思ったであろうと結論付ける。

 リディアはそんなテオの納得した顔を待って、話を続けた。


「屋上から落ちる美少女を助けるため、自らも飛び降りるなんてロマンチックね」

「ロマンじゃないです!」

「でも、彼女はなんで屋上から落ちたの?自分から?」

「いや、クレーテ侯爵の息子、グスタフが彼女を突き飛ばしたんです。それで、手すりを越えてしまったというわけで……」

「あらやだ。学校で殺人事件なのね」

「いや、向こうも殺そうと思ったわけじゃないと思います。婚約者である彼女が、他の男、俺なんですけど、それと屋上で二人きりになっていたから誤解を受けたんです」

「やっぱりロマンチックじゃない」


 テオのことをよく知っており、ベルンシュタイン家でありながら、凶悪ではないことを知っているリディアは、そういってテオを揶揄った。

 これが知らぬ者であれば、ひどい目にあわされると思って、こうした会話にはならない。


 そして、リディアはしゃがみ込み、エリザベートの瞼をそっと開く。


「気絶してるだけね。衝撃と恐怖。命に別状はないわ」


 テオは大きく息を吐いた。


「よかった……」


 その安堵の顔を見て、リディアはくすりと笑う。


「必死だったみたいね」

「そりゃ……」

「魔力、かなり使ったでしょ?」


 テオの肩がびくりと揺れる。


「……そうするしかかなったので」

「そうよね」


 意味ありげに微笑む。


「ところで」


 にやり。


「こういう時は、どうするか知ってる?」

「医務室に運ぶ」

「違うわ」


 リディアはテオに顔を近づける。

 お互いの鼻がぶつかりそうなほど近くに。そして、それはお互いの息遣いもわかる。

 リディア特有の匂いが、テオの鼻をくすぐる。

 その仕草に、女性に対して免疫のないテオは、ドキッとして固まった。


「お姫様は、王子様のキスで目を覚ますのよ」


 その追い打ちで、テオの思考が停止した。


「……は?」

「ほら。やってみなさい」

「無理です!!」


 即答。


「したことないの?」

「ないです!だから、やり方なんてわかりません!!」

「分からない?」

「分かりません!」

「じゃあ――」


 リディアが一歩、距離を詰める。


「先生が、教えてあげようか?」


 艶っぽく、囁く。


「な、な、な、何言ってるんですか!」

「キスくらい、将来必要でしょ?」

「今必要ないです!」

「練習は大事よ?」

「いりません!」

「目、閉じて」

「閉じません!!」


 その時である、


「……何を、しているのですか」


 冷ややかな声が割り込んだ。

 二人の動きが止まる。

 ゆっくりと視線を下げると――

 エリザベートが、薄く目を開けていた。

 至近距離で向かい合うテオとリディア。


 ――数秒の沈黙。


「……そういう関係だったのですね」

「違います!!」


 テオの絶叫が中庭に響いた。


「誤解よ、ローゼンベルクさん。私たちはただの教師と生徒の関係」

「ただの教師と生徒が、あの距離で……?」


 そう訊かれると、リディアは少しだけ考え込む。


「教えようとしていただけ」

「何をですか」

「キスの仕方」

「先生!!」


 テオは大声をあげた。


「け、汚らわしい!」


 エリザベートはテオの腕を振り払って、自力で起き上がろうとするが、足元がふらつく。


「大丈夫か?」


 テオが真剣な顔で支える。

 エリザベートは一瞬視線を揺らし、やがて静かに言った。


「触らないで!医務室に行くから!」


 テオの接近を拒否した。

 リディアは楽しそうに微笑み、

 テオは絶望した。


(ああ、俺はなぜ異世界でこんな目に……)


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