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マフィアの息子ですが、普通に学園生活を送りたい ~なぜか学園にファミリーが出来ました~  作者: 工程能力1.33


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第7話 疑念と落下

 放課後の校舎は、昼間の喧騒が嘘のように静かだった。

 エリザベートは少しだけ歩調を速めながら階段を上る。胸の奥に、どうしても拭えない違和感が残っていた。


(……ベルンシュタインの、テオドール……)


 あの時、路地裏で見た光景。

 そして、街や学園での悪い噂。

 さらには、ブルーノから聞かされる武勇伝。

 どれもが、頭の中で噛み合わずに残っている。

 だから、確かめたかった。


 屋上の扉の前で、エリザベートは一度だけ深呼吸をしてから、ノブに手をかけた。


「来てくれたんですね」


 そこには、先に来ていたテオが立っていた。


「呼び出したのは、君の方だろ。ローゼンベルク」


 いつも通りの、少し素っ気ない声。

 それが、逆に余計な緊張を生む。

 なお、この時テオはガチガチに緊張していた。美少女といって過言ではないエリザベートに呼び出され、コミュ障のテオが緊張しないはずがないのだ。

 素っ気ないというのは、どう対応してよいのかわからないので、フレンドリーになり過ぎないようにしようとした結果である。

 それがエリザベートに誤解を与えたのだが。


「……少し、聞きたいことがあって」


 エリザベートは、視線を逸らしながら切り出した。


「あなた……あの時、街で……何をしたんですか」

「街で?」

「不良に絡まれている女の人を助けたでしょう」


 エリザベートに言われてテオの心臓は高鳴る。


(まずい、女体化したのを見られたか?)


「……困っている人がいた。だから助けた。それだけだ」


 短い答え。

 ひとまずそう答えて相手の出方を伺う。


「それと……」


 エリザベートは、意を決したように続ける。


「……あなた、本当に……その……」


 言葉に詰まる。

 何を、どう聞けばいいのか、自分でも分からなかった。


 その時だった。

 屋上の扉が、乱暴に開かれた。


「デュフフ……面白いところにいるじゃないか」


 現れたのは、グスタフだった。

 重たい足音と、粘つくような視線。


「……何の用ですか」


 エリザベートの声が、自然と冷える。


「何って? 婚約者として、様子を見に来ただけだよ」


 グスタフは、いやらしく笑った。


「それにしても……ベルンシュタインの次男と、二人きりで屋上とはなあ。なにか後ろめたいことを掴まれて脅されているのかな?デュフフ」

「誤解です!」


 エリザベートは強く否定した。

 そして、この状況で安堵した人物がいる。

 テオであった。


(ローゼンベルクさんは何か言おうとしていたんだよな。ひょっとしたら体の変化についてだったかもしれない。ここはグスタフに絡んでうやむやにしてしまおう)


 そう考えたテオは、グスタフを指さす。


「婚約の条件だった資金援助が出来ないなら、婚約が破棄になるはずだろ」


 ベルンシュタイン家への上納金をねん出するため、クレーテ侯爵はローゼンベルク家への資金援助を打ち切った。その話はテオも聞いていた。

 しかし、それを指摘されても、グスタフは顔色を変えない。蛙の面に小便というやつである。


「破棄?」


 肩をすくめるグスタフ。


「デュフフ、僕らの真実の愛の前には金など不要さ」

「そんなこと……!」


 否定しかけたエリザベートの言葉を、グスタフは荒っぽく遮った。


「うるさい!」


 苛立ちを隠さず、一歩、前に出る。


「身の程を知れよ。ローゼンベルク家は、うちの支援がなきゃ立っていけないんだろ?」


 その言葉に、エリザベートは思わず息を詰めた。


「その支援が無くなると、貴方のお父様が通告してきたのでしょう!」

「ぐっ!」


 グスタフの顔が歪む。


「うるさい!お前は俺の婚約者だ。余計な真似をするな」


 そう言って、エリザベートの肩に手をかけた。


「やめろ」


 低い声で、テオが言った。


「何だ?」


 グスタフは、睨み返す。


「関係ない奴は、黙ってろ」


 次の瞬間、乱暴に突き飛ばされたのは、エリザベートの方だった。


「――っ!」


 バランスを崩し、後ろへよろめく。


 背中に、手すりの感触。


(しまっ――)


 足元が、空を切った。

 視界が、反転する。


「エリザベート!」


 叫びと同時に、テオは駆け出していた。

 考えるより先に、体が動いた。

 手すりを越え、彼女の後を追って跳ぶ。

 風が強く頬を打つ。


(間に合え――!)


 落下の途中で、テオは必死に体勢を整え、エリザベートを抱き寄せた。

 地面が、急速に近づく。

 衝撃に備え、魔力を全身に巡らせる。

 エリザベートは恐怖から、目を強くつぶった。そのせいで、テオの体の変化を見ることは出来なかった。


 次の瞬間――


 強い衝撃が、テオの全身を叩いた。

 だが、エリザベートは思ったほどの痛みは来なかった。

 代わりに、腕の中の温もりが、確かに伝わってくる。

 それと、むにゅっとした感覚。テオの胸板に顔をうずめていたのだが、それがクッションになって、エアバッグのように衝撃を吸収してくれたのである。


(…………?)


 エリザベートの思考は、困惑していた。

 落下による過度な興奮が、思考に靄をかけることで、困惑がさらに深まる。

 理解が追い付かない。


「大丈夫?」


 テオは、そう言いながら、エリザベートを抱えていた腕の拘束を解く。。

 エリザベートはそのまま、力が抜けるように意識を失っていった。


「……っ」


 テオは、彼女を抱えたまま、ゆっくりと息を吐いた。


(気絶しただけかな?外傷はないように見えるけど)


 屋上の上から、誰かの叫ぶ声が聞こえる。

 だが、今はそれどころではなかった。


 腕の中の彼女の無事を確かめながら、テオは、ただ静かに、もう一度だけ深呼吸をした。


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