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マフィアの息子ですが、普通に学園生活を送りたい ~なぜか学園にファミリーが出来ました~  作者: 工程能力1.33


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第17話 喫茶経営

 露店通り。

 エリザベートは今日もアルフレッドと一緒に屋台で働いていた。

 放課後、演劇クラブの幽霊部員となったエリザベートは、他の生徒のように学校に残ってクラブ活動に打ち込む必要はない。

 昼から屋台を出しているアルフレッドに合流するのが日課となっていた。

 エリザベートの外見と仕草から、評判は上々であり、売り上げは確実に積みあがっていった。

 だが。


「……おかしい」


 エリザベートは串を焼きながら、ぴたりと手を止めた。

 客がいない。

 いや、正確には“極端に減っている”。

 今までのような忙しさは皆無であった。それどころか、焼いた串が冷めてしまう始末。


「……何かあるわね」


 すっと目を細める。

 アルフレッドが苦笑する。


「原因は明白かと」

「分かってるわよ」


 分かっている。

 あの声だ。

 さっきから聞こえてくる、妙に甘ったるい声。


「おかえりなさいませ、ご主人様♡」


 ぴきり、とこめかみが引きつる。

 近所に最近できた喫茶店。メイドによる給仕を売りとしていた。

 被るコンセプト。

 そして、向こうはいかがわしい酒場ほどではないが、きわどい接客をしているという。

 エリザベート目当ての客が取られるのも必然。


「行くわ」

「お嬢様?」


 エリザベートは串を置いた。

 そして――


「戦争よ」

「違います」


 アルフレッドの即ツッコミを無視して、歩き出す。

 歩く。

 どんどん速くなる。


「ちょっ、お嬢様!?」


 アルフレッドが慌てて後を追う。

 スカートを翻しながら、一直線。

 人混みをかき分け、道を譲らせ。

 割れる人混みの様は、まるで出エジプト記のよう。


 その勢いのまま、店の前に到達。


「……これね」


 看板を見る。


『メイド喫茶 ベルン』


 腕組みして看板を見上げていると、声を掛けられた。


「お帰りなさいませ、お嬢様」

「悪くないわね」


 使用人が減り、こうした声を掛けられなくなって久しいエリザベートは、かつてを懐かしんで、その声を受け入れてしまった。

 そして。


「はっ、一瞬いいかもしれないと思ってしまったわ。かちこむわよ、アルフレッド」


 低い声。

 エリザベートの間違った方向への成長に涙するアルフレッド。

 そんなアルフレッドを無視して、エリザベートは扉を蹴り開けた。

 その音に店内の視線が集まる。


「いらっしゃいませ――」

「支配人を出しなさい!って、テオ!!」


 店内が凍った。

 空気が止まる。

 客が振り向いたまま固まる。

 メイドが固まる。


 そして――


 カウンターの奥にいたテオがゆっくり振り向いた。


「……リザ?」

「何してるのよ!!」


 ずかずかと店内に突入。

 客を押しのけ。

 椅子を避け。

 一直線にカウンターへ。


「知り合いでも割引は無いけど――」

「うるさい!!」


 ばん!!

 カウンターに両手を叩きつける。


「バイト休んで何してるのよ!!」


 テオは未だに屋台のバイトとして手伝っていた。

 最近はこの店が忙しいので、バイトは休んでいたが。


「いや、その……」

「説明なさい!!」


 店内の全員が見守る中、テオがしどろもどろになる。

 ローレンツが横から口を出した。


「経営です」

「あなたは黙ってなさい!!」

「はい」


 即座に引いた。

 代わってブルーノが出てくる。


「お嬢様もこの店が気になりますか?」

「ええ、大いにね」

「そうでしょうとも。ボスの経営手腕は凄まじい。あっという間に人気店です」

「そのおかげで、こちらの商売はあがったりよ」


 机を叩く。

 ぐるっと店内を見回す。


「なんなのこの客の数!!」


 満席。

 完全満席。

 エリザベートの屋台とは真逆だった。


「手伝いに来ないどころか、敵対するなんて!」


 そこでテオはようやく気づく。

 メイドによる接客。それはエリザベートの屋台のコンセプトと被っていた。


「敵対するつもりはなかったんだ」

「はぁ?これでつもりがないっていうのなら、何がつもりになるっていうの?」

「……うん」


 テオが申し訳なさそうに頷く。

 沈黙。

 テオは言い訳を猛スピードで考えていた。

 エリザベートの肩がわなわなと震える。


 そして――


「ふざけないでよ!!」


 爆発。


「どうするつもりなの!?」

「どうって……」

「このままじゃ私の屋台潰れるんだけど!?」

「えっ」


 本気で驚くテオ。


「そうなの?」

「そうなのよ!!」


 指を突きつける。


「責任取りなさい!!」

「なんで!?」

「原因あんたでしょ!!」


 正論だった。

 ローレンツが頷く。


「因果関係は明確ですね」

「あなたは黙ってて!!」

「はい」


 ローレンツが稼いでくれた貴重な時間だった。

 思えば連日、頼んでもいないのにやってくる構成員。

 とくに、ローレンツとブルーノは皆勤賞。

 金も払わずに居座っているのは邪魔だったが、今回ばかりは感謝した。

 テオはふーっと大きく息を吐くと、エリザベートの名前を呼んだ。


「リザ……」

「何よ」

「アルフレッドと君をこの店で雇おう」

「え?」


 突然の提案に戸惑うエリザベート。

 テオはここぞとばかりに畳み掛ける。


「アルフレッドはローゼンベルク家の執事。メイドの教育にはもってこいの人物だ。それに、リザは本物のお嬢様。貴族につかえるメイドがどういうものであるのか、彼女たちに指導してほしい。給金は今までの屋台の売り上げと同じだけ出そう」


 アルフレッドはすぐに決断した。


「お嬢様、大変良いお話です」

「え?」

「仕入れたものが売れないリスクは無くなります」

「言われてみればそうね」


 エリザベートは腕を組んだ。


「私がこの店でもメイド服を着て仕事をする。本物のメイドがどんなものか見せてあげるわ」

「なんでそうなるの!?」


 テオはずっこけた。


 数分後。


「おかえりなさいませ、ご主人様」


 そこにいたのは――

 完璧な所作のメイド、エリザベート。

 だが。


「で、注文は?そう、いつものね。承知いたしました。ご主人様」


 圧が強い。

 一見の客なのにいつものという注文を取る。

 もちろん、利益率の良いメニューを出すことになる。

 だが、客もエリザベートに気圧されてしまう。


「は、はい!」


 客が直立する。

 ローレンツが呟く。


「接客というより支配ですね」

「まったくだよ。これで売り上げが落ちたら、父さんになんて言われるか」


 エリザベートの接客に頭を抱えるテオ。

 だが売上は伸びた。

 爆発的に。

 客の好みはメイドに貶されることであった。

 業が深い。


 その時、扉が開く。


「へえ」


 シャルロッテだった。

 店内を見渡す。

 そして


「指名するわ」


 静かに言った。

 全員が息を呑む。

 王女の指。

 その先は――


「あなた」


 エリザベート。


「え?」


 一瞬だけ動きが止まる。

 シャルロッテは笑った。


「面白いわね、あなた」


 エリザベートはすぐに姿勢を正した。


「……承知しました、お嬢様」


 だが。

 その目は。

 完全に戦闘態勢だった。


 風雲急を告げる王女の来訪。

 テオは嫌な予感をビンビンに感じていた。



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