表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/65

第二節「規定外れ」

…………正直なところを言えば…………


コッパーは自分の出自に何か並々ならぬものがあることの察しはついていた。

端的に言って、高貴な家系の生まれだろう。


決してコッパーの自惚(うぬぼ)れではない。

生まれついての黒民奴隷でないのであれば、そう考えるのはごく自然なことだ。


黒民が尊い家柄に属すことは、当然のことだ。


黒民全体で見れば、黒民奴隷の方が異常である。

だからこそ珍重され、秘匿(ひとく)され、高額に、丁重に扱われるのだ。


黒民であればそれだけで、地位と財と権威が約束されているものだ。

神堂の跡取り。上級軍人。貴族。

灰民(はいみん)を教え導く、統率する、従わせる。

そういった使命を、黒民は神から賜っている。


そして、奴隷となった日の記憶があること。

またそれに伴ういくつかの記憶の断片が、

生まれついての奴隷ではないという身の上を確信させた。


奴隷となった日。奴隷の烙印を額に捺された日。

その時少年としては最後、成年前後……。


成年の歳まで烙印がない奴隷がいるものか!


また、その時に剥かれたずぶ濡れの服、それらに、

随分と重厚な刺繍が入っていたのを覚えている。


それでもコッパーは今日まで奴隷の身に甘んじてきた。


当初は記憶を失って混乱していたのもあり、

「触れるな」と暴れ、「帰せ」と喚いたこともあったはずだが、やがて辞めた。


思うところは様々あったが、最も大きい理由は、

出自がどうあれ、自分を探しに来る者がいないことに気が付いたからだ。


マグの頃。

黒民教師の末娘が行方不明になり、内陸部の遠い町から、

多くの兵隊が海辺のマグのいる町にまで探しに来る騒ぎとなった。

主人や商人がマグをその騒ぎから遠ざけようとしてもわかるほどの、大所帯で熱心な捜索隊だった。

噂によると、結果、他愛もない外出だったそうだが、

連絡を怠った灰民(はいみん)の召使は代々仕えた職を追われたらしい。


もし、自分がどこぞの一族の愛し子ならば、

あのような隊やら貼り紙やらが彼を求めて暴くだろう。

それらから隠されても、娯楽の少ない町の活発な噂話の中に

必ずや捜索の手を感じようものだ。


彼を探す者の噂は、コッパーと名のつく今日まで終ぞ無かった。


時折痛む、耳から鼻にかかる大きな傷。

多少の引っ掻き傷でこうなるわけもない。

まして、自然の手に寄るとも思えない。

大きな衝撃を受けてべろりと剥がされ、

鼻先にぶら下がる顔の皮。


自分は、殺されかけて逃げ出したのかもしれない。


跡目争いか、大罪を犯したか。


いずれにせよ、帰る場所はないのかもしれない。


仮にあったとしても、……十数年も経ってしまった。

どんな家でも、跡取りやその家族、さらにその後の跡取りの算段もしっかり立て終わっているような年月だ。

もう待ってはいないだろう。


この国に来て時折走る記憶。

夢の中の妙な情景。

国家に何が必要で、何が無いのがおかしいのか……。


自分の出自には、そういった知見が身近な家系が関係しているのだろうか。


天使の言う通り……

――貴殿は王国と深い関わりがあると思っている


また、シャクカディ神徒の言う通り

――今やっと思い出しました

――再びお目にかかることが叶い


私はこの秘境の国に関わりがある家系だったのだろうか。

……エラメンタ神国に関わりの深い黒民の家系など一つしか考えられない。


黒銅(こくどう)の民。


自分は、本物の黒銅(こくどう)の民だったのだろうか。


自分はかつて本物の黒銅(こくどう)の民としてこの国を訪れた?

その当時の自分の姿を彼らが覚えていたなら、言動の辻褄(つじつま)は合う……。


本物の黒銅(こくどう)の民とはなんだ。


自分は、いよいよもって、何者なのだ……?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ